魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第10話 今は兎に角、為すべきコトを

 自らの胸の宝石を異形の槍で貫き、跪いた姿勢で意識を喪失した佐倉杏子。

 その前に、ナガレは立っていた。

 

 相棒は自分との対話に入った。そこに自分が立ち入る余地はない。

 それでも何か出来る事は無いかと、彼は思った。

 こういう処は堪え性が無いというか、生真面目というかな性格である。

 

 そこで気付いた。

 一秒ほど思考を停止させ、やるしかねぇかと思い直した。

 槍が貫いた杏子のソウルジェム。

 その少し下、彼女の薄い膨らみを見せた両胸は生地が破け、地肌が露出していた。

 地肌と言ったが、そこは彼女から溢れたものと、葬った複製の血で赤く濡れていた。

 

 胸の頂点の突起も紅く染まり、粘液に濡れた刺激のためか硬くなっている事が伺えた。

 いらぬ考えであり欲情したわけでもないが、ここ最近の過激なアプローチも鑑みて彼は

 

 

「お前、感度高すぎんだろ」

 

 

 という感想を抱いた。彼自身、そう考えて辟易とはしていた。

 しかし考えてしまうものは仕方ない。何かにつけて身を絡ませてくる少女を相手にしていたら、無理も無いだろう。

 反撃で絶頂地獄に追い立てたとはいえ、それ以外じゃ文字通り手を付けていないのだから、彼の精神力と性癖の健全さを評価すべきだろう。多分。

 

 健全なのか不健全なのか判断に困る思考をしている間にも、彼の身体は動いていた。

 魔女を呼び出し、魔女の内部に仕舞っている治療用具から清潔な包帯を取り出した。

 それを手早く迅速に、杏子の胸へと巻いていく。

 正面に座り、背中に回した包帯を前に回して、とそれを繰り返していく。

 

 今は他に出来そうなことは特に無さそうかな、と彼は思った。

 包帯を巻きつつ、彼は杏子の治癒を魔女に行わせていた。

 あとは周囲から湧いてきた複製達を葬り、相棒を護ることのみ。

 

 複製の杏子の事もあり、複製を葬る事は以前に比べて思う事があるが、今はやるべきことを為すべきだった。

 それにこの変質した赤い世界の複製は、最初に試したが意思疎通が不可能の存在となっていた。

 それを救いだとは、彼はそもそも思わなかった。

 戦いは嫌いではないが、美醜もへったくれも無い行為だと思っているからだ。

 

 そうこうしている間に、彼女の胸は包帯の下に没した。

 生地が薄い為に、突起が隠せないのは仕方なかったが少なくとも胸は隠せた。

 前で大きく結ばれた蝶々結びは、彼をして中々可愛い仕上がりだと思った。

 目覚めたときに杏子に何か言われそうだが、それならそれで面白い。

 

 そう思った彼の目に、赤い光が移り込んだ。

 閉じられていた佐倉杏子の目が開き、正面に座る彼を見ていた。

 虚ろな瞳には一切の意思が感じられなかった。

 虚無。虚ろ。

 そして無を宿した表情の上に、顎先から額までを覆う白が這って行った。

 

 その瞬間、彼は背後に飛び退いていた。

 杏子の顔は、白い仮面に覆われていた。

 横長の円の目の奥には、赤ではなく黒い闇があった。

 小さな微笑みを思わせる口も同じく、無明の闇がその内部に広がっている。

 

 見た事は一度だけ、キリカが少しの間だけ装着し、直ぐに外した仮面であった。

 そして、これが意味するものは。

 

 

 杏子の黒リボンが弾け、束ねられていた髪に何かが纏わりつく。

 いや、リボンで覆われていた毛髪の一部分が、何かに変貌していった。

 前を見据えるナガレの視線が上昇していく。

 

 戯画化した蠟燭の炎を思わせる光が広がり、その背後で赤を基調とした極彩色の模様が連なる。

 それが、巨大な袖と外套を形成していく。

 形成に連れて引き上げられるように直立した杏子の足元は、金色の盆に乗せられていた。

 金の盆には、金属製の家具の足を思わせる形状があった。

 蹄を持った、獣の四肢が生えていた。

 

 四肢の正面、頭に当たる場所には桃色の毛糸の玉が盆に添えられている。

 大きさからみて、幼児の頭くらいの大きさであり形であった。

 形状に彼は見覚えがあった。

 廃教会で杏子と初めて会った際に交差した記憶の中、そして精神の中で杏子と繰り広げた戦闘の前に垣間見た、彼女の記憶の中にいた幼子の姿。

 

 それがけたたましく地面を蹴り、上体を上げた。

 当然のように、巨大な姿全体がせり上がる。

 それは対峙するナガレを威嚇し、拒絶する獣の態度であった。

 

 自棄のドッペル。杏子は以前、これをそう名付けていた。

 全長10メートルに達する巨体は中華風の振袖のようなゆったりとした姿を持つゆえに、長さ以上に幅広く、さらに巨大に見えた。

 

 仮面を付けた杏子は、蝋燭の如き輝きを放つ光を頭に浮かべながら、それに引かれるようにして立っていた。

 両腕は全く動かず、自身の槍で宝石を貫いている。

 

