魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
血で染め抜いたような深紅の巨体の周囲に、無数の光の姿が浮かぶ。
光は地面に相当する足場となり、そこに夥しい光が蠢いていた。
着地の瞬間に生じた衝撃と、機体を覆う暗緑の光が大津波の様に波濤となって光の群れに押し寄せる。
光達に激突し、有象無象が蹴散らされていく。
しかし破壊の波濤を突き破り、形状とサイズが様々な光の群れが真紅の戦鬼目掛けて身を躍らせた。
その数もまた無数であった。
「そうこなくちゃな」
獰悪な笑みを浮かべつつ、青年は最も手近な光に向けて飛翔し戦鬼に斧を振り下ろさせた。
サイズは戦鬼よりも遥かに巨大であり、凡そ四十mほどの戦鬼に対し三倍のサイズさがあった。
おぼろげながらも、鍬形か武者の兜に似た頭部へ振り下ろした斧はその直前で掲げられた幅広の光の刃に受け止められた。
この巨体でありながら、運動性能では全く引けを取らないらしい。
両手で振り下ろした斧は巨体の腕一本で掲げられた刃の前に微動だにせず、サイズに等しいパワーを有していることが伺えた。
斧の先にある兜型の頭部が殊更に強く発光し、日輪を思わせる光を放った。
白光に染められる中、戦鬼は身を翻して飛んだ。日輪の光は背後から迫る光の群れに激突し、爆発した白光が数百体の光を消し飛ばした。
「おお、すっげ」
率直な感想を述べつつ、戦鬼の頭部に光が灯る。奇しくもそれは、日輪を放った巨大武者と同じく額であった。
「ゲッタァァァビィィィムッ!!」
赤色の破壊光が放たれ武者の頭部へと着弾、したかに見えた。
「何ぃっ!」
接触の寸前、頭部が巨大な壁に覆われた。朧げだが、それは広げられた扇子に見えた。
「なろォっ!」
防がれつつも光を放ち続けたまま、戦鬼はぐるりを身を捩った。
破壊光もまた機体に続き、まるで鞭のように光の群れに叩き込まれる。
一回転で直近の連中が消え、更に回転軸を変えて放った光が更に多くを消し飛ばす。
武者から振り下ろされた巨大な刃を避け、飛翔した戦鬼の前に一体の光が迫った。
今度は逆に戦鬼よりもかなり小さく、七、八メートル程度のかなり小柄な光だった。
曖昧な形ながらどこか生き物に似た姿をし、頭部からは甲虫に似た角と背面には昆虫然とした光の羽が生えていた。
戦鬼が反応するよりも早く手に持った諸刃の剣が振られ、紅の破壊光を切り裂いた。
サイズ差など無いかのように、昆虫型の光の戦士はビームを切り裂きながら戦鬼へと迫った。
「命知らずもいるもんだな」
青年が熱線の照射を停止し、近接戦闘へと切り替える。
戦鬼が振るう斬撃を戦士は真っ向から受け止めたとみるや、逆に弾き返した。
「踏み込みが足らなかったか」
驚きつつ青年はそう評した。空中戦ではあるが、なんとなく言った方がいい気がしたのだった。
再び振り下ろそうとした時、上空で一際強い光が輝いた。他を睥睨するような、威圧感を湛えた輝きだった。
昆虫型の戦士も手を止め、他の光達もそちらを見上げていた。
「もう来やがったか」
ZEROという名の厄介者についてだろう。だが彼が見たものは異なっていた。
体高は戦鬼よりも二回り大きい程度であったが、両肩から長く伸びた突起や頭部から伸びた一本角など、刺々しく横に縦に伸びた光の装甲が巨体を更に大きく見せていた。
「なんだありゃ」
無論答えなど無い。だが禄でもないものだけは間違いなかった。
泰然と構えた状態から、光の巨体は両手を水平に構えた。太い腕の先端、手の甲にあたるらしい部分には球状の光が輝いていた。
二つの光の中央には、巨体の胸で輝く同様の光球が嵌っていた。
三つの光の間で輝きが増し、巨体の全身が燦燦とした光を発する。
「やべっ!」
青年が叫びつつ、戦鬼が背面の衣を全身に羽織る。
深紅の衣が戦鬼の貌を覆う直前、青年は上空で輝く光の間に生じた光の形を見た。それは漢字の『天』の字に見えた。
破壊の奔流、そうとしか思えない光が万物に向けて降り注ぐ。
光に触れた戦士たちがその輪郭を失くし、降り注ぐ光の中に溶けていく。
