魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第70話 吠えろ、竜と戦姫よ

「それが」

 

 喉が渇く感触を覚えながら、あたしは声を出す。

 何かしてないと狂いそうになる。

 それが恐怖か、或いは…いや、いい。

 

 

「お前の正体か」

 

「あー…それなんだけどよ」

 

 何時もと似たような態度で、別物でありながら似た外見で、ナガレは…流竜馬は言い淀んだ。

 

「俺的にはどっちも俺だから、正体っていってもピンと来ねぇんだよな」

 

「そうか」

 

「ああ」

 

 

 うん…なんだ。

 なんだ、この雰囲気。

 でも不安感が湧いてくる。

 何か言わねぇと、飲まれちまう。

 

 

「いつものあのガキの外見は何なんだろな」

 

「俺も分からねぇ。お前と最初に会った時からあの見た目になっちまってた」

 

「あんたが子供の時と似てるかい?」

 

「眼付とかその程度だな。ありゃ俺とは別物だ」

 

「そういや前、並行世界の自分がって言ってたよな」

 

 

 言いながらあたしは思い出す。

 あの地獄みたいな…いや、地獄そのものの世界に君臨してやがったのは…。

 

 

「だな。いつもの俺は、そういう俺なのかもな」

 

 

 皮肉っぽく口を歪めて、それでも楽しそうにあいつは笑った。

 

 

「いいのかよ、それで」

 

「俺は俺だ。どうなってもそれは変わらねぇ」

 

「強情な奴だな」

 

「そいつが俺の取り柄でね」

 

 

 こいつ…。

 

 見た目は変わっても、変わらねえな。こいつは。

 多分今までもそうして生きてきたし、これからもそうなんだろうな。

 こっちの気分も知らねぇで、勝手な野郎だ。

 

 

「変わったって言えばよ」

 

 

 こっちをじっと見て、あいつは言う。

 …ああ、くそ…………疼く。

 

 

「…なにさ」

 

 

 熱っぽさが出てねぇか、不安だけど仕方ねぇ。

 ああくそったれ…恋の一つでもして、男慣れでもしときゃよかったか……いや、そんな機会、あたしには…。

 

 

「その服、似合ってるな。あと、変わってるのは俺だけじゃねえみてぇだぞ」

 

「…は?」

 

 

 そう言われて自分を見る。

 …なんだこりゃ。

 

 

「黒いドレスか、良い趣味してんな」

 

 

 皮肉な感じはねぇ。

 単純に褒めてるのか。

 

 あたしが着てたのは、あいつの言う通りの黒いドレスだった。

 ノースリーブでスカートの丈の長いドレス。

 肌の見える腕や手を見ると、違和感を感じた。

 

 そういえば目線がいつもより少し上だ。

 背中に広がる髪の感覚も多い、ってことはリボンは卒業してんのか。

 

 ああ、そうか。

 

 今のあたしは…幾つか知らねぇけど…。

 

 

「なぁ」

 

 

 だから尋ねた。

 

 

「今のあたし、幾つに見える」

 

「立派な女だ。綺麗だよ」

 

 

 率直に、特に飾らずに答えやがる。

 こいつの良いところと言えばそうなのかね。

 

 

「答えになってねぇな」

 

「女の年齢ってのは外見じゃ分からねぇからな」

 

「ふぅん、そういうものかい。…ってか、なんでこの格好なんだろな」

 

「なりたい自分って奴なんじゃねえのか」

 

「なるほど…ってことはアレか。将来は場末の酒場の歌姫か、風俗嬢にでもなるのかな」

 

「反応に困るな」

 

 

 だろうねと思いつつ、あたしは笑う。

 こいつを困らせる遊びは割と楽しいな。

 畳み掛けるか。

 

 

「ついでに、いつものあたしは幾つに見える?」

 

「ハズしたら悪ぃけど、15ってところか?いつもの俺が13か14くらいの見た目なら、アレより年上に思えるからよ」

 

「なるほどね」

 

 

 惜しいな。

 

 

16だよ」

 

「へぇ」

 

「意外だった?」

 

「別に。さっきの繰り返しんなっけど、女の年齢ってのは分からねえんだよ」

 

「ガキの頃、栄養取れない時期が長くてね。年齢の割にガキっぽいのはそのせいさ」

 

 

 嗤いながらそう言ってやる。

 思った通り、あいつの表情に沈痛さの影がふっと掠める。

 分かりやすい奴だな。

 

