魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第26話 会合③

 一時間が経っていた。風見野のファミリーレストランの中。

 机の上に料理を放置したまま、中学生と思しき連中が消えてからそのぐらいの時間が経過していた。

 

 その席の事を、店員も客も無視していた。

 魔力云々を察知しているのではなく、そこにわだかまる不吉の気配を本能的に察したのだった。

 しかし流石に店としての対応をしよう、店員たちはそう考えていた。

 

 そこから伝わる気配が変わったのは、そんな時だった。

 前触れも無く、誰も見ていない内に座席には消えていた年少者達が戻っていた。

 

 しかし姿には若干の変化があった。

 顔や手など、服で覆われていない部分の肌の上には包帯が巻かれていた。

 誰もが苦しそうに呼吸をし、憔悴している様子が伺えた。

 

 その中で一人だけ、こっくりこっくりと頭を小さく上下させている黒髪の少女がいた。

 額に長い包帯を巻いている以外は、特に異変は無かった。

 それが異常な風体となった連中の中で唯一の正常なので、却って異常なのであったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この前の話だけどよ、俺らもあんたらの仲間に入る事にするぜ」

 

 

 店を出てからの別れ際、ナガレはリナにそう言った。

 杏子はかずみを背負い、ナガレの後ろに立ちながら、少し面白くないといった顔をしていた。

 しかしながら同意を示し、彼の言葉に軽く頷いていた。

 

 対するリナはと言えば、苦渋そのものと言った表情になっていた。

 

 

「そちらは……こちらで精査します」

 

 

 そう言ったリナに、「そうかい」と彼は返した。

 対するリナは少しおいて、「ではまた、いずれ」と言って踵を返した。

 隣に立つ京も後に続いた。背中を見せるまで、京は眼の前の三人を睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイ、以上回想終了っと』

 

 

 映像に重なる杏子の声。

 そして映像も変化する。

 ナガレの顔の前には杏子の顔。

 彼の膝の上に尻を置き、両腕をナガレの頭と背中に絡めて向かい合わせとなり、艶然とした顔で接近してくる。

 

 

「ところでよぉ」

 

 

 ナガレは言った。口から発する声ではなく、思念の声で。

 唇同士の接触まで数ミリ足らず、というところで杏子は動きを止めた。

 

 

「お前最近、これよくやっけど楽しいのか?」

 

 

 これとはキスの事である。

 暇さえあれば、ともすれば以前病的に行っていた菓子の貪り並みの頻度で、今の杏子はナガレを求めて身を絡めてくる。

 彼自身は子供の背伸びと受け取っているし、それに可能な範囲で好きにさせてやってもいいかと思っていた。

 杏子への問い掛けは、魔法少女の運命の残酷さを改めて確認したからだろうか。

 

 因みにファミレスでの京の発狂の発端となった、魔法少女の真実を説明したキュゥべえ通称白丸は再び牛の魔女の内部に入れられている。

 存在すっかり忘れてたわと彼は思っていた。

 放り込んだのはたしか、風見野に開いたミラーズで暴れ回ってる時だったかなと思い返す。

 

 

「んーーーーーー…」

 

 

 先程のナガレの問いに、杏子は唸っていた。ただしそれは思念にて。

 彼女の唇はナガレのそこに重ねられていた。

 相手の唇の感触を楽しむべく、自分の唇で食んだり接触の角度を変えるなどして肉を絡める。

 

 

「あたしもよく分かんねぇや。だから分からねぇなりに楽しませてもらうさ」

 

 

 意思を伝え、唇の隙間から舌を彼の元へと送り出す。

 舌の上にはたっぷりと唾液が乗せられていた。

 とろみのついた液体は、ミントの香りがした。

 ちゃんと歯磨きをするようになったようだ。

 

 

「ほんとならセックスがしてぇんだけど。っていうかブチ犯してくれって感じだけど、あんたの性癖を尊重するとこれが妥協点になるのさ」

 

 

 ちゅるちゅると小さな音を立てながら、杏子は彼の口を啜った。

 唾液の味や香りは変わらなかった。歯磨き粉が同じだからだ。

 

 

「妥協、ねぇ」

 

「ああそうさ。妥協だよ」

 

 

 彼に絡める手の力を強くし、さらにずいと前に出る。

 

 

「セックスしてぇって、さっきも言っただろ」

 

「だからよ。10年待てって言ってんだろが」

 

「それはあんたの都合だろ。あたしはさっさと股の中に張られてる蜘蛛の巣みてぇな膜を捨ててぇんだよ」

 

 

