運動場で、木場は騎士同士、そして俺は目の前の戦車と戦っていた。
「フッ、なかなかやる。この間ミラに吹き飛ばされていたのが見違えるようだ! よほどいい師に出会ったか!」
そんな言葉と共に放たれる鋭いジャブをいなし、避ける。
見える、問題ない。確かに俺なんかより技量は断然上の相手なんだろうけど、チャドと比べればなんてことはない。
あの地獄の様なラッシュを喰らい続けた日々が俺を強くするのだぁ!
俺は蹴りが来たのを見逃さず両腕をクロスさせ後ろに飛びながらそれを受けて少し距離を取る。
『Boost!!』
今ので五回目のパワーアップ。
防御力が売りの戦車を倒すにはまだ足りない。
「成長が著しいにもほどがある。見え隠れするその技術を仕込んだものの圧倒的技量、感服するより他ない…… その人物がこの戦いに出てこなかったことに少し残念と思うと同時に安堵しているよ」
そう言って一気に距離を詰めてくる戦車。
空気を割くような重いフリッカージャブがまた飛んでくる。
「それにこれだけ戦い続けても息切れしない体力、一朝一夕で身に付くものでもない。感謝すべきだよ。ここまで鍛えてくれた者たちに」
思い返す10日間の修行の日々、その前からやっていた部長のスパルタトレーニング。
涙が出るほどきつかったけど、鬼とか言っちゃってたけど、数回逃げ出そうとしてチャドにつかまったりもしたけど…… あ、ヤバイ、涙が出てきそうになってきた。
だけど、だけど……
「言われるまでもねえよ。あの二人には感謝しっぱなしだ!」
より一層気合いが入ったところに、横合いから人影が吹き飛んできた。
「くっ!」
ライザーの騎士、カーラマインだ。かろうじて着地するが体はあちこち切り傷があり、手に持つ剣は砕かれている。
「……グレモリーの騎士、お前は、神器を複数持っているというのか!?」
息も絶え絶えに木場を睨みそう問いかける。
視線の先には、こちらも少しボロボロではあるけど、それでもカーラマインと比べれば木場の傷は少ない。
その手に持っている剣は…… この間教会で見た剣と違う?
「出す手が片っ端から全て潰されれば気になるか。僕の神器は『
木場が地面に手を向けると何本もの剣が地面から突き出てくる。
「僕の自慢、だったけどね。ついこの間自信を叩き折られて怒られたよ。剣の変換に時間が掛かりすぎている。それが騎士の速度を潰しているってね。だから僕はこの十日間、戦いながらでも剣を変換できるよう鍛えた」
持っている剣をライザーの騎士に向けて言い放つ。
「悪いけれど、君の手札は出た瞬間に潰させてもらう。炎の剣は凍てつかせ、風であっても吸収し、出がかりを潰し、何もさせないまま君を倒す」
き、木場の奴、凄い気迫だ……
こっちまでびびっちまうぜ。
「嘗めるな、これでもフェニックスの名を背負う騎士。そう簡単に負けはしない!」
そう叫んで短剣を抜き放ち、炎の渦を出現させながら突っ込んでいく。
こっちも負けてらんねぇ!
『Boost!!』
「よっしゃ、150秒!」
そして、修行の成果、見せてやるぜ!
基礎は魔力と同じ、自分から放出するイメージを明確にもつ!
思い描くのは子供のころから真似してきた、『ドラグソ・ボール』の主人公「空孫悟」の必殺技、『ドラゴン波』。その俺流アレンジ!
「爆発しろ、ブーステッド・ギア!!!」
『Explosion!!』
両手を広げ、霊力を集める。
チャドとの模擬戦の時みたいな威力を出したらあちこちに影響が出るかもしれないから、少しセーブするように意識して……
両手を上下に合わせ、突き出す!
必殺「ドラゴンショット」!!!!
