魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第20話 黒の少女②

「グゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 咆哮。

 そして突進。

 羽織った黒いマントが翼のように広がり、短いスカートが身体に張り付き、または翻る。

 裸体の上に纏われた衣服であったが、スカートの中には白い下着が纏われていた。

 

 その白が黒で穢れた。

 右脚での蹴りを叩き込まれた、異形から溢れる体液によって。

 その蹴りの威力の凄まじさは、巨大な顔面の上顎が胴体まで埋め込まれていた事が示していた。

 上顎の歯が全て砕け、両の眼球が飛び出している。

 残った下顎を、黒衣装の少女が両手で掴む。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 絶叫が上がる。

 その声と共に両腕が左右に広げられた。

 巨大な異形が縦に真っ二つに引き裂かれる。

 断面から太いホースのような内臓が体液と共にブチ撒けられる。

 

 残忍な破壊を成した少女の背後から、もう一体の異形が飛来する。

 その横顔が叩き潰された。

 陥没した顔の手前に、背後に振られた少女の裏拳があった。

 潰れた異形の身体に異変。

 

 物体に生じた罅のように、顔から尾までに陥没が広がっていく。そして肉が粘度のように罅割れる。

 破壊は末端の人形まで続き、人形が無残に弾け飛ぶ。

 

 その間に、少女は戦場を駆けていた。

 襲い来る異形達に飛び掛かり、蹴りに殴打を見舞っていく。

 彼女が繰り出す行為は、癇癪を起した子供が行う身体の振り回しのような力任せのもの。

 技術はなく、ただ宿った力のみで為される破壊行為。その威力は尋常では無かった。

 その度に異形の頭部が、胴体が、少女の拳や脚が着弾した場所が抉れて肉体がプレス機に掛けられたように圧搾される。

 

 暴虐を振い続ける少女を、一際巨大な異形が飲み込んだ。

 少女の近くにいた異形達の首や胴体が喰い千切られ、膨大な体液が噴出する。

 口が蠢いて肉を咀嚼する。

 異変はその時に生じた。

 魔女の頭部が盛り上がった、と思いきやそこを基点に尾まで一気に肉が隆起した。

 蚯蚓腫れのように盛り上がった最後に、尾が弾けた。

 

 全身を体液に濡れさせた黒い少女が肉片の中から出現し、末端部分の人形へと喰らい付いた。

 少女が開いた口は、可憐でありながらも大型の爬虫類のように開き、その頭部を一口で口内に収める。

 背後で死の痙攣を行う異形を尻目に、もごもごと口を動かす少女。

 意趣返しと思えなくも無い。

 

 

「…げろまず」

 

 

 ここで少女は初めて言葉を発した。

 それが初めて口にした言葉であるかのように、舌足らずな言い方だった。

 言い終えると口内の肉を吐き出した。

 

 可愛らしい人形の形をした魔女の本体は、黒と桃色の肉の混合物となっていた。

 元の可愛さの原型など、全くとして残っていない。

 

 

「おまえたち、いらない」

 

 

 冷たい声でそう告げる。

 それは死刑の宣告であった。

 少女が伸ばした手に闇色の光が収束する。

 光は瞬時に形を形成。

 十字架を模したような先端の、黒い杖。

 

 十字架部分に光が溜まっていく。

 炎のような真紅の輝き。

 

 

「リーミティ・エステールニ」

 

 

 イタリア語を用いた華麗な言葉と共に、真紅の熱線が放たれた。

 直訳すれば「リミッター解除」とでもなるか。

 そして確かに、その熱線はそれに相応しい威力を発揮した。

 熱線が掠めた魔女は肉体が膨張して皮膚が裂け、内側の肉と体液を全身から弾けさせた。

 触れたものは一瞬にして融解。

 直撃を受けた個体は消し炭さえも残らなかった。

 

