魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第17話 双樹③

「気持ち悪いんだよ、この淫乱女」

 

「お前は相変わらず不健全過ぎる。ここで死んでおくといい」

 

 

 炎のような少女の声と、春風のような少女の声が夜風に舞う。

 夜の冷たさと、炎上する巨大質量の熱気を貫き、彼方から何かが飛来した。

 華麗なステップで、双樹ルカは宙を舞う。

 

 双樹がいた場所に突き刺さったのは、真紅の十字槍だった。

 そして槍の切っ先が着弾した部分から、真紅の円が広がった。

 

 円の内側には菱形の紋様が連なり、それは夜の闇に挑む様に煌々と輝いた。

 円の内に連なる菱形の中から、複数の直線が迸った。中には枝分かれしているものもあった。

 数十に達する数の、先端に十字架の面影を有した槍だった。それらは、逃げる双樹に向かって行った。

 

 

「チッ」

 

 

 舌打ちしつつ斬撃し、十数本を切り裂く。

 対処しきれなかった部分が双樹の体表に当り、それを防御魔法であるバリアが無効化する。

 異形の槍の切っ先には、抉った魔力が燐光のように輝いていた。

 強力な防御法であるのは間違いないが、限界も存在する証明だった。

 

 

「それとこちらも喰らうがいい」

 

 

 背後で鳴ったハスキーボイス。

 双樹は振り返り際に斬撃を放った。

 斬撃を受け止めたのは赤黒い斧、その主は不吉な黒い影。

 耳まで裂けたように、半月状に開いた口で笑う呉キリカがいた。

 

 

「お前には世話になったからね。返礼をしてあげよう」

 

 

 剣を受け止める斧が形を変えていく。

 不吉な気配に双樹は斧を払って再び跳んだ。

 宙に身を躍らせた身体が、宙にてくの字に曲がった。

 

 

「これは…」

 

 

 腹に着弾した衝撃は、バリアの防御を僅かに超えて双樹に届いていた。

 その衝撃の根元には、微細な斧が連なった赤黒く鋭い触手があった。

 それは、呉キリカの手元、正確には手首のブレスレットから生えていた。

 

 

「ドリドリドリィ!!」

 

 

 キリカが叫んだ途端に彼女の手首から複数の、いや無数の触手が迸った。

 ギザギザとした触手が双樹へと襲い掛かり、のたうち回る蛇のような鞭と化してほぼ全方位から殺到する。

 

 

「悍ましい!!」

 

 

 嫌悪感を隠さない一喝と共に双樹が斬撃と冷気を見舞う。

 氷結した触手を斬撃が斬り払い、投ぜられた氷塊が触手を圧し折る。

 しかしその数は圧倒的。

 捌ききれるはずも無く、双樹の体表をヴァンパイアファングの派生系である『ドリルワーム』が掠めていく。

 その度に無数の刃が連なる触手が障壁を抉って削っていく。

 

 

「しつこいですね!!」

 

「ああ全くだ」

 

 

 触手で埋め尽くされかけた視界の奥で、刃を構えた魔法少女の姿があった。

 刃が煌いた。直径1メートルの真円が描かれる。

 描かれた円の中には闇があった。

 そしてその闇は、双樹の背後にも生じていた。

 

 

「しつこい奴は嫌われる」

 

 

 双樹は耳元で朱音麻衣の声を聞いた。

 正面の触手の奔流と追撃の槍。

 その二種の対処に追われている現状で、背後への防御が出来る筈も無かった。

 そしてそもそも、それらが無かったとしても、双樹は麻衣に対応できなかっただろう。

 双樹の首を薙いだ麻衣の斬撃は、これまでになく速度と威力を増していた。

 

 

「ぁ……!」

 

 

 麻衣が振った刃の先端がバリアを貫通し、双樹の首筋を切り裂いていた。

 背骨と気道が寸断され、悲鳴の奥には出来損ないの笛のような音が続いた。

 動きが止まった瞬間、触手と槍が殺到。 

 麻衣も更なる斬撃を放ち、双樹の背中を切り刻む。

 

 

「おのれええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 

 