そう心の中で叫ぶ。本当に叫んだらバレちゃうからな。
そして手の平から放たれる極大の霊力の塊……
「うぉおおおお!?」
その衝撃で俺はすごい勢いで後ろにぶっ飛んだ。後ろにあった木にぶつかって、それで止まるかと思ったらその木もへし折れてまた後ろの木に当たってようやく止まる。
で、デカい!? 明らかに俺の体の十倍近くある霊力の塊は全てを轟音を響かせながら直進していく。
「イザベラ! 避けっ」
カーラマインがそう叫ぶがその声すらかき消す。
イザベラも言われる前に避けようとしていたが霊力が大きすぎて初動が遅れたことでまともに霊力を喰らった。
そして霊力は止まることなく後ろに会ったテニスコートを消し飛ばし、その後ろにあった建物を削り取り、真っすぐに地面を抉って消えていった。
『ライザー・フェニックス様の『戦車』一名、リタイア』
グレイフィアさんの相変わらず冷静な声のアナウンスが響き、我に返る。
「や、やりすぎた」
な、なんでだ!? ちゃんと加減して撃ったぞ俺は!
何か理由が…… ハッ!?
そこで思い出すのは初めて霊力に触れた時のチャドの言葉。
『霊力は強い霊力を持つ存在の近くにいると発現しやすい。恐らく俺の影響で人間だった時点からある程度発露していた。それが悪魔への転生という形で魂に影響を受け成長したんだろう』
悪魔の転生は、魂に影響を与える。だから魂の力である霊力が成長した。
ってことは、部長がゲーム前に言ってた駒の封印を解いたことで、魂に影響がでてまた俺の中の霊力が成長した?
「な、何はともあれ、戦車は撃破だ!」
『Reset』
「っとと……」
喜んだのも束の間、少し体がよろける。
体力も霊力も魔力も大分使ったからな……
だけど、まだ余裕はある! さっきのを加減無しでライザーの野郎にぶっ放してやる!
「……侮っていたよ。ブーステッド・ギアも、あの兵士も」
余波で吹き飛ばされたのか、俺とも木場とも離れた位置からカーラマインの声が上がる。
「実際、彼は一番の成長株だと思うよ。僕たちも日々彼の成長に驚いているさ」
「お前の技量も相当なものだ。しかし、魔剣使いか…… つくづく縁がある」
「へぇ、僕以外の魔剣使いにあったことが?」
「いや、聖剣使いと一度戦ったことがある」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍る様な殺気が広がる。
「……その話、すこし詳しく聞かせてもらおうか」
ど、どうしたんだ木場の奴。急にピリピリして…… 聖剣って言ったか? それが関係してるのか?
「どうやら何か因縁があるらしいな。だが、今は敵同士。聞くのなら剣士らしく剣で来い」
「……口が利ければそれでいいか」
再びぶつかり合う二人にあっけに取られていると、横合いから声が聞こえてくる。
「ここね」
「うひゃあ、すっごい破壊跡……」
「これでイザベラ姉さんやられちゃったの?」
げっ、あいつらは、ライザー側の僧侶と騎士、それに兵士の二人。
ライザーと女王以外全員ここに集まってるのか! 俺たち二人しかいないってのに……
少し遠くから雷鳴が聞こえる。朱乃さんはまだ戦闘中みたいだ。
アーシアと部長は……
「ねー、そこの兵士くん」
思考を巡らしているところに声が掛かる。先ほど合流したライザー側の女の子だ。
「もしかしてリアス様を探してるの? それなら、あっちでライザー様と一騎打ち中よ」
指している方向を見るとそこには炎の翼と黒い翼の持ち主が戦闘を繰り広げているのが見えた。
あれは、部長とライザー!