その様子を、光を放つ巨体は睥睨していた。己以外の存在を許さず、暴虐のままに全てを貪る冥府の王に見えた。
「調子こいてんじゃねええええええッこの野郎ォォッ!!!!!」
咆哮と共に、深紅の姿が冥王が発する光の中を突き進む。
遂には光を抜き出た五指が胸部で輝く光球を掴み、力のままに握り潰した。
「くたばれぇえっ!!」
怒りの咆哮と共に残った右手が戦斧を振った。両腕を斬り落とし、その巨体の頭頂から股間までを戦斧が一閃する。
倒したというよりも、自分から消え去るように冥王は霧散し、薄くなっていく光に照らされる戦鬼は全身に黒が纏わりついていた。
巨体を覆っていた外套と光を浴びた装甲は焼け焦げ、紅は黒に変じていた。
先の激戦で性能が低下していたとはいえ、通常では考えられない痛打であった。
「ったく世界は広いな。あんな野郎がいるたぁな」
さっさと直せと命じると、システムは少し待てとやんわりとした口調で返した。
幸いにして手足は動き、周囲の光も殆どが形を喪っていた。
システムが演算を終え、再生には二分掛かるとの返答が来た。
「ちょっと待ってろ、時間を稼いでやる」
そう言うと青年は操縦室を抜け出し、戦鬼の外へと抜け出した。
ちなみに右肩の戦斧を射出する部分がハッチとなり、外に通じている。理にかなっているのかよく分からない仕掛けだった。
呼吸器どころか宇宙服すら付けず、緑の戦衣に緑のスカーフという出で立ちのまま青年は深紅の戦鬼の頭部に立った。
放射線とか呼吸とかを無視した、というか考えてすらいない無謀極まりない行為だった。
何も問題が起きていないところをみると何かしらの対策を講じたようだが、この青年の場合は素で宇宙の法則が効かないのか、その判別がつかない。
考えるだけ無駄だろう。
時間を稼ぐとの彼の言葉に話を戻す。
光で染められた宇宙、正確は戦鬼の背中に五つの物体が接地していた。
大きさは縦に三メートル強で、形としては鶏卵によく似ている。横幅も似た具合の比率だった。
蜘蛛の足に似た形の光の柱に支えられ、それは佇んでいた。
少なくとも先程冥王の光を防いだ時にはいなかった。となるとそれを素で生き残った存在という事になる。
そんなものを前に、彼は生身で何をする気なのだろうか。
「来いよ。操縦すんのも飽きてきたから俺様が直々に相手してやる」
ロボット作品の主人公にあるまじき発言を平然と述べると、それに応えたか光の卵が動いた。
卵の正面に縦と水平に線が入り、その内部を晒した。
「…なんだこれ」
茫然とした声だった。例によって曖昧模糊としていたが、それは光により構築された光の人体だった。
角ばった手足に剥き出しの装甲を思わせる細いコードのような輪郭。
そして古めかしいカメラみたいな一眼とトースターのような角ばった頭部を持った、どこかレトロ感のある姿だった。
それが人間そのままの、座席に座った状態から立ち上がり、本体の卵と臍の斧ように繋がった光のバッテリー・コードを外しながら外界への第一歩を踏み出した。
その瞬間、白銀の一閃がその胴体へと吸い込まれた。
「前置きが長ぇ」
吐き捨てた青年の両手には、これもまた戦鬼と似た形の手斧が握られていた。
上下半身で寸断され崩れていく機械の人体の背後から、同様にバッテリー・コードを外し飛翔する同型達の姿が見えた。
空中にいながら、それらは手を振った。
するとレトロ感を思わせる手は三倍に伸び、青年の傍らを掠めた。
「早ぇな」
思いの外、堂に入ったフォームのパンチへの称賛だった。反応が少し遅れれば、顔面に喰らっていたかもしれなかった。
傍らを掠める鋼の拳には空気をぼっと切り裂く唸りが伴っていた。
着地した連中が振るった脚もまた腕と同様に大きく伸びた。迫る機械の脚に、青年は斧を振った。
軽い音と共に脚を切り裂き、崩れ落ちた身体の胴に頸にと斬撃を放つ。
一瞬の攻防を終えると、青年は少し重い息を吐いた。
行動としては単純だったが、外見に似合わぬ機敏な動きに対し彼の反応もギリギリだったのだ。
ふと気配を感じ振り返ると、倒れていた光達が蠢いていた。
