魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花⑲

 一人用にしては広めの部屋を、優しい光量の電燈が照らしている。

 小さめの細長い横長テレビの前には、最新機種のゲーム機が置かれていた。

 テレビ画面には電源が入れられ、画面の中では勇壮な騎士や戦士たちが異形達と対峙する様子が描かれていた。

 前にあるゲーム機にも電源が入っており、ケーブルもテレビに繋がれていることから、どうやらゲームのムービーらしい。

 だが奇妙な事に音は生じていなかった。

 見れば、テレビの右上にはミュートの表示が浮かんでいた。

 

 無音で活劇を映すテレビの右横には大きな本棚が幾つか並び、その中は隙間なくびっしりと本が詰められていた。

 タイトルからして漫画やライトノベルが多く、部屋の主の年齢に相応しいランナップだった。

 

 部屋の中央には四角い机の上には開封されたポテチが置かれ、包装された紙コップが立てられている。

 既に開封されており、二つが机の上に乗せられていた。

 両方とも中身が満たされ、葡萄ジュースが深紅の水面を見せていた。

 その表面が微細な震えを見せていた。

 

 それでいて、室内に音は無い。

 正確にはほぼ無いといったところである。

 室内の端から端を、一本のぴんと張られた糸が繋いでいる。糸の両端は、それぞれ紙コップの底に繋がっていた。

 片方はベッドの上に体育すわりで座す美しい少女の耳元に当てられ、もう片方は部屋の左端に座る(几帳面にも正座をしている)美少女じみた貌の少年の口元に当てられていた。

 糸電話を用いてナガレが何かを話し、呉キリカがそれを聞いている。

 

 一見すると微笑ましい光景、であるのだが。

 この二人が行うというよりやらかす事柄がまともである筈が無い。

 

 彼の話を聞くキリカは、右手で糸電話を持ちもう左手を口元に当てて声を発するのを抑えていた。

 その顔は耳まで赤く染まり、黄水晶の瞳が嵌めこまれた眼は涙で潤んでいた。

 

 華奢な身体はビクビクと震え、それが振動となって紙コップの水面を揺らしていた。

 細い肩の痙攣は官能的でさえあった。

 その様子はまるで情事の最中、与えられる快楽と共に耳元で囁かれる甘い言葉に身を震わす乙女である。

 それを面白げに、それでいて性的な要素は見出さずキリカが行う珍しいリアクションを、可愛い猫の仕草のように楽しみながらナガレは何かを話していた。

 

 しかし時折その顔に憂いが掠めた。

 原因は彼に右側面を向けたキリカの下半身にあった。ベッドに沈み込み、キリカの尻は持ち上げられた掛け布団によって隠れていた。

 しかし彼女が動くたびにそれがズレて、桃色のスカートの中身を晒しかけていた。

 痩せている割には肉の付いた、白桃のような尻の横顔が視界にチラつく。

 

 そして彼に不安を与えているのは、それ以上の部分が映る事だった。

 死闘を終えて呉亭に到着して三時間。キリカはまだ下着を着用していなかった。

 真っ先に履いて貰うべきだったなと彼は思いつつも、状況故に眼を逸らすことは不可能であった。

 更に思えば、ここは彼女の部屋であり極論を言えば彼の言葉に従う謂われは無い。

 この格好で過ごしたいと言われればそれまでである。

 現実逃避をするように、どうしてこうなったのかなと彼は思い返した。

 そういえば最初にこの部屋に来た時も、こんな感じに回想に入ったなと彼は思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー…『私、呉キリカ以下甲は友人以下乙との契約に従い、何時でも何処でも強姦・陵辱・あらゆる性的倒錯行為の生贄となる事をここに誓います』っと。これで満足かい、友人?」

 

 四角テーブルの近くに座布団を敷いて座りながら、キリカは憤然と言った。

 座り方は胡坐であり、中々に危険であった。

 

「俺はんなこと言ってねぇだろ。ついでに以下って言いながらも最初の一回しか出てこねぇしよ。ていうかキリカお前、それで良いのか?」

 

 その右横に座るナガレも憤りを交えて返した。

 彼にしては妙に突っ込みが細かい。

 このあたりは嘗て、新宿にあった自分の道場の土地の権利を取られた時に発揮された、偽造契約書を一目で見破った能力が無駄に発揮されている為だろう。

 

