魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「私はああああああああああああああああああああああ!!!」
呉キリカは叫んでいた。
自室のベッドの上で。
その様子を、朱音麻衣が見ていた。
光に満ちたキリカの部屋に対し、麻衣の部屋には薄闇が満ちている。
二つの部屋は曖昧な輪郭で隔たれていた。
それを介して、互いの様子が確認できている。
しかしながら、キリカは麻衣の存在を意識していなかった。
先程言葉を交わしていたが、既にその事も忘れていそうだ。
「私は!!友人とセックスがしたいんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「…うわぁ」
この上ないド直球発言に、麻衣はそう漏らした。
嫌悪感は湧いたが、その一方で自分の願望とも重なる事柄であるせいか、否定する気にはなれなかった。
ベッドの上で転がり、飛び跳ね、暴れながらキリカは欲望を口にしていく。
特殊性癖かと思いきや、紡がれる言葉は直球ではあっても健全な性行為のそれだった。
所詮は処女という事だろうか。
少なくとも、尻を見られたり責められるのは避けているように思えた。
一応は乙女か、と麻衣は思った。
溜息を吐いた。
その間もキリカの性発言は続いている。
赤ちゃんと一緒に母乳が飲みたい、とか言い出したあたりで麻衣は口を開いた。
「妄想というか夢想もいいが、現状把握をしようじゃないか。先ず一つ、ここはどこだ?」
「分かってるだろう。あの変態女の腐れ子宮の中」
「………泣きたくなってきた」
ベッドの上で仰向けになり、キリカは言った。
麻衣は泣きたい、と言ったが「死にたい」と言わないだけ彼女のメンタルの強さが伺える。
「呉キリカ。貴様、あの女と知り合いだったようだが」
「まぁね。あのクソゲスド変態の腐れアリナの部下で、私の拷問と解体を手伝ってたモブの一人かな。あいつらのクソダサシンボルバッジの魔力は感じなかったから、脱退したのかなぁ」
「神浜のマギウスとかいう組織だったか。貴様の語った事柄には、流石に私も同情するぞ」
「同情と言えば、あいつにも同情したくなるね。しないけど」
「何故だ?」
「マギウスは脱退者は死刑だった筈だからね。内部にそれ専門の部隊がいて、そいつらに捕獲されてグロ拷問とかされる規約だったような。ああそうそう。それでその映像は闇で売られてるみたい。神浜なら割と簡単に買えるみたいだけど」
「…規約とは何なのだろうな。それと貴様と話をするたびに神浜という場所が嫌いになっていく」
何処も彼処も地獄。
麻衣はそう思った。
「それでだけどさぁ、朱音麻衣。気分は如何だい?」
「最悪。と言いたいのだが、そうでもない。いや、確かに嫌な気分ではあるのだが問題は無さそうだ」
「それだよ。というかそれが問題だ」
口ぶりからして、キリカも同じ状態のようだ。
不快さはあるが、問題はない。
すなわち、魂は濁らない。
そしてそれは、既に確認済みの事象だった。
「詰め込まれたソウルジェム…どれも輝いてたね。綺麗だった」
「…何かしらの方法で浄化しているという訳か。確かに、そうしなければ美しい状態は保てないし魔女が孵る」
「それとだ。奴は何故か私達の願い事を知っていた」
「誰かが話した、という線は薄いな。だが」
無いとは言わない。魔法少女の願い事を、確実に知っている者がいる。
しかしそれが、双樹とどう結びつくのかが二人には分からなかった。
「ま、今の私達は無力だ。解決は友人に任せよう」
「そうだな。ここは主人公の出番だ」
会話を交える二人の脳裏には、血みどろになって戦うナガレの姿があった。
彼の相棒、更には彼女的な立ち位置となった佐倉杏子の姿は無い。
強いて言えば、彼の足下に肉片と赤い衣装の一部が転がっている程度である。
麻衣はまだしも、キリカは朱音麻衣を対ナガレ用の包囲網の一員として加えようとしていた筈だった。
それなのにコレである。
例によってその提案をした事などとうに忘れていそうだった。
仮にその時の映像を彼女に見せても、こんなのは知らないと突っぱねるだろう。
「さて、とだ」
「うむ」
共通の敵は脳内で葬った。
となれば葬る者は残り一つ。
「模擬戦、でいいかな?」
立ち上がってベッドから降り、床に着地するまでの間にキリカは変身を済ませた。
「ああ。というかなんでもいい」
同じく蒲団から抜け出し、立ち上がるまでの間で変身する。
黒い暗殺者と白と紫の武者姿が、互いの部屋の境界線を隔てて対峙する。
「死んだら終わり。それでいいよね」
「是非も無し」
麻衣の返答にキリカは微笑んだ。両手から複数の赤黒い斧が生える。
麻衣も薄く笑い、腰の刃の柄に手を掛けた。
今は魂同士の間柄でありながら、二人は何時もと変わらなかった。
場所と現状がどうあれ、滅ぼし合う仲に変わりはない。
「相変わらず、狂ってやがるな。テメェらは」
キリカと麻衣の場を掻き乱すように、どこか舌足らずな声が過った。
重なり合う境界線を押し広げるように、新たな空間が麻衣とキリカの部屋に向かい合うように生じた。
嘗ての神の家、今は廃墟寸前の建物。
痛んだ床に、巻き上げられた埃が舞う。
埃を立てるのは、紅いドレスの魔法少女の歩み。
右肩に十字槍を担ぎ、ズカズカと二人の元へと歩いてゆく。
「何時でも何処でも、血と色恋沙汰に狂ってるんじゃねぇよ。バァーカ」
粘着質な毒を纏った、灼熱の炎のような罵倒。
佐倉杏子の言葉であった。
魔法少女は地獄であります