魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

172 / 455
番外編 流竜と錐花

 赤に染まった黒い世界を抜けたと思ったら、今度もまた黒に、というか闇に満ちた場所に出た。

 

 此処は精神世界的なのだと思うけど…やれやれ、友人と言う奴は案外中二病な性格らしい。

 

 案外でもないか、カードゲームの販促キャラみたいな外見してるし。

 

 友人にはこの前カードゲームも教えたけど、そろそろ対象を取る・取らないの違いは学んでほしいな。

 

 それはそうと、そんなに闇が好きなのか。

 

 気が合うね、私もだ。

 

 多分私が魔法少女大乱闘なソシャゲにでも参戦したら、きっと闇属性が宛がわれる筈だ。

 

 君は何だろね、斧が黒いしそもそもあれ魔女だし、闇属性かな。

 

 でもそれだと私と属性被るなぁ。

 

 よし決めた。

 

 君は光属性だ。

 

 そっちの方が存分に殺し合えるからね。

 

 うん、それがいい。確定。答えは聞いてない。

 

 さて友人のせいで脱線したが、君の領域にずかずかと土足で踏み入って遣ろう。

 

 そう思うと、何時もの丸靴が見えた。

 

 次いで白ニーソ、太腿、スカート、お腹のヒラヒラ、友人の好きな私のお胸。

 

 我ながら、佐倉杏子とは比べ物にならないデカさだね。

 

 朱音麻衣にも負けちゃいないよ。

 

 よく斧で血と脂の破片にされて吹き散らされたり手刀で貫かれるから、友人はおっぱいが好きなんだろうね。

 

「俺はボインちゃんが大好きでな」

 

 たしかそんな台詞を言ってた事もあるようなないような、多分私の勘違いだけど面白いから今度あったらイジってやろ。

 

 まぁとにかく、闇の中に魔法少女姿の私がいる。

 

 自分でこの姿を取ったのか、はたまたこういう設定なのかは分からない。

 

 いいさ、別に。

 

 意識だけじゃなくて形があるってコトは、私の力が及んでいるというコトで。

 

 友人今頃どうなってんだろ。

 

 もう食べ終わっちゃったのかな。

 

 しかし、そうか。

 

 友人は私が食べたのか。

 

 つまり私が友人か。

 

 よろしくね友人、これからもずっと。

 

 友人。

 

 なぁ、友人。

 

 友人、友人、友人。

 

 どこにいるのさ。

 

 私の中にいるなら、返事くらいしておくれよ。

 

 泣くよ?泣いちゃうよ?

 

 女の子を泣かせる気かい?

 

 ならせめて、何時もみたいに私の顔面を殴り砕いて、涙腺を破壊するとかにしておくれ。

 

 君の為に悲しむなんて、そんな事はしたくない。

 

 

 

 友人。

 

 

 友人。

 

 

 友人。

 

 

 友人。

 

 

 友人。

 

 

 友人。

 

 

 友人。

 

 

 友人。

 

 

 

 

 

 

 嗚呼もう、これだけ呼んでも来ないか。

 

 普通ならこんな時に「よぅ」とか言って気付いたら後ろにいるってのに。

 

 君はフラグ建築がヘタクソすぎる。

 

 今度一緒にアニメでも観て勉強させてやろう。

 

 何が良いかな。

 

 がっこうぐらし!か、おおかみこどもの雨と雪か。

 

 ひだまりスケッチやOVAのタフでもいいか。

 

 君はアニメ観る度に面白い反応するから、こちらとしては観てて飽きないんだ。

 

 その様子を覚えておいて、殺し合う時の煽りにするのも愉しいからね。

 

 仕方ない奴だ。

 

 まぁ、幸いにして私は女で魔法少女だ。

 

 私の中に君がいるなら、何度でも試してやるまでさ。

 

 何をかって?

 

 そんなの決まってる。

 

 君を産みなおしてあげるのさ。

 

 私の子宮で育んで。

 

 

 

 なぁ、もういい加減に出てきておくれよ。

 

 今のは喰いつくところだろ?

