俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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Life.7 家族、増えました。

「さて、良く寝たから話をしよう」

 

「ホントに良く寝てたにゃー…… なんであの状況から3時間もぐっすり寝れるのかにゃ」

 

「生まれつきだ」

 

「そりゃ生まれてからすぐは寝るのが仕事だからね」

 

そんな世間話から入り、いろいろと話をした。

曰く黒歌は指名手配されているはぐれ悪魔らしい。

元主が妹に負担が大きい術の使用を強要しようとした? とかそんなことがあり、下手をしたら死んでしまうかもしれないから先手必勝で殺したらしい。

そしてそれを力に飲まれ暴走したからであるとされ指名手配された、と。

どう考えてもお偉方が失態を隠したいからとかそういう感じなんだが……

怪我をしていたのは追手の悪魔が持ってきた謎の道具を不意打ちで食らってしまい追い詰められていた。

 

なる程。

 

「悪魔の社会っていうのは貴族制度なのか」

 

「気にすべきはそこかにゃー? ちょっと前から気づいてたけどヤストラはなんかずれてるにゃー」

 

「そうか?」

 

「もっと、その、私が人殺しってところとか……」

 

「悪魔殺しだろう?」

 

「重要なのはそこじゃないにゃ!」

 

「俺もはぐれ悪魔なら何匹か殺している。そう変わらんだろう」

 

「いや、えっと…… んーっ……」

 

どこか釈然としないという風な黒歌をよそに俺は考えていた。

確かに殺しは悪いっちゃ悪いが事情が事情だしな。

別にどうということはない。

というか俺はこれまでこんな美人さんを撫でまわしていたのかという事実の方がやばい。

 

「難しく考えるな。要は俺は気にしてないってことだ。その件も貴族社会だからこそって話だろう。人間社会でも死刑にはならん。知識が日本の物で悪いが殺人でも最低禁固5年、情状酌量の余地ありと見られれば減刑を含め執行猶予すらつく可能性だってある。それに……」

 

「……?」

 

少し言いよどむ俺に小首をかしげる黒歌に言いかけた言葉を飲み込み、続ける。

 

「それに悪人……人? 猫? 悪魔? いや悪悪魔は変か。まあ悪い奴じゃないというのはこれまでの生活でわかってるつもりだ」

 

「猫としか見てなかったくせに、しかも会って一月も経ってないのにあんなに体を触って、うぅ、もうお嫁に行けにゃい」

 

芝居がかった仕草でよよよと品をつくりながら言う。

とても誤解を招く言い方だ。

 

「やめろ、その言葉は俺に効く。……その短い間でも殺そうと思えば殺せたはずだ。出ていこうと思うならばそれも可能だったはずだ。どちらもしなかったのはここにいることに意義を見出してくれたからだと思ってる」

 

「いや、ヤストラを殺すのは中々大変だと思うんけど…… うんそうだね。結局私は出ていくことはできなかったにゃー。気にいっちゃったんだ」

 

「なら俺はお前を守る。猫でも人でも悪魔でも変わらん。拾ってきたからには最後まで面倒くらい見る」

 

「は、恥ずかしいことさらっというにゃあ……」

 

「さて、どうすればいいと思うアザゼル」

 

そう俺がつぶやく。突然なにを言っているんだと言った顔をしている黒歌の背後にある窓ががらりと開く。

 

「SSランクのはぐれ悪魔何ざ匿っても百害あって一利なしっていう言葉はもう今更なんだろうなぁ」

 

「に゛ゃ!?」

 

そういいながらよっこらせといいながら侵入してくるアザゼル。

ドアから入れドアから。

 

「けっ、青春しやがって。あーあー、若いっていいねえ。俺も百年前くらいはもっとブイブイ言わせてたのになぁ」

 

「そんなことを言ってると余計老けるぞ。最近頻繁に覗いていただろう」

 

「気づいてたのかよ…… 一応配慮してたんだけどな」

 

「最近ますます感覚が鋭くなっていってるからな。そのせいだろう」

 

「おい。お前、それ軽く言ってるけど重要なことだからな? なんでそんな急激に成長してんだ」

 

「連戦に次ぐ連戦だったからな。今一物足りないが」

 

「ちっ、黒歌を監視するより泰虎を見ておいた方が良かったか。こりゃ本格的に色々急がなきゃなんねーな。なんで犯罪者より目をかけなきゃならないんだお前は。誰と戦ってた」

 

「修行の道中黒歌を追ってきていた奴らが襲い掛かってくるので撃退していた」

 

「……正式な悪魔ってことじゃねーか。人数は」

 

「最大十人」

 

「少ないな、手柄を独り占めしたいとかか? それか人間相手に苦戦してるって他の援軍を呼びにくいから身内だけで固まってきてるのか…… どっちにしろそこまで地位の高い奴らじゃねえな。まあそんな奴はこんなところまで来ねーか」