『イッセーさん! 聞こえますか!』
通信機からアーシアの焦った声が聞こえてきた。
「アーシア、無事なのか!?」
『はい、今部長さんと屋上にいるんです。ライザーさんから一騎打ちの申し出を受けまして、それで部長さんがその勝負を受けたんですが、キャッ!?』
短い悲鳴と共に屋上で一際大きな火の手が上がるのが見えた。
「くっそ、あの野郎!」
早く加勢に行かないと、でもこの人数相手にどうすれば……
そう悩んでいる内に、ライザーの妹が真面目な顔で声をかけてきた。
「潮時ですわね」
「は?」
「お兄様もリアス様が思っているよりも善戦するので気分が高揚したのでしょう。今のまま順当に行けば勝ちは揺るがない。だから最後の情けとして王の活躍の機会を与えよう、と……」
「ふ、ふざけんな! 部長は強い! 朱乃さんだってお前らの女王を倒してすぐに駆け付けてくれる! お前らだって木場の魔剣と俺のブーステッドギアで……」
「『赤髪の
「フェニックスにだって弱点はある!」
「そう、私たちフェニックスにも弱点はありますわ。精神がやられるまで倒されたり、神の一撃に匹敵する攻撃力を持って消し去る」
「そうだ! それを俺たちで……」
「ええ、だからこそですわ。こういって認めるのも業腹ですが、先ほどまで余裕を持って戦っていたお兄様が、ああして本気を出してリアス様を落とそうとしている理由がお分かり?」
「理由?」
「あなたのブーステッド・ギアですわ」
俺の左手を指さし、睨みつけるようにして言う。
「先ほどの一撃、何度撃てるかはわかりませんが、その力はお兄様が、引いてはフェニックスが警戒するには十分な力と認めたのですわ」
「……は?」
「ただの転生悪魔に対する破格の名誉と思いなさい。そして、中途半端に力を持ってしまった自分を恨みなさい。私たちは家の名を背負ってここに立っているのです。万に一つでも負ける訳にはいかない。私は手を出すつもりはありませんでしたが、まあ指示出し位はしましょう」
まてよ、じゃあ、部長がピンチになってるのは、俺のせいだってのか?
呆然としている俺の周りを、合流してきた兵士二人と騎士一人が囲み、ジリジリと間合を狭めてくる。
「カーラマイン! なんとしてもその騎士を抑えなさい。その間に全力で赤龍帝を廃します! シーリス! ニィ! リィ! 一気に決めなさい!」
その掛け声とともに、カーラマインは木場へ突進し俺と木場との距離を一気に離す。
そして騎士と兵士二人が俺に向かって襲い掛かってくる。
「くそっ! ブーステッド・ギア!」『Boost!!』
「ブーステッド・ギアは十秒ごとに力を倍加する能力を持っています! チェーンソー姉妹がやられた時間などから考えて、七回以上の倍化はあなたたち三人でも危ない可能性があります! 先ほどの巨大な攻撃は百五十秒だったことから相当の倍化を経ないとあの威力は出せない! 神器の性質上倍化中は手を出せません! 一分間、その間に確実に倒しなさい!」
正面から騎士の巨大な剣が振り下ろされる。慌てて避けるが後ろから強い衝撃、間髪入れずに腹に蹴りが入れられ吹き飛ぶ。また騎士からの追撃、飛び上がって剣を叩きつけてきた!
地面を転がるようにして避けて立つ。くそ! 解っちゃいたが三人から絶え間なく攻撃されると一人と戦うのとは全く違う!
そう考えている内に獣娘の片割れが勢いよく俺の脛をつま先で蹴っ飛ばしてきた!
余りの痛みに一瞬足が止まると救い上げる様にアッパーで弾き飛ばされる。
やばい、早く体勢を立て直さないと!
