魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

206 / 455
第70話 吠えろ、竜と戦姫よ③

 闇が広がる。

 果てしなく、無限を思わせるほどに。

 その闇を切り裂き、彼方から複数の光が去来する。

 それは幾つも分かれ、闇の世界を無色の光で染めていく。

 

 やがて微細な砂粒もかくやといった細かさに分かれた光は、球状の存在へと吸い込まれていった。

 球は複数というよりも無数にあった。

 色もそれぞれ、青赤黄色に黒に桃色などの個性を帯びていた。

 

 大きさで見れば光は球に対してあまりに小さく、無に対する無限に等しい差があった。

 されど、その光が触れた瞬間、球が帯びた色は消え失せた。

 光が纏う無色の光が球を染め上げ、そして破裂しそれもまた光となって闇の中を迸る。

 それもやがて球に接触し…と、連鎖が続く。

 闇を侵食するように、または闇を土壌と見立てれば、その中に根が這うように光の線が続いていく。

 

「はっ」

 

 その中で、少女の声が鳴った。

 

「なんだよコレ。笑えねぇ冗談だな」

 

「ああ。胸糞悪い光景だ」

 

 杏子が吐き捨てた言葉に、ナガレも同意する。

 光によって切り裂かれる闇の中、言葉を交わしながら杏子とナガレは剣戟を交わしていた。

 両者が今いる場所は精神世界の中にある惑星ではなく、それを内包する宇宙であった。

 

 破壊される球とは惑星であり、その渦中に二人はいた。

 しかしそれも他人事であり、二人は互いを破壊する行為に没頭していた。

 先程の遣り取りは、その中で不意に生じた偶然のようなものであった。

 丁度斧槍と十字槍の柄を重ねての鍔迫り合いを演じていたため、少しだけ暇だった、からなのだろう。

 率直に言って、中々に狂った状況で暇を感じる二人だった。

 

 しかしそれも一瞬の事、二人は同時に動いた。

 それぞれが自身の得物の柄を蹴り、相手を強引に弾き飛ばした。

 そして引き離されたのも束の間、杏子とナガレはこれも同時に空間を蹴った。

 

 

「おおおおおおらああああああああああ!!!」

 

「うるぁぁあああああああああああああ!!!」

 

 

 咆哮と共に得物を振い、激突する。

 両者はそこで止まらずに飛翔し、反転。

 再び吠えて剣戟を交わし、先の動作を繰り返す。

 得物が帯びた色である黒と真紅の色が交差し、二人は宇宙に交差の螺旋を描く。

 

 互いを切り刻みながら上昇し続けていく。

 それは偶然か、彼方から飛来する光を目指しているようにも見えた。

 剣戟の最中、ナガレはそれに気付いた。

 この先に行くのはマズい。

 彼はそう思った。

 

「おい杏子!!」

 

 激突と離脱、そして再びの激突の中でナガレは叫ぶ。

 

「なんだ、降参なら認めねぇぞ!」

 

 十字槍を連打しながら杏子も叫んだ。

 秒間に数百発は放たれる真紅の猛攻を、ナガレも斧槍の穂で迎撃する。

 

 

「テメェかあたし!そのどっちかがくたばるまで、あたしはこれをやめる気は無ぇ!!」

 

「奇遇だな!くたばるってトコ除けば俺も同じだ!!」

 

 

 声を掛けた案件については頭にあったが、彼は杏子に自らの意思を示すことを選んだ。

 

 

「はっ、生き残る積りかよ!或いはあたしを殺さねぇってか!」

 

「物分かり良いな!そうだよ!!」

 

 

 無数の刺突を、ナガレは斧槍を一閃させて纏めて弾いた。

 斬撃は杏子の槍を大きくかち上げ、更に刃は彼女の胴体を過っていた。

 上がる苦鳴、されどその身体に変化は無かった。

 

 

「これは…あたしらが…今は……魂だけの…存在だからって、コトか…」

 

