魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第51話 刻み踊るは、紫と黒。毒の言の葉紡ぐ、狂える漆黒

 刃が躍る様に振られて人体が切断され、両刃の斧がその獰悪な形状に違わぬ勢いで刃と肉を叩き斬る。

 地面へとブチ撒けられる残骸は、直ぐ様に無数の足によって踏み砕かれた。

 魔の翼を分け合った少年と少女は地面に降りていた。その周囲と上空を佐倉杏子の模倣体が取り囲んでいた。

 

 その数は例えるならば腐肉に群がる無数の蟻、そして空を埋め尽くす雲霞の如くであった。

 宙に浮いた者は背に翼を生やしていた。これもまた彼を模したのか、蝙蝠然とした形状をしていた。

 皮膜に相当する部分が粘膜のぬめぬめとした輝きを放っていることに、麻衣は吐き気を覚えずにはいられなかった。

 

「本当に気味の悪い奴らだ。佐倉杏子め、何を考えればこんな悍ましい命を産み出せるんだ?」

 

 嫌悪感と共に吐き捨てつつ、麻衣は刃を振い続ける。模倣体の杏子達の首が刎ねられ、唾液を垂らす口内を刃の切っ先が貫く。

 刃が掠めた歯が砕け、背後の個体の頭部も貫く。三体が貫かれた時に麻衣は刃を縦に降ろし、三体は残忍な開き物と化して体内のものを四方に散らした。

 ナガレもまた斧に翼、そして背中から伸びた鞭状の刃を振い続ける。一瞬にして夥しい死が連鎖し、両者の足元にその残骸が降り積もる。

 そうやって開いていく血路の奥に、巨大な物体が倒れていた。赤黒い姿の杏子の模倣体達はそれを守護すべく、一対の魔の前へと立ち塞がっていた。

 

「あいつは目と鼻の先だってのに、キリがねぇ」

 

「敵が多いのは良い事だ。君との時間が続くのは好ましい」

 

 毒気のある言葉だが、生来の実直さゆえか嫌味は含まれていなかった。

 現に刃は全く鈍らず、彼と共に迫り来る赤黒の人体を次から次に斬り伏せていく。

 そこに刃の包囲網を抜け、一突きの槍が去来した。それは麻衣の右頬を掠め、美しい肌に朱線を刻んだ。

 だが直後に槍が引かれ、その個体が前へと引き出される。つんのめった瞬間、杏子の面影を大いに留めた形の顔が木っ端微塵に砕け散った。

 報復として放たれた、朱音麻衣の拳によって。 

 

「悪戦苦闘に多勢に無勢、されど戦意は十二分で背中を預ける友もいる…実にいいシチュエーションだ。死に甲斐がある」

 

 右手に付着した骨肉と脳漿の破片を振り飛ばしつつ、麻衣は言った。将来の夢を語る様な、実に楽しそうな口調だった。

 

「ロクでもねぇ事を言うな。死に甲斐なんて言葉は百年早ぇ」

 

 叩き付けた斧を横に傾けた槍で受けた模倣体の腹へと蹴りを叩き込みながら、ナガレは苦々しい声で返した。

 自らの行為が言葉と矛盾している事と、死を望むような発言が神経に障ったのだった。

 蹴りを受けた模倣体は腹部が破裂し、渦巻く内臓を宙に躍らせた。それらを貫いて飛来した槍を背から伸びた鞭が弾いて翼が切り裂く。

 

「怒ったのかい?」

 

「そう聞こえたか」

 

「ならこう言い換えよう。生き甲斐を感じると」

 

「ああ生きろ。死ぬんじゃねえぞ」

 

「応!言われる迄も無い!」

 

 死を量産しつつ、両者は着実にマガイモノへと向かって行く。されど距離は未だに二百メートルほども離れ、包囲網はなおも両者を取り囲む。

 一気に飛翔しようにも、雲霞の如くひしめく模倣体が全方位から押し寄せる為に地面を踏破するしかない。

 大技を使おうにも繰り出される槍穂の嵐が力を練る隙を与えない。策が無い訳ではないが、その為には時間が欲しいと彼が思ったその時だった。

 

