魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花㉓

 ごくり、ごくり、ごくん。

 

 血は友人から幾らでも湧いてきて、そして幾らでも飲める。

 

 味を感じる舌が直ぐに溶けて、味わえないのが残念だね。

 

 それにしても情けない。

 

 毒を受けた君は形を保っているのに、私ときたら酷い有様だ。

 

 私は君の毒血の受け皿だ。

 

 君から得た毒を魔力に変えて、君を癒させてもらってる。

 

 報酬は君の血とその味だ。

 

 なのに半分しか得られていない。

 

 私が受ける毒は君を介してある程度清められたものだというのに、毒に耐性がある筈の魔法少女の私をぐずぐずに溶かす。

 

 こちらも毒に抗う為に必死になっているのだけど、どうやら毒自体も変化…いや、あの糞女にあやかって変態としておこう。

 

 変態して強くなっているらしい。

 

 最早新たな生命だな。

 

 苛立たしい。

 

 

 こうして何分経ったかは考えていない。

 

 幸福な時間は過ぎるのが早いし、そうでない時は時の流れが遅すぎる。

 

 幸いにして今はとても早く感じる。

 

 奴の毒で身体が溶かされる苦痛よりも、友人に触れることの楽しさの方が上だから。

 

 友人から滲んだ毒血が私を溶かして、溶けた血肉に魔力を宿して友人に渡す。

 

 友人の血は全て私のもので、渡すのは私由来の血肉だけ。

 

 一マイクロリットルたりとも、返してなんてあげないよ。

 

 歯も全部グズグズで、気道も倍くらいの広さになってる。

 

 今はもう胃も融けて、はらわたや色んな臓器もデロデロにされてるね、これは。

 

 外に漏れるのだけは嫌だから、肉の内側を装甲みたいな魔力で覆って頑張って耐えてる。

 

 私の中は、溶けた肉と毒でたぽたぽの状態だ。

 

 君を治癒するための最低限の管だけは形を保たせて、君に血肉を送る事は絶やさないようにしているよ。

 

 そして私は乙女だから、汚いものは君に行かないように工夫を凝らしてる。

 

 気配りに感謝してくれたまえ、友人。

 

 ふむ。

 

 状況としては嫌なものだけど、授乳とはこんな気分だろうか。

 

 または臍の緒で繋がる胎児と母体な関係に近いかもしれない。

 

 それと性交や相手の…そう、身体の一部をしゃぶったり舐めたりする行為を行う時の心境も。

 

 となると案外悪くないのかもしれないな。

 

 もちろん衛生観念には気を付けるから、実行するときは互いにちゃんと準備をしてからになるね。

 

 ううむ、それにしても友人め。

 

 私の性癖をどこまで歪めれば気が済むんだ?

 

 前にも考えたが、それが萌えという奴なのか?

 

 そう考えていると、頭にくらっときた。

 

 おかしいな、脳味噌はもうとっくに蕩けてて、使い物にならないはずなのに。

 

 となると魂の方か。

 

 あ、これヤバいね。

 

 じわじわと滲む感覚がする。

 

 例えるなら思いっきりドロドロとした経血が止め処なく出てるような、傷口が膿塗れになって、しかも傷から蛆虫が沢山這い出てくるようなっていうのかな。

 

 前者は兎も角として、後者は佐倉杏子は知らないだろうから今度教えてあげよう。

 

 なに、肉が腐っていく様子を見せられるのも人生経験の一つだよ。

 

 中々に肝が据わる状況だった。

 

 あ、そういえばその時は抉り取られた肝を口に咥えさせられてたんだっけ。

 

 いや、子宮だったかな?

 

 あのド変態はそんな私を見ながら、自慰行為しつつ絵を描いてたんだよね。

 

 思い出したら吐き気がしてきた。

 

 でも友人と唇を重ねてるから吐くに吐けない。

 

 頑張れ私、つわりの体験版だと思って耐えろ、私。

 

 なんにせよ、濁り切る寸前だ。

 

 でもやる事はしないとね。

 

 君の血を飲むのは精神の健康に良い。

 

 だから構わず続行しよう。

 

 でもくらくらが止まらない。

 

 ああ、駄目だこれ。

 

 じゃあね、私の身体。

 

 後は任せたから頑張っててね。

 

 そう思うと、私の意識はすうっと薄れていった。

 

 そう言えばちょっと前にもこんな事があったよね。

 

 まるで脚本の使い回しみたいな展開だ。

 

