魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第27話 それぞれの夜の過ごし方

「ああ…ああああ」

 

 

 深夜の暗い部屋。少女の声が鳴っていた。

 秘められているのは苦悩、そして快楽。

 床に敷かれた布団の中で、裸体の少女が二人、熱い肌を重ねて絡まっていた。

 指は互いの乳房を撫で、絡められた両脚が互いの女に触れる。

 滲む体液が太腿を濡らし、快楽の声が生じて腰が跳ねる。

 

 その中で、リナは苦悩し続けていた。

 魔法少女の真実、双樹による実質的な麻衣の拉致・死体化、京のメンタルの不調。

 そして風見野自警団にあの二人を迎えるべきか、否か。

 その二人が擁する、としていいのかは判断に困るが、あの異常な戦闘力をもつ「かずみ」なる少女。

 考えることが多く、そして全てを軽々しく決める事など出来ない。

 そもそも、何処から手を付けて良いのかが分からない。

 

 分からない。

 でも決めなくてはならない。

 何故か。

 自分はその立場にいる者だから。

 責任があるから。

 

 

「ああ、ああああああああ!」

 

 

 相手の小さな身体を抱きながらリナは叫んだ。

 叫びが自分を蝕む感覚が、確かにあった。

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 震える身体を、自分が抱いていたものが抱いた。

 

 

「私は、貴女の味方です」

 

 

 リナにはその声が、救済の女神のそれに聞こえた。

 闇で包まれた室内、更にその中で二人を覆う布団。

 完全に近い闇の中ではあったが、リナにはそのものの姿が眩く輝いて見えた。

 

 慟哭を上げながら、リナは相手の薄い胸に顔を埋めて泣いた。

 赤子の産声のようだった。

 リナの頭を、その者は優しく撫でた。

 

 

「くふふっ」

 

 

 闇の中に、その笑い声が漂い消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わるが、そこもまた暗い部屋だった。

 部屋の片隅に置かれた勉強机の上だけに、勉強用のライトスタンドによる光が灯っていた。

 

 

「………」

 

 

 机の上の一角を照らす光を、その前に座った少女はじっと眺めていた。

 身じろぎ一つせず、ただ眺める。

 瞬きもせず、呼吸さえも絶えているかのように。

 

 

「麻衣…ちゃん……」

 

 

 その呟きは机の上に当たって砕け、そして消えた。

 それを彼女は、何度も何度も繰り返した。

 夜が明けるまで。

 そして、日が世界を光で染めても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ばり ぶちゃ くちゅ ばき ほふっ ぺちゃ ぱき ごくん

 

 

 音が響いていた。

 光り輝く光量で満たされた部屋の中。

 

 豪華な寝台、家具や書物などは整頓され、整然と並んでいる。

 広さにして約二十畳ほど。

 部屋というより家の広さに近い。

 白い壁面、異国の情緒が伺える赤い絨毯が敷かれた床。

 その全てと相反する、悍ましい音が響いていた。

 

 いや、その実、相応しい音でもあった。

 棚の一つの中には、銀色に輝く物体が置かれていた。

 金属光沢を放つのは、一角を持つ動物の頭だった。

 生物にあるまじき異形さは、動物の死体の上に銀を塗しているからだ。

 

 元となったのは、立派な角を持つ犀だった。

 首だけでもかなりの大きさだが、棚自体が大きく問題なく収納されていた。

 製作途中なのか、獣の皮膚の一部は乾燥させられて乾いて亀裂が入った肌を見せていた。

 銀色の犀の首の前には、生前と思しき写真とその名前と生没年が刻まれている。

 野生のものではなく、どこかから盗んできたのか。

 

 そう言った品は他にもいくつか並んでいた。

 紫色に塗られたコブラの剝製、腹の中身を刳り抜かれて翼を広げさせられた白鳥、赤い絵の具を無造作に塗りたくられたエイ。

 何かしらの美を追求し、その過程で飽きて捨てられた者達。

 それでも整然と飾られているのは、中途半端なこの状態で満足しているせいか。

 

 そして先述の悍ましい音は、この棚の前で生じていた。

 赤い絨毯の上に、白いドレスを着た少女が座り込み、何かを一心不乱に喰らっていた。

 何かを手に持ち、真珠のような歯でかぶり付いて咀嚼し、舌の上で転がし味わってから飲み込む。

 口と食物の間からは真紅が滴り、ドレスの上に降り掛かる。

 長いスカートの部分は真っ赤に染まり、赤を越えて黒くなってさえいた。

 全く構いもせずに、少女は喰らい続ける。

 獲物を喰らう獣の尾のように、栗色の髪のポニーテールが左右に激しく揺れていた。

 

