魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「うおおおあああああああああああああああああああ!!」
佐倉杏子は叫んでいた。
熱を孕んだ竜巻に巻きあげられ、四方八方から生じる力によって全身が捩じ切られんばかりの蹂躙を受けていた。
必死に治癒魔法を発動させ、肉体の崩壊に抗う。
繋いだ筋肉が千切れ、再生させた皮膚が溶け崩れ、肉が飴の様に蕩ける。
その有様を脳に伝える眼球も熱に焙られて破裂し、獣の牙のような猛風によって眼窩ごと引き千切られる。
地獄の苦痛が全身を苛み、破壊と再生を繰り返して明滅する視界の奥に、対峙する二人の影を見た。
纏った色は、共に黒。
その内の一方が激しく発光する。
万物を焼き尽くすような、真紅の輝き。
「リーミティ……エステールニ!!!!」
それは、そう辛うじて聞き取れる言葉で紡がれた咆哮だった。
声を発した瞬間から、それは発生していた。
但し、彼女が握る刃としての用途を果たしている杖ではなく、彼女の上半身から。
黒い衣装の両肩と胸に施された、白い球状の装飾。
そこが発光し、その三か所で生じた光が連結していた。
技名の叫びが終わった瞬間、それは放たれた。
それは、V字型を描いた真紅の熱線。
「やっべぇ!!」
直接目にしたことは無いが、これに類似したものを彼は知っている。
対比は無意味と迎撃を決意。
魔女も彼に同意し最大限の力を彼に与える。
忠誠心が四割、消滅への恐怖が六割といったところか。
自らの欲に忠実な魔女という存在を鑑みれば、見上げた忠誠心と言えた。
斧槍を前に突き出し、切っ先にダメージカットを全開発動。
双樹を切り裂いた際に得た魔力の波長を解析し、不完全ながら再現させたバリアも重ねての二重の障壁が展開される。
その外見のモチーフとなっているのは、やはりというかATフィールドである。
何人にも侵されざる聖なる領域。銀髪赤眼の美少年はそう語った。
確かにそれはこの現状にも当てはまっている。
侵されてはいけない、という意味で。
この障壁が破壊された瞬間、二つの生命は破滅を迎える為に。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
両手を下方に向けて斜めに伸ばし、胸を突き出しながらかずみは叫ぶ。
そして、かずみが放った熱線がナガレと魔女が展開した障壁に激突。
その瞬間、激しい閃光が飛び散った。
軌道を逸らされる熱線、削られていく障壁。
「ぐぐ…ぐぐぐぐがががががあああああああああああああっ!!」
くぐもった声を上げながら、ナガレは必死に耐える。
熱の大半を殺しつつも、障壁の中は灼熱地獄と化していた。
斧槍には数百度の熱が伝播し、彼の手を焦がしていた。
度重なる高熱の洗礼により、彼の熱耐性はその度に上昇していたが、それでも常人なら即死する苦痛と破壊が彼を襲う。
そして障壁の外では更なる地獄が展開されていた。
双樹が放った、熱と氷の合体魔法は遊園地一つを焦土と化していた。
だがかずみが今放っている熱線は、異界の地面を溶解させ、一面を熱で蕩けて爛れた溶岩に変えていた。
熱線が迸る下を基点に、熱の凌辱が左右に広がっていく。
細い川は大河に、大河は湖、そして海へ。
視界の果てに辛うじて、と見える程度で熱の浸食は収まった。
異常。
異常に過ぎる破壊力だった。
それに対し、ナガレは耐え続けていた。
神浜の新技術とかいうバリアが無ければ耐えられなかった。
彼は苦痛の中でそう思った。
無論、双樹に感謝などしない。
奴から全てを奪い返すまで死んで堪るか、という想いが彼の命を繋いでいた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアア!!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
堪え続ける彼に苛立ちを覚えたか、かずみは明らかに不愉快だと分かる感情を乗せて叫んだ。
叫びと共に、光が追加される。
胸の装飾に加え、肩や胸の部分の黒い生地までが発光し、かずみの上半身が真紅に染まる。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
そして熱線に更なる力が加わる。
蕩けた地面が津波のように盛り上がり、爆ぜる、
逆さまの大瀑布となった溶岩の中、飛翔する孤影が見えた。
「かずみいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
