魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花㉛

「友人、お醤油取って」

 

「手ぇ伸ばしゃ届くだろ」

 

「あいたたた…両腕の結合部分が痛むよぉ。友人にお薬塗り塗りされた肉の中身がグネグネと疼くぅ」

 

「目玉焼きに掛けりゃいいのか?」

 

「うん。私は塩派だけど、君が掛けたいのなら仕方ない。私は無駄な争いは好まない主義でね」

 

 会話になっているのかなっていないのか、確実に言えるのはいつもの会話であるという事である。

 時間は朝の六時半、キリカの部屋で二人は朝食を食べていた。

 

 献立はレタスとトマトのサラダに舞茸の味噌汁、ベーコンエッグに焼きたての食パンという和洋の良いとこどりな内容だった。

 片手で醤油さしを使いながら、ナガレは右手でパンを持って齧っていた。

 香ばしく焼けたパンの小麦色の熱い肌の上で、黄色いバターが見る見るうちに溶けて沁みていく。

 見た目に違わぬ美味の様で、ナガレは満足そうだった。

 三口で食パン一枚を食べたナガレを、キリカは楽しそうに眺めていた。

 

 

「美味しそうに食べるねぇ。ちなみにそれ、母さんが焼いたパンだよ」

 

「美味いからな。いいお袋さんじゃねえか、作るのは大変だったろうによ」

 

「色々と正直だねぇ。にしても君、何か身体に異変はないかい?」

 

「なんだ、毒でも入ってるってか?」

 

「まぁ近いね。それ、強力な精力剤と媚薬マシマシ媚薬カラメの筈だから」

 

「ふーん。別に問題ねぇな」

 

「なーんだ。つまんないの。あ、友人。この目玉焼きさ、有精卵を使ってるんだけど見た目の感想を言ってもらってもいい?」

 

「目玉焼きが生きてるみてぇだな」

 

 彼の返事に、キリカは箸を置いて腹を抱えて転げまわった。

 足を絡ませ、交尾する蛇のように我が身を抱いて室内をゴロゴロと転がる。

 

「けはっ、くひ、くははひひひひひひひひひひひひひひ、ひ、ひひひっくはーひゃはははは!」

 

 奇声を挙げながら、両足を狂ったようにバタバタとさせる。

 今の彼女の服装は、ワイシャツとピンクのスカートの何時もの姿であり、激しい動き故にスカートの中身は簡単に晒される。

 その中身が下着で覆われていない事に、彼は最早突っ込まない。

 

 そういう趣味に目覚めたんだろうなと思っている。

 笑いのツボに入って転げまわるキリカを放置し、ナガレは目玉焼きを箸で二つに切って、半熟の中身が垂れたそれにベーコンを絡めて口に運んだ。

 醤油の塩気やベーコンの脂の甘味、黄身のまろやかさと白身の淡白さが口内で出逢い、交わる。

 

「うめぇなぁ。ほんと生きてるみたいだぞ、この目玉焼き」

 

 それが追加攻撃となり、キリカは更に大声を上げて、最早叫びとなった声を上げて転げまわった。

 数分後にキリカ母が部屋の扉を静かに叩いてキリカを呼び、「近所迷惑になるからやめなさい」と部屋の外で彼女を叱っていた。

 立場は母親の方がかなり上であるらしく、一分後に部屋に戻ってきたキリカはしくしくと眼に涙を浮かべていた。

 テンションが下がった模様であり、そのままぐずついた様子で綺麗に平らげ食事を終えた。

 一寸先は闇だな、とナガレは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…ぁあ!…ぅぅ…くっ…ひゃぁ…ひくっ!」

 

 その思いを彼は今も思っていた。

 場所は呉家の手洗い場。

 そのドアの反対側の壁から少し離れた場所に、ナガレは背を預けて立っていた。

 ドアの内側からは、少女の悲鳴というか喘ぎ声と水音が絶え間なく聞こえる。

 

 どうしてこうなった、と思えば簡単にその理由は分かる。

 朝食の中に含まれたものの効果が出た、ただそれだけである。

 どうやらキリカの母は自分だけではなく、娘にも薬を盛ったらしい。

 或いは朝食がロシアンルーレットとなり、彼女が当たってしまったのか。

 

 それが発症したのは食後三十分が経過した頃であり、そして彼女が「花摘み」に出てからも同じく三十分が経過していた。

 花摘みとは、今の彼女にとってかなりの皮肉だろう。

 繊手で摘まれて撫でられ弄ばれるのは、桃色と紅の鮮やかな肉の花弁であり、充血して固くなった肉の花芯であるためだ。

 彼女自身、彼に肩を貸されて階段を下りる際、耳まで赤くなった顔で彼にそう言っていた。

 

 開いた口から見える八重歯は更に鋭さを増しているように見え、黄水晶の眼は欲情の色に狂い掛けていた。

 それが理性を破壊する前に、彼女は手洗い場の中に入った。

 その間、熱くぬかるむ場所を刺激する指の動きと、熱病に呻くような喘ぎは一瞬たりとも止まっていない。

 

 

 

「……」

 

 無言で眼を閉じて、ナガレはそれが終わるのを待っている。

 何故ここにいるかと言われれば、今苦境と言うか快楽の最中にある当人に

 

「ここで待ってて」

 

 と言われたからだ。従うしかない。

 聞き耳を立てるのも失礼と、何時もの暇潰しを開始する。脳内での戦闘シュミレーションである。

 

