魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「消え失せろ!!異貌のものども!!」
双樹あやせと双樹ルカ。二つの人格が統合されて誕生した最強の戦闘人格、双樹アヤルカは空中にて二本の剣をクロスさせて前に突き出す。
交差された剣同士の間で氷炎の魔法が合成され、対消滅による膨大な力を放つ。
完全な同一のタイミングで合成された破壊の魔力は、風見野で放たれた際には廃墟となった遊園地一つを焦土と化した。
前回はナガレと牛の魔女による、限界まで発動された防御魔法によって辛うじて防いだ。
今回彼は近くにいない。
迫る破壊の光に対し、呉キリカと朱音麻衣に身体を乗っ取られ、衣装が両者の中間となった異形の杏子は二人の魔法少女の武具を構えた。
赤黒い斧と魔刀が光を刻む為に魔力を蓄える。
「邪魔だ。どいてろ淫らな雌餓鬼ども」
その二人の意識の奥から、その声が届いた。
静かな声だったが、燃え盛る炎と大地を砕く雷撃の様な猛りを宿した声だった。
同時に、光が少女の身体を包んだ。
前回この魔法を受けたときは、ナガレが彼女らの盾となった。
防御魔法を駆使しても、破壊の力を浴びたナガレは身体の各部を炭化させられた。
素の状態で直撃したなら、肉の欠片どころか遺伝子の一片に至るまで消滅させられる。
容赦などなく、上空からの光は少女の身体を包んで下方へと抜けた。
少女の立つ地面に超高熱が激突し、地面を溶解させていく。
着弾点を基点に地面が孔となり、溶けた地面がその中に落ちていく。
光の直径は十メートルにもなり、穴の直径は五十メートルに及んだ。そして更に広がり続ける。
破壊の奔流を放つ中、アヤルカは秀麗な眉毛をピクリと跳ねさせた。
全てを破壊する光の中で、動くものを見たのである。
それは少女の裸体だった。
纏っていた衣服が剥がれて燃え尽きた為に、その姿となっていた。
衣服の崩壊に反して、華奢な姿には裸体と化した事以外の変化は無い。
その姿に、新たな衣装が纏われていく。
対消滅による無色の光、虚無そのものと見える白光の中で真紅のドレスが少女の裸体の上を覆い、最後に黒いリボンが長髪を束ねてポニーテールを結んだ。
魔の装束を纏った少女、佐倉杏子は光の根源を見つめた。
鋭い目つきの中で、真紅の瞳が輝いている。
それを破壊するための光を放つ立場ながら、アヤルカは、更には彼女の中のあやせとルカもまた同じ思いを抱いた。
『美しい』と、彼女らは思ったのだった。
そして同時に感じるのは恐怖。
破壊の奔流の中、佐倉杏子は微動だにせずに立っている。足場も消え去っている事を鑑みれば、浮遊しているとした方が正しいか。
「面妖な」
額から汗を垂らしながらアヤルカは呟く。
そして魔力の出力を更に上げる。
「消えてしまえ!!」
叫ぶ双樹。光の太さは更に倍になり、地面が一気に溶解する。
溶けた地面は逆さまの大瀑布となり、天高く舞い上げられる。
黙示録に描かれた終焉の光景さながらの景色の中、
『ゲッターシャイン』
双樹は不可解な単語を聞いた。
それは声というよりも意識であり、脳裏ではなく胎内から響くように聞こえた。
複数の魂を宿した彼女の子宮から、その意識は発せられていた。
そしてその言葉は現象として顕れた。
光の中にいる佐倉杏子が、真紅の光を宿して輝き始めた。
放たれる虚無の光を喰らうように、無色の光の中で真紅の光が煌々と燃え盛る。
シャインとはこれか、と理解した一方で疑問が残った。
その言葉の前にある言葉。
『ゲッター』とは何か。
彼女の知識の中では精々スポーツの用語の一部くらいしかない。
だがしかし、その言葉には異様な不穏さと不気味さを感じた。
ゲッター、ゲッター。
得る、奪う。
だとしたら、何を?
連なる疑問の後には恐怖が待ち受けていた。
この状況で杏子が望み、奪おうとしているものは一つ。正確には三つ。
双樹たちの、命。または魂である。
「「「うぅぅぅうううううああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」」」」
人格の差なく、双樹たちは叫んでいた。
三者の魔力が総動員され、破壊の力へと変換される。
破壊の範囲は更に広がる。街中で放てば、一つの都市を壊滅に追い込む勢いであった。
輻射熱が双樹まで届き、美しい姿の各部に高熱が傷を穿つ。
アヤルカになった際に完治させた傷に変わって、皮膚の至る所に火膨れが生じ衣装が灰となって崩れていく。
それでも双樹は魔法を緩めなかった。
放つ本人にも苦痛が生じ、頭が割れんばかりに痛くなる。
激痛のさなか、脳を刻んで出来た亀裂の様な痛みの隙間に、双樹は異様な感覚を感じた。
溶鉄のような粘ついた何か。針で覆われた棘だらけの何か。鋭い刃の様な何か。
それは感情の形であると察した。
対象に張り付き、突き刺し、貫き、束縛と拘束、そして依存を求める心の在り方。
形は違うが、その欲望が表す願いは一つ。
それは異形で悍ましく、そして醜く尊い『愛』という感情であり欲望だった。
そしてそれを浴びる存在もまた一つ。
三つの心は、それに向かって一つになって…いるのではなかった。
感情の持ち主同士の思念が互いに喰らい付き、牙と爪を立てて争っている。
紅と黒と紫の色で出来た三人の少女達が、凄惨な殺し合いを行っている姿が双樹たちには見えた。
一つの願望であるが分かち合う気は毛頭なく、ただ自分の願いの為に、欲望を叶える為に他者へと喰らい付いて自らの隷属を強いていた。
誰もが全く譲らず、憎しみのままに争い合う。
欲望は愛であり、純粋そのものではあったがそこに正義は無く、故に純粋な願いだけがある。
他者からしたら相手は絶対悪であり、故に絶対に譲らず譲れない戦いとなっていた。
想いは一つだが、絶対に一つとならない。
しかし力と殺意と欲望は際限なく上がっていく。
真紅の光を纏って、破壊の光の中で輝く杏子。
その中で繰り広げられる悍ましい争いに、双樹は恐怖と、それ以上の嫌悪感を抱いた。
だがその一方で、彼女の顔に浮かんだのは淫らさと慈愛の色を宿した微笑み。
「「「すばらしい」」」
正気のままの狂気は、双樹も負けてはいなかった。
極限の苦痛と狂気の中で双樹は最後の力を振り絞った。
遂に光は杏子の真紅を覆い尽くした。
地上を蹂躙する超高熱は、更に範囲を拡大して破壊を撒き散らす。
光の中、喰らいあう意識。
魂を交差させ、相手に牙を立てて啜り合う。
血のように流動するのは記憶。
杏子から流れたものを、キリカと麻衣が奪い取る。
それを杏子も察知した。
互いの喉を喰らい合う三匹の美しい雌獣達。
精神の中、それらは相手を苦しめ自らも苦しめながら口角を歪めて嗤っていた。
『お前達は、
恋敵を資源と見做し、彼女らは笑っていた。
人間かどうかも疑わしい、異形に過ぎる感情であった。
その思いのままに、彼女らは言葉を紡いだ。
『『『シャインスパーク』』』