焦げて崩壊しつつある悪魔翼を背負い、ナガレが飛翔していた。
手に持つ斧槍には障壁と熱線の魔力が刃部分に付着していた。
障壁の力を刃に集め、攻撃に転化し熱線を切り裂いていた。
代償は、その全身を包んだ灼熱地獄。
認識できるすべての感覚が熱と苦痛という地獄。
その中で彼は明確な自我を保ち、あだ名とは言え自らを父と呼んだ少女の名を叫んでいた。
そして彼は灼熱地獄を飛び越え、手に持った斧を少女に向けて振り下ろした。
狙うは手足。斬り飛ばしての無力化を目指した。
「がはっ……!」
振り下ろす寸前、彼の口から血が吐き出された。
彼の胸の焼けた肉を貫くのは、螺旋を描いた黒。
それは、かずみの右腕から伸びていた。
いや、それは彼女の右腕そのものだった。
かずみの腕を覆う黒い布が伸び、長さ3メートルほどの黒い螺旋の槍へと形を変えている。
槍の先端には、重ねられた五指の面影が残っていた。
歯を見せて微笑むかずみ。
その表情に亀裂が生じたような変化。
驚きの色。
異形の槍に貫かれながらも、ナガレは前に進んでいた。
破壊の根源であるが故に、溶岩化を免れた地面を足場に、胸から血を吐き出しながら彼は前へと進む。
心臓を刺し貫かれながら、その傷口を更に広げさせながら。
「グガ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
明らかな動揺を訴えながら叫ぶかずみ。
残りの左腕が引かれる。左腕を覆う黒布が膨張し、多層の鋭角が表面に生じる。
形成されたのは鋭いエッジを描いた装甲、それで形成された巨大な拳。
元の腕の大きさと比べ、厚みが10倍近くに膨れ上がっていた。
再び叫び、かずみはナガレへとそれを放った。
装甲された拳が彼の顔面へと向かう。
そこに向けて彼は刃を放った。
「おい」
拳と刃の激突の寸前、上空から少女の声が降り注いだ。
かずみはそちらへ拳を振った。ナガレから槍を引き抜き、その身体を吹き飛ばす。
さしものナガレも限界に達し、口と全身から大量出血。
直ぐには動けそうにない。
そして激突したのは、真紅の十字槍。
それを持つは真紅の魔法少女、佐倉杏子。
破壊された全身を、応急措置でつないで強引に治した、痛々しい姿だった。
手足は皮膚の再生を待たず、赤い筋繊維が剥き出しになっていた。
繋いだ上下半身の切れ目からは、絶え間なく出血が続いている。
左目は抉れたままで、潰れた眼球が眼下に引っ掛かっている状態だった。
「ぐはぁっ!!」
巨大化した拳との激突の瞬間、杏子の全身から鮮血が迸った。
枯渇しかけの魔力故に、即席となった手足は崩壊した。辛うじて左腕だけが、千切れる寸前で留まっていた。
繋いでいた下半身が千切れ、引き裂けた内臓を晒して吹き飛んでいく。
上半身だけとなった杏子の身体を、装甲化したかずみの左手が握っていた。
触れた瞬間、杏子の頭蓋骨の全体を無数のヒビが駆け巡った。
耳や目からは大量出血。脳味噌は圧搾され、落とした豆腐のように頭蓋の中で砕け散る。
かずみの手の中で、上半身だけとなった杏子の身体はビクビクと震えていた。
死の痙攣。
賞味期限切れ。
生ごみ。
もういらない。
こいつ、なんか視線が怖い。
言葉にならずの想いをかずみは抱いた。
そして彼女は手を離した。
その瞬間、その手首を何かが掴んだ。
ぴったりと肌に吸い付く、剥き出しの筋肉と骨の感触。
佐倉杏子の左手だった。
「テメェ……この程度で……!」
凄まじい力が、崩壊寸前の左手に籠り、かずみの手を押し上げていく。
「ただ力が強いだけの…技もまともに使えねぇ……テメェなんかに、ベテランのあたしが……魔法少女が……殺れるわけねぇだろ………!!」
彼女の言葉は、無論ではあるが全ての魔法少女に適用される訳では無い。
ただひたすらに、佐倉杏子は頑強に過ぎているのである。
「あたしの死は、テメェなんかにくれてやるか!!」
「ヒッ……」
血走ったどころか深紅の珠と化した右眼で 杏子はかずみを睨む。
かずみの口から漏れたのは、本能的な恐怖の悲鳴。
恐ろしい。佐倉杏子が怖ろしい。
かずみが杏子に抱く感情は、真紅の恐怖そのものだった。
「
かずみの手を引き、一気に前に出る杏子。
そして怯えるかずみの額へと、自らの額をブチ当てた。
轟々と燃え盛る異界の地面、そこから湧き上がる灼熱の熱風。
それらを吹き飛ばさんばかりの衝撃と轟音が、熱と破壊で満ちた異界に轟いた。
フム コレハ ドコカデ ミタヨウナ(観測者の呟き)