魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
『『『シャインスパーク』』』
意思で出来た声が重なる。
佐倉杏子であり、呉キリカであり、朱音麻衣の声であった。
双樹が放つ虚無色の破壊光の中で、複数の色が輝いた。
真紅と黒と紫の光。
それは互いに交じり合い、ドレスを纏ったポニーテールの少女の姿となった。
少女の姿の上を絶えず流動し、少女は三つの色の斑となって煌々と輝く。
光の中を少女は飛んだ。
外套状のドレスの裾が翻り、翼のように広がる。
「悪魔」
その姿を双樹はそう呼んだ。
迫る少女の姿は、輪郭こそ佐倉杏子であるが鋭い眼の輪郭程度でしか表情は分からない。
だが決して、それは聖なるものでないことだけは分かった。
叩き付けられた感情は確かに素晴らしいと思えたが、それは芸術品としての意味で、である。
自らに対する脅威であれば、取り除くしかない。
攻撃魔法は無意味と見て、双樹は魔法を解除。
二本の剣で持っての迎撃をすべく身構えた。
そうする、つもりだった。
「なっ」
愕然とする双樹アヤルカ。
二本の剣をクロスさせることで発生させている、対消滅の破壊光の発射が止まらない。
腕も動かず、現状の維持が強制されている。
異様な状態の中で双樹は迫る少女の姿を見た。
そして気付いた。
自分が発している魔法が、輝く少女の中に消えていくのを。
光を喰っている。
双樹がそう認識すると同時に、少女の姿に異変が生じた。
少女は双樹からの光を全身に浴び、全身で喰らいながら形を変えていった。
細く華奢な体躯の上に、光が幾重にも重なっていく。
指先から腕に肩、胴体に腰に爪先までが光の装甲で覆われていく。
何が起きている。
疑問に思ったその瞬間、双樹の身体は一気に上昇させられていた。
「うぐっ!?」
地上から約百メートルの上空。
首に感じるのは強烈な圧搾感。
見れば、細い首を真紅が覆っていた。
真っ赤な装甲で覆われた五指であると気付いたとき、双樹の視界は暗転した。
直後、激烈な痛みと衝撃が彼女を襲った。
悲鳴を上げることも出来なかった。
高空から地面へと一気に叩き付けられ、背中の骨は全て砕かれ肺が体内で爆裂していた。
眼球には血が溜まり、視界は真っ赤に染まっている。
視界の中、血よりも赤い紅を見た。
光で構成された装甲で覆われた、人間に似た姿。
輪郭は朧気だったが、双樹にはそう見えた。
それが自分を見降ろしていることも分かっていた。
定かでは無いが、大きさは自分の倍程度だろうか。
佐倉杏子と同じ姿をしたものが変異したのだと察せたが、それは少女とはかけ離れた外見をしていた。
一言で言えば、それは『鬼』。
頭部からは槍穂のような二本の角が生えていた。
それを根拠に、双樹はそれを鬼と評した。
それが自分を、鋭い目で以て見降ろしている。
その体が、ゆっくりと動き始めた。
装甲で覆われた剛腕が持ち上がり、握り込まれた拳が掲げられる。
何をするのか、一目瞭然だった。
それは流星のように振り下ろされた。
迫る真紅の拳。身じろぎ一つできず、口と鼻と耳から鮮血を吹き零しながら、双樹は迫る死を見つめた。
そして拳は激突した。
双樹の顔のすぐ隣へと。
拳の大きさは、双樹の頭よりも大きかった。
獣の様な唸り声が漏れた。
音の発生源である口元からは蒸気が見えた。
仮面の様な顔を掠めて、すぐに消えた。
消えた後には、佐倉杏子の顔があった。
姿も普段通りの、真紅のドレスへと戻っている。
杏子は歯を食い縛り、何かに必死に耐えていた。
喘鳴の様な荒い息を、杏子は吐き続ける。
「そっか」
その様子に双樹は理解を示した。口調的に、通常人格のあやせになっているようだ。
「そんなに私達を殺したかったんだ」
「ああ」
血泡を吐きながらの双樹の言葉を杏子は肯定した。
「でもしなかった。あ、そっか。あのオリ主くんのせいか」
ふーん、と納得の表情となる双樹。
対する杏子は沈黙。
それは事実であるからだ。
拳を振り下ろした瞬間、恋慕の対象の顔が浮かんだ。
気付いたときには拳は逸れていた。
戦いの中で相手を殺害するのは仕方ない。
だが今回、決着は既に着いていた。
この二つで何が違うのか、杏子自身も分からない。
ただ、自分がなりたいものの事を思えば、自分が取った行動は正しかった。
杏子はそう思うことにした。
なんとなくであるが、双樹もそれを察していた。
魂を宿し、感情の片鱗を理解しただけの事はあるか。
「それにしても佐倉杏子、きみってば自分に何したの?前にも言ったけど世界観おかしくない?何やってるか分かってる?」
双樹は疑問を素直に口にした。
その喉元を、杏子は再び掴んだ。
そして一気に引き上げ、彼女の顔の真ん中に自分の額を激突させた。
ナガレをして石頭と言わせた杏子の頭蓋は、双樹の顔をその形に陥没させた。
大量の鮮血が飛び、再び双樹の身体が地面に激突する。
そこに、杏子は右足を踏み下ろした。
ブーツの底で、破壊された双樹の顔が更にひしゃげたのを彼女は感じた。
殺しはしないが、その手前までなら痛めつけてやろうとは思っていたのだろう。
「なんのこたねぇよ。不思議な事でもなんでもねぇ」
双樹の顔の上で、ブーツをグリグリと踏みしだきながら杏子は言った。
「ただ、恋してるだけさ」
その言葉には微塵の狂気も含まれていない。
ただ、少しばかりの気恥ずかしさと、確信による強い意思が込められていた。
今の杏子の表情は、恋する乙女そのものだった。