魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花㉗

 眼を開く。

 感じたのは嫌な感じの光と言うか闇と言うか、魔女結界特有の陰キャな雰囲気。

 そう思うと、全身に痛みを感じた。

 いや、痛みというか、熱くて寒いというか。

 体勢としては仰向けで、首を起こす感じに曲げてみた。

 

 うわぁ。

 そう思った。

 

 胸は根元から溶け崩れて、肋骨もぼろぼろ。

 心臓は動きを止めてる、というか消えてる。

 胃袋や肺も同じで、私ったら何で生きてられるんだろって感じ。

 凄いね、魔法少女って。

 

 でも何時もの事だから、もうあまり感慨も湧いてこない。

 代わりに別の感覚に気付いた。

 口の中に広がる味。

 新鮮な血の味、友人の味。

 

 少し前に思い浮かべた事を思い返すと、物質的にはほぼ存在していない胸の辺りがきゅーってなった。

 苦しくは無くて、なんかもだえる感じ。

 あぁ、アレだ。

 萌え。

 

 友人萌え、かわゆす。

 そりゃ私の子供みたいなもの…ってこのネタも随分になるね。

 友人は属性の塊だな、全くもう。

 

 

 あ、そういえばあいつ、どうしてんだろ。

 口の中の血の味が美味しい事を考えると、解毒には成功したんだね。

 

 アリナ毒に勝つとは、中々やるね。

 さっすが、私の世界観での唯一の男。

 私が遺伝子提供者に選んだだけはある。

 

「起きたか」

 

 噂をすればなんとやら、当の本人が声を掛けてきた。

 この呼びかけも結構耳にするね。

 まぁ私はメインヒロインだから仕方ないか。

 

 声がした方向は私の左側。

 そっちに顔を向けると、私に背を向けて立つ友人がいた。

 

 ジャケットやズボンは血塗れだった。

 主に私の溶けた血肉だね。

 

 今の友人は、全身が私の匂いで満ちてるに違いない。

 実際、そんな匂いがした。

 こんな状況だけど、私は欲情の疼きを感じた。

 友人てやつは結構蠱惑的だな。

 

 そんな友人の前に、巨大な何かが聳えてた。

 何かと言いつつも、感じた魔力のパターンはほぼ同じ。

 外見を率直に例えると、本体がオナホで腕に相当する部分がアナルパールだかビーズだかのクソデカい魔女。

 倒した筈なんだけど、なにこれ、どうなってんの。

 

「使い魔が成長しやがった。初めて見たぞ、あんなの」

 

 おう、状況説明ありがとう友人。

 お礼を言おうと思ったけど、声が出ない。

 

 流石に声帯とか喉がやられたか。

 それと今思ったけど、この私の視点ってアレだね、RTA動画的なのの走者な感じ。

 

「使い魔って、魔女を喰いやがるんだな」

 

 え、なにそれ。

 

「起きた時な、綿だか芋だか分からねぇ形してる使い魔が死に掛けの魔女に群がって貪り食ってやがった。その中の一匹が周りの使い魔まで喰ってデカくなったのがあいつだ」

 

 状況説明の長文を言う友人の息は荒い。

 もう戦闘に入ってるみたいだね。

 まだ毒が残ってるのかな、友人が右手で持った得物の斧魔女は形が崩れてたりとダメージド状態だ。

 だらしないね。

 

 あ、そうか。

 匂いからして友人の両手や胸からも私の匂いがする。

 治療で付いたのもあるだろうけど、香りが新鮮な所を鑑みると、そうか。

 私を抱きながら戦ってたか。

 

 まぁ、状況的にはそうだよね。

 今更だけど、周りに沢山の穴ぼこが出来てる。

 戦闘はそこそこ前から続いてるみたいだね。

 病み上がりによくやるよ。

 

 

 

 嗚呼、萌える。

 あ、何処とは言わないけどちょっと湿ってきた。

 

 

 

「来な。出し惜しみはナシだ」

 

 友人はそう言った。

 声の矛先は私じゃなくて、手に持った魔女。

 間女め。

 

 何をやらかすかと思ったけど、この光景は前にも見たね。

 私の身体を半分くらいミンチにさせた、魔女との合体技。

 やっぱり間女じゃないか。

 

 あの魔女、いつか殺してやる。

 ハイ、決ーめたっと。

 細かく砕いた斧は朱音麻衣の全身に入れ墨みたいに入れてやって、残った柄は佐倉杏子の口から尻までを通す串として使わせてもらおう、そうしよう。

 

 そう思ってると、魔女は前の時みたいに黒靄に形を変えて友人へと向かった。

 前と違っているのは、それが覆う場所が右手じゃなくて友人の全身ってところ。

 無数の蠢く虫が這い廻ってるみたいに、友人が真っ黒い靄に覆われる。

 

 やめろ。

 やめろ、間女。

 友人に触れるんじゃない。

 

 昏い感情が湧いて来た時、黒に染まった友人は地を蹴って跳んだ。

 流石は強化形態的なのってことなのかな。

 ひとっ跳びで、二十メートルはある魔女よりも高い場所に身を躍らせてる。

 

 そこに向かって魔女はパールを連ねたみたいな、卑猥にも見える手を振ろうとした。

 させないよ。

 速度低下を喰らいやがれ。

 

 魔女は身体の天辺にある眼で私を見た。

 私の魔力は枯渇寸前で、速度低下の効果も一瞬しか期待できない。

 魔女は次は私にトドメを刺す気だろうね。

 でもその一瞬で十分なんだ。

 

 なんでかって?