 

「やっぱり悪魔ってそういう感じなのか」

 

「大体な。中にはマシなのもいるがやっぱどうしても文化的に差別意識はあるな。血統重視の奴らとかも多いしな」

 

「ちょ、ちょーっとまって!」

 

話についていけないとばかりに声を上げる黒歌を不思議なものを見るように俺とアザゼルは視線を向ける。

 

「どうした黒歌大声を出して。お腹空いたか?」

 

「猫の時と扱いが変わらない!? いや違くて、な、なんで堕天使総督がいるにゃ! ヤストラもなんでそんな平然と受け入れてるの!」

 

「こないだ来たときにお前の存在に気がついて悪さしないか見張ってたんだよ。悪さどころか夜になったr「に゛ゃぁあああああああ! 黙れぇえええええええ!!!」 グボフッ!」

 

「夜にどうした?」

 

「き、気にしなくていいから!」

 

「……? そうか。で、アザゼル。どうすればいい?」

 

「簡単に言うがな、割と危険な橋渡ってること自覚してるか? 俺が直接手を出せば下手したら種族間抗争の勃発だ」

 

「ム、そうか。流石にあんたならまだしもシェムハザさんに迷惑をかけるのは気が引ける」

 

「なんで俺は呼び捨てでシェムハザはさん付けなんだ。今更敬称なんてつけられても寒気がするけどよ」

 

「で? どうすればいい?」

 

「おい、さっきからそれしか言ってねーぞ。ゲームのNPCかお前は」

 

「答えがあるのにお前が言わないからだ。なんとなく解決策がない訳ではないという顔をしている」

 

「だからなんでわかるんだよ。いっそ不気味だぜ」

 

「どれだけお前と顔を合わせていると思っている」

 

「まだ半年にもなってねーぞ」

 

「短いにゃ」

 

「しかもたまに会いに来てるだけだからな。回数で言えば100にも満たねぇんだがな。まあ確かに解決策がない訳じゃない。というか本当は全く別の準備が今回の件を結果的に解決するって感じだが」

 

そういいながらアザゼルは懐から紙を取り出して見せてきた。

 

「……何語だ。読めんぞ」

 

「普通に英語だよ…… お前もう少し勉強にも力を入れろよ? これはこの土地の神話体系との一時的な協力関係の申し込みの同意書だ」

 

「この土地って、アステカの連中にゃ? よくあいつらと堕天使がちょっとでも協力しようと思えたにゃー」

 

「俺としても不思議でな。もう少し長い目で見ていたんだがここの代表の鶴の一声でOKされた。こっちで何かなかったか?」

 

「代表って誰にゃ」

 

「ケツァルコアトル神だ」

 

「あ」

 

その名前を聞いた瞬間にあることを思い出す。

 

「……おい、なんだ。隠してることがあるなら言え」

 

「一度だけ悪魔連中と戦った後で異様に強い背の高い女に勝負を挑まれて手傷を負わされた」

 

「え、数日前の怪我してきたときかにゃ? でもあれってあの悪魔たちのせいじゃなかったの?」

 

「ム、なぜ知って…… ああ、あの日記を読んだのか? 書いていなかったか?」

 

「え、あ、読んだっていうか。というか反応薄いにゃあ。ちょっとは恥ずかしがってもいいんじゃないかにゃ…… 特に思い当たることは書いてなかったにゃ」

 

「ふむ」

 

引き出しを開きノートを取り出しそのページを開く。

 

「この日だな」

 

 

十四日目

この間の悪魔が仲間を10人ほど引きつれ以下略

流石に無傷とはいかなかったがいい修行になった。

虚化の持続時間が一気に伸びた。

黒歌が傷を心配そうになめてくれたのでまだまだ元気に戦える。

というかしつこいなあいつら。黒歌はうちの子です。

虐待する輩なんぞに渡して堪るか。次あったら巨人の一撃(エル・ディレクト)だな。

 

 

「渡して堪るかだってよ。愛されてるじゃねえか」

 

「う、うるさいにゃ! で、特に何も書いてないけど」

 

「ここ正しくはこうだな」

 

 

