魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第58話 短い平和は終わりを告げて⑤

 それは物語だった。

 銀の装甲を纏った戦士が、襲い来る異形の獣や騎士たちを薙ぎ倒し、蹴散らしていく。

 積み上げられた屍の上、全身に傷を負った銀の戦士は立ち尽くしていた。

 

 戦いの高揚感と使命からの解放、そして奪った命への罪悪感か。

 ただ立ち尽くす戦士に、一人の少女が手を差し伸べる。

 栗色のポニーテルの、白と赤のドレスを纏った美しい少女が戦士の手を優しく握る。

 少女もまた鮮血に塗れていた。

 美しい衣装の紅は、自他の血で濡れていた。

 

 赤と黒の東洋龍、白い虎、黒い蝙蝠に直立歩行のカメレオン。

 どことなく銀の戦士と似た趣を持った、手足の生えた蛇の様な怪獣。

 それらを積み上げて作った屍の山、仰向けにした銀色の騎士を踏みながら戦士と少女は手を取り合っていた。

 

 

「そしてここに、狂気の遊戯は終わりを告げて、二人は末永く幸せに暮らしましたとさ…………」

 

 

 抑揚のない声が続いた。

 声には何かに耐えているかのような響きがあった。

 それはこの声を発する者の感情の発露であったが、それが却って言葉に趣を与え、物語の悲劇性を演出していた。

 

 

「カット。御苦労さん、ジュゥべぇ」

 

「いいって事よ、先輩」

 

 

 そうは言ったものの、ジュゥべぇは疲労のあまりに両手の様な器官を床にだらりと下げていた。

 床には一冊のノートが落ちていた。少し前まで、彼が持っていたものである。

 ラベルが貼られた表紙には「私と銀の戦士の愚かなる遊戯」というタイトルがあった。

 

 それを製作した張本人である双樹は、至る所が剥げた直立歩行のサイのソフビ人形と、自分自身を模した人形を手に持って遊んでいた。

 二体の人形の足元には、先にある通りのソフビやフィギュアが山となって堆積している。

 人形の足裏では、銀色の騎士が二体によって踏みしだかれていた。

 サイとにた趣があるのにも関わらず、いや、だからなのか、双樹の嫌悪感は強いらしい。

 

 

「さて、動画を編集したら第二部と猿先生の漫画の様な悲しい過去編、そして番外編である私とメタルゲラスの愛の逃避行編を…」

 

 

 うっとりとした表情で双樹は語る。

 その最中にも、人格は入れ替わり、また統合されていく。

 人格は変わっても考えることは一緒であり、このサイ型の存在への異常な愛を語っていた。

 異常犀愛者とでも言えばいいのだろうか。

 三つの人格たちは物語の展開の議論を交わし、または反発と同調と考察、そして解釈違いからの仲違いと和解を繰り返していた。

 その様子を見るジュゥべぇは、硬直した笑顔のままに世界への理不尽に打ちのめされる哀愁を漂わせていた。

 

 素体はインキュベーター。虚無の思考の代わりに頭脳とされているのは、元マギウスの羽根であった双樹からもたらされた、神浜市で開発された人工知能。

 それをベースに、双樹本人の人格形成を解析して作られた高度な人格を持つジュゥべぇは、自分の源流でもある双樹という少女に後輩として尽くそうと決めていた。

 例えそれが、色々な意味で変態趣味の一言では表せない存在だったとしても。

 

 

「んじゃ、先輩。オイラ、次の撮影の準備を」

 

 

 言い掛けている途中で、ジュゥべぇは不穏な気配に気が付いた。

 直後にそれは振動となって足の裏から伝わった。

 

 

「先輩!!」

 

 

 黒い獣が叫び、双樹へと身体を激突させる。

 四足獣の一撃は、なおも言い争いを続ける双樹を突き飛ばした。

 仰向けに倒れた双樹の手には、今も自分を模した人形と古びたソフビが大事そうに握られている。

 

 

「ちょ、ジュゥべぇ!そういうのはもう少し日が暮れてから」

 

 

 自分を押し倒した獣へ首を傾けて双樹は言う。

 経験がある訳でもなさそうだが、満更でもない表情に狂気が滲んでいる。

 

 

「伏せろ!」

 

 

 彼女の額に両手を押し付け下がらせた直後、双樹の足元、即ち先程まで寸劇が繰り広げられてた床が絨毯とコンクリの破片となって噴き上がった。

 当然、そこにあった各種フィギュアも破壊されている。

 顔に飛んできた銀色の騎士の上半身を、双樹は蠅でも払うように繊手で張り飛ばした。

 

 

「なにっ」

 

 

 唐突な破壊の光景に、双樹は少女らしくない反応を示した。

 読んでいる漫画のミーム汚染が影響しているのだろう。

 双樹が妙な反応を示している間に、破壊された床面からは破壊孔を更に広げながら巨大質量が出現していた。

 黒い粘液で構成された翼と羽根を持ったものが、折り畳んでも尚巨大な翼を背負い天井へと激突。

 天井を薄紙のように貫いて、破片を散らしながら更に上昇していった。

 

 

「これ、今回の納品分!」

 

 

 天井に開いた孔の奥から、少女の声が遠く聴こえた。

 それに遅れて、大きな袋が落下する。まるでサンタクロースの背負った袋のようだった。

 ジュゥべぇの両手器官がそれを受け止め、人形を安全圏に避難させた双樹が袋を広げる。

 中に入っていたのは、十五体にも上る白い獣だった。

 赤い瞳は瞬きもせず、一切の情動を喪って横たわっている。

 

 

「流行りのデリバリーにしちゃあ、やり方がハデだな…」

 

 

 ジュゥべぇが呆れた声を出し、天井を見上げる。

 上に開いた孔は更に続き、点に見えるようになったあたりで通常の天井に戻っていた。

 その先からは、二種類の少女の叫びに罵声、そして破壊音と振動が発生している。

 どれほどの破壊が吹き荒れているのか、この室内にも軽い地震程度の衝撃が伝わっていた。

 

 

「この秘密基地、大丈夫なのか?こないだも脱走騒ぎで破壊されまくったってのに」

 

「別にどうでもいいよ。ニコ先生かクソガキのみらいが魔法でパパパッと直すんだろうし」

 

 

 興味を全く示さずに双樹は言った。

 掃き掃除を開始し、破壊された騎士と怪物たちの残骸を塵取りで収集して袋に集めている。

 恐らくは後で直させるものの一つとして渡す気なのだろう。

 銀の騎士だけは、床に開いた穴に破片を蹴飛ばして捨てていた。

 何が彼女をそうさせるのかは、考えたくも無い。意味すらないのかもしれない。

 

 

「さて、私とメタルゲラスの愛の舞台の参加者である愚か者どもは粉砕されたけど撮影機材は無事だし私達も今の間に方向性を纏めたから、いったんお休みにしよっか」

 

「そうだな。あと先輩、たまには生じゃなくて火を通してみるのもアリじゃねえかな。休むついでに色々試してみようぜ」

 

 

 牙を見せて笑いながらジュゥべぇが提案する。

 双樹もいいね!と親指を立てて同意していた。

 一人と一匹が楽しそうに、広い室内の片隅に設けられたキッチンに向かって歩いていく。

 その間に、二人の背後である床面の破壊孔からは黒い何かが飛翔し上昇していった。

 背後から生じた風に吹かれて双樹とジュゥべぇは振り返ったが、既にそこには何もいなかった。

 


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