魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第16話 竜と朱③

 熱と蒸気と脂の香り。

 麵を啜り、スープを飲む音が店内に満ちている。

 

 

「初のデートでラーメン屋とは、我ながらセンスを疑うな」

 

 

 割り箸をパチンと割りつつ麻衣は言う。

 

 

「そうか?俺も正直こういうのはよく分からねぇけど、俺としちゃ楽しくて堪らねぇな」

 

 

 同じく割り箸を割るナガレ。

 麻衣の行きつけのラーメン屋に、二人は来ていた。

 店内の隅のテーブル席に並んで座っている。

 律儀に頂きますをして、両者は同時に食事を開始した。

 

 ナガレはチャーシュー麺、麻衣は味噌ラーメンを食べている。

 洗面器のような大きさの器に並々と注がれたスープの中に、まるで山か小島のように面と具材が盛られている。

 それが見る見るうちに消費され、二分後には具材が空となった。

 

 大きな器を両手で持って、ぐびぐびと豪快にスープを飲む様子は店内の注目を集めていた。

 

 

「ぷはぁっ」

 

 と同時にスープを飲み干す。

 器の底には一滴のスープも残っていない。

 同時に器を置く。顔が合った。

 

 

「…ははっ!」

 

「…くぅ」

 

 

 快活に笑うナガレに対し、麻衣は若干目を伏せて笑った。

 ナガレは素だが、麻衣は女子としての恥じらいを感じたらしい。

 

 

「次、何処に行く?」

 

 

 ナガレは麻衣に尋ねた。

 思い描いていたプランを、麻衣は脳内検索を掛けて紡ごうとした。

 上手くいかなかった。

 何をしても楽しそうだからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何しに来やがった」

 

 

 佐倉杏子は尋ねた。

 名残惜しそうに、両手をホットパンツから引き抜く。

 指の先端を濡らしていた粘液は、腹の肌で拭う。汚いという考えはない。

 雌を濡らした液体は別に汚くないと思っていた。

 

 

「セックス」

 

「…はい?」

 

 

 直球過ぎる言葉に、杏子は呆けたような声を出す。

 色ボケしやがってとの思いも湧いた。つい数秒前は、自分も性に関する事柄を行っていたという自覚は皆無である。

 自分の言葉を意味不明と捉えている杏子の様子に、私服姿のキリカもまた理解不能と言った表情となって首を傾げていた。

 その脚が、トンと地面を蹴った。

 

 

「友人とセックスしに来たんだけど」

 

 

 杏子の前に静かに着地しながら、呉キリカは言った。

 更に直球過ぎる言葉だった。

 溜息を吐く杏子。

 

 

「あぁ、そうか。発情紫髪が言ってたけど、あいつとの殺し合いがテメェの定義するセックスなんだってな」

 

 

 戦闘中、麻衣が言っていたというか叫んでいた事であった。

 

 

『お前も奴の同類だ!!殺し合いを性行為とぬかす、呉キリカのクソゲス雌ゴキブリのな!!』

 

 

 という叫びだった。

 互いの肉を切り刻み、子宮を殴る蹴るして破壊し合う行為の最中に思念だか声だかでそう言っていた、ような気がした。

 杏子のその指摘は事実であった。

 

 しかし、当のキリカはまたも首を傾げた。

 先程とは逆方向に首を傾けているのはユーモアのつもりなのだろうが、杏子はその様子にイラっときていた。

 尤も、杏子はキリカの全てが嫌いなので何をやっても不愉快になるのだが。

 

 

「相変わらず君には世界が、そして幸せの形が見えていないな。それは正しいのだが全てではない」

 

 

 キリカの嘆くような言葉に杏子のイラつきが更に増す。

 言い回しが妙にエヴァっぽいと彼女は思った。

 そして思った。こいつはやっぱり嫌いだと。

 

 

「セックスはセックスだよ。単純明快津々浦々。互いの肌を重ねて身を絡め合い、朝も夜も無く交わり合う。私の雌で友人の雄を咥えて粘膜で温かくぎゅっと抱き締めて、液と液が繋がってる部分で泡立って性の香りを振り撒いて、ぬぷぬぷと敏感な部分を擦り合わせて快感の頂点に昇り詰める。そしてその果てに命の結晶をこの身に宿したい。以上、説明完了」

 

 

 立石に水の勢いで長台詞を芝居がかった調子で告げるキリカ。

 その表情は真剣そのもの、声の出し方にも真摯さがあった。

 

 本心から言っていると、否応なしに分かる態度だった。

 分からなくも無い部分もある。

 年齢から鑑みれば、今が一番子作りに適した年齢であり、常に死と隣り合わせなせいか魔法少女の性欲は高い(と杏子は思っている)。

 だからスケベ話とすればそれまで。では、あるのだが。

 

 

「あー…子宮で胎児を育みたいなぁ。臍の緒ってどんな感覚なんだろう。出産も大変だろうけど興味深い。あぁ、授乳したいなぁ。私も母乳飲みたいなぁ」

 

 

 物語を朗読するかのように、すらすらと願望を述べるキリカ。

 嫌悪感が杏子の身を貫く。

 この存在がナガレと交わり、命を宿した姿を想像してしまっていた。

 膨れた腹を愛おしそうに撫でるキリカを思い浮かべたとき、杏子は胃液を吐きそうになった。

 

 命を繋ぎたくない自分と異なり、こいつは命を生み出したいと願っている。

 それが異様な感覚を杏子に与えていた。

 単なる嫌悪感なのか、それとも嫉妬なのか。

 杏子には分からなかった。

 

 

「大丈夫かい、佐倉杏子。随分と辛そうだけど生理かい?それとも精神病?死ぬの?死んじゃうの?別に良いよ!大歓迎!」

 

 

 額に脂汗を浮かばせる杏子へと近寄るキリカ。

 何時の間にか、魔法少女姿へと変身していた。

 もう限界だと杏子は思った。

 相手は変身している。ならこちらもしない道理はない。

 ナガレを見習い、過剰な攻撃性は抑制しようと努力していたがこいつは無理だ。少なくとも今はまだ。

 

 

「その前に、無知な君に教えてあげよう」

 

 

 杏子の前に立ち、白い手袋が通された繊手を彼女の両頬に優しく添える。

 

 

「私が友人に抱く想いを」

 

 

 そして顔をずいと近付ける。

 慈母のような、朗らかな微笑み。

 そして黄水晶の瞳の中には揺らめく輝き。狂気の炎。炎の渦。

 

 

「彼と重ねた日々の記憶を。この身体に、心と魂に、我がDNAに。歴史的時間軸に刻み込んだ尊い記憶を」

 

 

 振り払おうとした杏子の動きは、停止と等しい緩慢さとなっていた。

 速度低下が全開発動し、杏子の動きを縛っていた。

 

 キリカは杏子の額に自分のそこを接触させた。

 その様子に、杏子はナガレと初の激突をした際の頭突きを思い出した。

 あの時は互いの記憶が交差した。

 

 ならば、今度は。

 

 

「私の愛を、君にも垣間見せてあげよう」 

 

 

 重ねられた額から、呉キリカの記憶と感情が佐倉杏子へと流れ込む。

 網膜に投影される映像に音に臭気と感覚。

 

 魂に叩き付けられるその全てに、杏子は絶叫と悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

















やだもう、こいつら

キリカさんが佐倉さんに見せた光景は第一部の『流狼と錐花』をご参照ください
…あの番外編は、自分で読み返しててもきもちわるくなる(でも書いてて最高に楽しかったんやな)

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