魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第71話 虚無と、零と

 真紅の光が暗黒の世界を飛翔する。

 彼方からは煌々と輝く光が飛来し、真紅の光と真逆の方向へと消えていく。その果てでは破壊が生じ、触れたものが同色の光に包まれて崩壊していく。

 その根源へと、真紅は進んでいった。

 

「遅ぇ」

 

 真紅の光が、佐倉杏子がそう呟いた。

 そして望む。

 

 もっと、もっと、もっともっと速くなれと。

 光よりも何よりも、全てを超えた速さを寄越せと。

 

 その想いは、彼女の願いを叶えた。

 光を超越した速度を纏う光と化して、杏子は飛翔した。

 

 その中で、彼女はふと疑問を抱いた。

 これまでの交戦の中で、複数の惑星を戦場とした。

 その全てが光と化して消えていったが、それらに共通する事柄があった。

 水はある、大地もあった。

 

 だが、生命に相当するものが一切存在していなかった。

 初めから存在していないのか、それとも死に絶えたのか。

 二人が渡り歩いた、というよりも飛翔した星々の全ては、虚無に満ちていた。

 

「ま、考えても無駄か」

 

 そう呟き、彼女は更に速度を上げた。

 目指すものは唯一つ。

 自分が執着の感情を向ける者を探し、彼女は光を超えて虚空を進んでいった。

 

 その状態でどれほどの時間を重ね、距離を飛んだのか。

 本人でさえ分からぬままに、やがて彼女は停止した。

 

 穢れによって斑色に染まった身体。

 されど真紅の眼はそのままに、彼女はその眼で彼方を見ていた。

 破壊の光の源泉を。

 

 そこには。

 

 

「あれは……」

 

 

 杏子は呟いた。

 視線の先は、遥かか彼方。

 視界には映っていれど、それとは無限の隔たりがある様に杏子は感じた。

 

 

「あれは」

 

 

 杏子は言葉を繰り返した。その次の言葉は絶えていた。

 その存在をどう表せばいいのか、彼女には分からなかった。

 初めて見る存在ではあった。

 

 だが、精神が、心が、魂は何かを覚えていた。

 この雰囲気と、気配。

 

 そして、恐怖を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

虚無を司ル神、か

 

 

ナント無意味で、クダラヌ存在だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光の文字が虚空に浮かぶ。

 その存在の正面に。

 そして光に照らされたのは-----。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレホドニ虚無が好キナラバ

 

 

 

 

 

自ラもマタ、滅びるガ道理

 

 

 

 

 

ソウは思ワヌカ

 

 

 

 

 

 

 

星々を喰ウ魔物------ラ=グースよ

 

 

 

 

 

 

 呪われし名前を帯びたものは、杏子の理解を超えた姿をしていた。

 宇宙に浮かぶ、いや、宇宙そのものとしか思えないサイズの巨大な顔。

 それは赤ん坊のそれによく似ていたが、愛おしさや可愛さなど微塵もない。

 

 牙がびっしりと生えた口腔、皮膚を剥がして肉の中身を剥き出しにしたような体表、頭蓋を切り取られて露出した脳髄。

 精神を穢し尽くすおぞましさと、名状しがたき姿。

 そして思うだけでも気が触れそうになるその名前。

 

 

 

 

 

 ラ=グース

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれと対峙する、白と漆黒の色を纏った機械仕掛けのその姿。

 

 大きさで見れば比較のしようがないサイズ差があったが、その差を感じさせない容姿をしていた。

 

 城塞を思わせる兜で構築された頭部、逞しい四肢、刺々しい刃を生やした剛腕を泰然と構えた威風堂々とした姿。

 

 それ自体が山脈のように隆々と盛り上がった胸部には、牙のような形状の二枚の真紅の装甲が施されていた。

 その背で輝く、無限大の記号とアルファベットのZ、そして数字のゼロを束ねたような造詣の紅の翼。

 

