魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第74話 天獄

 その戦闘がどれほどの時間で行われているのか、彼女には分からなかった。

 時間の感覚が狂っている事は自覚していた。

 全ては一瞬の事のようであり、また永劫の時が流れたようにも思えた。

 

 そして目の前で繰り広げられる事象の全ては彼女の理解を超えてはいたが、その光景は虚構には思えず、ただ受け入れるしかなかった。

 そしてそもそも、拒むつもりは毛頭も無かった。

 湧き上がる感情の種類は複数あり、それが彼女の中でない交ぜとなり、そして濃度を増していく。

 心身を侵す穢れもまた、その色を濃くしていった。

 黒くエグく赤黒く、魔法少女を呪いの色が染めていく。

 

 そして彼女の真紅の眼の奥では、地獄の光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウザーラ!!』

 

 

 戦鬼を駆る青年の叫びに、鋼の蛇竜が身をくねらせて追従する。

 深紅の戦鬼の手斧の一閃は、刃から迸った緑の閃光によって自分の数十倍以上の対格差を誇る相手を百体近くまとめて真っ二つにした。

 ウザーラと呼ばれた蛇竜に至っては、その巨体を相手に接触させるだけで原型も残らず破壊していく。

 

 黒い体表には重力の渦が巻き、それに触れた物体を超重力で圧し潰しているのだった。

 巨大な顎が敵を噛み砕き、長大な尾が猛然と振られる度に、食い散らかされたメカや装甲の残骸が宇宙に散った。

 大雲霞の如く押し寄せる無数の巨体を、戦鬼と蛇竜は事も無げに蹴散らしていく。

 

 

『ここらで一掃してやるか』

 

 

 受け止めたドリルを握り潰し、その主の顔面を戦鬼の拳で叩き潰しながら竜馬は言った。

 主の言葉を理解し、ウザーラは巨大な頭を垂れた。

 その三日月を思わせる頭部の上に、寄せ集めのゲッターは飛び乗るや即座に腹部に力を集約させた。

 

 

『ゲッタァァアアアアアビィィィイイイイイイイム!!!』

 

 

 放たれる真紅の破壊光。

 それは大軍を貫き炎の坩堝へと叩き落とす、この世に顕現した灼熱地獄。

 その熱線を、蛇竜の口から放たれた青白い光が追う。

 二種の光は絡み合い、互いを増幅させて異形の色に輝いた。

 

 拡散する超重力と破壊の力が撒き散らされ、方向を問わずにあらゆる物体が無残に破壊されて消し飛ばされていく。

 塵も残らず消えていく無数のゲッターロボを、超巨大質量が貫いた。

 深紅の剛腕、ゲッターエンペラーの拳であった。

 

 

『しゃらくせぇ!!』

 

 

 自らの戦鬼の拳を、竜馬はそこへ叩き付けた。

 その瞬間、宇宙全体が號と震えた。

 激突の結果、エンペラーの拳から全ての指が砕け散り、手首までが崩壊した。

 

 破壊は止まらず、肘までに一気にヒビが入って無数の破片と化して飛散する。

 その中を蛇竜は飛翔し、頭部に乗る戦鬼は右腕を前に向けて突き出していた。

 その形は異様な形状と化していた。

 

 猛然と回転するそれは、前に長く伸びたドリルの形となっていた。

 表面には鰭のように並ぶ複数の刃が連なっている。

 攻撃的な形状そのものと言ったドリルという存在の中でも、破壊に特化した構造をした右腕と化していた。

 その形は千手観音菩薩の名を冠された機体、『キリク』と呼ばれる機体に酷似したものに変化していた。

 

 超光速で移動するそれを、巨大な影が覆い隠した。

 エンペラーのもう片方の腕が伸び、左手が開いて自らの装甲ごと戦鬼と蛇竜を圧し潰しに掛かっていた。

 その手の甲が膨張し、装甲が内側から割砕かれた。

 

 深紅の分厚い装甲を貫き、二本の長大な物体が姿を顕す。

 先端に逞しい五指を備えたフレキシブル構造の両腕へと、戦鬼の腕が変化していた。

 それは破壊したエンペラーの腕の傷口を掴むや、一気に左右に開いた。

 大きさの差異の概念など無視し、剛力がエンペラーの手の甲から巨大な肩までを一息に切り裂いた。

 

 不動明王たる『カーン』の剛腕が、エンペラーの装甲を割砕いていた。

 その傷口に向け、ウザーラが口から超重力を纏わせた稲妻を放った。

 内部のメカが引き摺り出され、エンペラーの巨体も僅かによろめく。

 

 その瞬間、深紅の外套を翻し戦鬼は飛翔した。

 皇帝へと迫る戦鬼に、再び発生した無数の臣下たちが追い縋り侵攻を阻止せんと得物を見舞う。

 だがそれよりも速く戦鬼が迎撃し、ゲッター達を鋼の骸へと変え、またウザーラが上向きに放った稲妻が夥しい数の破壊を撒き散らす。

 そして邪魔者や破片を払いのけ、寄せ集めの機体が遂にエンペラーの眼前へと舞い上がっていた。

 

 はためく外套が、色はそのままに形を変える。

 形成されたのは、戦鬼の背で広がる九本の槍状の翼であった。

 深紅の槍の間では、紫電の毒蛇が躍っていた。

 

 

サンダァァァァアアアアアア!!!