 

 胸の宝石から生じ、彼女の体表に絡みつく穢れの線は相変わらずであったが、斬撃がもたらす一切の負傷が肌や衣服にも生じていなかった。

 

 

「傷がねぇと…味気ねぇな」

 

 

 斧槍が過った場所を左手で抑えながら、杏子は言った。

 その顔には、悪鬼羅刹の如く凄絶な笑みが浮かんでいる。

 苦痛と闘志、それが混ぜ合わされた、戦う事が楽しくて仕方ないとでもいった笑顔だった。

 

 

「ああ…でも、くそ……魂ってのに直接響きやがるな…この痛みは」

 

「お前、今のは避けられたんじゃねえのか」

 

「なぁに、テメェの心を試したのさ。あたしに手心加えねぇかってさ」

 

 

 そして杏子は手を離して槍を構えた。

 

 

「テメェ…やっぱほんとイカれてんな。殺さねぇって言いつつ本気で打ち込んで来やがる」

 

「お前がこのくらいで死ぬワケねぇからな」

 

「でも、殺す気でやったよな。今のは」

 

「ああ。そうでもしねぇとお前とはやり合えねえからな」

 

「くはは!……上等じゃねえか。こっちも出し惜しみは無しだ」

 

「来な。とことん相手してやるぜ」

 

 

 互いに獰悪な表情を浮かべて笑い合う。

 実に愉しそうに。

 それが生きる意味だと言わんばかりに。

 

 

「言ったな。後悔させてやる」

 

 

 口を半月の形にして杏子は言った。

 そして飛翔する。

 彼の元ではなく、上空へと。

 

 それを見上げるナガレ。

 彼の眼には、佐倉杏子の姿は闇の中に浮かぶ美しい真紅の花に見えた。

 ほんの一瞬、彼はその輝きに魅入られた。

 だがそれを消し去ったのは、その表面に浮かぶ穢れの黒であった。

 すぐさま彼女を追うべく、飛翔に移ろうとしたその時だった。

 

 虚空に浮かぶ杏子の姿に変化があった。

 

 

「おい、そいつは」

 

 

 それを見て、ナガレは眼を見開いて呟く。

 渦巻く瞳の奥に浮かぶ杏子の背に、九本の槍が浮かんでいた。

 上向きの半円の如く、翼のように展開された真紅の槍が。

 その配置に彼は見覚えがあった。

 そして、その槍の間で漂う紫電の様子にも。

 

 

サンダァァァアアアアアア!!!!!!

 

 

 背負った槍からの光を帯びて、杏子が叫ぶ。

 しかし続く筈の言葉はそこで止まっていた。

 杏子の顔には僅かな困惑、そして戸惑いがあった。

 それを察し、ナガレは

 

 

「ああ、分かるよ。発音ムズイからな、それ」

 

 

 と答えた。それが届き、杏子は絶叫で応えた。

 その瞬間、彼女を中心に巨大な雷撃が放たれた。

 宇宙空間を切り裂き、距離で表せば半径数百メートルに渡って展開された雷撃は、爆裂を伴って炸裂し空間自体を破壊していくかのように見えた。

 

 その間を掻い潜り、慣性の法則を無視した軌道で飛翔する影があった。

 その姿は、背に悪魔を模したような巨大な翼を生やしていた。

 

 

アークの『サンダーボンバー』……。俺の頭を覗いて覚えたんだろうが、ここまで使いこなしやがるか」

 

 

 魔女との融合形態。

 背から悪魔翼を、頭部から二本の頭角を生やした姿。

 言伝に聞いた存在の姿を模した状態でナガレは呟く。

 

 その存在の名は、『タラク』と聞いていた。

 自分の成れの果ての前身でもある嫌いな存在の一つだが、その中ではマシなものだと聞いている。

 だが、今はそれはいい。戦うまでである。

 

 

「なら、こっちも!!」

 