 それが最後の思い、だった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が消えて、またすぐに戻った。

 

 目覚めた心の目の前に、視界の隅々まで同じ色が広がっていた。

 

 

 草原。

 

 そう思った。

 

 一面に緑が広がってる。

 

 草が生い茂った原っぱ。

 

 そういう風に見えた。

 

 でも違った。

 

「げっ」

 

 緑は私の足元にもあった。

 

 黒い丸靴の先に落ちていたのは、生首だった。

 

 髪も肌も、捩じ切られたのかささくれた繊維を見せた断面と、そこから流れる体液も緑の首。

 

 その形には見覚えがあった。

 

 だから踏み潰して遣った。

 

 簡単にぐちゃっと潰れて、濃緑色の脳味噌が目や耳や鼻からにょろっと芋虫みたいに出てきた。

 

「ざまぁ。糞アリナ、ざまぁ」

 

 息を吸って吐く様に、私はそう愚弄した。

 無力なものを破壊する事に、罪悪感は殆どない。

 友人がそれをみたら嫌な顔するだろうなと思って、ちょっと嫌な気分になるだけ。

 

 そして久々に自分の声を聞いて、口内で蠢く舌とかち合う歯の感触を覚えた。

 身体も五体満足で体内の臓物も元気いっぱいに蠢いているのを感じる。

 スカートの中のスパッツも肌にぴっちりと張り付いてて、色々とくっきり形を見せてる。

 

 うむ。

 買ってもらった下着が汚れるのが嫌で、こっそり脱いでたのもちゃんと再現されてるね。

 あとでまた穿かせてもらおう、そうしよう。

 

 それにしてもこの状態でくぱぁってしたら、大体の男は落ちそうだな。

 やる気も無いし、友人相手にやったら多分怒られるからしないけど。

 

 

 変な状況だけど、こういうのは最近あったからすぐ分かった。

 ここは精神世界だ。

 多分互いの感情が混じり合った、なんていうかアレだよ。

 エヴァ的な世界。

 電車がゴトゴトって動いてるときみたいなさ。

 

 なるほどね。

 やはり友人とイロイロすると精神的に成長するらしい。

 とするとアレか。

 それこそセックスでもすれば、更には子宮に命を宿せれば更に躍進できるのかな。

 

 そう考えてると、何かが飛んできた。

 爪を生やして右手で払った。

 三つになった破片は、両手を捥がれて臍の上あたりで切断された胴体だった。

 断面からは千切れた腸が飛び出てて、私が付けた傷からは緑色の心臓が見えた。

 ぶちぶちと繊維が引き千切られた首は、私が潰したそれとぴったり合う感じだった。

 

 友人に対する私のキャラ付けとして、義務的に行っている死体損壊を今回も行った。

 抉り出した心臓を興味深く観察してから、歯形を付けて首の断面に開いた気道に突っ込んでやった。

 ちょっと面白かったけど、友人がいないと面白くないな。

 リアクションを発する相方は絶賛募集中。

 但し友人に限る。

 貼紙でも貼っておこうかな。

 

 この損壊は面白いから、今度はアリナ本人か佐倉杏子で試そう。

 それにしても、佐倉杏子は魔法少女の真実を知ってるんだろうか。

 知らないと面倒だな、今のうちに回想パートも踏まえた真実の突き付け台本でも書いておこうかな。

 

 思いながら、考えた事をメモにした。

 ペンとメモ帳は上着のポケットに入ってた。

 この便利さは精神世界特有で、奇跡と魔法ってやつだね。

 

 暫くペンを走らせてると、また何かが飛んできた。

 見てみると、何個も新しいものが落ちてた。

 物書きに夢中になり過ぎて、気が付かなかったみたい。

 

 メモに書かれた話の内容は何時の間にか、佐倉杏子がフラストレーションからか発狂して、何を思ったのか病院で大暴れする長編作品になっていた。

 最悪な事に、奴は産婦人科を襲撃していた。

 書いてて思わず、義憤を感じてしまう鬼畜の所業だった。

 これも私が母と言う存在に近付いている為だろうか?

