魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「しっかしまぁ…風見野だけじゃなくて、ここにもあるたぁな」
声色は童女、口調は男っぽいのではなく男そのもの。
地面も構造物も、何もかもが鏡で形成された世界で、黒い魔法少女はそう言った。
その前方から、複数の影が彼女に向けて殺到していく。
多種多様な衣装を纏い、剣に槍に銃器にと武装した美しい少女達。
美しい姿でありながら、顔を鏡で形成した異貌のものども。
先陣を切った一体が、少女の、かずみの前へと跳躍しながら襲い掛かる。
ピンク色の髪の、長いツインテール。
桃色と白で形成された肌露出の多い姿。
手には大きく弧を描いた大鎌が握られていた。
一瞬の後にはそれは旋回し、かずみの細首を血線を巻かせて吹き飛ばす筈であった。
それより前に、少女の背中が破裂した。
砕かれた背骨に内部の肋骨、心臓に肺に胃袋。
そして腸と腹部の肉が背中から大量の血と共に挽肉となって、花吹雪のように吹き散らされる。
肉の花吹雪が咲き誇る中央では、黒い円錐が少女の身体を貫いて聳えていた。
「ニーインパルスキック!」
破壊の中、かずみが叫んでいた。
彼女の黒い靴が左膝を覆い、一瞬にして膝小僧から先に二メートルも伸びた黒円錐を形成。
それで以て、魔法少女の複製体を粉砕していた。
そこに更に迫る複数の少女達。
彼女らが武具を構えるよりも早く、漆黒の一閃が彼女らの胴体を薙いでいた。
一閃が触れた個所で、例外なく赤い柘榴が散った。
柘榴とは、血肉と臓物の意味である。
既に尋常な形と戻った左脚を軸に、かずみの右脚が旋回していた。
高く上げられた爪先には、先と同じく膝まで続く形状の変化が生じている。
「バックスピンキック!」
彼女の爪先から膝までが、黒い刃となっていた。
鉈の重さと名刀の切れ味を両立させたそれが刃よりも鋭い蹴りによって廻され、鏡貌の少女達の胴体を両断させた。
おぞましくも美しい死に様を咲かせる少女達を、後方からの複数の光が貫いた。
後続の疑似魔法少女達による遠距離攻撃である。
殺到する光の隙間を、黒い姿が抜け出る。
地上から天へと飛翔する逆さまの流星を、少女達は眼の無き顔で追った。
その内の何体かは、「スクランブルダッシュ」という叫びを聞いていた。
それが最後の声でもあれば、次のこの言葉が今生の最後の音でもあった。
それは、眩い白光を伴っていた。
「サンダァアアアアアブレェェエエエエエエク!!!」
かずみの被った魔女帽子の鍔から迸った雷が、彼女が伸ばした右腕の先の人差し指へと伝い、指先に光が纏われた。
そして指先からは極太の雷撃が発生。無数の棘を生やした巨大な竜を思わせる雷撃は、棘の枝葉を更に無数に増やして地上の疑似魔法少女達へと襲い掛かった。
回避も間に合わず、防御も無意味とさせる莫大な熱量。
辛うじて人体の面影を残した炭の柱へと、魔法少女達は姿を変えられていた。
動くものが絶えた中で、黒衣の少女がゆっくりと着地する。
背中に羽織られていた黒いマントは、左右に大きく伸びた翼の形状を取っていた。
それがしゅるりと長さを縮めて元の長さへと戻る。
スクランブルダッシュが翼の展開なら、これはスクランブルオフとなるか。
かずみの軽い体重が鏡の地面に触れた時、少女達の肉で出来た灰の柱は静かに崩れ落ちた。
灰色の雪のように、灰が雷撃によって膨張した空気が起こした風に乗って舞い踊る。
その中に立つかずみの姿は、幻想的な美しさを伴っていた。
「すげぇな」
その様子を、背後で見るものが二人。
内の一人である佐倉杏子はそう呟いた。
「「だろう?」」
声が二つ重なった。声はそれぞれが違うが、口調は同一。
杏子の隣に立つナガレと、彼女に向かって振り返ったかずみが言った言葉であった。
この奇妙な様子に、杏子は内心で少しイラっときていた。
ナガレとかずみに対してではなく、これを齎した事例について。
数日前、杏子はキリカに意識を乗っ取られた。
杏子のソウルジェムは他と異なり、何故か距離制限が無かった。
それを利用し、杏子のソウルジェムと同じく双樹の子宮にあるキリカのソウルジェム、つまりはキリカの意識が杏子の魂に干渉して意識を飛ばし、杏子の肉体を奪っていた。
意味不明な状況だが、事実なのだから仕方ない。
それに対し、当然ながら杏子は良い思いを持ってなどいない。
そしてその事例を元に、ナガレはかずみの肉体を操作していた。
但し彼の場合は、自分の肉体にも意識を残しつつ、というよりも移動などさせてはいない。
感覚的には、コントローラーを操作してゲーム内のキャラを操る者や、ラジコンとその操者の関係に近い。
かずみ自身もこれを行う事を許可していたことが、この奇妙な状態の成立に一役買っていた。
要領としては、魔法少女に非ずの彼が魔法少女と行う会話。
半共生状態の魔女を介しての念話のそれ。
そのちょっとした応用を用いてかずみの肉体操作を行っていた。
目的は無論、彼女の力の制御である。
暴走に至る莫大な感情の発露と異常なまでの力。
その二つを制御すべく、彼はかずみの能力の一つ一つに技名を付け、ある存在を模倣することで力の精錬化を図っていた。
いわば、言霊を与えようというのである。
その力の依り代として選ばれたのが…。
『グレートマジンガー……って言ったっけか。この前聞いた、マジンガーZってやつの改良型だっけ』
『ああ。それで合ってる』
『二次創作のオリキャラみてぇな名前だな』
『俺もそう思う』
杏子からの評価にナガレも同意した。
正直に過ぎて、杏子は自分の発言に罪悪感さえ覚えた。
『グレートってのは偉大って意味だけどさ、自称かい?』
『いや、こいつはロボットでマシーンだからな。言葉もしゃべらないし涙も流さねぇ』
当たり前だろと杏子は思ったが、彼の記憶から垣間見た幾つかの存在を鑑みるに、「ロボットってなんだろう」といった考えが湧いていた。
彼曰く、ここに来る前に相方というか保護者みたいな存在であったZEROとやらは感情を備えているらしいとのこと。
そいつがやらかした事を聞いた杏子は大いに気分を害しその存在が嫌いになったが、それはまた別の話である。
『グレートって意味は守られる側からの希望の象徴だったり、相手をする敵への威嚇が込められてるんだろうな。薄っぺらい承認欲求とか英雄願望じゃねぇだろうさ』
彼は自分の中で整理した情報を杏子に伝えた。
なるほどねと杏子は返した。
グレートマジンガーという存在に対し、ナガレはその名前からいけ好かない思いを感じていたが、数日前に杏子の身体を乗っ取ったキリカとの会話で認識を改めていた。
偏執的でも悪魔的でもない、精錬されて制御された力。
自分の為ではなく、平和を守るための偉大な勇者であれという願いを籠められて建造された存在。
なるほどなと、ナガレは思い返していた。
たしかに、かずみの制御を担う為の依り代として適した存在であると彼は思った。
イメージのモチーフはZERO版のグレートです