魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第59話 闇の恋慕④

 液体が滴る音が静かに響く。

 二つの場所で生じているそれら。

 一つは呉キリカの胸から。

 華奢で小柄な体躯に反比例する豊満な胸は、今は豊富に蓄えられた脂肪が肉と骨と混ぜ合わされた挽肉となっていた。

 内部に収まる肋骨は外側に向けて折り砕かれている。

 

 黄色い脂肪を散らした肉の穴の奥には、黒々とした闇があった。

 そこで鼓動している筈の心臓は無く、肉の空洞と化している。

 対するキリカはと言えば、朗らかに微笑んでいる。

 顔にも粒上の脂肪が付着し、体温で溶けて顎先へと滴っている。

 その様子には妖艶な美が備わっていたが、それを見る者の表情は憮然としていた。言うまでも無く佐倉杏子である。

 

 その杏子はと言えば、顔の右半分、正確には右側頭部と右眼の辺りの肉がごっそりと抉られていた。

 割られた頭蓋骨からは桃色の脳髄が覗き、真紅の瞳を有する右眼も消えている。

 だくだくと滴る血液が杏子の半身を赤く紅く染めていく。

 痛みを感じていない訳では無いが、彼女はそれを表に出さなかった。

 

 憮然とした表情で、血に染まった右手を前に突き出している。

 五指が握るのは、鼓動を止めた心臓だった。

 対して、キリカも左手を前に向けている。

 朱に染まった白手袋に包まれた繊手が摘むのは、紅い瞳が嵌めこまれた眼球であった。

 同時に、それらは弾けた。

 五指が握り込まれて心臓を破壊し、指先が眼球を静かに潰した。

 

 

「くっ…」

 

「ふふん」

 

 

 悔しそうな声を出す杏子。

 ほくそ笑むキリカ。

 肉体の破壊勝負とでも云うのか、謎のマウント合戦が繰り広げられていた。

 勝敗の基準は破壊の部位ではなく、相手の外見の美の破壊で決められていたようだ。

 故に顔面の破壊に至ったキリカの勝利、ということらしい。

 度し難いに過ぎる連中だった。

 仮にこの二人を精神鑑定したとしても人間の基準は適応されず、分析も無意味となるに違いない。

 

 血と体液と脂に塗れて全身に傷を負いながら、距離を隔てて対峙する二人は直後に同じ姿勢を取った。

 その様子に、両者は少し驚いていた。

 しかし困惑も束の間、直ぐに意識を殺意へと切り替える。

 

 合わせた両掌を、キリカは身体の前で、杏子は右斜め後ろにて構えた。

 十センチほどの隙間を開けて、掌の中で魔力が込められていく。

 杏子のそれは煌々と輝く真紅の色。

 キリカのそれは、光をも吸い込む漆黒。

 形状は共に真円を描いていた。

 色は違えど、それは太陽の様な形と力を伴っていた。

 触れた全てを破壊する、凶暴な力が二人の手の中で育まれ、解放の時を待っている。

 そしてその時が訪れた。

 二人の魔法少女は、同時に両手を前へと放った。

 炸裂する光と破壊。

 それに掻き消されるかのように、「ストナーサンシャイン」という名前が遠く響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次で…最後かな」

 

「多分な」

 

 

 荘厳な教会の中で、天窓から注がれる月の光を浴びながら朱音麻衣とナガレが対峙している。

 教会を構成する大理石の床や柱には長く深い刃傷が縦横に刻まれ、巨大な柱は何本も切断され床には多数の大穴が空いていた。

 無数の傷の発生源である二人も無傷では済まされず、自他の鮮血で身を染めていた。

 血と脂で濡れた得物を、二人は共に前へと切っ先を向けていた。

 

 濡れ光る刃の先には、相手の心臓があった。それを止めるべく、二人は距離を詰めていった。

 じりじりと、ミリ単位で間合いが狭まっていく。

 開いた距離は十メートル。距離が縮む速度は遅い。

 それだけに、この空間には異様な鬼気が満ちていた。

 武術への知識が一切ない子供や赤ん坊、または例え虫であっても…いや、だからこそか、本能を直撃して怯え切らせて狂わせるような緊張が滾っていた。

 

 

「ナガレ」

 

「ん?」

 

「私の話を聞いて欲しい」

 

「言えよ。聞いてやる」

 

 

 そんな中で、麻衣は声を掛けた。ナガレも平然と受けた。

 緊張感が緩んだのではなく、殺意と鬼気の最中に合って二人は平然としているのだった。

 麻衣はすっと息を吸った。

 ナガレとの接近戦で受けた殴打により、頬の内側は柘榴のように裂けていた。

 舌も半分ほど挽肉になり、歯も殆どが壊れている。

 

 ここは精神の中であったが、痛みは現実と変わりない。

 寧ろ心の中の出来事であるが故に、痛みは肉体という隔たりを祓われて自分自身に近く存在しており、より鮮明に感じられた。

 だから麻衣は治癒をしなかった。

 与えられた傷から彼を、ナガレをより深く感じる為に。

 

 吸われた息は、口内の無数の傷を刺激した。

 痛みの中に、爽やかさがあった。

 春の日差しを浴びたような感覚。 

 それは彼女の今の心のようだった。

 

 

「好きだ!」

 

 

 素直な心のままに、麻衣は叫んだ。

 

 

「君が好きだ!どうしようもなく!途方も無く!好きで好きで仕方ないんだ!!」

 

 

 叫ぶ度に彼女の口からは鮮血と壊れた肉が飛んだ。

 凄惨で無惨。

 それでも麻衣は叫ぶのをやめなかった。

 

 

「愛し合いたい、デートに行きたい、抱き着きたいし抱かれたい!肌を重ねて肉の交わりもしたい!つまり……」

 

 

 そこで口ごもった。

 ほんの一瞬だけ。

 羞恥心では彼女の欲望は止められなかった。

 

 

「君と、性行為が……セックスがしたいんだ!私の処女を、君に奪って欲しい!私は私の純潔を君に捧げたいんだ!」

 

 

 顔は羞恥で赤く染まっている。

 既に血で濡れていたが、体外に放たれたそれよりも体内を今も駆け巡る血の方が熱く赤かった。

 

 

「それと」

 

 

 麻衣は再び口を閉ざした。

 唇が噛み締められ、小さな開閉を繰り返す。

 言おうか言うまいか、彼女は必死に迷っていた。

 

 

「言えよ」

 

 

 そんな彼女にナガレはそう言った。

 苛立ったわけではない。

 ただ我慢するのは良くないと、素直にそう思ったのであった。

 彼からの言葉に、麻衣も決心した。

 

 

「私は…君を殺したい」

 

 

 興奮を抑えながら、麻衣は言った。

 

 

「君の事が大好きだ。例えようも無く愛してる。今までこんな気持ちを異性に抱いたことは無い。これが私の初恋だ」

 

 

 本心を述べ続ける麻衣。

 吐く息は火のように熱く、淫らさも帯びて濡れていた。

 

 

「だから、君を殺したい。我が刃で首を刎ねて、その首を抱いて、君を喪う喪失感に浸りたい」

 

 

 渇望と狂気と愛。

 麻衣の言葉には、それらの感情が一切の矛盾なく合わせられていた。

 

 

 

 

 

 

 












くるってる…

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