 

 

 竜馬の咆哮と共に、翼槍に力が籠る。

 

 

ボンバァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 叫びに従い力が解放。

 それは戦場を、ゲッターエンペラーすら包み込むほどの超々広範囲に広がる雷撃であった。

 触れた存在が爆裂し、宇宙が光で染め上げられる。

 

 滞空する寄せ集めゲッターの元へと蛇竜が接近し、槍状に変形した翼に鼻先を触れさせる。

 すると巨体は深緑の光と化し、槍の表面へと吸い込まれていった。

 ほぼ同時に翼槍も形状を変化させ、元の外套へと姿を戻す。

 

 爆裂はなおも続き、エンペラーの体表が砕けてその輪郭も崩壊していく。

 その様子を眺めながら、流竜馬はこう吐き捨てた。

 

 

『偽物か』

 

 

ヨク出来てハいるガな

 

 

 

 青年の声に呼応する光の文字。

 その光の元では、逞しい手を掲げた魔神の姿があった。

 五指が握るのは宇宙に等しいサイズの赤子の極一部分。

 しかしながら、魔神はそこを基点にその存在を、ラ=グースを頭上に掲げていた。

 腕から伝わる魔神の力によるものか、ラ=グースは微動だにしていない。

 

 

 

ファイナル

 

 

ブレスト

 

 

ノヴァ

 

 

 

 光の文字が複数並んだその瞬間、魔神は胸から赤光を放った。

 それはラ=グースの身体を貫き、そして全身を燃え上がらせた。

 発射された赤光の勢いは全く止まらず、宇宙の果てまでその色で染め上げていく。

 異常に過ぎる破壊力に宇宙が蕩け、次元が歪む。

 光が放たれたのは時間にしてほんの一瞬の事であったが、残ったのは赤子の原型を僅かにとどめた頭部だけだった。

 

 

ツマラヌ

 

 

 光の文字で吐き捨てて、魔神は動いた。

 掲げた右腕を軽く振った。

 それだけで、ラ=グースは遥か彼方へと投擲されていた。

 単純な動きの中だが、あらゆる常識が消滅していた。

 

 その方向へ、魔神は貌を見上げた。

 そして。

 

 

ルストハリケーン

 

 

 引き裂けて牙のような断面が形成されたフェイスプレートの奥から、魔神は巨大な竜巻を放った。

 それがラ=グースの残骸を飲み込み、先程の光と同様に留まる気配を見せずに宇宙を飲み込まんばかりの勢いで彼方まで続いていく。

 

 

 

此方モ同じダ

 

 

コレはソノモノに等シイが ラ=グースでハナイ

 

 

仮に此レを疑似個体トデモ呼称スルカ

 

 

『出来の良いパチモンだな』

 

 

ソシテ気付いてイルか、流竜馬よ

 

 

『ああ』

 

 

コレは一種のメッセージダ 誰か、或いハ何カが我ラを誘っテイルラシイ

 

『なるほどな。ちょっと前からだが、変な声が聞こえやがる』

 

 

アア…耳障リナ笑い声ダ

 

 

『女の声って感じなだけ、気分的にはマシってとこか』

 

 

勿論、黙ラセルノダロウ?

 

 

『当たり前だ。売られた喧嘩だ、買わねぇと損だろうよ』

 

 

 

愚問ダッタカ

 

 

 

『だが今は、無駄口叩いてる場合じゃねえな』

 

 

ソノ通りダ

 

 

 

 言葉を交わす魔神と青年の前で、異変が生じていた。

 魔神が放った破壊の光と大渦が、その果てで忽然と消滅した。

 消えていく光の奥で、認識が可能な範囲の全ての空間を用いて描かれた異形の赤子の姿があった。

 

 

 そして崩壊していくゲッターエンペラーを、更に巨大な物体が包んでいた。

 それを両者は、途方も無く巨大な手であると見た。

 その色は、戦鬼と皇帝と同じであり、その手中にある存在と同じ造形をしていた。

 それを巨大な手が、偽のゲッターエンペラーを握り潰した。

 

 

 

『勝手に偽物を出されて怒ったみてぇだな。本物のご登場か』

 

 

今度は楽シメソウダ

 

 

 

 

 

 そして魔神の全身を光が覆い、戦鬼の体表を深緑の光が這い廻る。

 それまでの相手には見せなった、力の全てが二体の前身に満ちていく。

 元々開きに開いていたサイズ差は、更に比較不能なほどに広がり、戦力差に至っては想像すらつかない。

 それでもなお、この連中の戦意は全く衰えない。

 

 だが激戦の疲労や恐れなど、この二つの存在には無縁の事柄だった。

 これらからしたら、新たな獲物が顕れたというだけである。

 

 二種の光を纏った者達は、それぞれの相手へと向けて飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで真紅の少女は叫びを上げた。

 誘発させたのは、異界の恐怖ではない。

 深緑色の光が戦鬼をその色に染めた時、そこから発せられた鬼気が彼女の心に触れていた。

 

 爆発的な力の増幅と、怒りの感情。

 それは深紅の戦鬼の中から発せられていた。

 人間が抱けるキャパシティを大幅に超克したそれに、彼女の黒く染まった魂が反応していた。

 可憐な唇から吐き出される獣のような咆哮は、何を意味しているのかは当の本人でも分かっていないに違いない。

 ただそれが、苦痛に満ちている事だけは間違いなかった。

 

 

「杏子!!」

 

 

 自らが上げる叫びの中で彼女は聞いた。

 声色はまるで別物だが、口調と発音だけはそのままだった。

 そして声がした方向へと、彼女は猛然と襲い掛かった。

 湧き上がるどす黒い感情を鎮めるためか…或いは、更にその感情を深めたいのか。

 













寄せ集め故に、こういった芸当が可能と言う設定であります(アークを破壊して奪った訳ではありませんが)

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