断裂した胴体や腕の中から光の線が伸び、新たな下半身や手足を形成しつつあった。
不器用ながら自己修復をし立ち上がったそいつらの上に、巨大な物体が落ちてきた。
漆黒色に焼け焦げた、巨大な手であった。
さしもの再生も出来ないほどに砕かれたらしく、手の下でそれらは動きを止めた。
「なんだったんだ、こいつら」
愛機に尋ねるが、そんな事を聞かれても困るだろう。
更に自分の態度を全く鑑みていないのは、いかにもこの青年らしい。
そこに光の影とでも呼ぶべきものが降りた。
見上げると、九つの物体が飛翔する様子が見えた。戦鬼を中心として、その上空を円状に旋回している。
かなりの遠距離だが、青年には概ねの形が見えた。鳩に似た巨大な翼に人間に酷似した四肢が備わった光であった。
大きさは戦鬼とほぼ等しい、四十メートルほどだった。
それが一斉に、戦鬼目掛けて降り注ぐように垂直に落下を始めたのだった。
機能回復までには、まだ一分の時間が掛かる。青年は決断した。
「おい、俺を投げろ」
耳と正気を疑う発言に、愛機は即座に従った。
この青年のやることに一々意見の具申をしていては、時間がいくらあっても足りないのである。
腕は素早く動き、翼を広げた光達に向けて操縦者を投擲した。投擲と相手方の接近の速さから、会敵は直後であった。
「キモい奴らだ」
間近でそれらを見た青年の感想はそれだった。
光の輪郭だけも分かるのっぺりとした凹凸の無い頭部、鳥のくちばしと人間の歯を合わせたような口元など、妙に生物じみた異形のフォルムだった。
それが彼の眼前で、その口を大きく開いた。自らに乗せられた速度のままに、彼はその中へ飛び込んだ。
人に酷似した形の歯が噛み合わさり、あろうことかその間からは光で覆われた舌らしきものが覗いた。
心なしか嗤っているように見える口元が大きく歪んだ。のっぺらぼうを思わせる頭頂が盛り上がり、直後に破裂。
次いで首筋が弾け、翼を広げた背中が脱皮の様に引き裂ける。
光の飛沫を噴水の様に上げ、肉片の如く光が散る。その中心には、天に切っ先を向けた刃が掲げられていた。
独特の鍔の形をしてはいたが、それは紛れもなく日本刀であった。
鍛え上げられた刃の表面に、禍々しい暗緑の光が纏わり付き、呪いじみた輝きを放っていた。
それを握る者が誰なのかは、言うまでもないだろう。
「うおおうりゃあああっ!!」
裂帛の叫びと共に、緑色に輝く刃が振り下ろされる。
刀身から迸った緑の光が背中から腹まで抜け、巨大なヒトガタを縦に真っ二つに切り裂いた。。
降り終えた直後に彼は跳躍した。接近していた別の異形の頭部へと昇り、更に別のものへと飛び移る。
三体ほどそれを行うと、彼は下を見て軽く呻いた。
「気味悪い連中だな、共食いしてやがる」
二つに裂けた個体の傷口や胴体へと別の異形が頭部を突っ込み、その輝く肉体を貪っているのだった。
曖昧なビジョンであっても、それだけに想像力を掻き立てて吐き気を催す光景を作っていた。
「こいつらあれだな。コモドドラゴンて奴だろ」
確かに似てなくも無かった。どちらかといえば直立歩行のウナギに見えるが。
「まぁいいや。纏めてくたばりなッ!!」
身を翻し、彼は蠢く巨体たちへと落下していった。傍らを過る度に刃を振い、暗緑の斬線を刻んでいく。
彼の接近に気付いた一体が腕を伸ばすも、その指や腕ごと胴体が緑の光によって寸断された。
長い首がなで肩諸共切り裂かれ、揃った歯も顎ごと切断される。最後の一体を頭頂から股間まで切り開き、彼は異形の群れを抜けた。
光の臓物が零れ、内部の骨らしきものが露出する。生物としか思えない連中だった。
その崩壊に異変が生じた。切断された光の肉が蠢いて繋がり、輝く臓物も逆再生の如く胴体に戻っていく。
異常の続く光景だが、青年の顔は不快感よりも納得の表情を浮かべていた。
「やっぱトカゲじゃねえか、しぶてぇな。ああそうか、こいつらメカザウルスの一種か」
全く以て勝手な勘違いをする男である。
それに苛立ったのだろうか。