 

 雷撃を掻い潜りつつ、ナガレは両手を広げ二つの手の間に隙間を作った。

 そしてその間に力を込めた。

 力は光を纏い、光球の形を取った。

 それを振りかぶり放とうと思ったその瞬間、

 

 

「なっ」

 

 

 手の間の光球を、少女の右手が握り締めていた。

 光に照らされる杏子の顔に浮かぶのは、獲物を見つけた女豹の笑み。

 八重歯を牙のように見せ、そして生まれたての太陽を握り潰した。

 

 炸裂する光。

 その中で二種の刃が煌いた。

 そして、激突。

 

 

「お前…ホント強ぇな」

 

 

 衝撃で解除されたのか、ナガレの姿は普段のそれに戻っていた。

 超至近距離での炸裂に、彼の顔には苦痛が浮かんでいた。

 だがそれ以上に、ナガレは現状を楽しんでいた。

 

 

「あんまり嬉しくないね、その姿で言われてもさ」

 

 

 彼の斧槍に自らの十字槍を絡めながら杏子が返す。

 こちらも同じような表情だった。

 しかし彼女の言葉を受けたナガレには変化が生じた。

 

 

「酷いコト言うなよ、凹むだろうが」

 

 

 イラつきと、そして悲哀がナガレの表情を掠める。

 素直過ぎんだろ、コイツと杏子は思った。

 

 

「あたしは褒めてるつもりなんだけど」

 

「あん?」

 

 

 何言ってんだと、ナガレは怪訝な表情となる。

 

 

「あんたの姿、あっちの方があたし好みだよ」

 

 

 獲物を見る様に、そしてその裏に恐怖を滲ませながら杏子は言った。

 彼女の脳裏には、この少年の正体の姿が亡霊のように焼き付いている。

 呪いのようなそれの、その姿の名を思い浮かべ、そして言葉にすべく口を開いた。

 

 

「なぁ、竜馬

 

 

 妖艶さを帯びた声で杏子はその名を言った。

 それを受け、複雑な気分もあるのかナガレは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 だがやがて、牙を見せて楽しそうに笑った。

 その表情は、彼の本来のそれによく似ていた。というよりも、そのものであった。

 

 それを見て、杏子は

 

 

「やっぱり、そっちのが似合うよ」

 

 

 と言った。

 楽しそうに、それでいて湧き上がる闘争心に輝いた顔で。

 そこに、彼方からの光が降りた。

 破壊は生じず、光は両者に何らの影響も与えない。

 漂泊された光の中でさえ、二人の姿は鮮明だった。

 

 

「ウザったいな、これ」

 

「ああ。邪魔だ」

 

 

 その中で、鍔迫り合いをしながら言葉を交わす。

 奇しくも最初の遣り取りと似た状況となっている。

 

 

「なんなんだよ、これ」

 

「くだらねぇ物だよ、気にすんな」

 

 

 ナガレは吐き捨てる。

 その様子に、杏子は思考を巡らせた。

 そして気付いた。

 この世界が何であるのかを。

 

 

「そうか」

 

 

 そう言って、杏子は背後に跳んだ。

 

 

「いるんだな、お前が。ここに」

 

 

 杏子は気付いた。

 ここはかつてあった事であり、その渦中に目の前の存在がいる事に。

 

 その思考にナガレも気付いた。

 ヤバいと彼は思った。

 

 自分の記憶が正しければ、これを、この世界で生じている事はーーー。

 そう思った刹那、杏子は飛翔していた。

 真紅の閃光と化して、破壊の光が生じる場所へと向かって行く。

 

 

「くそっ!待ちやがれ!!」

 

 

 ナガレも叫び、再び背から悪魔翼を生やして飛翔する。

 空間を切り裂く斬線の様に飛び、漆黒の光となって真紅の後を追う。

 

 















ドワォズワォしつつも健全な二人であります(比較対象はキリカさん)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。