魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第45話 されど魔なる者達は抗い叫ぶ②

鏡の異界は、既に鏡の様相を呈してはいなかった。

少なくとも、その破壊の吹き荒れる半径十数キロの範囲では。

 

罅と陥没で覆われた地面の上には、焼け焦げた肉襞に溶け崩れた甲殻、切断された装甲が山となって堆積していた。

人間の指に酷似した巨大な物体も多く、その断面の近くでは身を寸断された異形の獣が無数に横たわっていた。

 

それら数十センチからメートル単位の物体の破壊に対し、陥没の淵に引っ掛かる魔具の破片や引き千切れた人体の一部などはひどく小さく見え、異界を彩る装飾にさえ見えた。

これらを踏み潰しながら、赤黒いヒトガタの異形が暴れ狂っていた。

太い槍穂を連ねたような五指が、旋回する槍の如く勢いと閃光の速度で振られ続ける。

それだけで異界は破壊され、触れなくとも生じる衝撃波が異界の大気を掻き回す。

 

その渦中には、二体の飛び交う人影があった。

血で染まり切ってはいたが、それは黒と薄紫の髪を生やした少年と少女であった。

二人の姿は異界の兵器のマガイモノの上に、魔法少女の佐倉杏子が産み出した怪物の頭上にいた。

 

「麻衣!」

 

血染めの顔、抉られた左目から溢れた血で顔半分を朱に染めたナガレは叫んだ。

 

「応!」

 

こちらもまた、顔半分が深紅に染まっている。

異なるのはこちらは右の眼球が周囲の肉ごとごっそり消え、右頬から顎までの皮が消し飛んでいる事だった。

全身からも鮮血が滴り、最早両者の肉体で血が付着していない部分は皆無としか思えなかった。

しかし凄惨な姿のままで叫んだ両者の声は、耳を塞ぎたくなるほどの闘志と狂気を孕んだ殺意で満ちていた。

 

その矛先へ向け、ナガレは両腕を突き出した。

傍らに浮かばせた魔女に命じて、彼女の内部に保管した得物を召喚する。

瞬時に顕れたそれを両腕で抱えるように掴む。

 

長さは彼の身長である百六十センチに近く、太さは一抱えほど。

親指の長さ程度の短い砲身の傍らにある取っ手に右手を添え、無骨に削られた銃身を抱えながら下部にある引き金に彼の指が添えられる。

銃身から垂れた弾帯には、中指ほどの長さの弾丸が連なっていた。

じゃらんと揺れたそれの長さは、三メートルにも達していた。

相応の重量の筈だが、抱える手は全くとして震えていない。

 

対する麻衣は腰に刺した刀を抜刀、そしてそのままに宙に斬線を刻む。

一瞬にして描かれたのは五つの円。

円の内側には薄紫の魔力が膜のように張っていた。

それに向け、ナガレは異形の重火器の引き金を絞り切った。

巨大な弾丸が魔力の膜を貫き、三つの円の内側へと入り込む。

 

貫かれた先には赤黒の装甲が広がっていた。

但しその光景は孔ごとに異なっていた。

それぞれマガイモノの左右の脚と腕、そして最後は少女の面影を有した腰元が映っていた。

 

虚空斬破と名付けられた麻衣の魔法が、空間を繋いでいた。

そこに破壊の申し子たちが、一斉に獰悪な牙を突き立てた。

肉襞や甲殻が爆砕され、マガイモノの口からは苦悶の叫びが上がる。

 

マガイモノの動きが素早いゆえに、単身では使用不可能だった重火器が麻衣の魔法のサポートを受け完全にその威力を発揮していた。

破壊したマガイモノの破片やグリーフシードを与えられた魔女により、弾丸に付与された破壊力は並みの魔女なら数発で絶命に追い込む威力が込められていた。

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

砲撃を受けつつマガイモノが剛腕を振う。

構えた瞬間にナガレは得物を再転送し斧を手に取り、麻衣の腰に手を巻いた。

掴んだ手から魔女へと命令が伝い、彼の身が弾かれるように後退する。

複数回繰り返されて戦線より離脱する。

 

強引な飛翔というよりもその擬きにより発生した衝撃に裂かれ、彼の全身から更に出血が生じた。

肺に喰い込んだ肋骨が更に肉を抉り、破れた胃の傷口が拡大する。

口から黒血を吐きながら、拭いもせずに彼は麻衣を見た。

彼女は頷き、再び空間を繋いだ。

 

