魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
宙に躍る赤黒の人体、地を駆ける者達。
三人の年少者達を包み込むのは、人型をしたものが織り成す包囲陣。
蚊の一匹ですら通さぬ密度のそれを、赤黒い数条の線が貫いた。
数体、十数体、数十体を貫通したまま旋回し、包囲を強引にこじ開ける。
線は旋回と共に動き、触れた者達を容易く切断。無数の人体の破片が宙に舞い、臓物と血が雨となって降り注ぐ。
切り開かれた先には、肩の位置まで上げた両腕を水平に伸ばした黒い魔法少女の姿があった。
その両手へと、赤黒い線の端がするりと消える様子が見えた。
「どうした友人?地面などに突っ伏して」
残酷な雨を降らせながら、キリカは朗らかに言った。
「おいキリカ、てめぇ!」
ナガレが即座に怒鳴り返す。黒翼は畳まれ、彼女の言葉通りに地に伏した彼の身体を覆っていた。
その傍らからは苦鳴が生じ、更に翼の端からは血だまりが溢れていた。
「何やってるんだ朱音麻衣。友人と並び立ちたいなら、そのくらいは避けろよ」
嘲弄と共に跳躍し、前へ出る黒い影。広範囲の包囲はそのままに、周囲の者達の注意はキリカへと向いていた。
それでも数十体がナガレや麻衣へと向かう。立ち上がり斧を構える少年は、左手に魔法少女を抱いていた。
右肩から乳房を伝い下腹部までに繋がる深く長い傷からは、血はもとより切り裂かれた内臓までが垂れ下がっていた。
治癒魔法を発動させつつ、ナガレは向かい来る異形の杏子達を迎え討つ。
『一つ貸しだぞ、朱音麻衣』
背後にて槍と斧の交差が為される中、キリカはそちらへ思念を送った。
苦痛に満ちた『ああ。感謝する』との返しに、キリカは可憐な唇を歪ませて嗤った。
猛禽類が笑うとするのならこうなるのではないかと思われる、捕食者じみた笑顔だった。
『じゃあね、先に待ってるよ』
キリカが思念を送るのと、そのだらりと垂らした両手から、正確には両手に嵌めたブレスレットから無数の光が湧き出したのは同時だった。
「見たか佐倉杏子の紛い物ども。これは我がバンパイアファングの派生系、醜く卑しき管蟲どもだ」
管蟲と呼ばれたそれらは、彼女の言葉通りの形をしていた。
直径にして、一センチあるかないかの太さの無数の連ねた斧。
本来のバンパイアファングの極小版とでもいった存在だった。
先端の形状は針の如く尖り、獲物を求めるように身をくねらせていた。
それが彼女の両手からそれぞれ十本、計二十本の管蟲達が垂れ下がり紅の地面に広がっていた。
長さは十メートルに達し、それは既に複製体達の足元にまで伸びている。危機を察知して彼女らが動くよりも早く、
「行けッ!卑しき淫らな触手ども!!!」
キリカの残忍な叫びが木霊した。悍ましい形状をした触手たちは、その声に一斉に従った。
針を思わせる切っ先が上を向き、逆向きの滝のように迸る。先端の終点に赤黒い肌が待っていた。
水のように貫き、体内を切り刻みながら瞬時に体外へと抜ける。それが触手の一本につき五体以上も貫いていた。
忌まわしき数珠繋ぎの様を晒して貫かれ、異形達は身悶えていた。その様子に、キリカは歯を見せて笑った。
「オリジナル同様に雌臭い香りを振り撒く腐れボニータどもめ!ガスガスによがらせて殺る!!」
貫いたままに、天高く飛翔。当然の如く触手たちが引かれ、異形達からずるりと抜ける。
そして抜け際に、連なる斧は破壊を遺していった。
肉の内側がズタズタに切り裂かれた挙句に鞭のように旋回し、異形達は金鑢のように荒い断面を晒して肉塊と化した。
そして宙を舞いながらキリカは両手を振う。まるで舞踊のように美しい仕草をしつつ、残忍な触手たちを操り殺戮の渦を吹き荒らす。