「良い訳がないだろ。今まで散々伏線的に言ったってのにもう忘れたか。私は強姦が大嫌いなんだ、反吐が出る」

 

「じゃあ、なんでんな事言うんだよ」

 

「君を篭絡して我が胎に命を宿すための誘惑。興奮したかい?」

 

 これで満足か?と言わんばかりに、キリカの黄水晶の瞳には糾弾の冷気が宿っていた。

 

「いんや。あの店でお前が言った、お前が輪姦される話みてぇに胸糞が超悪くなった」

 

「それは悪い事したね。ごめんよ」

 

 一転してシュンとなるキリカ。

 見たものが思わず、何もしていないのに罪悪感を覚えかねないような、そんな沈痛な表情を浮かべていた。

 無言で頷き、彼女の謝罪を受け入れるナガレ。

 気を取り直して話を進めるべく口を開いた。

 

「守ってもらう事は単純だ。これからする俺の話を聞いて『暴れない』『キレない』『人を殺さない』で、もしも暴れたくなったら俺に言え。存分に相手してやら」

 

「分かったよ。友人」

 

 豊かな胸をかき分けて心臓の真上に右手を置いて左手を彼の胸に当て、キリカは彼の言葉を繰り返した。

 

「これでいいかい?」

 

「ああ、警告はしたからな。お前もちゃんと守れよ」

 

「私は魔法少女だからな、契約は守るさ。さて…契約完了か。ふむ」

 

 意味深に呟きながら、キリカは首に肩にと身体を回し、各部を確認する。

 シャツの胸元を引いてブラをしていない肌を見たり、スカートの前も同じようにして中身を見る。

 衣服による闇によって中身は自分には見えなかった。見ていないと彼は思う事にした。

 一通り確認すると、

 

「肉体的にはなんの変化も無いな。肌や服にお洒落な紋章が浮かび上がる訳でもない」

 

 と言った。

 

「何のことだ?」

 

「いやね、君って異界存在だろ?だからこういうことしたら、主従かパートナー契約的なのが発生するのかと」

 

「そういうモンなのか?悪いけど俺にそんな能力はねぇよ」

 

「なーんだ。せめて子宮の真上に桃色ピンク、縮めてモッピーな淫紋くらいは刻まれるかと思ったのに」

 

「インモン…?なんだよ、それ」

 

「君はモノを知らないんだな。流石は私のベイビーちゃん」

 

 優しく微笑むキリカの表情は慈母のそれであった。

 案外いい母親になるのかもしれないなと、ナガレは客観的な感想を思った。

 

「読んで字のごとく、淫らな紋章。『孕ませる・孕む』って意思の紋章。こんな形してる」

 

 そしてスカートの布が貼り付いた下腹部の上に、両手で逆三角形を作って添えた。

 子宮の暗喩であるとは彼にも一発で分かった。

 

「俺をどんな目で見てやがんだお前は。ていうか紋章?それ付けてどうすんだよ」

 

「勿論有効活用するさ。出来損ないツンデレの佐倉杏子や、発情パープルヘアの朱音麻衣に性的マウントが取れて愉快だ。あいつらの悔しい顔が眼に浮かんで精神的に健康になれる。そして寿命が延びて君と交われる可能性が上がる」

 

「要は長生きしてぇって事か」

 

「せっかくパワーワードを幾つか盛り込んでやったってのに、注意を引くのはそこかい」

 

「俺なんかがその、拠り所でいいのかねぇ」

 

「私が勝手にやってる事だし、そんなに気負わなくていいよ。にしても、さっき聞いたけど君が好きな年齢は私達プラス十歳くらいか。残酷だね、君」

 

「残酷か」

 

「ああ。魔法少女生活は苛酷でね」

 

 キリカの黄水晶の瞳に変化が生じた。瞳孔が縦に窄まり、爬虫類を思わせる捕食者の眼と化した。

 

「偉そうなこと言えねぇケドよ。ここ数か月お前らにくっ付いて生活してて、少しはお前らの事を知れた」

 

 その眼に真っ向から向き合い、彼は言葉を続ける。

 

「大した事してるよ、お前らは」

 

「君から見てもか。光栄だね」

 

「だからって訳でもねぇけど、少しくれぇならお前らを手伝ってやれる。偉そうな言い方で悪いけどよ」

 

「そうだね。ちょっと上から目線で少しムカッと来た」

 