 

 佐倉杏子は臨月の母親の腹から胎児を引き摺り出して貪り食ったりしていた。うええっ。

 それに続いて、保育器の中で眠る赤ん坊の頭を握り潰してから、母子共々切り刻んで作った屍の山の上で自慰行為に耽って悦に浸ってる場面。

 こんな奴は生かしておく理由も無いから、私と友人に死闘の果てに惨殺されるっていう、そこそこに有り得そうな未来を描いていた。

 

 状況的には私は赤ちゃんを産んだばかりで戦意は有るけど、デバフが五重に掛ったパワーダウン状態。

 お包みに包まれた我が子を抱き、志半ばで果てた朱音麻衣の死体を蹴飛ばして奴の槍の盾にして、その間に友人があいつの頭頂から股間までをハルバードで真っ二つにする。

 二つになった断面を見て、私は佐倉杏子の苦悩を察する。

 そして哀し気に「でもこれで処女を捧げられたね。おめでとう」と告げて、天使のように微笑む我が子を抱きながら物語を終わらせる。

 

 ううむ、中々悪くない話だ。

 でも学校の作文とかには使えないな。

 多分何かと問題になってしまう。

 誤解されやすいけど、私にもちゃんと倫理観とか善悪の心は有るんだよ。

 

 あと私はさっきハルバードと言ったけど、本人はあの斧槍を『トマホークだ』って言ってて聞かないんだよね。

 トマホークって、インディアンな方々が使う手斧って意味だった気がするんだけど。

 まぁ友人はあのデカいのを手斧か小枝みたいに振り回してるから、本人的にはそんな感覚なのかな。

 

 そこでパタンとメモ帳を閉じて仕舞うと、また何かが落ちてきた。

 今度は千切れた臓物だった。

 形からして肝臓かな。

 

 あれだよあれ、プルシュカから抜かれてた奴。

 そんなのが沢山散らばってた。

 

 他にも切断された手足や胴体、首におっぱいにと多種多様。

 人体の投げ売り状態だね。

 あ、これちょっと面白い表現だ。

 メモッとこ、めもめも…。

 

 メモを終えると、私は前を見た。

 自分の行動を振り返ると、友人との会話同様に脱線が多い。

 

 これも朱音麻衣っていうヤンデレ女が悪いんだ。

 あいつがさっきの妄想の中で、さっさと佐倉杏子を仕留めていればここまで創作行為に没頭しなかった。

 まぁいいや。

 あんな性欲に爛れた倒錯者共はほっとこう。

 

 それにしてもヤンデレか。

 私には理解できない感情というか属性だな。

 

 

 

 

 

 前を見る。

 緑が群がっていた。

 

 緑は全て、あの女と同じ形をしてた。

 違うのはちゃんと服を着てるところ。

 

 あいつは私と会う時は、下半身はタイツとガーターベルトしか付けて無かった。

 股からは液が駄々洩れでぬめぬめしてて気持ち悪い。

 五分に一回は自慰を始めてイキまくってた(突っ込んでた指の深さからして処女みたいだけど、あいつにも乙女心とか恋心とかあるのかな。きもちわるっ)。

 

 でも今は服をちゃんと来てる。

 淑女の嗜みとでも言うんだろうか。

 にしても、何故あいつは軍人風の姿なのか分からない。

 ああ、あれか。

 SMの女王様的な感じか。

 なるほどね。

 

 でもねアリナ、そいつは簡単にはいかないよ。

 そう思ってほくそ笑む。

 上下左右から一点に向かってく。

 駈け出したり、跳び上がって襲い掛かっていた。

 何に?

 彼に。

 その中央で、暴れるものに。

 

「元気だな、友人」

 

 頭から足の爪先まで、コールタールを浴びたみたいに、友人の姿は真っ黒だった。

 振り切った斧でばらばらになるアリナ共の奥に、そんな見た目の友人がいた。

 

「なるほど、これは毒に抗う様子の暗喩か」

 

 私はこう言う処は察しが早いからね。

 考察をグダグダするのは好きだけど、自分の身の回りの事象でそれをやるのは好きくない、時もある。

 今は友人が見たい。

 

 両手にはいつものハルバード、友人の意思を尊重するならトマホークが握られてる。

 それが回転翼みたいに振り回されて、アリナたちを切り刻んでく。

 客観的に見ると、よくもまぁ、あんなのと私は渡り合えているもんだなと感心する。

 

 アリナたちの死体が友人の足元に散らばると、あの女達は友人から距離を取って両手を突き出した。

 手の間には、緑色のルービックキューブみたいのが浮かんでる。

 あ。アレはヤバい。

 

 弓なりに身体を反らせてポーズを取ると、キューブから無数の光が発射された。

 それが友人を取り囲む周囲から。

 光である訳だから、光った次の瞬間にはそれらは着弾していた。

 それを撃ったアリナ達の身体に。

 

