魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
夜は十二時を廻っていた。
齧られたように月が空に浮かび、街を青白い輝きで照らしている。
昨日ほどではないが、美しい夜だった。
その光景を、彼は一望していた。
風見野の廃教会、その天辺付近の屋根に彼は座っていた。
斜面には畳惨状ほどの大きさの板が乗せられ、水平の足場となっていた。
彼はそこに腰掛け、胡坐をかきながら世界を見ていた。
見ながら、彼は溜息を吐いた。
長い長い息だった。
風見野の夜の冷えた空気に彼の熱い息が交わり、白い蒸気となって夜を彩って消えた。
消えゆく白の奥、彼は記憶の幻影を見た気がした。
ちょうど一日前。
板を張る前の斜面にて、佐倉杏子は夜の大気を震わせるほどの声量で声が枯れるまで嬌声を上げ続け、幾度となく失神と絶頂を繰り返した。
彼女の秘所から溢れた熱い欲情の粘液は、彼女の短いスカートを完全に濡らし切り、外套も腰から下の大半が水気を含んだ。
長い髪の末端も欲情の体液で濡れる羽目となった。
ガクガクと全身を震わせる杏子を前に、多大な疲労感を感じたのを彼は今でもはっきり覚えていた。
彼としては、散々に弄ばれ続けた借りを返しただけだった。
無抵抗を貫き通し、魔法少女に成すがままにされていたことを、彼なりに返したつもりだった。
肩に手を置いて抱き寄せ、背中と腰を軽く撫でる。
そうしたら悲鳴じみた声を上げて逃げようとしたので腰を抑えて引き寄せ、下半身は触れないように腹と腹同士を軽く重ねる。
それらの一挙手一投足の度に杏子の雌が疼いて液体が弾け、肉の袋とそこに至るまでの肉襞が蠢いた。
杏子としての反撃だったのか、彼女は噛み付くようにナガレの唇に喰らい付いた。
先程のように彼の口内を蹂躙しようとした時、伸ばした舌に彼の舌が絡みついた。
引き戻そうとしたが、彼の方が強かった。
獲物を絞め殺そうとした蛇が絡みついたのは、自分よりも上位に当る竜であった。
そんな思いを彼女は抱いたが、それは一瞬にして消えた。
彼の舌のざらつきと滑らかさ、そして舌で絡められて拘束される被虐感に杏子は悶えていた。
「むぐぅぅぅ!?」
そこに更なる追撃。
彼女の長髪をなぞりながら伸ばされた彼の右手が、杏子の後頭部に添えられていた。
触れられた瞬間に達し、撫でられても達した。
興奮が連鎖しているのか、今の彼女は全身が性感帯と化し、感覚も皮膚を引き剥がしたかのように敏感になっていた。
彼がそれに気付いたのは、内心の怒りが静まった頃だった。
その時には杏子の眼は虚空を泳ぎ、全身は汗だく…というよりも体液塗れになっていた。
攻守交替と彼が告げてから、時間にして十分後の事であった。
杏子の胸の宝石の様子を確かめ、彼女の様子が少し落ち着いてからナガレは杏子を背負って廃教会内部へと戻った。
触れた肌の感触からして、降りるまでの短い間でも彼女は五回は達していた。
その間、彼は無言だった。
彼の脳裏で、彼女の魂でもある宝石の輝きがちらついた。
それは今まで見たことが無い程の、美しい真紅の色に輝いていた。
「よぉ」
一日前の行動とその結果を思い出す彼に、声が投げ掛けられた。
振り向くよりも早く、声の主は彼の隣に座った。
「なぁにショボくれてんだよ、相棒」
「べつに」
誰かは言うまでも無いが、佐倉杏子である。
こだわりでもあるのか、魔法少女服で廃教会の屋根の上に登っていた。
憮然とした彼の様子がおかしいのか、杏子はハハっと笑った。
「お前、もういいのかよ」
「見て分からねぇの?あたしは元気だよ」
昨日の不健全行為の後、荒い息のままに目を閉じて眠りに落ちた杏子をソファに寝かせた。
そして、彼はこれからどうしようかと思った。
水浸しに等しい状況なので服を脱がせる必要はあると思ったが、彼女の服は一着のみであり替えが無かった。
とりあえず身長はほぼ同じなので自分の服が使えるのは幸いだと思っていた。
少女の服を脱がせる行為に関しては、キリカで経験済の上に性欲は微塵も感じない。
これは先程の不健全行為の時も同じであった。
彼が行ったのはあくまで、不相応に淫らな背伸びに走って自分を弄んだことへの大人しめの報復であった。
彼が「メスガキ」というネットスラングを知っていれば、「わからせ」という現象を思い浮かべてげんなりとしていたに違いない。
話を戻す。
あとで半殺しくらいにはされてやるかと思い、まずはということで彼は杏子の胸の宝石に手を伸ばした。
汗か或いは唾液か、彼女のソウルジェムは濡れた輝きを見せていた。
それをハンカチで拭ったとき、杏子は小さな呻き声を上げた。
すると杏子の全身が発光、魔法少女服が解除され私服姿へと変化した。