 

 頼むよほんと。

 

 これ以上私を困らせないで呉。

 

 せっかく君のお陰で闇落ちから立ち直ったんだから、いつもみたいに遊ぼうよ。

 

 なぁ、友人。

 

 性欲なんか感じちゃいないが、子供くらいなら産んでやってもいいぞ。

 

 うちのお母さんも期待してるみたいだし、引きこもりの親不孝娘としてはこのくらいの親孝行はしとかないとね。

 

 そう思ってふああって欠伸しながら歩いてると、頭にこつんと何かが当たった。

 

 昨日は眠れなかったからね。

 

 最近友人の顔見れなかったから、生きるのが退屈で仕方ない。

 

 暇を紛らわすために、君を刻む為の必殺技も幾つか考えたけど、当たるイメージが思い浮かばない。

 

 我がヴァンパイアファングは強力だが、あれはゲームで言えば単体攻撃だ。

 

 いや、攻撃範囲自体は広いよ。

 

 でも面と言うよりは点の攻撃で、うすのろい魔女は兎も角、魔法少女や君相手には分が悪い。

 

 いつか佐倉杏子相手にヴァンパイアファングを叩き込んで、内臓をバラ撒かせてやりたいのだが…人生はうまくいかないな。

 

 そういえば連中に捕まったのも、ファングを掻い潜られて数の暴力で輪姦じみて群がられたからだったな。

 

 ああ、純潔は大丈夫だよ。

 

 あの腐れアリナは自分の経血を、炭化させた私の内臓の粉末と混ぜて絵の具にしてたりしてたが、破瓜の血は別に良いらしい。

 

 まぁいいや。

 

 あいつは何時か殺す。

 

 お前なんか、もう怖くなんてないからな。

 

 お前が創ろうとしてる地獄を、真っ向からブチ壊した奴が私の友達なんだ。

 

 あんな紛い物の地獄より、友人の方がよっぽど怖いね。

 

 来るなら来てみろ。

 

 友人と佐倉杏子が相手になってやる。

 

 でも友達にあの変態の相手させるのは気が引けるなぁ。

 

 では佐倉杏子、頼んだよ。

 

 生理仲間同士、多分上手くやれると思う。

 

 私達はその間、プレイアデスでも壊滅させとくよ。

 

 特に理由は無いけどさ。

 

 ああ、それでもしもアリナ率いる変態達に負けた時には、その時と思って呉。

 

 あとの主役は私が引き継ぐ。

 

 朱音麻衣あたりが友人の所有権を主張するだろうが、一泊も君を自宅に泊めた事が無い奴に親権など発生するものか、バカめ。

 

 先週も一週間くらい家に泊めたし、軍配はこっちにあるだろう。

 

 友人は気付いてたかもしれないが、母さんは君を狙ってる。

 

 こういうのにありがちな、父さんは単身赴任で不在ってのが原因でもあるんだろうね。

 

 あれは男に飢えてる目だった。

 

 それを向けられてる時の君の顔、まんざらでもなさそうなのが癪に障ったね。

 

 幾ら私の母が若いからって、ああもデレないで欲しいね。

 

 そういえば母さん、この前三十になったんだっけ。

 

 ううむ、これはそろそろ孫の顔を見せた方がいいのだろうか。

 

 にしても友人、私に向ける殺意の欠片も私によく似た我が母に向けないのは如何な物かな。

 

 差別ってのは酷いよね。

 

 私もよく殺意を堪えられたものだ。

 

 きっと成長したんだろうな。

 

 じゃあ義務的にだが、アリナにとっ捕まって酷い目に合わされる予定の佐倉杏子に思いを馳せておこうか。

 

 あいつに色々とアレされて作品になった後は…そうだねぇ。

 

 私や友人、ついでにさささささの覚醒イベントの時や、哀しい過去回想の時に赤い幻影となって出てきてくれると演出的に助かるよ。

 

 期待してるよ、佐倉杏子。

 

 ん、ああ。また脱線した。

 

 佐倉杏子ってヤツはこれだから…。

 

 そう思って目の前にあるそれを見た。

 

 うん、なんだか分からない。

 

 でもかなり大きい。

 

 少しバックして見上げる。

 

 まだ足りない。

 

 またバックを追加。

 

 あとバックって言えば、私は孕むことに抵抗は無いが犯されるのは嫌だな。

 

 強姦とか最悪だ。

 