 災禍に晒される中で双樹が叫ぶ。

 その口調はまたも一変していた。

 空いていた右手にも刃が召喚され、麻衣と切り結ぶ。残った左手は触手と槍の対処に向かう。

 激しさと精妙さを増した剣技に双方の攻撃が弾かれ、その間を縫って双樹はキルゾーンから退避した。

 

 美しい軌道を描いて跳躍した先、錆だらけの時計台の天辺に着地した。

 地上10メートルほどの高さに立つ双樹は、バリアを抜け出た攻撃によって手傷を負っていた。

 それにより血は流れていたが、双樹の姿は別の赤で彩られていた。正確には、赤と白で。

 

 

「このメスガキ共め…随分と息が合ってるじゃないか」

 

 

 立ち上がり、下界を睥睨する双樹。

 ドレスの彩色が変化していた。

 双樹から見て右が真紅、左が純白となっていた。

 名は体を表し、外見が現状を顕すとするのなら、今は二つの人格が統合されている状態だろう。

 アヤルカとでも呼べばいいのだろうか。

 

 

「「「別に」」」

 

 

 憮然とした口調が三つ重なる。

 いいえ終えた後、舌打ちが鳴った。それも三つだった。

 

 息が合っている、というのははっきり言えば単なる偶然である。

 双樹が語った言葉にこの三人は『この変態』、と嫌悪感を抱き、その思いのままに攻撃しただけだった。

 また杏子とキリカの槍と触手はその背後にいる麻衣を巻き込む可能性があったが、二人はそれを考慮に入れていなかった。

 麻衣もまた、二人の殺意にやられる気は無かった。

 

 そしてこの息が合っている、という事に感心している者がいた。

 ナガレである。

 援護をしようかと思っていたナガレも、流れるような連続攻撃に間に入れずにいた。

 

 魔法少女達三人が並ぶ背後に立ちながら、彼はそう思っていた。

 

 

「それにしても相変わらず、変態趣味に精を出してるね。ええ?双樹」

 

「そちらこそ相変わらずの不愉快な性格と美しい姿だ。何度も何度も生きたまま解体されたというのによく生きていられるものだ」

 

「その節は世話になったね。お前は、というかお前らか。あの時は私の手を掴む担当をしていたな。腕押さえ輪姦、というジャンルに興奮でもしたのかな」

 

 

 会話にならない会話を重ねる両者。

 キリカの言葉にアヤルカは哄笑で返した。何が可笑しいのかは、全く以て分からない。

 キリカ自身も、アヤルカに向けるのはどうでも良さそうな口調での言葉だった。

 彼女が多重人格だとか、更に人格を変化させたとか、そういったのも含めて興味が無さそうだった。

 

 

「初めて会ってなんだけどさぁ、あたしはテメェが好きになれそうにねぇや」

 

「それはこちらも同じ事。家族殺しの大罪人とは会話もしたくない。耳が腐れる」

 

「そうかい、気が合うな」

 

 

 毒の言葉に皮肉で返す杏子。

 嗤っているような表情だが、眼は完全に据わっていた。

 

 

「私としては癪だが、この現状は詰みだぞ。双樹」

 

 

 そう告げたのは朱音麻衣である。

 人格は二つで統合して更に追加するとして三つ。

 それでも実体としては1対4の状況。

 

 頼みのバリアも大分削れており、この状況から双樹が勝てる要素は無いとしての言葉だった。

 ソウルジェムを収集し、挙句にそれを子宮に収納するという狂気そのものの趣味と言うか性癖ゆえに、仲間もいないだろうと麻衣は判断していた。

 この発言は、麻衣なりの降伏勧告でもあった。

 怒りと闘争心に身を焦がしていても、彼女の根源は限りなく善に近いものだった。

 

 

「左様だな」

 

 

 アヤルカは素直に認めた。

 

 

「そちらが」

 

 

 言うが早いか、アヤルカは両手の剣を交差させた。そして。

 

 

「ピッチ・ジェネラーティ」

 

 

 魔法の言葉を呟いた瞬間、夜を駆逐する眩い光が放たれた。


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