「はいそこまでー」

 

 殺戮で満ちた場に似合わぬ、朗らかで間延びした声が去来した。脱力気味ではあったが、少年のようなハスキーボイスまでは曇っていない。

 

「あのコピー女は取り逃したが、まぁいい。ささいだ」

 

 当人にしか分からぬ言葉が紡がれた直後、顕れたのは赤黒い刃の波濤であった。

 無数に連なった斧状の魔力が模倣体たちを切り刻み、紅い地面さえも深々と切り裂く。

 吹き散らされる人体を更に刻み、地面どころか空中にまで破壊の凌辱が広がっていく。

 

 円を描いて切り抜かれた視界の先に、黒い魔法少女である呉キリカが立っていた。何の積りか、ナガレと麻衣に向けて丁寧な礼を捧げていた。

 美しい従者のような姿が見えた次の瞬間、破壊された人体の残骸と赤い破片が無数に降り注いだ。

 悪夢の雨が注がれる中、キリカはゆっくりと上体を起こした。

 

「はいはーい。空気も読まずに私、参上。んじゃま、呉キリカさん視点で見る佐倉杏子抹殺ルート、黒髪ショタと発情紫髪の愁嘆場チャートはーじまーるよー…って」

 

 降り注ぐ血肉。既に臓物と肉片で満ちた地面にそれらが跳ね、悪臭と血臭が鼻を刺す中でキリカは長台詞を述べた。

 そして黄水晶の眼が少年と紫髪の魔法少女を、正確には両者が背負った黒翼を捉えた時、

 

「うわぁ…」

 

 という呻き声と、美しい顔には明らかな困惑と『引き』の表情が滲んだ。そして彼女は溜息を吐いた。

 

「あーーーーー。そうか、今はそういうプレイの最中か。なんていうか、朱音麻衣よ。お前の性癖の深淵は深いな、卑しすぎて底が見えない」

 

「黙れ雌犬。これは誇り高き決戦仕様だ」

 

「はいはい。言葉の自慰行為ご苦労様。っていうか友人、お前もさっさとこいつらを抱かないからこういうハメになるんだぞ。分かってるのか甲斐性なしめ」

 

「黙れと言ったぞ呉キリカ。貴様を切り刻んでアリナ某に差し出して遣ってもいいんだぞ」

 

「その時はお前も一緒に捕まるだろうね。それでモブ魔法少女共にレズ輪姦されて、肉を焼かれて炭にされ、あいつの唾液と性液を混ぜ合わされた絵の具にでもされるのさ」

 

 毅然とした麻衣の言い分にもキリカは動じず、邪悪な存在を示唆する歯に布着せぬ罵詈で返した。

 魔法少女同士の物騒且つ自分の身を抉られるような物言いにナガレは必死に自分を抑えて無言を通した。自分が出るとロクな方向に行かない事を漸く学んだようである。

 ついでに周囲を見渡し警戒していた。呉キリカという存在の乱入は、異形達の思考にも影響を与えたのか模倣達の動きは止まっていた。

 好機だと彼が思った時、キリカは思い出したように口を開いた。

 

「ああそうだ。さてと友人、異界からのお客様である君にだね。この世界の豆知識を教えてあげよう」

 

 麻衣からの殺意の視線など無いかのような、いつも通りの春風の如く朗らかな口調のキリカであった。

 

「古今東西、魔法少女は触手に弱い」

 

 自信満々に断言するキリカ。意味を理解したが故に、露骨に不快感を顔に浮かばせ青筋を額に浮かべる麻衣。

 そして全く意味が分からずに首を傾げるナガレ。

 こんな事をしている場合ではないと彼が思った時に場の均衡は破れ、三体の魔の周囲を無数の赤黒い影が覆い尽くした。

 

 











短いですが、例によって次の話の繋ぎとしまして

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