何らかのスイッチが入ったのかと彼は思った。
手間が一つ省けたと思い、彼は魔女に命じて杏子の髪を乾かした。
ガスバーナーの要領で炎を吐き付けるところを、出力を弱めてドライヤーの代わりとさせていた。
便利なものである。
絶え間ない絶頂で疲れたのか、熱風と音に対しても杏子は無反応で寝入っていた。
髪を乾かして掛け布団をかけると、彼は廃教会を出ていった。
焼き肉屋と廃教会屋上で時を重ねている間、また周囲に魔女が顕れたようだった。
複雑な気分ではあるが、グリーフシードはあるほどいい。
自分に出来ることを為そうと、彼は魔女に命じて異界を開き、成れの果てが潜む異界へと旅立った。
数時間後、血みどろの戦闘を経て帰還した彼が見たものは眠り続ける杏子の姿だった。
それは別に良かった。呼吸は安定しているし、だいたい数時間程度の経過なら眠っているに決まってる。
それ以降が問題だったのである。
朝になっても杏子はそのままだった。
昼も同じく。
太陽が落ちて、世界を闇が染めても杏子は動かなかった。
流石に声を掛けようと思った時、
「上で待ってな。少ししたら行くからさ」
と思念が聞こえた。
彼はそれに従い、先に上に登ったのである。
建物を破壊しないように壁を蹴っての上昇移動。
彼と魔法少女にとっては、階段を上るに等しい簡単な運動だった。
一時間ほどして、彼女は来た。
そして冒頭に繋がる。
「もう一度だけど、あたしは大丈夫さ。色々と発散させてもらったからね」
ひひっと弄ぶように笑うが、そこに悪意はなかった。
言葉の通り、満足したのだろう。
ならよかった、と言っていいものかと。
言ったら悪化するに決まってる。
既に悪化しているし、彼が何をしようが現状は悪化するしかないのだが、彼はそれに気付いているのだろうか。
「ほらよ。センチだか賢者だかになってんだか知らねぇけど、落ち着いてるあんたは気味が悪い」
そう言って、杏子は彼の左頬に何かを押し付けた。
ぐにいと押し上げられた頬の肉。
その根源に目をやった彼は、赤い表面に薄っすらと映る自分の顔を見た。
「喰うかい?」
いい様、シャクっという音が鳴った。
杏子の口が、瑞々しい赤に輝く林檎を齧っていた。
夜にも鮮やかな、杏子の歯形を付けた白い断面が覗いた。
「ああ、ありが」
言い掛けた彼の顔、正確には口へと杏子は林檎を押し付けた。
「喰うかい?」
言い方が気に入ったのか、杏子は言葉を繰り返す。
彼女としても、その言い回しは妙にしっくり来た。
恐らく自分の本能みたいなものだろうなと納得した。
何故そう思うのかは分からないが、別にいいやと彼を弄ぶことに専念する。懲りていないのだろう。
「喰うよ」
そう言って、押し付けられた林檎に歯を立てた。
口に咥えたまま受け取り、一口齧る。
半円を削り取った林檎をしげしげと見ながら、
「美味いな」
と味を評した。
「これアレか。郊外の無人販売のやつ」
「そうだよ」
「待ってろって、これ買いに行ってたのか」
「ああ。あんた、喰った事無いだろうしね」
確かに食べるのは初めてだった。
彼女は今までは全て買い占め、全て自分だけで食べていたからだ。
指摘するのもバカらしいので、二口目を齧る。
瑞々しさと甘さと酸味がちょうどいい塩梅だった。
「ほんっと、妙な関係になったよなぁ。あたしら」
「嫌かよ」
「そうでもねぇのが割とシャクだよ。ああ、これがツンデレってやつか」
自分が纏うものがそれなら、仕方ないとでも言うように杏子は属性を口にする。
「ついでデレ成分を追加してやる」
杏子はそう言った。また昨日の再現になるのかなと彼は思った。
確かに身体は寄せられた。
但し、それは彼の頭に置かれた杏子の右肘だった。
短いスカートから覗く太腿を見せるように膝立ちになりながら、杏子は左手を彼へと伸ばした。
「こいつも喰いな。まだまだあるから、いつもみてぇに魔法少女関連で心配する必要もねぇぞ」
長く、そして強引な台詞を言った杏子の左手には新しい林檎が握られていた。
林檎を間に挟んで掌同士を重ねるように、彼はそれを受け取った。
割と見透かされてるのかもなと、彼は思いつつ最初の林檎を口に運んだ。
昨日から、最初からこの遣り取りをしていれば平和そのものだったのだろうなとも思った。
しかし実際は不健全な交差を経て、ここに至った。
この関係を形成するまでがそもそも半年を経ている。
平和ってのは得るのは大変なんだなと思いながら、杏子とナガレは林檎を齧り続けた。
考えなければならない事と、向き合わなければならない事柄は多いが、今は平和を貪ろうと思った事も同じであった。
あけましておめでとうございます
そしていつもながら、自作には勿体ない素晴らしいイラストであります