 白い仮面の表情は変化せず、また一切の意思も彼には感じられなかった。

 だが彼女の心の現身は、意思を行動で表すが如く動いた。

 ゆったりとした衣の裾から、鎖で結ばれた三本の異形の槍穂を放った。

 計六本の槍穂は、貫く相手を求めて彷徨うように鎖を揺らしながら宙を舞っていた。

 

 対峙する異界の流れ者と、魔法少女の感情の現身。

 その周囲で、一斉に足音が鳴った。

 

 それらは忽然と、前触れなく顕れていた。

 軽く視線を左右に向けるナガレ。

 

 黒い渦巻く瞳は、赤一色で彩られた、可憐な衣装の者達の姿を見た。

 魔法少女の複製体。それらは彼とドッペルを取り囲み、両者を包囲していた。

 彼女らの手には既に、それぞれの得物が握られている。

 

 全身が血塗れのような赤い姿で、無表情のままに包囲を少しずつ縮めていく。

 彼女たちにとって、この世界に来たものは全て敵であり、それは自分達と存在が近いドッペルが相手でも同様だった。

 

 

「やるぞ」

 

 

 彼は短く言った。その手に長大な漆黒の斧槍が握られる。

 直後に黒い靄が彼の背と頭部に生まれた。

 

 そして靄は、背からは巨大な悪魔翼と翼の付け根から生じた竜の尾のような鋼の鞭へ。

 頭部のものは猫科動物を思わせる傾き方の、槍穂のような長く鋭い黒角へと変わった。

 『真ゲッターロボタラク』と呼ばれる機体を模し、便利だからと尾状の鞭を加えた姿であった。

 

 真ゲッターという存在は自分の末路の暗示のようで、嫌というか呆れた思いがするが、この機体はマシな方の存在であるという事が彼としては気に入っていた。

 そしていつまでも自らの影、ゲッターエンペラーやら聖ドラゴンやらを鬱陶しがっても仕方ない。

 彼はそう思っていた。

 思いつつ、気が付いた。

 

 

「そうか」

 

 

 理解した言葉を口にする。

 

 

「お前の、お前らのお陰か」

 

 

 自らの末路を力に変えて戦う者達、魔法少女。

 彼自身、破滅に寄り添う力を伴侶に戦ってきた身であるが、彼に特別なことをしているという自覚はなかった。

 それは今も変わらない。

 しかし、常に心身を削りながら、そして心の闇を解放して戦う魔法少女達の姿に立ち向かう意思を感じたらしい。

 

 叛逆という行為は彼の行動の原理でもあるが、彼はそれを自覚したことは無い。特別な事とも思っていない。

 だが魔法少女という存在は、彼の心に立ち向かう気概というものを感じさせたらしい。

 負けるかよと、彼は思った。そして、牙を見せて嗤う。

 

 その途端、真紅の少女達とドッペルは彼に襲い掛かった。

 彼から発せられた、鬼気とでもいうべき気配を、畏れたかのようだった。

 

 ドッペルの槍穂を斧槍の斬撃で払い、迫る魔法少女達を竜尾の鞭で貫き横薙ぎに払う。

 自棄のドッペルに向けて飛翔した、刺突剣を持つ魔法少女の前に黒翼を広げて立ち塞がり、その顔を殴り潰す。

 

 脳味噌と眼球を弾けさせられたのは、頭に兎を思わせる長いリボン付きのカチューシャを巻いた、ショートボブの少女だった。

 崩壊した顔から鮮血を溢れさせた、カジノのディーラー風衣装を纏った身体を三本の槍穂が貫き無惨に引き裂いた。

 

 散りばめられる人体の部品と、血と臓物の滝の奥には彼を目掛けて飛翔するドッペルの姿があった。

 複製魔法少女が盾となったのは、単なる偶然だろう。

 ドッペルは残る右手を彼に向けていた。煌く槍穂の先端が彼を睨んでいる。

 そしてその周囲には、武具の先端に光を纏わせた複数の少女達がいた。

 

 放たれた熱線、そして槍穂。

 ドッペルの攻撃を回避しながら、彼は斧槍を振った。

 振る最中に、彼は魔女に命じてその長さを倍ほどに伸ばした。

 斬線からドッペルをずらし、切っ先を魔光に合わせて振り回す。

 

 熱線が反射され、主の元へと舞い戻りその首や胴体を消滅させる。

 完全に反射は出来ず、ナガレの身体を高熱が抉っていた。

 治癒する間もなく、ドッペルは彼に槍穂を放った。意志の喪失を表すように、恩義という概念も無いらしい。

 

 その理不尽な様子に、少し前のツンツンとしていた杏子の態度を彼が思い浮かべたかどうかは、定かではない。

 だが彼はドッペルには反撃せず、その得物を弾くに留めた。

 

 そしてドッペルを襲う複製を葬り、ドッペルを、佐倉杏子を護るべく動いた。

 魔法少女の武具に刻まれ魔光に身を焼かれ、槍穂に翼を抉られながら、彼は自分が今為すべきことを為すべく動いた。

 

 その最中、彼は叫んだ。

 殺意でもなく殺戮の歓喜に湧くでもない、純粋な闘志の咆哮が、真紅の世界を貫いた。

 

 その叫びに、ドッペルを発する佐倉杏子の身体が僅かに震えた。

 彼の叫びに、呼応したかのように。














この姿というか、強化フォームにも慣れてきたものであります

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