魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第49話 君は銀の盾

「かずみいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

 

 みらいとサキへと矛先を向けられていた極大の雷撃が放たれた瞬間、かずみの背後で咆哮が鳴り響いた。

 風切り音が唸り、金属の絶叫が続いた。

 直進する筈の雷撃は拡散し、微細な光となって散った。

 

 かずみは左半身を背後に傾け、左腕を掲げていた。

 黒い布で覆われた腕が、長大な大剣を受け止めている。

 背中から生やした悪魔翼の推進力を乗せた一撃であったが、強度を上げられた黒布の表面で難なく受け止められていた。

 だがナガレはそれ以上の力を掛けず、みらいの置き土産である大剣から両手を離し、かずみの上空を飛翔し前へと進んだ。

 

 一瞬の交差の中、彼はかずみの表情を見た。

 彼の振った大剣を受け止めた時、彼女には反撃を行うだけの時間があった。

 サンダーブレークの矛先を変え、彼に向けて放つことも出来た筈だったがしなかった。

 その答えは、かずみの表情に表れていた。幼い顔に浮かぶのは、苦痛の色。

 彼女は何かに必死に抗っていた。

 

 上空を行く彼に対しても、視線を送るだけで肉体的な反応を行わない。

 寧ろ、動こうとするのを強引に抑えているかのようだった。

 口は歯茎が剥き出しになるほどに歯が食い縛られていた。

 

 かずみが動きを止めている間に、ナガレはみらいとサキを確保して飛んだ。

 その時に、かずみの口からは唸り声が漏れた。

 歯同士の間からは唾液と血が滴っている。

 

 サキを貪った時のものではなく、彼女自身の出血による血であった。

 かずみの顔には苦痛と、そして憎悪が交互に浮かんでいた。

 その顔を、真紅の光が照らした。

 光の発生源はかずみの胸と肩にある白い球体。

 光同士が結ばれ、彼女の胸に赤いV字のラインが浮かぶ。

 

 

「な……が…れ……」

 

 

 口を震わせながらかずみは呟く。

 身体の向きが、飛翔するナガレへと向かっていた。

 

 

「か、わ、し、て、え、え、、ええええええええええええええ!」

 

 

 叫び。

 その瞬間にかずみの胸から放たれた、超高熱を宿した破壊光である『ブレストバーン』。

 視界を埋め尽くす真紅の光には、僅かながら隙間があった。

 反射の瞬間、かずみが身体を逸らした事で生じたものだった。

 彼はそこに向けて全力で飛んだ。

 

 それでも黒翼が掠め、一瞬で根元まで融解する。

 背中と背骨が灼熱と化す苦痛も味わう暇なく、彼は地面へと激突した。

 咄嗟に発動させたダメージカットの殆どを重傷者二人に回し、彼は物理的な衝撃の大半をその身で受けた。

 

 

「ぐぅ…」

 

 

 数十回の回転を経て停止し、ナガレはそう呻いた。

 卓抜した身のこなしと頑強さが、彼に生命を維持させていた。 

 それでも全身の筋肉が断裂し、胃が破裂し左肺が裂けるほどの重傷に陥った。

 

 しかし休んでるヒマなど無く、牛の魔女に命じて動ける程度の治癒を行う。

 達磨状態となり、重なり合うサキとみらいを抱えながら、彼は周囲を見た。

 大気に満ちるのは熱と焦げ臭い香り。

 その芳醇な香りが示す通りに、辺り一面が超高熱による大破壊を受けていた。

 

 熱線の幅は発射直後から拡大し、地面に刻まれた熱による溶解は幅二百メートルにも達していた。

 溶けた地面が緋色の溶岩となって流れる大河はまるで、灼熱地獄と血の池地獄を同時に再現したかのようだった。

 破壊の跡は異界の果てまで続き、視界の彼方には黒い歪みが見えた。

 あまりの破壊力が、空間自体を傷付けて歪めたのだろう。

 