 

「相変わらず、よく喰うねぇ」

 

 

 その背後で、呆れたような声が生じる。

 発したのは、深い青色の衣装を纏った緑髪の少女。

 薄い白鞄を背負い、飛行眼鏡を額に乗せた姿は、二昔前の飛行機乗りの姿にも見えた。

 その声を無視し、白ドレスの少女…双樹は食事を続ける。

 

 

「元から変な措置を受けていたとはいえ、よくもまぁ、こんな食生活を続けるものだ。見てるこっちが祟られそうだよ、くわばらくわばら」

 

「異星人の幽霊なんて、怖くもなんともないね」

 

 

 振り返りもせず双樹は返す。血塗れの歯が、白い毛皮を喰い千切って肉を引き出す。

 

 

「それに、私達にはこれが必要なのです」

 

 

 双樹の口調が変化した。あやせからルカへと変わったのだろう。

 

 

「そう。皆と一緒にいる為に、これは必要不可欠なイベントなの」

 

 

 滴る血で赤黒く染まった下腹部を、双樹は愛おし気に撫でた。

 皮と肉を隔てた先の、彼女の子宮には奪ったソウルジェムがぎっちりと詰め込まれている。

 

 

「いやはや、なんとも真面目だ。脱帽するよ、本当に」

 

 

 青の少女は目元は無表情で、口には酷薄な微笑を浮かべてそう言った。

 

 

「それにしても、厄介な身体だねぇ」

 

「誰の所為でしょうかね」

 

「それは勿論私と海香。あとその土台を作ったのは神浜の連中だからそいつらにも製造責任はある。しかしながら、それを望んだのはキミだよ。おじょうちゃん」

 

 

 少女の指摘に、双樹は声を震わせた。

 それは哄笑だった。

 

 

「ははははは。言葉にすると中々にカオスで実に笑える。笑えるぞ、神那ニコ」

 

 

 右の眉を不快そうに上げる、ニコと呼ばれた少女。

 表情は虚無に近いが、また人格が変わってるなという嫌気が伺えた。

 

 

「言われてみればその通りだけど、そっちだって私のデータが欲しかったくせに」

 

「ああ、全く以てその通り。あとデータっていえば、ホレ」

 

 

 両胸の下にある、白いベルトで括られたケースから何かを取り出し、ニコは双樹へ向けて放った。

 後ろを見もせずに、双樹はそれを受け取った。

 繊手が握ったのは、液体で満ちた小瓶。

 その中で、黒い瞳を持つ眼球が揺れていた。

 

 

「それは返すよ。中々興味深い結果が得られた」

 

「それは、この前聞いた破壊音と関係が?この監禁部屋までよく響いたのですが」

 

「詳細を知りたいのか?」

 

「いいえ、別に。社交辞令として尋ねただけだよ」

 

 

 やれやれ、とニコが呟く。

 会話が成立しない事への嘆きだろう。

 

 

「そんじゃ、私は此処で失礼するよ。食い散らかしたのは、自分でちゃんと片付けてくれ」

 

「…?何故?」

 

 

 心底意味が分からない。

 そんな感じの双樹であった。

 溜息を吐くニコ。

 

 

「じゃ、ここでバイバイといこう。おやすみ、おじょうちゃんたち」

 

 

 右手を掲げて左右に振る。

 振り終えると、その身体は硬直し、足元から砂となって崩れ落ちた。

 異常な現象は、魔法以外の何物でもない。

 床に堆積した砂も、瞬く間に消えていった。

 その内の一つが、室内に循環する暖房の気流によって双樹の元へと運ばれた。

 燐光を帯びて消えてゆく砂粒が触れたのは、白い毛皮の獣。

 

 赤い血玉のような眼をした、猫のような外見の四足獣。

 

 

「ああ、むっ」

 

 

 それを、双樹は喰っていた。

 耳から生えた腕のような部分を引き千切り、腹を喰い破って中に詰まったものを啜る。

 獣は暴れもせず、どころか微動だにしない。

 完全なる意識の消失。

 獣が陥っている状況はそれだろう。

 

 そうすると、彼女は獣を投げ捨てた。

 部屋の一角には既に、50体近くの獣の骸が積み上げられていた。

 そして双樹の傍らには、まだ十数体の個体があった。

 それらも全て、贄となるのを待っているかのように動かない。

 

 ものも言わず、そして動かぬ獣をまた一体、双樹は肉を噛み砕いて捕食した。

 血肉を飲み干す中、双樹の青い瞳が輝いた。

 それは獣と同じ、血玉のような赤い色をしていた。


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