 

「何も言ってねぇだろうが」

 

「これはあたしの独り言みてぇなもんさ。で、あんたも身長伸びてっけど、割とガキっぽい見た目だな」

 

「言うじゃねえか。因みに俺は幾つに見える?」

 

「18ってトコかな」

 

「惜しいな、ハタチだよ」

 

「嘘くせぇな。未成年っぽい。なんていうか、雰囲気がガキ」

 

「口の減らねぇ奴だ」

 

 

 カチンときたらしく、返す言葉には棘がある。

 それに対してあたしは笑う。

 嗤ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 その陰で、あたしの心は冷え切っていた。

 

 ヤバい。

 

 こいつは、マジでヤバい。

 

 会話を重ねて、対峙するだけでこいつは危険だと本能が叫んでやがる。

 

 流竜馬。

 

 こいつの辿って来た道は…死山血河なんて生易しいものじゃねえ。

 

 地獄。

 

 文字通りの地獄。

 

 神って呼ばれる連中ともやり合って、挙句の果てに別の自分を殺し続けるとかいうワケの分からねぇ地獄の連鎖。

 

 こいつは、それをしていく内にここに来た。

 

 そしてこいつがヤバいのは、強さとかそういうのじゃねえ。

 

 確かに強さだけど、何よりもヤバいのはこいつの心だ。

 

 何でだ。

 

 何であんなものを見て、そこを潜り抜けてきて狂わねぇんだ。

 

 何で、正気でいられるんだよ、テメェはよ……!

 

 そしてあたしは、こいつに勝つために、こいつと戦うためにここに来た。

 

 なのに、やってるのは時間稼ぎだ。

 

 くそ……今すぐにでも槍を呼び出して…いや、素手でも構わねえ。

 

 一矢報いる為なら歯で肉を喰い千切って遣る。

 

 でも、それが成功するとは思えねぇ。

 

 どうやっても、触れる前に打ち負かされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど、やるしかねえ。

 

 なんで戦いたいのかって、その答えはどうでもいい。

 

 ただ戦いたいのさ。

 

 強いて言えば…退屈しのぎか。

 

 いつも死んでるみてぇなもんなんだ。

 

 だから、地獄に自分から進むのも悪くねぇ。

 

 そうだ。

 

 悪くねぇ。

 

 そして、特級の地獄が目の前にいる。

 

 なら……戦うしかねえだろうよ。

 

 そう思った時、だったな。

 

 

「んだよ、時間切れってか」

 

 

 あいつはそう言った。

 

 そしたら、あいつの姿が霞んだ。

 それは一瞬の事で、直ぐに形が整えられた。

 

 そしていつものあいつが、ナガレがいた。

 流竜馬のいた場所に。

 

 

「うーん……」

 

 

 そして唸り声を上げる。

 さっきまでの男らしい音程は消え失せて、女そのもののきゃわいらしい声に成り果ててやがる。

 それでも、声の出し方は同じだった。

 ゾクっとする声の震わせ方をするヤロウだな。

 

 

「ま、今の俺はこれでいいか」

 

「いいのかよ」

 

 

 さっきまでは見上げてたけど、今はあたしの少し下にあいつの目線がある。

 あたしが165としたら、あいつは160くらいだからな。

 普段のあたしとそう変わらねえ。

 

 

「いいんだよ。さっきも言ったろ、どうなろうが俺は俺なコトに変わりはねえ」

 

 

 そう言ってほくそ笑む。

 ああ、確かにね。

 嗤い方が同じだ。

 

 そう思うと、なんだか急に楽になった。

 

 理由は分かる。

 

 あいつはあいつのままだけど、それでも今は違う。

 

 だからだ。

 

 それに安心しちまったんだ。

 

 

 ああ。

 

 あたしは。

 

 

 なんて卑しい魔法少女なんだ…。

 

 

 そう思った瞬間、あたしの身体は燃え上がった。

 

 黒いドレスの内側が、あたしの肉や骨が炎になって真っ赤に燃える。

 

 そして普段のあたしに戻る。

 

 そうだ。

 

 あたしは。

 

 魔法少女だ。

 

 あたしらのいる場所は、何処までも真っ暗な世界。

 

 でもあたしが放った光が、この場所を闇を切り裂いて黒に赤を足した世界に変えた。

 

 ははっ。

 

 中々いい色合いじゃねえか。

 

 

 

