魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「壮観だな」
夜の森の中、焚火の炎を背後に彼は言った。
視線の先には複数の巨体が置かれている。
翼長が6メートルもある、闇色の翼を持った魔女モドキ達である。
どれもが頭部が叩き潰されるか切断されるかをされていた。
翼に傷は皆無であったが、深紅の鮮血が翼の裾から垂れていた。
戦果を眺めながら、ナガレは左肩をゆっくりと回した。
魔女モドキの一体に肩を喰い千切られ、戦闘後に魔女に命じて行わせた治癒の具合を確かめたのだった。
結果は違和感がほんの僅か。数時間もすれば元に戻ると彼は判断した。
そしてこの時、回される腕が小さな風を起こした。
それは紅い髪を優しく撫でた。
その髪は、彼の喉元から生じていた。
生えているのではない。
ぶら下がっているのである。
佐倉杏子が、ナガレの首に歯を立てていることにより。
「なぁ、もういいか。第二ラウンドって雰囲気でもねぇしよ」
『あたしは別にそうでもねぇけど、そっちが乗り気じゃねえんなら仕方ねえか』
彼の喉、というか肉に歯を埋めながら魔法少女姿の杏子は思念で返した。
口内の舌が、歯で抉られた彼の肉を舐める。
赤い舌先が動脈を舐め上げ、彼女の味蕾は彼の血の流れの味を覚えた。
『ていうかあんた、ほんとやべぇな』
「ああ?」
異常行動をしつつの杏子の言葉に対する彼の声には、苛立ちが多分に含有されていた。当然だろう。
また無理に引き剥がさないのは、そうすると動脈が喰い千切られて面倒だからである。
死ぬ、ではないのがこの少年らしい。
『舌の先であんたの命、っていうか血の流れを感じるけど、それだけで胎の奥が疼いちまう。どうなってんだあんたは。血の流れまで性癖破壊兵器なのかよ』
「理不尽過ぎんだろ」
『全くだね』
彼の言葉に杏子は同意する。
理不尽というのは、血流だけで自分を欲情させる彼についての事である。
『血管でコレなんだから、別のモノを感じたらどうなっちまうんだろな………なぁ、どうなると思う?』
「言ってて恥ずかしくねぇのか」
『ハズいに決まってんだろ。こっちは一応乙女だぞ』
杏子は言う。事実ではある。
思念の声には恥じらいがあった。
その感情によるものか、歯は更に肉に喰い込んだ。
あと少し進めば、動脈が破れて血が溢れる。
杏子は上を見上げる。ナガレは下を見る。
互いの視線が合う。
話が繋がらない、という思考に至る。
彼は恋愛とかを意識したことが無く、されど立場は杏子の彼氏なので何かをしないといけないのかなと考えている。
杏子は自分でもこれは異常だと自覚しつつ、この行為を続けている。
彼は異界から来た存在であり、何時か遠くへ行ってしまう。
それが嫌で堪らなく、どうにかして近くに存在を留めたい。
そのやり方が分からず、心が暴走するが故に欲望のままに動いてしまう。
繋がりたい。
それが彼女の望みであった。
数秒が経過する。
夜風が二人を撫でた。
炎が揺れた。
炎に照らされる二人の姿は、絡み合う二体の悪霊のようだった。
やがて彼女は歯を抜いて口を開いた。
これ以上は無意味だと判断した、のではない。
アプローチを変えようと思ったのだった。
唇と首の間で唾液が糸を引く。
彼の首筋に付いた傷口から流れ出る血液が、顎先へと伝っていく。
その光景が、彼女をより興奮させた。
顎に垂れた彼の血と自分の唾液が混じった粘液を右の人差し指で掬い、親指との間で交わらせてから桃色の舌でべろんと舐める。
真紅の眼が茫洋と霞む。
この行為に淫らな物を感じたのだろう。
彼との間で織り成す行為の大半を性交と見做している為だ。
「じゃ、いつもの回想といこうか」
「勝手にしろ」
流石の彼もイラつきを発散させたいのか、刺々しい声色で言った。
彼の態度は彼女の求めたものであったので、杏子は八重歯を剥き出しにして笑った。
その様子は、嘗て世話をしていた雌獅子に似ていた。
獲物を押し倒して喉を喰い破る時の様子だと彼は思った。
他人が自分をどう思おうが勝手なので、それは別にいいとした。
杏子が指をバチンと鳴らすと、映像が彼の視界に飛び込む。
現実の光景に重なるように、『回想』が這入りこむ。
最初に飛び込んできたのは、赤い肉と深紅の鮮血。
そして重なり合う身体。
白い腹からは内臓が零れ、それを血塗れの五指が掴んで引き摺り出す。
被害者の悲鳴が鳴った。
佐倉杏子の声だった。
悲鳴は苦痛と嬌声が交じり合ったものだった。
腸に肝臓にと、縦に裂かれた腹からは、そこに突っ込まれた両腕が蠢いて次々と臓物が掻き出される。
そのすぐ下では、雄と雌の器官が交わっている。
背後から被さる黒髪の少年が、佐倉杏子を壊しながら犯していた。
「おい」
「あ……ごめん。こないだ使った妄想が混じった」
猟奇的な妄想を見せた事を、杏子は素直に謝罪した。
次いで何かを言おうと思ったが、彼は口を閉ざした。
話が進まないと判断したのだろう。
最悪に過ぎる出だしから、これまでの回想が始まった。