意識が途切れそうになるのを耐えながらそう思うが間に合わない。騎士の大振りの剣が俺の腹を捕らえる。
かろうじてブーステッド・ギアを滑り込ませたがそんなのは関係が無い程の衝撃が体に伝わる。
「ごふっ!」
思わずせき込むとぼたぼたと血が垂れてくる。くそ、内臓がやられたのか……
「イッセーくん! くそっ、そこをどけぇ!」
俺がやられているのを見て木場が両手に剣を出し、攻撃の速度を上げる。
明らかにカーラマインは限界を超えている様だが意地でも通さない様に剣を振るっている。
「カーラマイン! あと十、いいえ、五秒持たせなさい! 赤龍帝を倒しきれずとも、十分なダメージを与えればあとはニィとリィで赤龍帝を倒せる! 騎士の足止めはシーリスが補えばいい!」
ライザーの妹の鋭い指示が飛ぶ。
くそっ、認めたくねぇが的確な指示だ。このペースでやられればあの獣耳姉妹と戦うどころか、攻撃を避けることすらできなくなる……
その時、フィールド全体を揺らすほどの振動が走った。
顔をあげて発生源の心当たりを見れば、いやな予感は的中した。
屋上でライザーと部長が戦っている。
ライザーは当然の様に無傷で佇み、部長は服がボロボロになっていた。
恐らくまだ立っていられるのはアーシアの神器のおかげだ。
ここまでなのか、このまま俺たちは負けるのか?
俺は部長の役に立てないまま終わるのか?
これまでの修行は、無駄だったのか?
地面に拳を叩きつけ、立ち上がる。
そんな訳がない。
無駄であったはずがない、無駄なんて言葉で片付けていいはずがない!!!
小猫ちゃん、木場、朱乃さん、部長、チャド。
皆で努力してきた時間を無駄になんてさせない、なにより!
「部長が嫌がってんなら、立つしかねえだろうが! ブーステッド・ギアァアアアアアアアアアアアア!!!!」
『Dragon booster!!』
俺の叫びに呼応するように赤い光が放たれる。
だけど、まだだ、まだ足りない。もっとだ! もっと寄越せ!
神器は持ち主の思いに応えるんだろうが! だったら!
「俺に部長を助ける力を与えろ!
『Dragon booster second Liberation!!』
ブーステッド・ギアが赤く輝き、その形が変質していく。
神器が左腕全体を覆うように、そして腕の所には宝玉がもう一つ追加された。
「これは!?」
驚くのも束の間、左腕から新たな力の情報が頭に直接流れ込んでくる。
そうか、これが俺の新しい力! 自然と笑みがこぼれる。
俺は、俺たちは、まだ負けてない! ここから強くなれる!
目の前に迫る拳をバックステップで躱し、力の入らない足を殴りつけながら走る。
「木場ァァァッッ!!!! 神器を開放しろぉ!!」
木場は俺の叫びに困惑しながらも、ライザーの騎士を蹴り飛ばし、地面に剣を突き立て叫んだ。
「
先ほど見せたように、グラウンドが光を放ち、地面からいくつもの魔剣が飛び出してくる。
「ここだっ! ブーステッド・ギア、第二の力!」
地面に拳を叩きつけ、叫ぶ!
俺がここまで溜めた力、全部くれてやる!
「『赤龍帝の贈り物《ブーステッド・ギア・ギフト》』!」
『Transfer!!』
甲高い金属音が響くと同時に、運動場全域に刃の波が広がる。
地面から突き出た剣たちは容赦なくライザー眷属を捉え、串刺しにした。
『
それを木場の
「バカ、な」
「ドラゴンの力、これ程のものか……」
ライザー眷属が苦悶の声を漏らしながら消えていく。
これで、リタイヤだ!
『ライザー・フェニックスの「
「よっしゃ!」
これで一気に敵の数を削いだ!
新しい力も手に入れた。これで皆の力を強化してやれば、きっとライザーにだって手が届く! アーシアに渡して皆を回復させたって良い!
「イッセー君、驚いたよ。この土壇場で新しい力に目覚めるなんて……」
「おう! この力があればアーシアの回復力、部長や朱乃さんの破壊力を増すことだって……」
その時だった、そのアナウンスが響いたのは……
『リアス・グレモリー様の「
原作よりちょっと強くなったので警戒したフェニックスさん火力マシマシで対応。
アレ? これチャドが鍛えない方が良かったんj(ry