 せめて前を向いてしてほしい。

 

 友人のあの顔、女顔の癖に男らしいところが妙に性癖だからなぁ。

 

 少しは孕む確率も上がるだろう。

 

 私の性欲は薄いし、清く正しい見滝原中学二年女子の私としては、不純異性交遊の機会はなるだけ少ない方がいいと思う。

 

 校則違反とか怖いしね。

 

 反省文なんて書きたくないよ。

 

 ああ、オーケー。

 

 そう思ってたらいい距離になった。

 

 やっぱり友人の事を考えるのは時間つぶしとして最高だな。

 

 

 

 …なにこれ。

 

 色は分からない。

 

 でも形は分かる。

 

 たくさんのトゲトゲが地面とは逆向き、つまり上向きに鱗みたいに生えた柱。

 

 それが二本並んでる。

 

 その上には…胴体?

 

 人間と比べて寸詰まり、いや、この柱を脚とすればこの脚が妙に長いのか。

 

 なるほど、良いスタイルって奴かな。

 

 甲冑みたいな胴体の左右には丸い形を基本として、渦みたいな形の刃が巻かれた肩があった。

 

 物騒な形の方から先には、トゲトゲがたくさん付いた腕があった。

 

 腕の先は、私から見て左は大きな鋏になっていて、左は鋭い刃で出来た五本の指があった。

 

 そして、そんな物騒な形をした奴はどんなツラしてるんだろうと思って顔を見たら。

 

「騎士」

 

 多分その言葉は口に出てたんだと思う。

 

 ああ、ここまでは独り言と言うかモノローグだよ。

 

 口に出してこんな延々と喋るほど、私は狂ってないし壊れていない。

 

 上に向かって伸びた四本の角と、細長い形の頭。

 

 それは多分、騎士をモチーフにした兜の形だったんだと思う。

 

 それともう一つ、これは私の考えというかセンスの問題なのかもだけど、この形にはどこか厳かなものを感じた。

 

 なんだろう、ギザギザまみれの手足といい、形としては物騒と言うか異形なんだけど妙に神々しいというか。

 

 なんていうか、仏様みたいな感じがした。

 

 そうしてじっと見ていると、頭の中にぼんやりと形が浮かんできた。

 

 ああそうか。

 

 仏様のイメージを抱くわけだ。

 

 梵字。

 

 サンスクリット語。

 

 平たく言えば、仏様の言葉。

 

 それが一目で分かっちゃったよ。

 

 私は博識だからね。

 

 伊達に長期間ぼっちで暇を持て余してて、父さんの稼ぎが良いからって事で、パソコンやスマホを惜しみなく買い与えて貰っただけのことはあるのだよ。

 

 さて、確か此れの意味する言葉は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思い出した。

 

 そうか。

 

 そっか。

 

 そうなのか。

 

 似てるね、私と。

 

 私の名前と。

 

 私の最初の友達とも、君の、あなたの名前は似ているね。

 

 意味したものは、私の間違いで無ければ千手観音菩薩様。

 

 あまねく一切衆生を救う為、千の目と手を得た姿。

 

 慈悲と救済を司る仏様。

 

 立派過ぎて、私には口に出すのも憚られる。

 

 そう思って改めて姿を見る。

 

 鋭い鎧を纏った異形の騎士。

 

 何故か妙に近しく感じた。

 

 そして疑問。

 

 何故この存在がここにあるのだろう。

 

 さっき垣間見た光景で、友人の気配を持っていたものに何か関係があるのだろうか。

 

 形はまるで違うけれど、私にはそう思えた。

 

 私の勘はこう見えて結構当たるから、多分自分の感覚は信じて良い。

 

 これはきっと、友人にとって何か意味を持つものなのだろう。

 

 そう思って、またこの姿を見上げた。

 

 

 

 

 

 

「----だ」

 

 

 

 

 声がした。

 

 喋り方は友人と同じで、全く違う声。

 

 

「そいつ、----っていうんだよ」

 

 

 男らしい、いや、男らしすぎる。

 

 とても若いのは分かる。

 

 若々しくて生命力にあふれた声。

 

 ああ、これは…。

 

 友人、お前。

 

