魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第19話 紅渦

「嫌な天気だね。辛気臭ぇったらありゃしねぇ」

 

「そう言うなよ。たまにゃこんな日もいい」

 

「ホントにそう思ってんのかい?」

 

「そうでも言わねぇと余計に辛気臭くなるからな」

 

「ハハハ、違いねぇ」

 

 

 昼下がりの風見野の街を、ナガレと杏子が歩いている。

 傘もささず、曇天の下でパラつく雨を受けながら。

 杏子は髪を服の中に入れ、パーカーの帽子で頭を覆っている。

 ナガレは何時もの私服だが、左眼を大きめの黒布が、キリカの眼帯が覆っている。

 

 

「さぁて、どうする?ナガレ」

 

「今考えてる。お前は?杏子」

 

 

 彼の問い掛けに杏子は溜息で返した。

 彼もそうしたかったが、自分にはどうも似合わない。

 そう思ったので吐かなかった。弱音に思えたのかもしれない。

 確かに気分は重い。

 

 

 敗北から三日が経った。

 呉キリカと朱音麻衣が物言わぬ死体となった後、その身体を保護して魔女に格納した後に、彼は風見野自警団へと連絡を取った。

 そしてありのままを伝えた。

 麻衣が言った通り、既に一度交戦済みであった為に話は思いの外スムーズだった。

 風見野の廃遊園地が一晩で焦土と灰燼に帰した事がニュースにもなった事も、戦慄すべき事実として自警団長には伝わった。

 

 会合の場所は以前にも使用したファミレスであり、来たのはリナだけだった。

 しかしながら、二人は身を刺すどころか引き裂くような視線を感じていた。

 団員である佐木京は伏兵として、いつでも動ける位置に配されていたようだ。

 

 話は手短に終わった。

 二人の不在への社会的・家庭的な対応は優木に何とかしてもらう、という事になった。

 

 

「俺からも頼むって伝えておいてくれ」

 

 

 と彼は言った。

 リナは無言で頷いた。

 こうすれば優木がやる気を出し、抜かりなく仕事をするだろうと踏んでいた。

 頷きながら、リナは奥歯を噛んでいた。

 優木の中でこの少年が如何思われているか、知らないリナでは無いからだ。

 

 

「悪かった、自分が全て悪いなどとは言わないでください。それは麻衣への冒涜です」

 

 

 別れ際、リナはそう言った。

 その言葉は果たして、どのくらいが彼への嫉妬で出来ているのか。

 リナには分からなかった。

 

 だが言った後、少しだけ晴れやかな気分になった。

 その気分を、リナは心底嫌悪した。

 

 そして伏兵の役を果たした京は、ナガレと杏子の二人が消えゆくまでその背中を睨んでいた。

 呪い殺すような視線を、二人は背中に感じ続けていた。

 

 その日が終わり、床に就いても感覚として残り続けた。それを拭うように、杏子はナガレを求めた。

 唇迄は許したが、肌を重ねることをナガレは拒否した。

 

 それを理由に、杏子はナガレへと襲い掛かった。

 愛に相当する行為から殺し合いに発展する。

 

 何時もの二人だった。

 今回の戦闘は杏子が両脚を切断、ナガレが左腕を肩から切断程度で終わった。

 気分が乗らなかったようだ。

 

 やはりというか、常人の理解を超えたというか拒む二人であった。

 これもいつも通りだが、それでも気分は重いようだ。

 

 

 そして現在。

 負傷を治し、廃教会で二日を過ごした。

 常に二人で行動し、外出を控えた。

 異常はなく、そしてこの状況も肉体と精神の健康に良くないと久々に街に繰り出したのだった。

 そう決めた日が曇天で、霧雨が降る日というのがこの二人らしいか。

 

 前途は常に、困難が空気のように漂い道と視界を塞いでいるような。

 それを苦何とも思わず、平然と進む辺りも二人らしいといえばそうか。

 

 

「さて、どうする?」

 

 

 先の質問をナガレは繰り返した。

 両手を緑パーカーのポッケに突っ込んだまま杏子はううん、と唸った。

 

 

「飯は食った。ゲーセンでも一通り遊んだ」

 

 

 これまでの状況を思い返す。

 

 

 牛丼屋でカウンターで並んで食事をした。

 メガサイズの牛丼は飲み物感覚で年少者二人の胃の中に納まった。

 早朝の来店だったので、朝定食として焼き鮭と味噌汁も注文した。

 

 

「なんで味噌汁って、飲むとホッとするのかね」

 