緑の光の影響か再生後の輪郭は溶け崩れかけていたが、再生を成せた四体の異形達は動き出し手に持った巨大な刃を青年に向けて振り下ろした。
迎え撃つべく刃を振りかぶった直後、横合いから巨大な黒い腕が伸び逞しい五指が諸刃の大剣を掴み取った。時間稼ぎが終わった瞬間だった。
「ここからだってのに」
残念そう言いながら乗り込み、青年は戦鬼を駆った。
鉄拳が振るわれ、異形を二体纏めて貫いた。胸元を貫かれ、異形の口が引き裂けんばかりに拡がる。
異形の苦痛なんぞ気にもせず、戦鬼が諸刃の剣を奪い取る。試しに振って一体の首を飛ばし、ついでに突いて異形を串刺しにする。
大きさは戦鬼と変わらないどころか更に大きいのだが、まるで小枝でも振り回す気軽さで操っていた。
「あんま使い勝手良くねぇな。剣もこいつには似合わねぇ」
使用者の意見は辛辣だった。
背後から迫っていた残りの異形に向けて剣を裏拳の要領で後ろに振り、既に一体を串刺しにしたまま同じように貫いた。
最後に腕に貫かれながらもうねうねと身を捩っていた異形二体を二本の剛腕で頭部と脚部で纏めて引っ掴み、そのまま雑巾絞りの如く捩じった。
残虐極まりない方法には流石に再生も不可能なのか、それらは光の粉となって消え失せた。
残る連中は未だに再生の途中であった。駆除しておくかと思った時、彼はその奥に立つ巨体に気が付いた。
離していた大剣を再び掴み、それに向けて投げ飛ばす。
飛翔の中で大剣が変形、二又の槍と化して飛んだ。
再生中の異形達を串刺しにし更に進んだ光の槍は、剛腕の一振りで突き刺された異形達ごと霧散した。
「ようやくお出ましか。待ちくたびれたぜ」
彼の言葉とは違い光の群れに飛び込んでから、これまでの間で五分と経っていなかった。
恐ろしく堪え性の無い性格をしているのだろう。子供っぽいともいう。
再び顕れた終焉の魔神は光の文字を紡いだ。
「どうだかな。で、さっき変な言葉ほざいてたけどよ、それはどうなった?」
「何言ってんだお前。だから日本語喋れってんだろ」
「前置きが長ぇんだよ。最初からそうしな」
噛み合ってはいないが成立はしていた。互いに相手に無関心なところがあるせいだろう。
何はともあれ、さっさと相手を破壊したいのだった。
二つの巨体は同時に動いた。
双方から剛腕が伸び、逞しい五指が魔獣の牙の様に噛み合う。
単純だがそれだけに互いに最大の力が注がれる。
双方の装甲が軋むが、互いに壊れもせずにその状態が保たれる。
戦鬼の全身からは暗緑の光が立ち昇っていた。
「ああ。クソ迷惑な奴だがそこだけは便利だ。てめぇもこのまま握り潰してブチのめしてやる」
「何だと?」
「てめぇ…好き勝手な事抜かしてんじゃねぇ!!」
「俺ぁんなこた知らねえな。そうだとしても知ったこっちゃねえ」
自身の存在を全否定するような発言にも、青年は純粋な怒りで吠えた。
その様子に魔神が一つの答えを出した。
「ああ、俺はちゃんと親父とお袋から生まれた人間様だ。化け物扱いするんじゃねえ」
そういう意味では無いのだが、魔神は無視することにした。
自身から生まれたが、この男のルーツは自分とは異なっている事を言ったのだった。
「まどろっこしい野郎だ。いいから掛かってこいって言ってんだろが」
魔神の胸部の禍々しい紅の装甲が赤熱していく。
また戦鬼の胴体の中央が開き、深紅の光が渦を巻く。
「ゲッタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアビィィィイイイイイムッ!!!」
超至近距離からの必殺技の激突に、硬く握り締められた互いの拘束が緩み両者は大きく弾き飛ばされた。
だが間髪入れずに互いに応酬が交わされる。
「ミサイルマシンガンッ!!」
超高速で飛翔する二つの鉄拳を、戦鬼の剛腕からせり出した二つの銃火器の連打が迎え撃つ。
一切の速度を落とさずに飛来した腕を戦鬼の手が受け止めた、と同時にZEROが肉薄。
腕と連結し逆に戦鬼の腕を掴み、縦横無尽に飛翔する。
その最中で、再生を終えたヒトガタの異形に両者が掠め、再生も許さぬほど木っ端微塵に粉砕というか消滅させた。
