ロクでなし魔術講師と赤髪の天災魔術師   作:クッペ

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第四話

「・・・昨日は、すまんかった」

 

「え?」

 

 グレンが珍しく予鈴が鳴る前に教室に来たと思ったら、開口一番に放った一言がこの言葉である。全く予想していなかったシスティーナは硬直して、次の言葉を紡ぎだせずにいた。

 

「いや・・・まぁ、その、あれだ・・・大切なものは人それぞれっていうか、人の価値観は人それぞれっていうか・・・確かに俺は魔術が嫌いだが、それをお前にまで押し付けるのは筋違いっていうか・・・とにかく、すまなかった・・・」

 

「・・・・・・はぁ?」

 

 グレンの真意を読み取れないシスティーナは怪訝な表情を浮かべていた。

 クラスの人間はグレンが誤ったことに対して、狼狽えてざわついていたが、システィーナのなりに座っているルミアは、ただ一人微笑んでいた。

 

(良かった・・・。グレン先生ちゃんと謝ってくれて)

 

 それと同時に教室の後ろの方へ少し注意を向けてみるが、

 

(やっぱり何も感じないけど、今日もいる・・・んだよね?)

 

 ルミアは昨日の放課後に起こった出来事を少し振り返っていた。

 

* * * * * * * * * *

 

「・・・お前、どこかで・・・」

 

 グレンの後ろにいつの間にかいた少年は、ルミアの顔を見ると開口一番そう言ってきて、グレンに対して耳打ちをしていた。

 

(なぁ、兄さん。この子って三年前のあの娘に似てないか?)

 

(はぁ?俺も最初にそう思ったが、気のせいなんじゃないのか?)

 

(そうかなぁ?)

 

「あなた、誰ですか?どこから現れたのですか?それにその服装・・・」

 

 内緒話をしていたカインにルミアがそう尋ねた。なぜならカインの今の服装は、帝国宮廷魔導士団の制服に身を包んでいたからである。

 

「やべ!?ばれた!?・・・はぁ、まぁばれちゃったならいいや。どうせこの服装で、大体の察しは着いちゃってるでしょ?俺の名前はカイン=レーダス。宮廷魔導士団に所属してるんだけど、詳しい所属は秘密な、こればっかりは勘弁してくれ。そこにいるグレン=レーダスの弟みたいなものかな、血は繋がってないんだけどね。年齢は多分君たちと同じだよ。よろしくね。」

 

「その軍の方が何でここにいるのかな?確か関係者以外は入れないように結界が張ってあったんだけど・・・」

 

 この状況に困惑しながらルミアはカインに聞いてみた。

 

「あー、やっぱり気になっちゃうよね・・・まぁここでばれちゃった俺が全部悪いから話させてもらうけど、このことは他言無用で頼むね?学生とかこの学校の講師、教授陣ならともかく、母さ・・・セリカって人にばれたら流石にヤバいから・・・」

 

「うん、それはいいんだけど。どうやってここに侵入したの?」

 

「この学院に貼ってある結界の術式を一部吹き飛ばして入れるようにしたんだよ。入ったら結界を元に戻して、光学迷彩の魔術を使ってね。君のクラスに兄さんが来た初日からずっと見てたんだ」

 

「・・・・・・」

 

 流石のルミアも絶句するしかない。不法侵入も理由の一つなのだが、もし彼がテロリストなどであった場合なども考えると、恐ろしかったためでもある。

 

「まぁ、方法は話したからこれでおしまいとして、これって魔術円環式だよね?」

 

「う、うん。そうだけど、うまくいかないからもうやめようかと思ってたの・・・なんでかなぁ、この前システィとやったときはうまくいったんだけどなぁ・・・」

 

「バーカ、水銀が足りてないんだよ」

 

 そう言って水銀が入ってる器から水銀を流し、迷うことなく腕を動かしていた。

 

「ほれ、これでもう一回起動してみ。教科書通り五節でな。横着して省略するなよ?」

 

「は、はい≪廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ≫」

 

 その瞬間方陣が白熱し、視界を白一色に染め上げていた。やがて光は収まり、鈴なりのような高音を立てて、駆動する方陣が視界に現れる。方陣のラインを七色の光が縦横無尽に走っていた。

 

「うわぁ・・・綺麗・・・」

 

 ルミアはその光景を感極まったようにじっと見つめていた。

 

「やれやれ、これそんなに感激するようなもんかね?」

 

「だって・・・今までで見てきた方陣の中で一番綺麗なんですよ。先生って凄いですね・・・」

 

 そう言われると少し照れた表情を浮かべながら、

 

「馬鹿言え。こんなもの、誰だって組める。ここまで鮮やかになったのは、お前が選んだ触媒が良かったからだろ。」

 