 無音で…ああそうそう。

 この場所では音が全くしないんだ。

 だからあの女のキョーキョキョキョって変な笑い声もしないし、上半身が消し飛ぶ音も肉や内臓が焼ける匂いもしなかった。

 

 バタバタと無様に倒れるアリナの中央で、友人はトマホを振り切ってた。

 一度遠目で観たけど、いやはや、熱線を斧の一振りで拡散させるとかどうかしてるよ。

 しかもそれを跳ね返して攻撃にするなんてね。

 戦闘センスが高いね、君は。

 そのせいかな、殺し合いが飽きないんだよ。

 

 感慨深く思っていると、緑の中央に立つ友人が動いた。

 ああ、緑ってのは、更に言えば最初に思った草原っていうのはアリナ達の死体だね。

 それは見える限り、地平線の先ってところまで広がってる。

 

 友人てば、治癒の暗喩とは言えあの女を殺し過ぎだよ。

 その緑に変化があった。

 形を溶け崩させて、光になって空に舞い上がっていく。

 

 不覚ながら、綺麗だなと思った。

 無数の蛍が、飛んでいくように見えたから。

 

 友人はどうしてたかと言うと、そこにはいなかった。

 でも代わりに、別のものがいた。

 でも友人のままだった。

 

 友人の形は、何時の間にか変わっていた。

 その頂点を見上げようとして首を傾けた。

 猫みたいな頭をした、ゴツゴツしつつも滑らかさも伴った大きな身体がそこにあった。

 背中をマントみたいなボロボロの布が覆ってる。

 中々にセンスが良いね。

 

 あの時は赤だったけど、今の友人の色を反映してか色は黒だった。

 黒猫っぽいね。

 

 大きさは、数日前にも見たけど五十メートルはあるだろう。

 友人の乗り物だな。

 今は何処にあるんだろ。

 

 それも更に、その大きさのくせに空を見上げてた。

 地上の隅から隅まで広がる緑が、空に吸い込まれていった。

 空の色は無色透明。

 そこをキャンパスにするみたいに、何かが描かれてく。

 

 それは一瞬で顕れた。

 友人の持ち物に、よく似ていたと思う。

 多角形の顔に、大きな角が沢山生えていた。

 

 それは緑の光で出来た、大きな大きな、空を埋め尽くす大きさの顔だった。

 

 鉄仮面や岩みたいな、無機質さが感じられたけど、でも生き物みたいにも見える。

 

 形の詳細は、分かるんだけど分からない。

 

 分かりたくないのだと気付く。

 

 よく見ろと心をしっかりさせようとするけど、上手くいかない。

 

 怖いから。

 

 見たら私が私で無くなりそうだから。

 

 そう思うと怖くなった。

 

 助けてと思って、友人を見た。

 

 その時、私は感じた。

 

 友人から気配を察したというか、そう思った事なのだけど、あの時に見た友人は凄く怒ってた。

 

 今まで感じたことが無いくらいに。

 

 

 ああ、そうか。

 

 

 あれは、友人の憎悪か。

 

 たしかに、私はそれを感じたことが無い。

 

 友人は魔法少女を怒っても、憎んだことが無いんだろう。

 

 でも、友人は憎しみを持って空を見ていた。

 

 空一面に広がる、自分の持ち物とよく似た貌をしたものに。

 

 そこで気付いた。

 

 友人の気配は、そこだけじゃない事に。

 

 空のそれも、友人と似た気配がしてた。

 

 これ一体、って思った瞬間理解した。

 

 理解したくないけど、そうとしか思えない。

 

 友人にとって、あの大きな存在は自分と同じ…。

 

 

 

 

 

 もういい。

 

 怯えるのは此処迄だ。

 

 ここまで来たら見てやろう。

 

 例えるならX線が人体を見透かすみたいに、私も君の心を解析してやる。

 

 どこに隠れてようが回析して追い廻し、君の正体を突き止めてやる。

 

 いくら君でも、放射線には敵うまい。

 

 そうだ。

 

 私はそれでいい。

 

 全てを貫き、見透かす光になって構わない。

 

 君を貫き縫い留める、針のような光に、光のような針になろう。

 

 駆り立てられるような衝動のままに、そう思って私は眼を閉じた。

 

 再び開く頃には、もっと深いところにいる筈だ。

 

 こういう現象の時は、物語の都合的にそうなるに違いない。















一週間遅れとなりましたが、アニメ版ゲッターロボアークに携わった方々に無限の感謝

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