魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第34.5話 少女達は虚構と世界に思いを馳せる

「あれ、友人は?」

 

勝手知ったる我が家の如く廃教会内を歩き、キリカはその主へと訊いた。

歩く最中には鼻歌が伴っていた。「窓辺からやがて」の辺りまでが奏でられていた。

対する杏子はソファに寝そべり、横に倒したスマホを両手で操作していた。

ゲームで遊んでいるらしい。

 

「出てった」

 

「目下家出中か」

 

「ここはあたしの家だ」

 

「青春してるね。引きこもりの私には羨ましい限りだよ」

 

素っ気なく応える杏子と、声色だけは感慨深そうに返すキリカ。

仲が良さそうに見えるが、杏子は暗に出てけと態度や視線で示していた。

キリカはと言うと何を考えているのか分からない。

適当に廃教会内を見渡しているかと思ったら、腕を組んだり首を左右に傾けたりを繰り返している。

壊れかけかバッテリー切れ寸前の玩具、或いは糸が切れたマネキンの様だった。

見た目が美しいだけにどこか非現実的で、見る者の正気度を削るような動きだった。

 

数分が過ぎ、十分が経過しようとした時キリカが口を開いた。

いい加減鬱陶しくなってきていた杏子が槍を召喚する寸前だった。

 

「なぁ知ってるかい、佐倉杏子。あのくそぼけ、ここじゃない何処かから来たんだってさ」

 

「知りたくねぇ。あの大馬鹿野郎の気持ち悪い妄想だろ」

 

「うん、私もそうであって欲しいと願ってるし、すんごく気持ち悪いと思う」

 

「…適当に座りな」

 

「御厚意感謝する」

 

共通の認識が生んだ共感が滞在を許容した理由だろう。

床に散乱したゴミを蹴飛ばしてスペースを作ると、キリカは胡坐をかいて座った。

いつもの白シャツとピンクのミニスカという出で立ちだが、スカートの中身が見えるとかは特に気にしていないらしい。

ついでに杏子も上は黒シャツで下は素っ気ない白の下着姿だった。

普段の上着とホットパンツはソファのひじ掛けに適当に引っ掛けられていた。

やや蒸し暑い夜とはいえ、かなりの無防備さだった。

異性としての意識は全くないが、厄介者兼破壊兵器の不在が原因とみて間違いない。

 

「えー、どこまで話したっけかな。ああそうだった、この前遂にヤッたんだっけ?おめでとさん、赤飯炊かなきゃね」

 

「気が変わった。死にたく無かったら今すぐ帰れ」

 

「早合点は良くない。遂に友人をブチ殺したのかって聞いてるんだ」

 

「家出したっつってんだろ」

 

「肉体は魂の器で詰りは家だ。そこからの解放をしたのかと思ってね」

 

「てめぇもあの映画にイカれてんな。あのクソバカも四十回は観たとか言ってたけどよ」

 

「その情報は古いな、少なくとももう八十回は観てるよ」

 

「死んだ方がいいな」

 

「この宇宙の為にもね」

 

キリカは当然のように言い放った。杏子には疑問が残った。

 

「そこから来たんだっけか。正確には別のとこから」

 

全く信じていないしこんな非常識な事を口にしたくないしが、ほんのごく僅かに納得という思いも含まれていた。

魔女や魔法を視認し、挙句血みどろでズタボロになりつつも生身で渡り合う存在など、まるで物語の登場人物のように非常識に過ぎた。

 

 

「でも日本人らしいよ。名前もそれっぽいしね」

 

「はっ、それも本当だかな。無駄に洒落た名前しやがって」

 

「主人公みたいな名前だよね。ぶっちゃけ嫉妬でムカつくよ」

 

キリカが憤然と言った。言葉にはしなかったが、杏子はこいつの名前も大概だろうと思った。

 

「日本人って話だけど、あいつはこれを見た事無いっつってたな」

 

杏子は遊んでいたゲームをオート仕様にし、スマホを掲げた。

ちなみに契約は今現在家出中で中学生女子らに好き勝手に云われてる者が道化を介して済ませた。

実物は彼が武器調達も兼ねて押し入った暴力団からの押収品である。

正気の沙汰の所業ではないが、今のところ特に問題を起こしていない。

声を出すものが根こそぎ消えてしまったのか、或いは手を出したくも無いのかは調達者にしか分からないが杏子にとってはどうでもよかった。

面倒事が起きれば道化を差し出せば済む。

 