 抱き締める、唇を重ねるといった行為の中であったが、杏子はイラつきを覚えていた。

 このあたりはナガレを見る度に不快さが込み上げて悪罵どころか殺害も辞さない態度であった、少し前の杏子の様子を彷彿とさせた。

 

 

「あ、そっか」

 

 

 表情を一変させ、納得の表情を浮かべる杏子。

 

 

「魔法使えばいいか」

 

 

 そして重なり合う唇を基点に、強力な魔力が行使された。

 注がれるのは、欲情の思念。

 杏子が彼に抱く想い、欲望。

 それで彼を感化させようと、幻惑魔法の応用で以て行使した。

 彼はそれを真っ向から受けた。

 

 脳裏に渦巻くのは彼女の裸体、開かれた内臓の色、重なり合う二つの身体。

 男であれば獣欲を解き放たずにはいられない、そんな光景だった。

 

 

「お前、それでいいのか?」

 

 

 その思念は何時もの通りだった。

 緊張も困惑も、乱れもせずにただの問い掛けとして放たれていた。

 杏子は幻惑の行使をぴたりと止めた。

 

 そして熱い息を吐いた。

 放った幻惑はナガレをその気にさせるには至らなかったが、それを放った杏子に対しては効いていた。

 まるで自分の毒で苦しむ毒蛇である。

 

 

「魔法もあたしの実力の内だけど、フェアじゃないね」

 

 

 腹の奥の疼きを堪えて杏子は思念で言う。

 

 

「それに正直言うと……最近あんまりソノ気にならねぇんだ」

 

「えっ」

 

 

 思わずナガレは返していた。

 その間も杏子の唇は彼の唇に絡みついている。

 その状況でその発言は如何に、と思うのも無理はない。

 

 

「多分、あいつのせいっていうかお陰って言うか、そんな感じかな」

 

 

 そして唇を離し、彼女は彼の胸板に顔を埋め、背に回した腕を肩甲骨の辺りで組んだ。

 体重を預け、甘えるように。ナガレは何も言わない。話聞いとこ、と彼は思っていた。

 あいつというのは誰かは分かる、というか一人しかいない。かずみである。

 

 

「ごっこって言っても、あと身勝手とは言え、あたしはあいつの母親役だ。だから性欲も萎えちまってんだろな」

 

 

 彼の胸に頬擦りしつつ杏子は言う。

 彼女なりにかずみの事について考えているのだろう。

 性欲の基準についても、それは杏子の基準なのでナガレは口を出さなかった。

 出しても無駄と分かっている。

 

 

「だから、この程度が精いっぱいさ。萎え切らないのはアレだよ。あんたが性癖破壊兵器だからだ」

 

「…その言い方、なんとかならねぇのかな」

 

「じゃあ対魔法少女懐柔兵器」

 

「言うほど懐柔できてねぇよ」

 

「ハハハ、だろうねぇ」

 

 

 中身のない会話を重ねる二人。そうしていく内に杏子は「ああそうか」と呟いた。

 

 

「あんた、恋愛ってしたことある?」

 

「どうだかな。一緒にいて楽しい奴と付き合ってた事はあるけどよ」

 

 

 愛情という概念について、そもそもよく分からない。

『これ』と確定させない方が面白そうだし定義は無理だろというのが彼なりの考えだった。

 正義とか英雄とか、謳われるならともかく自称すると急に醜悪に思えることに似てると、彼は持論を抱いていた。

 

 

「じゃあそれ」

 

「はい?」

 

「あたしの現状。あんた相手に恋してる」

 

 

 にやっと笑い、杏子は告げる。

 

 

「でも今は子育て第一だからな。一緒に頑張ろうぜ、『おとしゃん』?」

 

 

 彼が何かを言う前に一気に言葉で畳み込み、杏子は再び唇を重ねた。

 女ってのはよく分からねぇな、と口の中を這い廻る舌の感触を味わわされながら彼は思った。

 杏子は角度を変え、舌のアプローチに変化を掛ける。

 

 その為に、彼女の背後の景色が見えた。

 ソファから上半身をむくりと起き上がらせたかずみが、その様子を赤く渦巻く眼で見ていた。

 

 

『……大変だろうけど、合わせ過ぎも互いの為にならないと思うよ……『おとしゃん』』

 

 

 かずみはそう思念を送り、ゆっくりと身体をソファに沈めた。

 この生活を始めて結構経つが、かずみの指摘はその間で生じた数々のカオスな事象と比べてもさほど遜色がないほどに、彼の心を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 













ううむ、中々に不健全
いや、年齢的には健全でもあるのか……?(自作佐倉さんの年齢は16歳)

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