魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第52話 注ぐ光、駆ける闇

 光が降り注ぐ。

 桜の花弁にも似た色彩の、鮮やかで柔らかな色だった。

 それはかずみが展開した雷撃の障壁を薄紙のように貫き、雨あられの如く降り注ぐ。

 光は障壁の中にいるかずみとナガレ、そして杏子にも着弾した。

 その光の形は、弓矢。

 鋭い鏃は皮膚を貫かず、体表に触れた途端に弾けた。

 

 

「ああ、ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 光の中、かずみは叫んだ。苦痛の叫びだった。

 まるで幼子が、全身に熱湯を浴びせられ、のたうち回る中で更に湯を浴びせられているかのような悲惨な叫びをかずみは上げる。

 ナガレへと振り下ろした二振りの剣を握る手が開かれ、黒い十字架のような剣が滑り落ちる。

 

 

「ああああ!!!!あああああああああああああ!!!!!」

 

 

 口からは杏子の血が唾液と共に飛ぶ。

 羽織ったマントにも異常が生じていた。

 光が着弾した黒い外套から湧き上がる、黒いかずみの人面たちも苦しんでいた。

 無言の絶叫を挙げる口は引き裂け、顔の輪郭が蕩けて崩壊していく。

 崩壊しながら再生し、また崩れていく。

 

 

「かずみ!!」

 

 

 名を呼ぶ叫びは二つ。

 ナガレと杏子である。

 崩れ落ちるかずみの身体を、彼女の前に立つナガレが抱きかかえて支えた。

 

 

「ごぶ…」

 

 

 ナガレが受け止めた時の衝撃でかずみの矮躯が揺れる。

 その途端、彼女の貌が黒く染まった。

 眼と鼻と耳孔と口。

 顔の穴という穴から、黒い液体が溢れ出した。

 

 コールタールのように粘つく黒は、破壊された赤血球。

 呼吸の度にかずみの顔からは黒が溢れた。

 そして桃色の光の着弾の中、かずみは苦痛の声を漏らし続ける。

 杏子は声にならない声を上げた。

 声の成分は激烈な憎悪。

 

 叫びながら杏子は光の根源を探した。

 降り注ぐ光の痕跡を、視力と魔力を用いて探る。

 

 

「そこか…」

 

 

 昏い声で呟く。無数の光の線は、上昇からの垂直落下であると分かった。

 その根源を杏子は見つけた。

 桃色の光の先に、小さな影が見えた。

 見えたのは黒いローブ姿。

 修道女か或いは暗殺者か。

 杏子は後者と見た。

 こちらに向けて伸ばされた左腕に、光を放つ桃色の可憐な小さな弓…クロスボウが見えた。

 

 瞬間、杏子の脳は沸騰した。

 手が翻り、召喚された槍が何かを切断し、何かを掴んで絡みつく。

 その中で女の悲鳴が生じたが、杏子は全く意識しなかった。

 

 

「くたばれぇええええええええええええ!!!!!」

 

 

 叫びと共にそれを掴み、地面が割り砕かれるほどの力で地面を踏みしめる。

 全身の力と魔力を用い、槍で束ねた何かを投擲した。

 腕が消えたかのようにぶれた、と見えた時に結果は出ていた。

 

 桃色の光を引き裂き、巨大な物体が飛翔しその先にあるものへと激突した。

 喪失していた手や、喰らわれ続けて空洞になっていた腹の中は臓腑で満ちて傷も塞がり、そもそも上半身と離れていた下半身が接続されていた。

 それらに、この時の杏子は気付かなかった。

 

 ただ彼女は、自分の行動の結果を見ていた。

 彼女が投擲したのは、ナガレが製作した闇色の翼。

 その中央に双樹が纏ったサイ型の魔女モドキの角を乗せ、槍で雁字搦めにした異形の翼だった。

 それが桃色の光を引き裂いて飛翔し、その先にいる少女の胴体を貫いていた。

 