 拗ねた口調でキリカは言う。

 

「でも、自覚してるのはポイント高いね。友達補正で好感として受け取っておくよ。おっと話が脱線したね」

 

「何時もの事だな、悪い」

 

「すぐに謝る。私の好感度ポイント無限分の1追加。まぁ友達だからね、脱線もするさ」

 

「まぁ確かに、お前と会話してると楽しいしな」

 

「ありがとね。あとその様子だと、佐倉杏子との関係は相変わらず死滅してるみたいだね」

 

「そこまでじゃねえけど、会話よりも暴力が多いな」

 

「平然とそう言えるあたり、君らヤバいね。どうして一緒に住んでるのさ」

 

「あいつに拾われて、名前を貰ったからな」

 

「ふぅん、なら仕方ないね。毎度思うけど、佐倉杏子は素直じゃないな」

 

「そうか?俺を嫌いってのがすっげぇ分かりやすくて寧ろ気安いんだけどよ」

 

「友人の事は好きだけどさ、そのメンタルは頭が下がるよ。にしても佐倉杏子め、友人を自慰の総菜にする程度には意識してる癖に塩態度だな」

 

「塩態度?新しい言葉か」

 

「君が肋骨を全損して昏睡してる時、あいつったら君の枕元にしばらく立ってた後で寝床に戻って何度も致してたからな」

 

 話を逸らすべく彼が尋ねた事を完全に無視し、キリカは嘆くように言った。

 

「誰だっけな。俺の胸をぶっ壊したの」

 

「忘れたのか?今もあの時と同じく、ミステリアスで強キャラ感に溢れたままの私だよ。両足のキックで、こうバシーンってさ」

 

 キリカは体育座りとなり、両脚を曲げて伸ばしての実演を行った。

 その際の痛みというよりも不覚を思い出し、ナガレは苦い表情となった。

 

「あれが友人との最初の出逢いだったね。今となってはその前に会っておきたかったかも」

 

「あれ以外の会い方があったのかね」

 

「残念だがそうは思えないね。あれで良かったんだろうさ」

 

 ナガレも思わず頷いていた。

 自分が半殺しにされた事柄が良かった事だと肯定できる精神は、強いどころか異形じみている。

 

「そう言う世界線もあったかも、とでもしておくか。おおっと、そういえば話題の中心は世界の事だったね」

 

「ああ。にしてもお前、本当に聞きたいのか?」

 

 怪訝な表情でナガレはキリカに問い掛ける。最後の警告だった。

 

「うん。君のことが知りたい」

 

「で、俺の世界を知りたいと」

 

「うん。教えて」

 

「お前、見なかったのか?」

 

「ちょっとだけね。私がお肉をくぱぁして、君を抱いてる時の精神世界的なとこで」

 

「言い方」

 

「厳然たる事実だ。君の感触は今も肉の内に色濃く残ってる。今でも君をギュっとしてる感じだよ」

 

 そう言いながらキリカは優し気な手つきで胸から腹までを撫でた。

 肉を圧し潰しての撫で廻しは、手が触れる肌というより肌の下の内臓を撫でているような手付きだった。

 

「だからもっと知りたい。見てきた事でも、聞いた事でもいいからさ」

 

 何故それが自分を知りたい事に繋がるのかは分からなかったが、キリカ相手に議論は無意味である。

 絶対に意見を変えないし、舌戦が強過ぎて勝てる気がしない。

 

 彼が強敵と認めた存在は多い。

 

 例えば、星々を喰らう魔物。

 

 または、終焉にして原初の魔神。

 

 そして皇帝の名を冠する、並行世界の自分自身。

 

 その中でもかなりのレベルというか、最強格に呉キリカはいるのである。

 

 ナガレの脳裏では、それらの一つ上の階級ピラミッドの頂点で、胸を張って朗らかに笑う魔法少女姿のキリカの様子が映っている。

 その隣では笑うキリカをジト目で見る佐倉杏子と朱音麻衣がいる。

 遭遇した魔法少女の数は多くないが、この三人は彼の認識の中でかなりの強さの存在として捉えられていた。

 

「何でもいいってコトか」

 

 仕方なく、彼は妥協案で行くこととした。

 

「そうそう。面白ければ何だっていいよ」

 

「何だってか」

 

「ウム」

 