 どこまで私を、私の中の雌を狂わせれば気が済むんだ。

 

 熱い吐息が口から漏れる。

 

 熱い息が口から出て、胸を撫でて虚空に消える。

 

 その途端、身動きが取れなくなった。

 

 まるで何かに噛まれたみたいに。

 

 全身を、大きな大きな生き物の口の中に入れられたみたいに。

 

 そいつの口にはびっしりと鋭く長い牙が生えていて、それが檻みたいに私を捉えて拘束している。

 

 牙の形は短剣か槍穂みたいな鋭さ。

 

 現実にいる生き物なんかじゃない。

 

 頭の中に一つの単語が浮かんだ。

 

 ああ、確かに君をそう評した事はあったさ。

 

 でも、これは反則だろう。

 

 あの精悍で男らしくて、まるで炎を纏った息吹みたいな猛々しい強さを持った声。

 

 たった二言だけで、私はそう理解させられた。

 

 お前が、お前が友人の正体か。

 

 

 

「お前と似てるな、キリカ」

 

 

 

 名前を呼ばれた時、私は自分の身体がぐしゃぐしゃに噛み砕かれた様な気がした。

 

 友人はそんなつもりは無かったんだろうが、君の存在は強過ぎる。

 

 

 

 人の姿をした竜め

 

 そして、ああ。

 

 聞いていた名前からして、君はそもそも竜だったね。

 

 動けないまま、私はそう思った。

 

 そうしたら、

 

 

「…ん?ええっと、あー……これって」

 

 

 友人本体が何やら言い始めた。

 

 咳払いのような音も聞こえる。

 

 

「あ、やっぱこれ俺の声か。いや、聞くの久々過ぎて」

 

 …ええ。

 

 …まぁ、いいか。

 

 このぐらいのおバカさというか欠点があった方が人間らしいし。

 

 

「見たとこ、大分元気んなったみてぇだな」

 

 

 何時からそこにいたのか知らないけど、友人の本体だけあって不躾な奴だな。

 

 まぁ、元気なのは君から貰った栄養が良かったからってのもあるのだろうね。

 

 

「かもな。で、そろそろしんどいからよ。悪ぃが連れ出させてもらうぜ」

 

 

 そう言うと、襟首が後ろから掴まれるのを感じた。

 

 私が小柄だというのもあるけど、声の出てる高さからして三十センチ以上は軽く身長差があると思った。

 

 襟首を掴む手も、私よりもずっと大きい。

 

 それにしても、展開が急すぎないかな。

 

 もう少し雰囲気を読むとか、しんみりした空気を出して欲しいよ。

 

 全く。

 

 君は、君って奴は。

 

 ちらっとだけ見た今の君は、私の知る友人の顔にもある精悍や勇猛さ、それでいて端麗さが色濃く残った形が顔や髪にも描かれていた。

 

 子供っぽさや女々しさを取り払った、男の中の男って感じの姿。

 

 私が女というか、雌である事を思い知らされる姿。

 

 どんな生き方をしてきたか、それが顕れたような貌を、君はしていた。

 

 今の私には、少女の私には今の君は刺激が強過ぎる。

 

 女殺しめ。

 

 心の中で、とはいえ今のこの状態が心そのものか。

 

 常々から思っているあいつへの呪詛を今日もまた呟いた。

 

 

 

 っていうか友人、さっきの会話を思い出すと私の心覗いてないかい?

 

 これは後で問い質すとしようか。

 

 水の底から浮かび上がる様に、私の身体が一気に上がっていくのが感じられた。

 

 あんなに上の方にあった、あの神々しい名前と姿をした騎士の顔も、今は目の前にあった。

 

 ばいばい。と私は手を振った。

 

 さようなら。

 

 あなたは何もしていないけれど、あなたのお陰で私はまた友人に会えた。

 

 そんな気がする。

 

 

 さようなら、また会う日まで。

 

 

 

「じゃあね、キリク

 

 

 さようなら。

 

 私と私の友達によく似た名前を持った、千手観音菩薩の名前を冠された異形の騎士。

 

 友人から聞いたその名前を呟いたとき、私の身体は眩い光の中に包まれていた。

 

 まるで、生まれた時に初めて浴びるような。

 

 そんな光のような気がした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。