魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
乗っているのは、並行世界の自分の息子。
ゲッターロボアークという存在に搭乗しているのはそれだと、彼は言った。
どこから突っ込んでいいか分からない、突拍子も無さ過ぎる事が続いた発言だが、今更疑うこともなかった。
彼の語る異界の存在の有無と、事象を疑う時期を彼女はとうに過ぎていた。
「そのせいだろうな。俺とは無関係っちゃそうだけど、あの機体のコトはよく覚えてる。俺も人間だからか割り切れてねぇんだろうな」
ブランコに揺られつつ彼は自分を分析したように言った。
言葉の通り、どう表現したらいいのか分からないようだ。
杏子も言葉に詰まっていた。
何を割り切るというのだろうか。
「そっか」
同じく遊具に揺られつつ、そうと返した。
それしか言えない。
「ま、それはいいや。でだな、アークの話になっけどよ」
「ん」
話の矛先を少し変えるナガレ。それに杏子も乗った。
しんみりとした雰囲気は、どうにも自分達には合わないと思っているのだろうか。
「あれは見た目が悪魔みてぇでヤバいけど、結構優等生でな」
「ゆうとうせい」
外見を思い出しつつ、言葉を転がす。
ブランコに乗り始めてから、こうするのはもう三度目だが、どうにも外見とその言葉が一致しない。
悪い奴では無さそうなのだが、アークの外見的は赤い悪魔そのものだった。
「ああ。勝手に暴れ回ったりしないいい奴だ」
「ふぅん…」
頷く杏子。直後に違和感。
「……って、勝手に動くのかよ。ゲッターって」
「全部って訳じゃねえけど、時々な。力を持て余してるとそうやって悪さしたりする」
「なんか、ドッペルみたいだな。あとは魔法少女。イキって暴れてるって感じが似てる」
「反応しづれぇ例えだな」
「それでも意見言ってくれよ。人生の先輩としてさ」
「先輩か」
そう言われたら言うしかない。結構気遣いができる女なんだなと彼は杏子をそう思った。
ちょろい男である。
「人間臭いロボットだよ、ゲッターは」
「人間、か。じゃあ、それに似てるあたしらは」
脳内で意味を繋げ、言葉を促す。
どこか請願に近い響きがあった。
「ああ。だからってわけでもねぇけど、お前らは人間だ。…あぁ、これでオチにしてくれよ。俺は三流小説の登場人物より口下手なんだ。あんまり俺をいじめんな」
「ああ…赦してやるよ……くっ、ハハハハハ!」
彼の言葉を満足げに受け取りつつ、笑い出す杏子。
彼がいじめという言葉を使ったのが、彼と似合わな過ぎて面白かったらしい。
腹まで抑えて笑い始める。先程チーマーたちに殴られた顔と胸が痛いが笑いは止まらない。
殴られた場所が熱い。心も熱くなる。
気分が高まるのを感じた。
高揚した気分の今なら、言えそうなことがあった。
このテンションのままに、高所から物体が落下していくように。
なるほど、酒と麻薬が世界中で人気の訳だと杏子は納得した。
「あたしら、付き合わない?」
笑い声を止め、杏子はそう切り出した。
世界はしんと静まり返った。
元々音を発していたのが杏子の声だけであったので、それは当然だった。
しかしそれ以上に、杏子には世界が凍ったようにさえ思えた。
熱が満ちていた体内にも、その冷気は這入り込んだ。
ぞわっとした感覚と共に、胸から手足の先までが凍りついたように冷えていく。
自分が望む応えでなかったら、という恐怖。
それは絶望にも近いか、そのものだった。
「付き合うってな、一緒に遊んだりとか飯食ったりとか、出掛けたりってのになんのかね」
「そう、じゃねぇかな」
辛うじてと言った風に返す。そういえば、自分が提案したことが具体的にはどういった定義なのかよく分からない。
「それと一緒に暮らしたりとかか」
そうだね、と返そうと思った。そこで気付いた。
「最近の俺らだな。会った時と比べて、少なくとも仲は悪くなっちゃいねぇだろうよ」
「だね」
即座に答える。
杏子としても最近の自分の態度というか相手への距離感が近すぎるのは分かっている。
しかし、人生経験が足りな過ぎてそういった態度しか出来ない。
それに、生半可ではこいつを繋ぎ留められないと感じていた。
彼の身に牙を突き立て、喰らい付く。
そうでもしないと、何処へ行ってしまうか分からない。
それが怖かった。
この地獄そのものの存在は、少年の姿に自分が求めるものが詰め込まれた存在だった。
「いいぜ」
即答。
同時に赤い光を夜風が孕む。
そして月夜を切り裂いて動く影。
長い髪が、それ自体が美しい獣のように動いた。
ブランコに乗るナガレの目の前には、両手を広げた真紅のドレスを着た少女がいた。
行動を分析するとブランコから飛び、前の鉄柵を蹴って三角飛びをしたようだ。
接触の寸前、彼も背後に飛翔した。
そこに更に追い縋る真紅の姿。
女豹のように彼に迫る佐倉杏子。
背後への退避ということで、当然ながら背後の物体が彼の回避行動に巻き込まれた。
積み上げられたチーマーたちである。
数は七人か八人か、それはどうでもいいとして全てが弾き飛ばされた。
体重二百キロを超える彼が弾丸もかくやと言った速度で背をぶつければ、そうなるか。
口からは内臓破裂の鮮血が零れたが、それを誰も気にしない。
吹き飛ぶ人体の中央を更に跳び、背後の草原の少し小高い丘でナガレは止まった。
ここなら遊具を壊さない。土も露出した場面だから景観もそう壊しはしない。その判断だった。
迫る杏子。眼は前髪で見えないが、口は半月の笑みを浮かべている。
嬉しそうだなと彼は思った。実際その通りなのだろう。
次の瞬間、夜を貫く破裂音。
二人の掌が重ねられ、指先が手の甲へと喰い込む。
手四つを組み、互いの肌と力を重ねている。
手の甲からは早くも出血、指先は骨にも達してそうだ。
「いいのかよ、ほんとに」
前髪で眼を覆ったままに杏子は言う。
相変わらずの好戦的な笑顔のままだが、声の発音は泣き笑いに近い。
「いいってんだろ」
彼は答える。そして両者は後頭部を背後に引き、前へ向けて強く突き出す。
夜を砕くような破壊音が鳴り響く。
額が重なる。重なっている肌の間からは鮮血が滴り、鼻筋を通って顎へと至る。
傷口が重なっている為に、その血は両者のものが混ぜ合わされていた。
なんでこうなる?という疑問は両者が抱いていた。
しかし今は言葉より現状をさっさと抑える方法をとるべきだった。
自分たちは既に放たれた弾丸であり、その役目を全うすべきだと。
何時もの通りに彼は魔女に命じて異界を開き、その中へと二人そろって入っていった。
異界の中ではいつも通りの、されど気分的には普段とは異なる戦闘が開始されていた。
切り刻む肉と浴びる血滴の熱さから、杏子は別の何かを。
そしていつもと同じながら、さらに強まった肉の疼きを感じていた。
さぁ大変だ