魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第58話 短い平和は終わりを告げて⑥

「しつけぇなぁ鳥女ぁぁあああああああ!!!!」

 

「黙れ気狂い!!」

 

 

 長い回廊の中、高い天井と横幅を縦横無尽に移動しながら二人の魔法少女は争っていた。

 佐倉杏子は広げた外套を翼に見立てた姿、ナガレの記憶で見た彼の愛機である『寄せ集めゲッター』の外套を模したものを羽織って飛翔し、十字槍を乱舞させている。

 赤い長髪を束ねるリボンも端が伸びて先端が尖っていた。この部分でも、彼女はゲッターロボという存在を意識した造形を自らに課していた。

 そうさせるのは、心に焼き付く異性への執着心。

 彼と近し存在を模すことで、少しでも彼と繋がろうとする欲望の表われだった。

 

 

「落ちやがれ!!」

 

「落ちない!!」

 

 

 外套を翻しながら加速した杏子が放った槍の一撃を、黒の少女の翼が受けた。

 粘液で出来た鳥の被り物。彼女の外見はそんな趣であった。

 身体の左右から伸びた巨大な翼、その一つである右翼が杏子の槍を受け止め、彼女の身体を投げ飛ばした。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 背中から壁面に叩き付けられ、壁が衝撃に耐えきれずに崩壊する。

 間髪入れずに、黒の少女は追撃を放った。先端が丸められ、拳状に形を変えた左翼が杏子の腹に突き刺さる。

 杏子の上半身ほどもある拳を、彼女は横に傾けた槍の柄で受けた。

 

 

「ああああああああ!!!」

 

 

 柄が砕け、杏子が更に吹き飛ばされる。

 血を曳いて飛翔しながら三枚の壁をぶち抜き、漸く衝撃が弱まった。

 着地した杏子は口から血塊を吐き出した。

 杏子の胸は潰され、体内では肺が裂けていた。

 赤いドレスを突き破り、折れた肋骨が何本も体外に突き出ている。

 

 交戦開始からわずか数分、プレイアデス所有の建物を破壊しながらの戦闘は杏子の劣勢が続いていた。

 彼女の刺突や斬撃は、粘液状の翼に包まれて無力化され、胴体を狙った攻撃も衣装から滲む粘液によって受け止められた。

 前回の、というか初遭遇時に杏子の槍で手傷を負わされた事で対策をしたらしかった。

 

 

「赦さない」

 

 

 槍を杖にして立つ杏子の前に、黒い壁が聳えた。

 そう見えた瞬間、その声と共に杏子へと黒い瀑布が降り注いだ。

 上げた叫びも、黒い逆さまの波濤に飲み込まれた。

 激突音。

 広い回廊の中央にクレーターが出来ていた。

 回廊自体が衝撃で歪み、陥没痕に向かって落ち窪んでいた。

 振り下ろされた両の翼は拳の形となり、佐倉杏子に打ち下ろされていた。

 

 

「が、ふっ…ぐ……」

 

 

 翼が退けた下では、大の字となって仰向けとなった杏子が血を吐いていた。

 拳が接触する寸前、多節とさせた槍を身体に巻き槍を基点にダメージカットを発動。

 与えられたダメージの七割ほどが軽減されるも、障壁を抜けた衝撃が杏子の肉体を破壊していた。

 

 皮膚の至る所が裂けて傷が奔り、露出していた肋骨は周りの肉ごと弾けていた。

 肉の柘榴。杏子の胸はそんな表現が似合う惨状と化していた。

 腹の内側では生殖器以外の内臓が爆裂し、血と体液の中に沈んでいた。

 

 破けた脇腹からは、破壊された内臓が割れた肉管となって垂れ下がり、異臭を放つ血と体液が汚泥のように漏れ出している。

 その傷口を、黒の少女が蹴り飛ばした。

 内臓の破片と黒血を吹きながら、佐倉杏子が宙を舞う。

 壁面に激突した瞬間、黒翼が急襲して殴打を見舞う。

 壁が再び破壊され、戦場が移動する。

 

 壁を抜けた先は、黒い空洞となっていた。 

 床が存在せず、杏子は肉片を散らしながら落下した。

 墜落した時、彼女の背を割れたコンクリが強かに打った。

 既に痛みは麻痺しており、さして苦痛でもなかった。

 光はない場所であったが、潰れかけの眼でありながらも魔法少女の視力は周囲の状況を鮮明に映し出していた。

 