「あんたの世界でもそうだった?」

 

「ああ」

 

「不思議な法則だね」

 

「全くだ」

 

 

 そんなやり取りを交わしていた。

 二人は同時に一滴も残さず味噌汁を飲み干し、箸を置いて店を出た。

 

 次はゲーセンに行った。何時も通りに遊び、何時も通りに不良に絡まれ、何時も通りにゴミ箱に詰め込み便器の中に顔を押し込めた。

 社会勉強という事で財布から札を抜く。

 

 半分程度で済ませるのは、申し訳程度の慈悲だった。

 また気絶させる寸前に「他の奴らに手を出すなよ」と耳元で囁いて恐怖を刷り込むので、他の者から不足分を奪う事も無かった。

 この遣り取りは訪れる度にしているが、風見野もそこそこ人口が多い事と、近隣からこういった輩は汚水のように流れ込むので絶えることが無いのであった。

 その後は彼の言葉のとおりである。

 ゲーセンを出て、宛所も無く風見野の街を流れに流れていた。

 

 少し雨脚が強くなり、服は湿りを超えて濡れるまでに至っていた。

 宛所も無く、というのを地で行くように、今の二人は路地裏にいた。

 既に店を畳み、廃墟となり掛けている建物が幾つも連なっている。

 

 シャッターに描かれるのは落書きと卑猥な言葉。

 空き缶や煙草の吸い殻、内容物の原型を留めた吐瀉物に吐き捨てられた痰、エロ本の切れ端に使用済みの避妊具等も地面に落ちている。

 その脇を建物から滴るなどして寄り集まった水が、小さな川のように流れて排水溝へと落ちていく。

 

 

「あたしらみてぇだな」

 

「かもな」

 

 

 その様子を両者はそう例えた。

 人より力があろうとも、社会の底辺で蠢いている現状と、汚水に交わる雨とを比較しているのだろうか。

 いや、そこまで考えてはいないだろう。

 ただ水が流れる様子を、自分達に例えただけだった。少なくともナガレはそうだった。

 杏子は先の例えを自分に当てはめているのかもしれないが。

 

 

「それでだ、雨も強くなって来たから今度はネカフェにでも」

 

 

 言葉を紡ぐ彼の前に、真紅の色が輝いた。

 佐倉杏子の眼が。

 

 

「あたしからの提案。この二つから選びな」

 

 

 更に近付く。鼻先が触れ、顔がほぼ重なった状態。

 眼球までの距離も数ミリ程度しかない。

 

 

「あたしを()るか、あたしと()るか」

 

 

 言葉は同じだが、アクセントが異なる。

 前者には熱が、後者には冷気が宿っていた。

 性欲と殺意の差だろう。

 

 なんでこうなった、と一瞬だけナガレは考えた。

 壁の卑猥な落書きと、地面に捨てられた中身の入った避妊具でも見て興奮したんだろなと思った。

 

 

「じゃ、二番目の方で受けてやる」

 

 

 不敵に笑い、ナガレは額を杏子に付けた。

 杏子も笑い、額を押し付ける。

 そして互いに力を込める。

 常人なら首が圧し折れるくらいの力で、両者は額を重ねていた。

 

 そろそろ行くかとナガレが牛の魔女を呼び出そうとした時、彼は何かに気が付いた。

 雨は強さを増し、二人と世界を水の連打で叩き始めた。

 ナガレは杏子から額を離し、その気配の先に視線を向けた。

 

 

「なにさ。路線変更?」

 

 

 からかうように、それでいて嬉しそうに杏子は言う。

 そうは言いつつも、彼女もまたナガレが感じた気配には気付いていた。

 黒い渦を巻いた一つの眼と、炎のような二つの真紅の眼が路地裏の一角を見た。

 それは建物同士の隙間にいた。

 

 複数の段ボールを重ねた、即席の雨避け。

 地面には段ボールと新聞紙が敷かれ、硬い地面から身体を保護する絨毯となっていた。

 その上に、小柄な姿が身を屈めて座っていた。

 黒い前髪が見えた。濡れた髪の末端からは、水が滴っていた。

 

 水の行き着く先は白い肌。

 肩に当って腕を伝い、細い指から滴った。

 または胸を伝って腹へと滑った。そこに衣服は無かった。

 代わり程度に、長い黒髪が細い身体に蛇のように巻かれていた。

 そこにいたのは、全裸の少女だった。

 

 少女は二つの眼で、ナガレと杏子を見ていた。

 それはまるで血か火のように、紅い渦を巻いた瞳だった。

















話を進めねば

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