 キリカは力強く頷いた。

 ナガレも決めた。ちょっと待ってなと言い、話の方向性を頭の中で纏め始める。

 その間に、キリカは何やら作業を始めた。

 ナガレは眼を閉じて話を考え、ちょうどまとまった時にキリカが彼の肩を叩いた。

 

「はい。コレ使って」

 

 そう言ってキリカは紙コップを手渡した。コップの底には糸が通されていた。

 それを手に取ってしげしげと見ている間に、キリカは自分のベッドの上へと移動していた。

 

「これぞ文明の利器。我が大発明の威力を存分に味わうがいい」

 

「いいね。こういうのも楽しそうだ」

 

「君は本当に無邪気だな。罠を疑うとかしておくれよ」

 

 噛み合わない会話だが、これも何時もの事で両者は楽し気に笑っている。

 

「まぁ正直言えば、聞くのがちょっと怖いからね。これでちょっと緩和したいんだ」

 

 へぇ、とナガレは感心した。

 言葉ではなく音として聞くつもりかと思ったのであった。

 

「あとベッドで横になって抱き合いながら、耳元で囁かれるっていうのは今の私にはちょっと恥ずかしいからね。そういうのはオトナになってからで」

 

 照れた口調でキリカは言った。

 孕むことを望んでおきながら、そういう事には羞恥を覚えるらしい。

 というか、そこまで睦まじいシチュエーションで話をする気は、彼には無かったのだが。

 

「そうかい。お前ならいい大人になれるだろうよ」

 

 それを笑う事もなく、彼は思った事を素直に言った。

 そしてキリカから離れ、糸が張り詰めるまで距離を取る。部屋の端に彼は座った。

 

「じゃ、始めるか」

 

「よろしく、友人」

 

「で、話の方向性なんだけどよ」

 

「何でもいいって言ったよ。エロ話でも下ネタでも構わない」

 

「いいんだな?」

 

 最後の最後の警告であった。キリカは頷いた。

 

「分かった。じゃあお前の中で考えられるくらいの、卑猥で猥褻な話を思い浮かべな」

 

「そういうプレイが望みかい?まぁいいや、ちょっと待っててね………ハイ、おっけ。残念ながら、私はさささささや佐倉杏子ほど自慰行為が好きでは無いから見せたりはしないよ。ああいうのはお風呂場とかお手洗い場でこっそりやるものさ」

 

 自覚か無自覚か、他者への愚弄を惜しまないキリカであった。

 彼女の頬がほんのりと紅潮しているのをナガレは認めた。例えとして自慰の言葉を用いたあたり、彼女はそれなりに熱心な妄想をしたらしい。

 

「これから話すやつは、それが学校でやった道徳の教科書に思えるくらいに最悪な話だ。覚悟しとけよ」

 

「妙に変な例えだね。まぁいいさ、それを私に話したまえ。私はそれを全て聞いた上で、平然と笑い飛ばしてやる!」

 

 キリカの眼付は挑む者の闘志が滲んでいた。分かったと、ナガレは言った。

 キリカは彼に右側面を見せて座って右耳にコップを当て、ナガレは口にコップを近付けた。

 両者の間で糸電話が結ばれる。

 

 そして、彼は話し始めた。

 ここに来る前に聞いたり、勝手に仲間になった人間観察が趣味の魔神が収集・観測した世界の事柄を。

 

 まずは、筆舌に尽くしがたい性技を忍法として身に着けたくノ一軍団vs異常性欲者と男色の忍者たちの死闘。

 

 そして未来科学が生んだ、男の白濁とした欲望の全てを叶える為に造られた超高性能ダッチワイフなアンドロイドの物語。

 

 他にもいくつかの話が用意されていた。

 

 キリカが耳まで赤くなり、口を押さえて羞恥の悲鳴を抑えた。

 それは話を開始して、十秒と経っていなかった。

 











彼が話し始めた物語。
前者は『伊賀淫花忍法帳』
後者は『ブルーベリードール』となります。
当然ながらどちらも石川賢先生の作品です。
最近購入しまして、延々と笑ってました。
出てくる単語が悉く放送禁止級且つ超絶お下品な内容で、それでいて極めて暴力的と石川先生の恐ろしさを改めて実感いたしました。
花忍法帳は某アニヲタなwikiに記事もありますのでよろしかったら…。



書いててなんですが、JCになんてものを話すんですかナガレ君と言うか新ゲ竜馬さん…。

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