(素直じゃないなぁ・・・)

 

 カインはそう思いつつグレンが実験室から出て行ったのでそれに付いていこうとした。

 

「先生、あの・・・もう帰るんですよね?ご一緒してもいいですか?」

 

「やだ」

 

 グレンは即答したが、ルミアは肩を落として目を伏せていた。

 

「一緒に変えるのは御免だが・・・勝手についてくる分には好きにしろよ」

 

(なんでそう捻くれてるかなぁ・・・)

 

 そう思わずにはいられないカインであった。

 

* * * * * * * * * * 

 

 そこからのグレンの授業は圧巻であった。

 

 【ショック・ボルト】の術式を区切ったり消したりしていろいろな効果があることを実演したり、おおよそ呪文とは思えない言葉で【ショック・ボルト】を起動させたりしていた。

 

(やっぱりこうしてるときの兄さんはなんか生き生きとしてるね)

 

* * * * * * * * * *

 

 ダメ講師、グレン覚醒

 

 その噂はクラスだけにとどまらず、学校中に震撼し、今では違うクラスの人間が立ち見をしてまでグレンの授業を聞きに来ていた。

 

 しかし・・・

 

「遅い!」

 

 システィーナは唸りながらそう叫んでいる。

 

「あいつ、まさか今日が休校日だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」

 

(確かに遅いな・・・休校日だと勘違いしてる可能性はかなり高いが、それにしたって遅すぎる・・・)

 

 そう思っていると黒いコートを着た謎の男性三人が、教室に現れていた。

 

 すると何かもめている様にシスティーナが口論していたが、

 

「≪ズドン≫」

 

 チンピラ風の男がとなえたふざけた呪文が発動し、システィーナを掠めて背後の壁に何かをうがったような音が響いた。

 

(今のは【ライトにニング・ピアス】!?何者なんだあいつら!?)

 

 カインが驚愕しているとチンピラ風の男がルミアを探していると言い出した。

 

(なぜルミアなんだ・・・?)

 

 そう思っているのはカインだけではなくクラスの人間がも同じ疑問を感じていた。

 そしてルミアが名乗ってチンピラ風の男と、黙っていた男がルミアとシスティーナを連行していき、もう一人の陰険そうな男が、クラスの人間を縛り上げていた。

 

(今動くのは得策じゃない・・・か。とりあえず兄さんがこの学園に到着してから考えよう)

 

 今一人でやみくもに連れていかれた連中を探し回っても効率が悪いのと、目の前にいるボーンゴーレムと陰険そうな男の監視によって、カインも動けずにいた。

 

 しばらくたってグレンが学園に到着したことが分かったカインは、目の前の障害を突破することを考えるが

 

(俺の固有魔術は軍事機密指定、さらに拳銃形態の魔導器じゃあロクな威力が出ない、だからと言って普通に呪文を唱えるとこの教室が吹っ飛びかねない・・・どうやって目の前の障害を突破するかだが・・・)

 

 作戦を練っているうちに、グレンたちが大量のボーンゴーレムに襲われているところを視たカインは

 

(あれこれ考えても仕方ない・・・か。とりあえず目の前のボーンゴーレムを消し去って、あの男の方は固有魔術使ってでもなんとかするしかないかな。ここにいる人間には軍事機密指定されてる魔術だって黙ってて貰うことにして)

 

 そう至高をまとめるや否や、懐から拳銃形態の魔導器を取り出して、ボーンゴーレムに向けて引き金を引く。そうするとボーンゴーレムは一瞬揺らいだかと思うと、この世から消滅された。

 

「「「「な―――ッ!」」」」

 

 クラスの人間と陰険そうな男は思わず声をあげる。

 一つはボーンゴーレムが消滅した謎について、もう一つはいつの間にか目の前に立っていた、帝国宮廷魔導士団の制服を身に纏った、赤髪の青年が立っていたことについて

 

「き、貴様!いつからそこにいた!?」

 

「おー、おー、雑魚キャラのお決まりのセリフをどうもありがとうおじさん。ところでおじさん誰?」

 

 カインの挑発にはまるで意にも介さずといった表情で陰険そうな男が名乗りを上げる。

 

「我は天の智慧研究会のイズカ!して、貴様は何者なのだ?」

 

「やっぱり聞いてくるか・・・できれば一般人の前で名乗りたくはないんだけど、状況が状況だし仕方ないか・・・」

 

(まずはこのクラスの人間を落ち着かせないといけないからね・・・)

 

「帝国宮廷魔導士団所属のカイン=レーダス!このクラスの担当講師、グレン=レーダスの義弟だ!」




特務分室であることは明かしません

次回、一巻の終了と、カイン君の無双

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