 変身したあたしは着物みてぇなドレスをふわっとさせて、伸ばした手の先で呼び出した槍を握り締める。

 

 十字架の槍穂はあたしにとって、地獄でも物足りねぇ業罰の印って意味もある。

 

 そうだ。

 

 あたしは赦されちゃいけねえし、あたしはあたしを赦すつもりはねぇ。

 

 それは他の誰にも譲れねぇ、あたしを佐倉杏子たらしめるものだ。

 

 その地獄と業罰を宿して、あたしは尽きるまで戦い続けてやる。

 

 

 その想いが伝わったのかな。

 

 変身したあたしの姿は、いつもと様子が違ってた。

 

 

「黒いな」

 

 

 ナガレはそう言った。

 

 そうだな。

 

 今のあたしは、いつも通りの真っ赤じゃなかった。

 

 胸のソウルジェムを中心にして、黒い模様が体中に伸びてやがる。

 

 まるで植物の根みてぇに体の表面を這い廻って、蛇みたいで気持ち悪い。

 

 そいつは腕や足にも、身体の末端近くまで伸びて、髪の毛も黒が混じってやがる。

 

 幸いって言うか、顔だけはそのままだな。

 

 最後の尊厳ってヤツかい。

 

 

「そいつがお前を蝕んでる…穢れってのか」

 

「みたいだね。似合うかい?」

 

「苦しいか、それ」

 

 

 無視しやがった。

 

 可愛げのねぇ奴。

 

 

「まぁね。あのイカレ頭の呉キリカと会話してる時の気分だよ」

 

 

 まぁ正直、あいつと関わるよりかは幾分かマシか。

 

 死ぬほど痛いけど、不愉快さはあいつよりは下だ。

 

 なんたってこいつは、あたしの感情からくる痛みだからな。

 

 ああ、そうか。

 

 ある意味こいつはあたしの子供で、この痛みは陣痛みたいなものか。

 

 はっ。

 

 なんてな。

 

 

「そうか」

 

 

 ナガレが短く言った一声は…認めたくねぇけど、あたしを怯えさせやがった。

 

 本当のあいつの声、そのものに聞こえたからさ。

 

 そしたらあいつは、拳のままに右手を伸ばして指を開いた。

 

 いつものアレが、忌々しい斧魔女はここにも来られるのか、あいつがナガレの手に握られやがった。

 

 

「なら、そろそろやろうぜ。そいつをお前から引き剥がしてやる」

 

 

 そう言って、斧槍を構えやがる。

 

 ああ、そうだな。

 

 そろそろ頃合いだ。

 

 ぎんと張り詰めていく空気、高まっていく殺気。

 

 身体の奥底から湧き上がる衝動。

 

 破壊衝動。

 

 ああ。

 

 こいつは…イイな。

 

 いつものコトだけどよぉ……。

 

 何度やっても、堪らねぇ。

 

 

 

 

 

「来な」

 

 

「来い」

 

 

 

 

 

 そしていつも通りに、相手を招く様にそう言い合って互いに向けて走り出す。

 

 そうだ。

 

 あたしらに大義名分なんざ必要ねえ。

 

 戦いたいから戦い、潰したいから潰す。

 

 それだけありゃあ、戦う意志さえあれば十分だ。

 

 

 そして互いの得物が激突して、轟音と火花があたしらを震わせて、眩い光で染め上げた。

 

 光の奥に、闘争の中で嗤うあいつの顔があった。

 

 いい顔してやがるな、全くこの戦闘狂が。

 

 そう思いながら、あたしも同じように笑ってやった、というかもう嗤ってた。

 

 

 楽しいな。

 

 てめぇとの殺し合いは、生きてる実感をあたしに寄越しやがる。

 

 忌々しい。

 

 

 忌々しいんだよ。

 

 

 そしてその事を嬉しく思っちまうあたしが一番許せねぇ。

 

 

 だからやろうぜ。

 

 いつもみてぇに。

 

 

 魂が砕け散るまで、あたしはてめぇと戦い続けてやる。

 

 そして互いに怒号を上げて、互いを求めて刻み合う。

 

 今のあたしらはさしずめ、竜と戦姫ってヤツか。

 

 気取ってやがるな。

 

 そう思って笑いながら、あたしはこいつと剣戟を交わし続ける。

 

 命を、魂の炎を燃やし尽くさんばかりによ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 















タイトルは「DRAGON」の歌詞の一部のもじりより

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