その様子に青年は、何故か人生の悲哀さを感じていた。悲哀という事で、彼は一つの事を思い出した。
嘗て自分が放った言葉で、少々の罪悪感を覚えていた言葉を思い出したのだった。
「大雪山!」
叫ぶながら、彼は戦鬼を操作し今度は逆に魔神の腕を掴み取った。
そして機体に加えられている無限にも等しい力を逆に利用し、機体に捻りを加えて叫んだ。
「おろしいいいッ!!!」
駒のように回転し、魔神を戦鬼から見て上空に放り投げる。単純な行為であったが、魔神は錐もみ状態のまま上昇を続けた。
漸く収まった頃には、互いが微細な点に見えるに等しい距離が開いていた。
「やったな弁慶。ただ投げるだけじゃねぇんだな」
青年は純粋に関心の言葉を告げた。
かなりの無茶をした為に戦鬼の全身にヒビが入ったが、魔神の装甲も歪んでいた。
しかしそれが戦闘を取りやめる理由にはならない。
砕け散り、最期のひとかけらになるまで戦い続けるまでは。
或いは、止める必要が顕れなければ。
再び接敵しようとした際に、それは何の前触れもなく生じた。
最後の頁を捲れば、物語の終わりが来るように。
「くそったれ。これからだってのに今日は厄日だな」
青年が吐き捨てる。
魔神は宇宙を見渡した。果ての果てまで見通す神の眼が、宇宙の深淵を見つめていた。
事も無げに、無感動に、ただ現象を観測した機械そのもののように告げた。
そして更に
と繋げた。
「で、どうする?俺ぁやる事決めたぜ」
青年が魔神に問うた。怯えは無いが、覚悟を決めた表情と腹を括った言葉であった。
このあたりが魔神と人間の差なのだろう。
いい様、魔神が自らの胴体に向けて拳を突き入れた。装甲は割れず、ただ太い指が泥にでも漬けたように沈み込む。
内部で何かを掴み、躊躇もせずに引きずり出す。
眩い光を放つそれは、機械の脈動を続ける鉄の心臓部、光子力エンジンの威容であった。
複数のコード諸共引きずり出し、高々と掲げる。
そのまま魔神は下方を見た。同じ姿となった戦鬼の姿が見えた。
暗緑の光を鬼火の様に撒き散らす、地獄さながらの光景の中央で自らを睨み上げる青年の顔が見えた。
「おいZEROさんよ、終わったら続きだ。逃げんじゃねえぞ」
その言葉に魔神は言葉を送らなかった。苦笑したとも、理解していたともどちらとも言えた。
そして二体は同時に己の心臓を握り潰した。閉塞してゆく宇宙を、炸裂した二色の光が何処までも切り裂いていった。
「確かに逃げるなって言ったけどよ。てめぇ何時までいる気だ」
宇宙を進む真紅の戦鬼の中、座席に踏ん反り返った青年が憤慨した様子で言った。
その彼の前に光の文字が浮かぶ。
「ここは俺の家みてぇなもんなんだけどよ。さっさと元の身体作って出ていきやがれ」
「え?そうだったのか」
青年の返しに魔神は沈黙した。あれから地球時間で例えて一週間は経過していたがその間何も疑問に思っていなかったのかと。
莫迦の相手は出来ないと、深紅の戦鬼に巣食う魔神は話を変える事にした。
「何でだよ」
疑問を投げつつ断らないのは、ここは大人の対応が必要だと思ったせいである。勝手にも程がある態度だ。
「何が言いたい」
「てめぇ、神だから退屈とか寂しいとかも無いって聞いたぞ」
「まぁいいや。精々俺もてめぇを利用させてもらおうじゃねえか。てめぇも恨みを買ってそうだからな、こっちも退屈しなそうだ」
「てめぇ…俺を馬鹿にしてんのか」
「ああ、物には限度があるからな。相手はガキで、しかも女相手に血みどろの殺し合いなんざやる訳ねぇだろ」
当然の、一般常識を告げるように彼は言った。
魔神としてもそうとしか思えないので、それ以上の言及を止めた。
終焉の魔神の問いに、彼は操縦桿を思い切り倒して応えた。
それが応えであった。
何処までも、宇宙や次元の果てまでもと、深紅の戦鬼は光を超越した速度で宇宙を切り裂き進んでいった。
何処をどう進んでも無限の時間と空間と、そして未来永劫に尽きぬ修羅地獄が待っている。
一先ずの、終劇
ダイターン3、ダンバイン、ゼオライマー、トダー、エヴァンゲリオン量産機に永久の栄光あれ