 至る所に散乱した残骸。

 元は床や壁面、天井だったとおぼしきもの。

 それらに付着した、黒々とした模様。

 自分のものでは無い鉄錆の臭気。血痕であると伺えた。

 

 砕けた木箱に千切れた鎖。分厚い手錠に首輪もあった。

 その光景に、杏子は見覚えがあった。

 正確には、彼女が取り込んだものに、その光景が宿っていた。

 昏い室内の中、眼だけを光らせて佇む少女達の群れ。

 黒い髪に赤い瞳。そして、その顔は…。

 

 

「ううううううああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 認識の瞬間、杏子の思考は焼却された。

 魂の底から純粋な怒りが込み上げ、炎のような声となって口から溢れた。

 その杏子の前に、黒い翼が飛来した。

 襲撃者である黒い少女は、杏子の現状を単なる奇行としか思っていなかった。

 拳として放ったその翼が、根元から引き千切られた瞬間までは。

 

 

「いぎっ!?」

 

 

 闇の中で接近した両翼の側面を、杏子は両手で掴んで捩じり、千切り取っていた。

 神経を纏めて破壊される苦痛。

 感じたと同時に、その身体は背中から壁面に叩き付けられていた。

 翼を千切ったばかりの杏子の手が、少女の細首を締め上げていた。

 

 

「がああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 本能のままの杏子の叫び。

 少女の首を両手で締め上げながら、杏子は腕を振り回した。

 黒い少女の身体が暴風の中の旗のように激しく揺れ、振り回される体が鈍器となって壁面を破壊する。

 

 

「ううううるあああああああ!!!!」

 

 

 咆哮が更に重なる。

 杏子は少女の体を床に叩き付けていた。

 先程の意趣返しのように、暗い室内に激震が奔り、既に破壊の凌辱を受けている床面を更に破壊した。

 

 

「ぐがっ!?」

 

 

 少女の顔に激痛が生じた。

 鼻が曲がり、前歯が根元から圧し折れて舌へと突き刺さる。

 薄い胸の上には圧迫感。見上げた先には、こちらを見下ろす真紅の魔法少女がいた。

 黒い少女の胸に乗った杏子が、彼女の顔へ向かって拳を突き込んでいた。

 最初に放たれたのは右拳だった。そして、それで済むはずが無かった。

 

 

「ぐぎゃ!ぎゃ!ぎ!」

 

 

 悲鳴が鳴り響く。途切れるのは、その度に殴打が繰り返されるからだった。

 頬が抉られ、顎が削られて顔が歪んでいく。

 血肉が弾け、杏子の拳と顔を赤く紅く染めていく。

 

 

「こ……の!」

 

「ぐぁぁ!?」

 

 

 殴られ続けながら、少女は両手を動かした。

 杏子が振り下ろす拳を止めるのではなく、馬乗りになっている杏子の両脇腹へと両手が伸ばされていた。

 そこには、治りかけの傷があった。少女は両手で傷に爪を立てて抉り、傷口から杏子の体内へと侵入した。

 少女の手には、猛禽類を思わせる湾曲した鋭い魔爪が生え揃っていた。そして其れで以て、杏子の体内を掻き回した。

 

 繋がれかけていた腸や肝臓が再び破壊され、杏子の体内でバラバラに抉り潰されていく。

 杏子の口からは極大の嫌悪感と苦痛の叫びが放たれるが、それは叫びの途中で闘志と怒りの咆哮へと変わった。

 更に激しさを増しながら、少女への殴打を続けてく。

 破壊しては修復されを繰り返す少女の顔の破壊を、佐倉杏子は繰り返す。

 同様に、少女も杏子の体内の破壊を継続する。溢れ出す血肉も即座に直され、ただ苦痛だけが量産されていく。

 

 

「さくら……きょう……こぉ……」

 

「この……鳥……おん……な……」

 

 

 憎悪で出来た声を発する二人。

 互いの肉体破壊は終わりそうもなく続いていく。

 互いの全神経を集中し、憎い相手に向き合っていた。

 

 

「いい加減にしろよ、お前ら」

 

 

 そのせいで、この声の主が至近距離まで近付いていた事に二人は気付かなかった。

 視線を向けた瞬間には、二人の意識は落ちていた。

 単純な力ではない技によって、昏倒させられたのだった。

 崩れ落ちて重なる二人の少女の体を抱え、即座に血と体液塗れになったナガレは、背負った黒翼を翻して元来た場所へと戻り始めた。

 荒廃した室内の様子を一瞥し、鉛の様な息を一つ吐いてから。

 

 

 

 


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