「それは私も聞いたよ。スマホじゃなくて二昔前のパカパカするのが当時の主流だったんだってさ」

 

「当時って、何だよ?」

 

「さぁね。発売時期じゃないのかい?」

 

的を得てるのか得てないのかよく分からない評だった。キリカの発言は何時もこうなので杏子は気にしないことにした。

まともに相手をしていては胃に穴が開く。

 

「ただ日本人…ていうか地球人って時点での信憑性がどうもね。信じられるかい?この日本で街中を練り歩く人らの髪が、染めたりでもしなきゃほぼ黒一色なんてさ」

 

「なんだそりゃ。あいつのいたとこってのは変な病気でも流行ってんのかね」

 

「友人からしたら赤とか黄色、青にピンク色の髪が珍しくて仕方ないらしい。これじゃ水と空気が無いとか月と太陽が無くて天地が逆さまって言われた方がまだ自然だよ」

 

杏子はその信じてもいない世界の光景を夢想した。

すぐに気分が悪くなった。悪夢というかディストピアというか、単純な違いだがこの世の光景とは思えなかった。

 

「ああそうそう、ついでにこんな面白い話がある」

 

「何さ」

 

「前以ていうけど怒らないでくれよ。友人はあのナリだけど童貞じゃないんだってさ」

 

「死ね」

 

「ちょっと前にバトってた時、やーいやーい童貞やーいって連呼したら十五回目くらいで物凄く怒られたよ。首捩じ切られかけちゃった。まぁこっちも右手左足を砕いてやったけどさ」

 

「もういい、聞きたくねぇ」

 

「嫉妬は良くないぞ」

 

いらりと怒りが杏子の額に青筋を浮かばせた。

堪えたのは大嫌いな相棒兼大量破壊兵器、更に人間か更に怪しくなってきた存在も自制する事が出来ると示されたためだ。

キリカもこれを見越して好き勝手言っているのかもしれない。

ちなみに実際我慢したのは五回目だった。更には首を捩じ切ったというか噛み砕いたのだった。

キリカに手足を破壊されていた為に。

 

「中二くらいの時には彼女いたって言ってたね。結構モテたとかで、修行の合間にやる事はやったんだって。何をマウント取りたいんだろうね」

 

「それであたしにどんなリアクションさせてえんだよ、え?」

 

「君もさ、男でも女でもいいから恋人作って青春をエンジョイしてだね」

 

「そういうてめぇはどうなのさ。人に意見言わせたかったら自分の見解述べやがれ」

 

「うん、全く興味ない。年齢からの生理的な肉の欲くらいは四六時中いじってるさささささほどじゃないけど自分でなんとかするさ」

 

不愉快な単語と予想はしていたが赤裸々にも程がある答えに杏子は閉口したが、納得もした。

軽く鼻を鳴らし、こちらも概ね同じだが一緒にするなと拒絶の意味も込めてキリカに示した。

人間的な幸せとか社会的な地位とか、先の事は分からないし考えたくも無い。

今を積み重ねていって、生きてる限り絶対的な破滅の時が必ず来る。

その時までに今を積み重ね続けるしかないと思っていたし、そうとしか思えない。

 

キリカとの話にも飽きてきたので、そろそろ追い出そうかと思っていた。

時刻は既に深夜の三時で、そろそろ眠る時間だった。

声を掛けようとした時、二人の魔法少女は迫りくるものの存在に気付いた。

幾度となくぎたぎたにブチのめし、逆に半殺しどころか九割殺しくらいに追い込まれた厄介者の気配を感じたのだった。

独特の、魔女空間とも魔法少女とも違う気配だった。

蒸し暑い夜の熱が、その周りだけぽっかりと消えたような、虚無感とでもいうような気配であった。

 

「ただいま」

 

廃教会内に足を踏み入れ、彼は言った。

自身に突き刺さる嫌な視線に、何となくと言った程度の気まずさとこれは常識的な社交辞令を混ぜた挨拶だった。

 

「元いたとこに帰れよ、ナガレリョウマ

 

憤然とした口調で、杏子は平然と呪われた名前を口にした。

しかし口調とは裏腹に、内心では不吉さを感じつつあった。

名前の響きが自分のそれとやや似ていて、文字数が同じだからだろうと思う事にした。

 

 













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