 仮想敵は無数にいる。

 並行世界の自分の成れの果てである、皇帝を冠された存在。

 複数の多元宇宙を支配下に置いた、星々を喰う魔物。

 敵なのか味方なのかよく分からない、便利なナビゲーション機能を備えた終焉にして原初の魔神。

 

 そいつらを放置し、彼は仮想敵として真紅の魔法少女を選んだ。

 

 音速を軽く超え、閃光の如く乱舞する十字槍。

 迎撃の斧槍と激突し、一瞬にして数百の火花が散る。

 

 その火花よりも赤く紅く、真紅の魔法少女は鮮やかに輝き、獰悪で美しい乱舞を舞う。

 剣戟の度に異界の構造物や使い魔が切り刻まれ、地面にも亀裂が入っていく。

 

 世界を破壊しながら、自分と佐倉杏子が互いの命を奪い合う。何時もの事で、ここ最近離れている為に為せていない事だった。

 攻撃と防御を兼ねた剣戟の包囲網が崩れ、互いの得物が吸い込まる様に互いの首に迫る。

 

 その中で、水が流される音と扉が開く音を聞いた。

 彼の思考は、赤い幻となって消えた。

 現実に向かう時が来た。

 

 開いた扉から、細い影が倒れてきた。

 床にぶつかるよりも遥かに前に、ナガレが正面から受け止める。

 

 全身を汗で濡らし、濡れ羽色の黒髪もぐっしょりと濡れていた。

 衣服が汗で貼り付き、彼女の桃色に染まった肌をじっとりと晒し掛けている。

 ここに来た時と異なり肩を貸してではなく、彼女を背負って彼は階段を昇り始めた。

 十字架を背負ったかのような姿だった。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……ぁぁ……」

 

 キリカの部屋のベッドの上に、キリカは寝かされていた。

 濡れた衣服は替えられて、今の彼女は水色の寝間着姿となっている。

 今の彼女は動けない、そしてキリカ母は買い物に行っているのかここしばらくは不在である。

 

 着替えさせたものは一人しかいない。

 性欲の欠片も出さずに、彼は淡々と少女を着替えさせた。

 彼にとってその作業に興奮する要素など何も無く、ただやるべきことをやっただけである。

 

 解毒を終えて体調は万全と言ってからわずか数時間。

 あの時よりは軽いが今のキリカは高熱を発し、病人も同然の姿となっている。

 乾いたタオルやら額に貼る冷却シートに飲み物にと、スマホで情報を調べて一律を準備した。

 彼自身は頑強すぎて、今までの人生で風邪で寝込んだことが無かったのである。

 

 一通り自分を慰め尽くしたのか、今のキリカの性欲は鎮まっているらしかった。

 ただ身を焦がす熱に悶え、熱い吐息を吐き続けている。

 

 何かあった時のことを考え、ナガレはキリカが眠るベッドの傍に座った。

 気配を察し、キリカは閉じていた眼を開いた。

 涙で潤んだ黄水晶の眼は、地の底深くで輝く宝石の様だった。

 

「気分はどうだ?」

 

 月並みな言い方だが、他に尋ねる言葉の種類を彼は知らない。

 無知な野郎だと彼は己を少し呪った。

 

「悪くないね。とっても熱いけど、割と心地いいよ」

 

「そうか、ならよかったな。なんか欲しいものは」

 

「ヤリたい。殺し合いじゃなくて、セックスがしたい」

 

 言葉を遮り、キリカはその身が訴えかける欲望を口にした。

 

「熱くて柔らかい私の雌を、熱くて硬い雄で慰めて欲しい。私の中のグチョグチョに濡れた肉を、叩き潰す勢いで気が尽き果てるまで蹂躙し尽くして欲しい。体勢は問わない、正面からでも、獣のように後ろからでも好きなようにして構わない」

 

 直球極まりない言葉で、キリカは雄を求めた。対して彼は何かを言い返そうと口を開いた。

 それを塞ぐように、キリカは更に続けた。

 

「でも、今は駄目だ。これは私の意思じゃない。我が母に盛られた薬で誘発された、単なる肉の疼きだ」

 

 平然とキリカが言った言葉と事実は、戦慄と狂気の一言だった。

 しかし二人ももう慣れているのか、そこに特別な程の感慨は湧かない。

 やりかねないと思っていた事であるからだ。

 

「私が君を求めて欲情に狂う時は、完全に私の意思と欲望の元で狂わなければならない。そうでないと」

 

 続く言葉を、キリカは留めた。

 言うか言うまいか、酷く悩んでいた。

 その言葉は、彼女にとって重すぎた。全存在を掛けた言葉であるとも言える。

 熱で桃色になった顔には、亀裂のような苦痛が浮かんでいた。

 

「友人」

 

 身を引き裂く苦痛から逃げる為に、キリカは別の言葉を使った。なんだ、と彼は返した。

 

「今は…静かに、寄り添って…どこにも…行かないで」

 

「行かねぇよ」

 

 キリカの哀願。

 彼は即座に返事をした。

 そこにキリカは右手を伸ばした。

 

 何を求めているのかは分かっていた。

 両手で包む様に、ナガレはその繊手に自分の手を重ねた。

 らしくない事だという自覚は、彼にもある。

 しかしそれよりも、困っている者に何かしてやりたいという欲望の方が彼の中で強かった。

 

「何処にも行けねぇし、行かねえよ。お前が望むだけ、ここにいてやら」

 

 彼の返事に、キリカは満足しながら頷いた。

 

 

 




















重苦しい感情が描きたい

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