 双樹が廃遊園地を焦土と変えた合体魔法さえ比較対象とはなり得ない、異常に過ぎる破壊力だった。

 破壊の範囲で言えば、風見野で放たれていたら同市を越えて見滝原まで破壊するのでは。

 有り得た光景を想像し、彼をしてもぞっとしない想いが過る。

 

 破壊の光景を一望し、彼は並行してかずみを探した。

 一キロほど離れた場所で、彼女を発見した。

 当のかずみは両手で頭を抱え、足をふらつかせながら苦しんでいた。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 叫びが聞こえた。

 距離を隔てていると云うのに、音は衝撃となって高熱となった大気を揺らして響き渡った。

 声に含まれる感情は怨嗟と悲哀に憎悪。

 時折くぐもった発音となり、その際のかずみは必死に口を押さえていた。

 それでも叫びは吐かれ続けた。そこに彼は違和感を覚えた。

 

 彼女の意思で放たれた叫びである一方、彼女自身もそれを抑え込もうとしていることに。

 湧き上がる力を制御するとは、暴走の危険性を孕んでいた彼女が背負っていた宿業だが、今の彼女は何かが違う。

 湧き上がっているのは力ではなく、別のものであると。

 幸いと言うべきか、その答えはすぐに顕れた。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「ああああああああああああああああああああ!!!」

 

「aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 

 同じ音が、口に手を押し込んでまでして抑制しているかずみの声で放たれた。

 先程は背を向けていたが故に彼には見えなかったが、今回は見えた。

 かずみの黒いマントの内側に、無数の人面が浮かんでいるのが。

 人面の全ては、輪郭のみであったがかずみの顔と同じ形をしていた。

 眼に当る部分からはタールの様な何かが漏れ、口からは怨嗟の叫びが放たれている。

 

 

「殺して」

 

 

 彼が抱えているみらいは、静かな声でそう言った。

 

 

「あの失敗作、今すぐ殺して」

 

 

 眉を跳ね上げる彼。

 不可解な言葉も混じっている上に、声には嫌悪と憎悪が滲んでいた。

 当然ながら、彼はみらいの言葉に怒りを覚えた。

 恫喝を兼ねた尋問をしたかったが、相手は死にかけ、特にサキが重傷であり無理は出来ないと彼は感情を理性で抑えた。

 そして今この時、言葉を交わす余裕はなかった。

 

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 獣の咆哮を上げるかずみ。

 あまりの音と、叫ぶことへの抗いの為に口に突っ込まれた両手により頬が引き裂け、その叫びは血に塗れていた。

 そして叫びと共に、彼女の全身から雷撃が放たれた。

 

 かずみを中心として、無数の紫電の毒蛇が放たれ雷撃の牙が荒れ狂う。

 破壊の範囲にはナガレ達のいる場所も含まれ、彼は急いで退避に移った。

 再び悪魔翼を広げ、瀕死の魔法少女達を庇いながら雷撃の中を掻い潜る。

 

 

「あああああ!!あああああああ!!!!あああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 叫び続けるかずみ。

 彼女は身体を掻き毟りながら、溢れる力を懸命に抑えようとしているように見えた。

 しかしそれも虚しく、彼女の体表面では制御を外れた雷撃が暴れ、蓄積しきって行き場を失くした雷が際限なく放たれ続けた。

 かずみを中心として雷撃は広範囲をドーム状に覆い、その範囲は拡大し続けていった。

 突っ切るか、と彼は思ったがそうなると魔法少女二人は確実に死ぬ。

 

 更にはこの二人をかずみに近付ければ更なる暴走を誘発させかねない。

 とはいえ、今がチャンスなのは違いなかった。

 かずみが今放つ雷撃は威力が弱められ、直撃しても肉が炭化する程度で済む程度となっている。

 これが更に威力を増すか、ブレストバーンまたは本来の技であるリーミティ・エステールニを乱射されれば接近する術がない。

 となると、と彼は思った。

 そう思うが早いか、思念を送る前に、それは向こうからやって来た。

 