 破壊の光を放つ黒い杖を持ったまま、少女はその場でくるりと駒のように回った。

 当然、熱線の放射もそれに従い旋回する。

 一周廻った時、真紅の光が少女の周囲で炸裂した。

 光の軌道に存在していた異界の構造物、そして魔女達は何物の例外なく破壊された。

 弾けた光は、結界の果てである壁面に真紅の熱線が接触したことで生じたものだった。

 

 彼方で弾けたと云うのに、少女の元へと凄まじい熱風が去来し衣装と長い髪が靡く。

 その様子に満足したか、彼女は口元を綻ばせた。

 そして更に魔法を放つ。

 殺戮に次ぐ殺戮、破壊に次ぐ破壊が連打される。

 

 動くものが消え失せ、破壊されるものが無くなるまで、そう時間は掛からなかった。

 少女の立つ場所の周囲の地面は溶解し、土台が溶け崩れて沈降していく。

 高熱により熱風が生じ、踊り狂う小鬼の群れのような無数の火の粉が巻き上がる。

 その中でなおも、少女は光を放ち続ける。

 

 顔には童女の笑み。

 自分の力とその結果が楽しくて仕方ないと言わんばかりの、輝く笑顔だった。

 積み木で建物を造り、そして壊す。作っては楽しみ、壊しては楽しむような。

 

 彼女を中心にして、広大な焦土と溶けた地面の海が広がっていた。

 それは今も拡大を続け、異界を飲み込まんばかりであった。

 

 その時、気ままに破壊を成していた少女が背後に振り返った。 

 そして抜き打ちで熱線を放つ。

 しかし命中も触れもせず、それは旋回した影に回避された。

 黒い髪を生やし、黒い翼を背負った少年によって。

 

 更なる追撃を放つ前に、彼は少女の背後へ廻っていた。

 

 

「やり過ぎだ。もういい」

 

 

 そう言って、彼は両腕で少女を抱いた。

 少女の両腕を抱き、これ以上の熱線の放射を阻止する。

 ナガレの身長は約160センチ、対する少女は150センチと呉キリカとほぼ変わらなかった。

 この光景を正面から見た者がいれば、同色の髪と、美少女然としたナガレの顔付きから姉と妹を連想したかもしれない。

 だが少女が取った行動は、仲睦まじさとは真逆の行為だった。

 

 少女は口を開いた。汚れを知らない白い歯が並んでいた。

 そしてそれを、ナガレの腕へと突き立てた。

 彼は呻き声一つ出さず、また怯みもせずに耐えた。

 

 皮膚が破れて肉が裂かれ、大量の血が滲み出る。

 しかし、彼女の咬みつきはそこで止まった。

 彼の頑丈な骨を、少女は噛み砕くことが出来なかった。

 

 動きが止まったその瞬間、彼女が歯を立てているナガレの左腕から真紅の光が発生した。

 菱形を縦に連ねた、結界魔法。佐倉杏子の魔法だった。

 それは少女の全身に二重三重に絡み付いた。

 口を彼の腕に付けたまま少女も暴れるが、結界の方が力は強かった。 

 

 少女の動きが止まった事を確認すると、ナガレは畳んでいた魔翼を広げて飛翔した。

 滞空中の杏子へと合流し、結界を離脱しに掛かる。

 崩壊していく結界が異常な魔力を放出しているのか、未だに牛の魔女の結界生成能力は不具合を起こしていた。

 仕方なく、本来の結界の出口を探す。

 すぐに発見した。

 遥か上空、異界の空の中に現世への出口が出来ていた。

 

 

「そいつばっかで不公平だから、あたしの事も抱きな」

 

 

 当然だろ?とでも言わんばかりの杏子であった。

 時間も無い為にそれに従い、彼は右手で杏子の腰を抱いて飛翔した。

 結界が崩壊する寸前、黒翼を纏った少年は現世への門を潜っていた。














流石かずみちゃん、つよい
(ちゃんと強さを描けてるか不安なんやな…)

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