 友人を信じてるからさ。

 それも何故って聞かれたら、友達だから信じてるに決まってるって答えるよ。

 

 私を見る魔女の身体が、光で染まった。

 魔女はその光の根源を見た。

 私もそこを見た。

 見覚えがある光は、太陽の色をしていた。

 

 黒く染まった友人の手の中で、光が育まれてる。

 その力の中に、私は私自身を感じた。

 

 そうだ、あれは私だ。

 私が友人からもらった毒血を飲んで、治癒の魔力を含ませた私の血肉を飲ませてあげた時の力だ。

 

 あれを使って、友人は合わせた両手の間で光を作った。

 なんだろう、この気分。

 凄く嬉しい。

 あとなんていうか、尊い。

 

 ああそうか。

 共同作業ってやつかな。

 良いね。

 萌える。

 

 光に照らされて、友人を覆う黒が逃げる様に離れようとする。

 でも友人はそれを許さない。

 

 逃げる為に伸びた黒は、強引に形を整えさせられてく。

 背中の靄は翼みたいな、それも蝙蝠か悪魔みたいな形になった。

 

 手や足も伸びて、まるで蜘蛛の手足みたいないびつな形になってる。

 そして友人の頭からは、左右の辺りから大きな角みたいな突起が生えてた。

 角と言うか、猫の耳みたいな感じかな。

 

 そう、アレだ。

 友人の乗り物に凄く似てる。

 

 そして友人は太陽みたいな光球を持った両手を後ろに回した。

 その時、友人の声が聞こえた気がした。

 くぐもってたけど、あれは叫びだったと思う。

 

 ストナー…って言ってたと思う。

 前にこれを使った後、そんな言葉を呟いてたような気もするし。

 どんな意味だろ、そもそも英語なのかな。

 

 でも、言い語感だ。

 ひどく発音もいい。

 

 そして両手を前へ突き出しながら、また友人は叫んだ。

 サンシャイン。

 そう聞こえた。

 

 ふむ…『ストナーサンシャイン』か。

 

 いいね。

 センスを感じる。

 

 その光に照らされる友人は、悪魔みたいな姿だったけど、凄く格好良かった。

 あの姿は多分、魔女が本調子じゃないせいでああなった歪んだ見た目なんだろうね。

 いつかちゃんとした姿で見られるかな。

 だといいな。

 

 その時は…そうだね。

 佐倉杏子との決戦時、なんて良さそうだね。

 

 いつかその日が来るのが楽しみだよ。

 あいつはストレス抱えてるし、そう遠くないのかも。

 楽しみだなぁ。

 その時には思う存分、あいつを切り刻んでやろう。

 喉辺りを敢えてグチャグチャに汚く切って遣って、無意味に苦痛と屈辱を与えるのもいいなぁ。

 

 そう笑ってる間に、友人が放った光は魔女に命中して、あの巨体を破壊の光で包んでた。

 苦痛に身もだえする魔女の装甲が溶けて、割れて、引き裂けて、光の中で砕けていく。

 大きな目や宝石もぐちゃぐちゃに溶けて蒸発してく。

 凄いねコレ。

 

 そして最後の抵抗というか道連れって事なのかな。

 砕けてく魔女は車くらいの大きさの破片を飛ばした。

 友人にじゃなく、私にってところが魔女らしくてやらしいね。

 

 でも、私に不安は無かった。

 破片が見えた時には、私の身体は強い力に抱かれてた。

 そして空を切って、凄いスピードで飛んでいく。

 

 破片は虚しく地面を抉ったらしくて、そんな感じのカランって音が聴こえた。

 自分の破片を飛ばして乙女を道連れにしようとは、なんて奴だよ、全くもう。

 

 でもこの状況を作ってくれたことには、感謝してやってもいい。

 悪魔みたいな翼が視界の殆どを覆って、細いけどがっしりとした腕が私の身体をぎゅって掴んで、抱いた。

 その頃には友人の手は元に戻ってた。

 友人の熱い体温が、私の冷えた身体を温めるのを感じた。

 

 私も腕や脚で抱き返そうとしたけど、それは無理だった。

 どうやら、手足が胴体から離れてるみたいだ。

 残念だね。

 

 黒い靄の奥で、友人の鼓動を感じた。

 胸に顔をくっ付けながら、上目遣いで私は友人の顔を見た。

 黒く渦巻く眼が見えた。

 いつもと変わらない、殺る気マックスなぐるぐるおお目々。

 

 それに安心したのか、私は思わず笑ってしまった。

 黒い靄越しだったけど、友人が「なんだこいつ」って感じの顔になったのが分かった。

 それがまた面白かったから、私はまた笑った。

 

 そして遠くで、光が破裂する爆発音が鳴って、その奥からは魔女の断末魔が聴こえた。

 消えていく魔女の世界の中、身体を絡ませた私達は、何処までも一緒に飛んでいった。

 

 


















比較的健全なお話でありました

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