魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
あたしの意識が飛んでいく。
感覚的には何も感じねぇけど、心で色々な物を感じる。
身体に当るのは、何もかもを燃やし尽くしそうな熱を帯びた風で、それが大嵐みてぇに渦巻いてあたしを取り囲んでる。
その風に乗せられて、あたしの視界に色んな光景が映る。
青い空、壊れた街、グチャグチャになってる死体、鉄筋に串刺しにされた死体、腹から内臓を垂らして苦しんでる人間、が死んだ。死体になった。
死体、死体、死体。
燃え上がる街並みや倒壊するビルの奥に、邪悪な気配を感じた。
人間の上半身、爬虫類か昆虫みてぇな、魔女と比べても気持ち悪すぎる外見。
その化け物が暴れまわって、眼に映る全てを壊してく。
そいつはとても楽しそうだった。
その前に、真っ赤な機械の鬼が立ち塞がった。
勝負は一瞬だった。
いや、虐殺ってのが正しいな。
一方的に翼や腕や足を切り刻まれて、最後には赤い光に包まれて消えていった。
光はそいつだけじゃなくて、壊れた街も飲み込んでいった。
『お前は』
声が、というか意思があたしに届いた。
もちろん矛先はあたしじゃねえ。
それでも、意思に籠った憎悪を感じた。
『お前は…ゲッターと共に、生きながら無限地獄をさ迷うがいい………』
意思はそう言って、消えていった。
何を言ってやがるんだ、と思っているとまた場面が変わった。
光輝く空が見えた。
輪みたいに広がった光の中から、何かが出てきた。
数は四体。
外見の差はあるけど、あれは…。
「神、か」
仏って言葉でも通じただろうな。
でも、あの存在感と言うか…威圧感か。
あれは優しいものじゃない。
何もかもを見下して、蹂躙するのが目的って感じの連中だった。
こんな状況でもなきゃ、そんな事は思えなかったろうな。
素直に認めるけどよ、怖ぇよ。
なんだあれ。
理解を超えてやがる。
魔法少女なんてもんがいるんなら、神様ってのもいるのかもしれねぇけどよ。
あれは…。
そいつらの前に、あいつが立ち塞がった。
血塗れみてぇな深紅の体の猫耳みたいな角を生やした機械の鬼、戦鬼。
こいつ……恐怖ってのを知らねえのか。
そこから先の様子は、眼で追ったけど認識が追い付かなかった。
あたしが神って表現したそいつらの大きさはあいつよりデカくて、そして強かった。
動きが止まった時、あいつはボロボロになってた。
全身から血みたいなオイルを噴き出して、装甲もズタズタに切り裂かれてる。
「ふざけんな」
あたしはそう呟いた。何でだろうな。
考えた。
分かった。
相手が『神』って奴だからだ。
ああ、くそったれ。
そう思ったらむかっ腹が立ってきた。
あたしとこいつらは関係ねぇ。
親父が言ってた神様ってのはこいつらじゃねえってのも分かる。
でもよ、神なのには違いねぇ。
あたしがこうなったのは、あたしのせいだ。
でもそれでも、割り切れねぇ事だってあるし、怒りってのは湧いてくるんだよ。
「負けるな」
また呟く。
「負けるな」
呟く。
そして。
「立て!」
叫ぶ。
次に何を言おうか、一瞬だけ考えた。
「立て!ナガレぇぇぇえええええええええええええええええ!!!」
叫んだ。
なんでかその、爽快だった。
その瞬間、視界の全てを光が覆った。
緑色の光だった。
それは山の天辺を吹き飛ばして、大きなクレーターを造った。
その中心に、あいつがいた。
立ち昇る黒煙の中で、緑の光を帯びて輝いてた。
「殺っちまえ」
それを見て、あたしは笑った。
口角を吊り上げて、獣みたいに。
それから起こった事は…やっぱりというかあたしの理解を超えていた。
でも吠え猛る狂ったような叫び声を上げて大暴れするあいつに、ボッコボコにぶちのめされる神々の様子が見えた。
そして一際デカい金色の神が残って、あいつと対峙した。
宇宙空間…だろうな。
真っ暗な世界を螺旋みたいに飛び回りながら交差していって、距離を離した時に神が放った稲妻とあいつが放った真紅の光が激突した。その時だった。
『傀儡に魂を入れてはならんのだ』
頭の中にそう浮かんだ。
音としては何も聞こえなかったけど、神ってだけあってかなりの荘厳な声だった。そんな気がした。
『ゲッターは……ゲッター線は……』
「……ゲッター……セン…?」
なんだ、そりゃ。
センってのは……線ってコトか?
エネルギーって意味でさ。
となるとアレか。
あの緑の光がそれか。
それが魂?傀儡?
意味が分からねぇな。
こいつ、何言ってやがんだ?
そう思うと、イライラが込み上がってきた。
何を。
何を。
何を、何を訳の分からーーーーー。
『ワケの分からねぇコト言ってんじゃねぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
咆哮。
ああ、そうだ。
あたしが今思った事だ。
その瞬間、赤い光を覆い隠すように赤の表面で緑色の光が渦巻いて横長の大竜巻になって、稲妻を飲み込んだ。
そしてそのまま、緑があたしのところまで届いて、全てがその色に染められた。
その光を浴びた瞬間、あたしは灼熱の熱風の大嵐に巻き込まれた。そんな気がした。
「おい」
緑の光が熱と一緒に渦巻く中で、声がした。
若い男の声が。
「おいってんだろ」
背筋をゾクゾクとさせるような、あたしの中の雌を刺激する男らしすぎる声が。
口調は同じだけど、まるで別物で、そのくせに似てやがる。
「あー、佐倉さん?聞こえてる?」
声と一緒に、気配が近付いた。
その瞬間、身体が動いた。
足先で地面を蹴って、あたしは背後に跳んだ。
着地した時、ゆっくりと視界が開けていった。
その中に、そいつがいた。
あいつが。
あの地獄から、ここに来た奴が。
「お前、か」
そいつの姿を認めながら、あたしはそう言った。
声は震えていなかった…と思う。
「ああ。初めまして、ってコトになるんだろうけどよ、そう言うのも変だよな」
そう言って、そいつは不敵そうに笑った。
いつもみてぇに。
まるで別物の貌で。
よく似た顔で。
服装は何時ものジャケットに長袖のシャツ、そして長ズボンだったから大して差はねぇ。
デザインが外見に合わせて大人びた感じに変わってる感じか。
身長も二十センチは伸びてて、体格も格段に頑強さが増してやがる。
そして、こいつの顔は…。
めらめらと燃え上がる炎や、獅子の鬣か、研ぎ澄まされた刃の切っ先見てぇな髪型の下の、こいつの顔は…。
ああ……もう………くそ……あたしも………。
イキがっててもやっぱり女で、雌ってコトかよ……。
それと、こいつは………ヤバい。
ヤバすぎる…。
あたしの生き物としての本能が、そう叫んでた。
「んじゃ、改めて自己紹介すっか」
やめろ。
黙ってろ。
あたしを狂わせる気か、てめぇ。
やめろ、ナガレ…。
「流竜馬だ」
つっても、もう何度もそう呼んでやがったよな。
そういってこいつは笑った。
そこに悪意はねぇのは分かった。
でも、あたしの緊張感は全く解れなかった。
流竜馬。
こいつは……。
その名の通り………人の姿をした……。
ーーーーー竜だ。
遂に顕現、永劫の地獄を歩む竜の戦士