間髪入れずに重火器を召喚し、弾丸を斉射する。

マガイモノの各部で爆発が連鎖し、遂に右脚が崩壊。

次いで両手と左脚もそれに続いた。

そして断面から無数の獣の異形が蠢いた瞬間、それらの血色の眼の前には人間の頭程度の大きさの黒い丸型が投ぜられていた。

漫画にでも出てきそうな、べたな形状をしたそれの正体は、本体へと数ミリの距離に火が迫った導火線が物語っていた。

 

繋いだ空間からも逆流する勢いで炸裂する閃光が、その威力のほどを示していた。

吹き荒ぶ風と肉片で出来た赤黒い煙の中、殊更に色濃い紅が浮かんだ。

 

「閉じろ!」

 

ナガレが短く叫び、弾切れとなった重火器を投げ捨て麻衣の前へ身を晒す。

斧を構えたその瞬間、その身を更に麻衣が押し退けた。

そして直後、麻衣の全身を真紅の十字が貫いた。

 

「ぐぅぁぁあああっ!!」

 

生じた孔から飛来した十字槍は彼女の両肩を貫き両膝にも三本ずつ、下腹部には五本の槍穂が凶悪な刃を彼女の肉の内に身を埋めていた。

更に切っ先を見せた真紅に群れへ、彼女は刃を振った。

斬線上の空間が切り裂かれ、通常の色彩を取り戻した。

その上に麻衣から溢れた鮮血が間欠泉の様に降り注いだ。

 

「麻衣!」

 

叫び手を伸ばしたナガレへと、彼女は手を伸ばしかけたがしかし。

ひび割れた唇を微笑みの形に直し、思念を送った。

 

「私に構うな。そんな場合じゃないだろう?」

 

それでも地上六十メートルほどの高みから落下に移った麻衣を補足しようと魔女に命じたその瞬間、ナガレの身を風が叩いた。

その風は炎の如く紅蓮の色と、溶鉄のように黒い色を孕んでいた。

何かが空中を移動している事に気付き、残った眼でその姿を追った時。

今度は彼の身体を衝撃が貫いた。

比喩ではなく、物理的に。

 

「ぐっ!!」

 

切り裂かれた六つの腹筋のど真ん中に、真紅の槍が突き刺さっていた。

槍穂は背を貫通し、更には彼を貫いたまま更に押し込んでいく。

猛風を背に浴びつつ、自分を宙で串刺しにした存在を彼は見た。

 

激痛の中、彼の唇が歪む。

狂を発したわけでも諦めの為でもなく、ただ驚きからの凄惨な笑みによって。

 

「やるじゃねえか…杏…子」

 

人類どころか、凡その生物が即死するであろう衝撃と破壊に、この少年は瀕死とは言え耐えていた。

魔女に命じて可能な限りの延命処置を行っているものの、魔法少女顔負けの常識外れの頑強さだった。

 

それでも彼の命は削られ、風によって傷口から伸びた彼の血が真紅の槍の根元へと向かって行く。

それをぴちゃりと、赤黒い指が触れた。

細く華奢な指がナガレの血を救い、痩せぎすにも見える腕が曲げられ、指先はこれも赤黒い唇に触れた。

ちろりと出た桃色の舌が、少年の腹から溢れた血を舐め取る。

ぴちゃぴちゃと音を立てて啜る様は、猫の姿を思わせた。

 

それは眼も無く、髪も束ねられずに自然に垂れており、更には身を覆い隠す一切の衣装を身に纏ってはいなかったが。

更には身体の体表全てを肉の粘膜や、甲殻然とした隆起に覆われていたが、それは紛れもなく佐倉杏子の肉体の模倣であった。

知性は感じられず、マガイモノの体内から溢れた獣の異形同様の有機的ながら無機質な存在感を持っていた。

 

杏子の模倣をした何かは、グロテスクな淫靡さを放つ裸体を平然と晒しながら彼の前に立っていた。

その足元には彼を貫いた槍があり、その根元には魔獣の如く、いや魔獣そのものとなった凶悪な顔があった。

彼を貫き彼女の足場になっているのは、マガイモノの額から突き出た角だった。

 

今日だけで百数十回目、最早常と言った風に激痛の深紅に染まった視界で彼はその姿を見た。

激痛の中、彼は歯軋りをした。

苦々しいものが心に湧き、それが喉に溜まるように留まった。

四肢を破壊されたマガイモノの姿は一変していた。

平坦に近かった顔は牙を湛えた口元を基点に前へ伸び、まるで狼か爬虫類の口吻の様に鋭い形となっていた。

また、既に音速に近い速度で飛翔している為か、角は傾斜し小さな翼を思わせる趣となっている。

 

