魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第58話 短い平和は終わりを告げて③

『Angelica Bears』。

 

 入り口にそう書かれた建物へと、ナガレと杏子は雨宿りの為に入り込んだ。

 二人を出迎えたのは、温かな白い光と穏やかな音楽。

 そして無数のガラスケースの中に飾られた、テディベア達だった。

 

 入館料の概念は無いのか、係員や受付が存在していない。

 足を踏み入れた瞬間から、展示物が一面に広がっているのであった。

 建物の中に客はおらず、風見野の年少者二人だけが顧客となっていた。

 

 

「おい…」

 

 

 杏子が呻いた。

 

 

「ああ」

 

 

 ナガレが同意した。

 次の瞬間、彼の手元には黒い光が。

 杏子の全身を真紅の光が包んだ。

 ナガレは手に斧槍を握り、杏子は魔法少女へと変わり、その手に十字槍を手にしていた。

 

 

「この気配、ていうか魔力の残り香は…」

 

 

 杏子が槍穂を前にしながら進む。

 全身には緊張感を漲らせている。

 

 

「あの変態女だな」

 

 

 変態な女は多数いる世界であるが、彼が差しているのは双樹である。

 彼もまた刃を前にして歩いていく。

 二人は完全な戦闘態勢へと移行していた。

 

 気配を追って、展示物の間を歩いていく。

 壁面近く、地面に描かれた複雑な模様の真上で、その気配は強まっていた。

 二人は同時に獲物の切っ先をその上に突き立てた。

 

 魔力が迸り、描かれた紋様が発光する。

 輝くのは、ファンタジーものでよく見かけるような魔道陣。

 杏子と牛の魔女の干渉によって、床に描かれた魔道陣が発動した。

 光が迸り、二人はその中に飲み込まれた。

 怯みも怯えもせず、二人はその光を受けた。

 

 光が消え去った後、二人は薄暗い空間にいた。

 レンガ状の床面、その上に通された赤いカーペット。

 高い天井を、両サイドの床から生えた美麗な造形の柱が支えている。

 

 

「墓場みてぇだな」

 

 

 その様子を杏子はそう吐き捨てた。

 霊廟を連想したのだろう。

 ナガレも似たような気分だった。

 

 

「見ろよ、アレ」

 

 

 回廊の先を見据えたナガレが杏子の視線を促す。

 杏子もそれを見た。

 

 

「悪趣味」

 

 

 と、彼女は憮然とした口調で言った。

 歩いた先には、巨大な両扉があった。

 扉の表面には、複数の歯車が埋め込まれていた。

 飾りではなく、実際に稼働していた。

 

 生き物の内臓を見ているようで、杏子はそこに不快感を感じていた。

 それを払うように、杏子は槍を縦に一閃させた。

 歯車が寸断され、扉の中央に隙間が出来た。

 どうやら歯車は錠前の役割も果たしていたようだ。

 

 開き始めた扉に、ナガレと杏子は同時に蹴りを放った。

 壁面に埋め込まれた蝶番が外れ、巨大で分厚い扉が軽々と吹き飛ばされる。

 轟音を鳴り響かせて落下した扉。

 その先にあったものを見て、ナガレと杏子は嫌悪感に顔を歪ませた。

 

 

「収集癖があるのは知ってたけどさ…」

 

「こいつはやり過ぎだ」

 

 

 二人が見たものは、扉の先の部屋の、両側に設置された無数のカプセルだった。

 液体が充満された容器の中、裸体の少女達が浮かんでいた。

 どれも皆、眼を閉じて首から銀のプレート付きの鎖を下げていた。

 プレートには、アルファベットにて少女達の名前が刻まれている。

 

 

「まるで虫の標本じゃねえか」

 

 

 我慢ならなかったのか、杏子は唾を吐き捨てた。

 それは床面を流れる人口の小川の中に落ち、何処へともなく流れて行った。

 

 

「マナー違反」

 

 

 背後からの声。

 間髪入れずに杏子は槍を放った。

 ナガレの静止の声も間に合わなかった。

 声を発した者の首が切断され、高々と宙を舞う。

 主を喪った胴体も床に倒れ伏す。

 木でできた、人形の胴体が。その近くに、同素材の人形の顔が落下した。

 

 

「マナー違反その二、というレベルでもないねぇ」

 

 

 二人は振り返った。

 先程まで自分たちの視線が向いていた場所、即ち正面に一人の少女が立っていた。

 濃緑の帽子、肩を出した鮮やかな緑のパーカー、濃い緑色のアームカバー。

 丈の短いホットパンツも青みが強く、緑に近い色となっていた。

 金の髪をツインテールで顔の両サイドに垂らした少女は、緑で覆われた姿をしていた。

 

 

『あたしのパクりか?』

 

 

 と杏子はナガレに思念を送った。

 確かに、部分的ではあるが杏子と服装の趣は似ている。

 偶然だろうよとナガレは返した。

 この遣り取りは、杏子なりの感情のクールダウンでもあった。

 ナガレもそれを理解し、自分も冷静でいようと努めた。

 

 

「おや?」

 

 

 緑の少女が疑問の呟きを漏らした。

 

 

「おやおや、おやおやおやおやおやおやおや」

 

 

 呟きが連呼される。続く間に、それは疑問から理解の声へと変わっていた。

 

 

「なるほど。その姿、君たちが報告にあった『保護者』か」

 

 

 瞬間、二人の感情が膨れ上がった。 

 怒りである。

 少し前のクールダウンが無ければ、暴発していたに違いない。

 

 

「その口ぶり…テメェ、調教女と風俗嬢みてぇなイカれた服装のメスガキと腐れ肉袋女の仲間か」

 

 

 怒りのままに杏子は言う。呼び名が酷いのも、半分程度はその為だ。

 

 

「てこたぁ、かずみについて知ってるよな」

 

 

 一語一語を、噛み締めるようにナガレは言う。

 そうでもしないと、裸体の少女達が液体漬けにされて管理されているという、この異常な光景を前に怒りを爆発させそうになって堪らないのだった。

 

 

「その二つの問い、仲間達への不名誉な仇名を除けば肯定しよう。その通りだ」

 

 

 緑の少女は、二人の怒りを平然と受けた。

 まるで自身が虚無であるように。

 

 

「さて、と為れば保護者たる君達には知る権利がある。知らなければいい事を。君たちがかずみと呼ぶ少女の正体を」

 

 

 芝居がかった様子を前に、杏子とナガレは必死に怒りを堪えた。

 聞かなければいけない事柄を、聞き出さねばならないからだ。

 

 

「語り部たる私はニコ。神那ニコ。よろしければお見知りおきを」

 

 

 ニコと名乗った少女は、丁重で恭しい、王に対する臣下の様な礼を二人に送った。

 

 

 

 

 

 


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