 

「かぁぁあああずみぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

 

 少女の叫びが、雷撃を貫いて異界の中に木霊した。

 降り注ぐ雷撃を回避しながら、ナガレはそれを見た。

 声の主は考えるまでも無く相棒である佐倉杏子。

 そしてその行動は、かずみへの接近。

 それを彼は視認したが、思わず言葉を失った。

 

 

「…なんだ、あれ」

 

 

 杏子は雷撃の中を疾駆していた。

 かずみから放たれる紫電の毒蛇達は上空は無論、水平や斜め上からも押し寄せている。

 それを、杏子は走りながら前に掲げた何かで受け、弾き返しながら進んでいた。

 物体を凝視すると、それは銀色である事が伺えた。その形に、彼は見覚えがあった。

 そしてそこから、不吉な魔力の気配を察した。

 

 

「気張れよ変態獣姦女ども!!愛しの王子様を傷付けたくなかったらなぁあああああ!!!!!」

 

 

 杏子が叫ぶ。

 応答として、くぐもった悲鳴が聞こえた。

 発生源は、彼女が盾としている、直立したサイの形をした魔女モドキの遺骸の中。

 銀の装甲の表面には炎と氷、そしてその二つが合わさり発生する対消滅の力が纏われていた。

 双樹を中の人というか障壁発生装置とさせ、杏子はサイ型の魔女モドキ、双樹曰くメタルゲラスなる存在に似たものの遺骸を盾として雷撃の中を走破していた。

 

 双樹曰く、彼女はこのキャラクターを愛している。

 ならばそれを盾にすれば双樹たちは愛しの存在を守るために防御魔法を惜しまないだろう、という考えだった。

 それは大成功していたが……色々な意味で非人道的な行為であった。

 

 そんな事は気にもせず、杏子はサイの胴体に左腕を回し大盾として掲げ、残る右手では槍を振って雷撃の雨を散らしていく。

 大きさが三メートルに達する怪物を持ち上げていながら、杏子の走りは風の速さを有していた。

 瞬く間に距離が詰り、彼女はかずみを覆う雷撃の結界の前に来た。

 そこで彼女はサイを持ち上げ、自らの左肩に足を置かせた。

 サイの着ぐるみを纏った双樹の身体は地面に対して水平に近い体勢となり、それはさながら杏子の肩から生えた巨大な銀の槍となった。

 

 

「え、ちょ、これ、まさか、ヘビープレ…」

 

 

 現状を察知し、技名を言い終える前に双樹が絶叫を上げた。その声は絶望で出来ていた。

 

 

「や、やだ!私達、ヤンホモコスプレ怪人ごっこだけはやだ!やだあああああああ!!!!!!!」

 

「うっせえ黙って仕事しろ!!」

 

 

 嫌悪感が滲んだ声で焦る双樹を無視し、杏子は肩に置いたサイを盾兼槍と見做して雷の障壁へと突撃した。

 そして激突。

 当然、サイの全身に雷撃が纏わり付き、中からは絶叫が聞こえた。

 それを無視して杏子は進み、自らも肉を焼けさせながら右手の槍を振った。

 

 

「そこだ!!」

 

 

 銀の装甲に纏われた双樹の攻撃魔法が雷撃に喰らい付き、障壁が弱った瞬間を狙っての一閃。

 真紅の十字槍が雷の障壁を切り裂き、その内部へと杏子は跳び込んだ。

 役目を終えた盾兼槍である双樹は、邪魔になったのでその着ぐるみごと放り捨てた。

 

 

「かずみっ!!」

 

 

 そして、なおもかずみから放たれ続ける雷撃を槍で切り裂いて道を開き、杏子は焼け焦げた腕でかずみの身体を抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 


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