ある個体は腹部から穿孔した触手に内臓を瞬時に掻き回され、妊婦の様に下腹部を膨らませたかと思った瞬間に破裂させられた。
破裂した腹の上で、微塵となった内臓を喰らうかのように触手たちは蠢いていた。
またある個体は口から入り込んだ触手によって、内側から背骨を抉り出されていた。
白い骨の表面を触手は何重にも巻きついて動き、その傷跡を楽しむ様に刻んでいた。
拷問のような惨状が至る所で引き起こされていた。その渦中にいるキリカは哄笑を挙げ続け、触手たちを操り杏子達を玩んでいる。
そこに数十本の槍が飛来した。大半を触手で防いだが、二本がキリカの元へと至った。避ける素振りも見せず、彼女はそれを受けた。
豊かな両乳房を、それぞれ一本の槍が貫き切っ先は背中から貫通していた。宙でバランスを崩し、その身が地面へと落下する。
落ちていく最中、呉キリカは
「ああ、丁度よかった」
傷と口から血を零しつつ、彼女は平然と言った。
「もっと増やそうと思ってたからね」
言うが早いか、その身体は赤黒に包まれた。背中と胸から、その傷口から更に大量の触手たちが溢れ出した。
それは落下地点で待ち構えていた杏子達の全身を貫いて切り刻み、更に落下するキリカの身を柔らかく受け止めた。
玉座に座る姫のような体勢となり、その状態でキリカは命じた。
「喰い漁れ」
触手たちは忠実に従った。背から湧き出た触手は翼の如く広がり、彼女の背後に回った模倣達に地獄を見せた。
胸を突き破るようにして広がった触手はまるで手のように開き、その波濤は複数の人体を容易に飲み込んだ。
過ぎ去った後には、僅かな肉片と内臓の切れ端だけが残った。身を貫いた槍はそのままに、全身から触手を湧かせつつキリカは走った。
黒い禍風どころか竜巻と化し、触手の先端に触れる全てのものを貫き切り裂き、蹂躙していく。
「ハハハ」
渦の中心からは、絶え間なく笑い声が生じていた。
「ハハハハハ」
串刺しにした杏子達の首が、まるで果実の身のように触手に連なっている。
「ハーッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
哄笑のままに殺戮を続け、異形の触手を舞い踊らせながら無数の群れを切り裂いていく。
虚無を宿した空っぽの心。その表面に泡のように湧いてくる殺戮、破壊衝動。
その赴くままにキリカは全てを切り刻み、抉り、貫き続ける。
それでも尚包囲は分厚く、敵は雲霞の如く襲い来る。
だが黄水晶の眼には何も映っていないのか、一切を気にせずただ只管に進んでいく。
その上空に巨大な影が降り立った。触手が地面を叩き、その反動で以て高々と舞い上がる。
衝撃により触手が貫いていた、大量の肉片が払い落とされる。背中から生えた触手が束ねられて開いた様は、これも翼そのものの形となっていた。
形はナガレのそれに似ていたが、彼女の技名を鑑みてかこちらは蝙蝠に近い形状だった。
赤黒い翼を背負ったキリカの前に、巨大な姿が聳えていた。
切断された左半身はそのままに、マガイモノが立ち上がっていた。傷口からは膿の様な黒々とした液が滝のように零れ続けている。
「ハハッ、流石に満身創痍か」
同じ目線の状態でキリカは言った。異界を震わすような吠え猛る咆哮にも、キリカは平然としていた。
「佐倉杏子。君に一言だけ言いたくてね」
朗らかに笑いながら、キリカは語る様に告げる。
「自分ばかりが、特別だとは思うなよ」
くすりと笑ったその瞬間、彼女の背から闇が迸った。
それは彼女の纏った衣装よりも黒く、一切の光を宿さぬ無明の闇で出来ていた。
闇が彼女の体表を這っていく中、キリカの顔は半月の笑みを浮かべていた。
それは彼女の肌と口で出来たものではなく、白骨の如く白い仮面に描かれた表情だった。
ゲッターロボアークまでには間に合いました(ネット配信視聴勢)