 華奢な胴体の直径が、巨大な角によって貫かれ、強引に拡げられていた。

 銀色の角の先には、赤桃色の内臓が絡みついていた。

 その様子を見て、杏子の口は吊り上がっていた。

 かずみの闇を喰らう為に、自ら引き裂けさせて開いた口は今は傷が閉じていた。

 それなのに、それに劣らぬ邪悪な形状となって口を開いて笑っていた。

 その表情が苦痛に歪む。紅い眼は、ナガレが杏子に蹴りを放った瞬間を捉えていた。

 

 

「逃げろ!!」

 

 

 かずみを抱きながらナガレは叫んだ。

 杏子はそれに従い、地面を蹴った。

 次の瞬間、視界が黒で覆われた。

 そして顔に灼熱と熱さを感じた。

 杏子が上げた叫びはくぐもっていた。

 叫びが解き放たれたとき、杏子の顔から赤い飛沫が飛んだ。

 顔を押さえた杏子が見たものは、黒く巨大な沙幕だった。

 

 黒い翼。

 奇しくも杏子がつい今しがた投擲したものと種類は同じだった。

 だがその輪郭は妙に歪み、翼の端は直線ではなくいくつもの湾曲を描いているように見えた。

 まるで粘度か液体で出来たかのような翼だった。

 その姿が歪む。

 寸前、杏子は叫びと共に腕を振った。

 

 

「くっ…」

 

 

 苦鳴が聞こえた。

 空中に黒と紅が飛び散った。

 その色の線を曳いてそれは飛翔した。

 眼で追った時には、その存在は杏子が投げた翼の元へと辿り着いていた。

 直後、金属音が鳴った。

 

 かずみを左手で抱きつつ、ナガレは残る右手で握った斧槍で振っていた。

 杏子の背後に、血で濡れた銀色の角を先端に頂いた巨大な黒い翼が転がっていた。

 中央で真っ二つに切断され、杏子の背後へと流れたナガレ手製の翼である。

 ナガレは斧槍を構えながら、杏子は槍を手に持ちながら前を見据えた。

 

 距離を隔てた先に、二人の少女がいた。

 一人は桃色の縁取りがされた黒いローブのボウガン使いの少女であり、それを抱くのもまた黒いローブの少女だった。

 黒いローブは、タールか粘液で構成されたようにドロドロとした質感となっていた。

 顔を覆うフードは黒い翼に相応しいように、黒い鳥の頭部を模した形となっていた。

 フードの側面には拳よりも大きな眼球状の膨らみがあり、それは杏子を睨んでいるように見えた。

 その下にある、黒髪の少女の眼と同じく。

 

 異形の鳥を思わせる姿の黒髪少女は、桃と黒のローブの少女を抱いていた。

 お姫様抱っこの形にされた少女の腹部には、銀の角で開けられた巨大な孔が空いていた。

 赤桃色の肉の中身が見え、血が滝のように滴っている。

 それを抱く少女もまた、露出が高い衣装の剥き出しになった腹に深い傷を負っていた。

 杏子を襲撃した際、彼女から受けた横薙ぎの斬撃による傷である。

 

 黒い少女は杏子を呪い殺さんばかりの眼で睨み続け、杏子も不可解な闖入者達を睨んでいた。

 杏子の顔は赤と白で出来ていた。

 顔の皮が引き剥がされ、筋肉が剥き出しになった顔。

 肉が深く抉れた部分からは顔の骨が覗いている。

 剥き出しになった顔で、紅い瞳の眼球を血に染めながら杏子は黒と桃色の少女達を睨み続けた。

 

 殺意に満ちた視線を浴びながら、黒の少女は膝を撓めた。

 伸ばした時には、その姿は空高く舞い上がっていた。

 結界の果てまで瞬く間に飛翔し、そして姿を消し去った。

 それからナガレは周囲を見渡した。

 

 近くにいた筈の双樹は消え、安全圏である彼方に置いておいた正体不明の魔法少女二名の姿も無かった。

 これにて仕舞いと、彼は魔女に命じて治癒魔法を発動させた。

 手の中では、かずみが今も虫の様な痙攣を続けていた。

 魔女の魔力を受け、かずみの呼吸は少しずつ安らかになっていった。

 

 

 

 

 


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