そして視界の左右には、視界に収まり切らないほどの巨大な物体が広がっていた。

これもまた槍を思わせる鋭さを左右の先端に宿したそれは、金属の支柱に肉襞を広げたような翼であった。

爬虫類然とした頭部に翼を生やした姿は、見るものによっては、幻想の怪物を連想したかもしれない。

 

『竜』という存在の姿を。

 

そしてその巨体の隅々には鱗の代わりに無数の槍穂がびっしりと生え、甲殻類の如き装甲を成していた。

槍穂を無数に生やしたそれは、触れる全てを破壊せずにはいられない、破壊衝動が具現化したような姿であった。

痛々しく、そして感情移入を拒絶する異形の姿だった。

 

そして彼もまた、このマガイモノの姿に見覚えがあった。

細部は異なるが、飛翔する三角錐然とした姿に対して。

 

「元ネタは…ゲット…マシン…か」

 

彼の言葉に杏子の模倣は首を傾げた。

 

「じゃなきゃ…エン…ラー…」

 

殊更に苦し気、というよりも忌々しそうな口調で半端に告げられた固有名に対しても、彼女は同様のリアクションを示した。

態度だけで見れば、可愛い動きではあった。

 

「偶…然か…想像…力が豊か…過ぎんだろ」

 

槍に貫かれ、内臓を破壊されたままにナガレは語る。

 

「ゼ…と会ったら…喜び…そうだな」

 

語らなければ意識が吹き飛び、その瞬間に死ぬと分かっていての軽口だった。

だがそこに恐怖心は微塵も無く、ただ生きようとする執念があった。

やるべき事が残っているがために。

 

そんな彼を尻目に、杏子の姿をとったものは彼から啜った血を舌に乗せて、形だけは可憐な両手の上に唾液ごと垂らした。

性的な官能さえも湛えた動きで両手を擦り、手の隙間を開いた。

そしてそこから、長大な得物が生じた。

形を確認するまでも無く、それは十字架を頂いた槍だった。

どの姿であろうとも、身に宿した力のスタイルは変わらないらしい事に、彼は薄く笑った。

宿っていた感情は感心であった。

 

それに対して何らの反応をすることなく槍を振りかぶった模倣の姿の前に、銀色の何かが突き付けられた。

 

「悪いな。まだ俺ぁ戦えんだよ!」

 

刃の様な形状の四枚のフレームが供えられたのは、黒く長い銃身。

全てが金属で作られたそれは、幾つものボンベが取り付けられていた。

火炎放射器に似た何かを、瀕死のナガレが何時の間にか取り出して構えていた。

佐倉杏子の姿を取った何かの、その顔の前に。

 

「これなら外しゃしねえなぁ…!」

 

何時になく獰悪な表情を浮かべ、ナガレは言った。

腹を貫かれたまま最低限の治癒を施したのか、彼の口調は明瞭となっていた。

模倣の姿が行動に移る前に、彼は異形の重火器の引き金を引いた。

放たれたそれは、赤の光を宿した破壊光であった。

 

杏子の模倣の上半身は、光によってまるで水の様に貫かれていた。

更に光はその背後にあるマガイモノの顔面へと突き刺さり、彼から見て左の角を根元から粉砕した。

血に染まり切った彼の口からは噛み砕かれた黒い卵の欠片が覗き、よく見れば銃身には槍状に変形した牛の魔女がまるで溶接されたかの如く貼り付いていた。

そして更に彼は引き金を引き、マガイモノに向けて赤熱光を放ち続けた。

彼を貫いた槍は刻一刻と根元に近付き、彼が魔女の力を借りて放つ光はマガイモノの姿を削っていった。

それは互いに身を削り貫いての、陰惨な根競べであった。

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「喰らええええええええええええええええええええっ!!」

 

身を裂く苦痛は上がる一方だが、それでも互いを破壊する行為が続けられていく。

 

元々の両者の関係からしてそうであったが、瀕死に陥ろうが絶命の寸前であろうが、戦う事に変わりは無いのであった。

相手を黙らせる、その瞬間まで。

 

 


















今回の武装は
・ゲッターミサイルマシンガン
・ゲッターレーザーキャノン
を参考にしました(発射されるのは魔力由来の小型ミサイルとレーザーであります

また変化したマガイモノの姿はデストロイア飛翔体がモチーフとなっております

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