十四日目

この間の悪魔が仲間を10人ほど引きつれてきた。

人数が増えたところで特に苦戦せず倒せたが、終わったところで背の高い女性が話しかけてきた。

良い動きをしているとか、ルチャに興味はないかとか、やたらムーチョムーチョと言っていたり、あれよあれよという間に勝負をすることになった。

凄まじい強さの女性であり、最後の技など無抵抗に炎で燃やされつつ脳天から叩き落とされた。

「あなたには高さが足りまセーン!」と言われたが、なる程。俺には高さが足りなかったのか。

動けなかったので失礼だったが、寝ながら感謝を言うとすこぶる機嫌がよくなり再会の約束をして帰っていった。世界は広い。もっと強くならねば。

流石に無傷とはいかなかったがいい修行になった。

(ホロウ)化の持続時間が一気に伸びた。

黒歌が傷を心配そうになめてくれたのでまだまだ元気に戦える。

というかしつこいなあいつら。黒歌はうちの子です。

虐待する輩なんぞに渡して堪るか。次あったら巨人の一撃(エル・ディレクト)だな。

 

 

「この苛烈な女性がケツァルコアトルと名乗っていた気がする」

 

「「重要な部分略しすぎだ(にゃ)!?」」

 

「人に見せようと書いていなかったしこれは基本的に黒歌の観察日記だったからな。不要だと思って書かなかった」

 

「てっきり私の為に戦って怪我したと思ったのに…… いや私の為に戦ってくれてるけど…… ていうか私のための日記…… えへへ」

 

黒歌がぶつぶつと何か言っているがとりあえずそっとしておこう。

 

「あの技受けて怪我で済むって本格的に人間やめ始めてねえかこいつ…… ていうか泰虎の話なんざしてねえぞ。これだから神って奴は……」

 

「アザゼル、その紙があると何がどう解決するんだ」

 

アザゼルも呆けている様だが話が進まないので軌道修正する。

まったく、なぜこうも話がそれるんだ。

 

「無性にお前にツッコミを入れたくなったが、まあいい。そもそもこの協力体制はお前を他の下手な勢力に接触させないために話を勧めてたもんだ。この協力体制の要点をまとめると、一部地域に特定数の堕天使を優先的に配備することを許すこと。一部地域内に他勢力が侵入する際の防衛権の一部譲渡。簡単に言えばここら辺の土地を制約ありで堕天使の拠点とするって話だ」

 

「……そうか」

 

「よし、今一わかってねえな。これのみそは直接この土地にいる連中と接触しないでこの土地の権利を借りれるって話だ。つまり現在ここら辺にいる他勢力の奴らは出ていかざるを得ない。階級が低い奴らならなおさらな」

 

「つまりあいつらは勝手に出ていくし、黒歌は一応の安全を得られる?」

 

「そうだな。そんでもって仮に他勢力のやつが来たとしても俺が迎撃に参加できるっていう口実を得た訳だ。それに俺も気兼ねなく来れるいい別荘ができて一石二鳥って訳だな」

 

最後に欲望が漏れなければ褒めてやるのになぁ。残念な奴だ。

 

「ということは何か。もう解決しているってことか」

 

「そうだな。現時点でこの条約は効力を発しているし、明日にはここら辺の地域の奴らには勧告を出す。外を堂々と出歩くってのはアレだが。まあしばらくは平穏無事に過ごせるだろ」

 

「そうか。よかったな黒歌」

 

「う、うん。……こんなに簡単でいいのかにゃあ?」

 

「享受できる平和があるなら楽しむべきだ。改めて、よろしく頼む」

 

少し困惑している黒歌に手を差し出す。

おずおずとその手を握る様は、何だか初めて目が覚めた時に手を治療したときに似ていた。

あれからまだ一月もたっていないということに驚きを隠せないが、俺にとって黒歌という存在が守るべきものになるには十分な時間だった。

 

「よろしく、ヤストラ」

 

そういうと黒歌の目からボロボロと涙が零れ落ちていた。

 

「ど、どうしたどこか痛いか? 傷が開いたか?」

 

「お、おかしいにゃあ。なんで、こんなに泣いて……ッ!」

 

突然の涙におろおろしているとアザゼルにどつかれて小声でささやかれる。

 

「バカ! こういう時は何も言わずに抱きしめてやりゃいいんだよ! 俺はひっそりと出て行ってやるから後はよろしくやれよっ!」

 

そう言いながら俺の背中を押して黒歌をなし崩し的に抱きしめる形になってしまった。

そしてアザゼルはというと本当に忍者もびっくりな速度と無音さで窓枠に足をかけ人差し指と中指の間から親指を出しこちらに向けてとてもいい笑顔で去っていった。

あいつは今度殴る。

可能なら今すぐ追いかけたいところだが。

 

「ぅ、ひっく!」

 

今はこの泣いているただの女の子の涙が止まるまで、一緒に居よう。

 

 

to be continued…




主人公が殴るしか脳がない。
もうアザゼル先生が全部やってくれてる。

これはアザゼル先生主人公説が濃厚になってきましたね(

あと数少なすぎてタグをつけるか迷ったFate要素、ケツァルコアトルの姐さんです。
大好きです(持ってないけど)
多分これからちょこちょこ出てきます。

ちなみに嫁鯖はアンメアです。

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