 それは神々しいとさえ思える姿ではあった。

 

 ただ一つ、その貌を除いては。

 

 狂暴、獰悪、凶悪、獰猛、その全てでもあり。

 そしてそれらを超越した、恐怖や畏怖と言った概念が形を成したかのような貌を、それはしていた。

 

 神。

 

 これもそれなのだと、杏子は本能で悟った。

 

 それは暗黒の中で輝く魔なる神。

 

 魔神

 

 これはそういった存在であるのだと。

 

 

 

 

ZEROニ還ルガイイ

 

 

 

 

 そこで、杏子の精神が限界を迎えた。

 光の文字と共に、魔神の髑髏のような貌が輝いたその時に。

 

 それは世界を滅ぼしていった、光そのものの色をした光であった。

 光子が力と成り、閃光と化して放たれていく。

 

 

 

 

ううううううあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 

 

 

 杏子は絶叫を挙げた。

 闘争心で満ちていた杏子の心に、恐怖が無数の槍となって突き刺さっていた。

 その苦痛に満ちた叫びだった。

 

 目の前では光が乱舞し、巨大と言う概念すら覚束ない存在に向けて放たれている。

 そして杏子は苦痛と狂気の中で理解した。

 あの光は、これであったのだと。

 

 迫る光に、ラ=グースと呼ばれた異形の赤子は口を開いた。

 杏子には何も聞こえなかった。

 だが、確かに何かを聞いた。

 

 それは産声であったと、彼女の本能が理性に告げた。

 

 赤子の口が開いた瞬間、景色が歪んだ。

 宇宙を切り裂く光が歪み、散乱していく。

 そしてあらゆる方向に向けて飛散する。

 

 千々と砕けて、微細な点と化して撒き散らされる。

 歪んでいるのは空間であり、宇宙そのものであった。

 

 ああ、そうか。

 

 再び彼女は理解する。

 

 星々を破壊した光は、これだったのだと。

 

 光の本体ではなく、残滓の残滓。

 その更に欠片を更に散りばめた、元の存在からしたらゼロに等しい無力な光であったと。

 それですら惑星を破壊し、宇宙を破壊で蹂躙する。

 

 

「こい…つらは……」

 

 

 苦痛そのものの声で杏子は呟く。

 全てが理解を超越し、そして拒む存在達が繰り広げる戦闘。

 

 いや、そもそも戦いに発展しているのだろうか。

 神に相当する連中が行う破壊の行為に果たして上限はあるのか。

 そう思った時、杏子は心中に更に恐怖の感情が染み込んでいくのを感じた。

 込み上げる強烈な吐き気は、以前に垣間見た邪悪な存在でさえも比較対象にならなかった。

 

 その中で、杏子は思いを抱いた。

 それは助けを求める事でも、恐怖に屈するものでもなかった。

 

 

「お前じゃ……ねぇ……!!!」

 

 

 狂った獣のような表情で、歯を食い縛りながら杏子は声を絞り出す。

 憎悪を帯びた執着心が彼女を狂わせ、狂気が恐怖を押し込めていた。

 

 

 

 

「テメェは………どこに……いやがる!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 獣の貌で、悪鬼の声で叫びながら杏子は世界を睨みながら睥睨する。

 赤々と輝く瞳は、凝縮された血雑じりの毒液のようだった。

 

 

 

 

『はっ。珍しく苦戦してるみてぇだな、ZEROさんよ』

 

 

 

 前触れも無く、彼女はその声を聞いた。

 音の無い世界の筈なのに、その声は彼女に届いた。

 錆を含んでたが、若く猛々しい男の声だった。

 存在するだけで宇宙を蹂躙する存在に対し、彼は傲岸不遜な言葉を事も無げに投げつけていた。

 

 執着の対象が発するその声に、杏子は叫びを止めた。

 

 声を止めた彼女の口に浮かんだのは、悪鬼そのものの半月の笑みだった。

 

 


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