俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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Case.3『堕天使裁判』

堕天使を捕縛し、イッセーたちと別れた後。

俺は堕天使二人を担いで地下の修行場に来ていた。

 

「絵面がまずいにゃあ。大男が裸ボディコンスーツの痴女とゴスロリ少女の襟首掴んで家に連れ込むとか。しかも縄で縛り始める…… 目で見ようと言葉で聴こうと満場一致でギルティだにゃん」

 

「からかうな。仕方がないだろう。転移だとかそういった便利な術は使えないんだ。というか痴女云々に関しては人のこと言え「……」いや、何でもない」

 

すごく無機質ないい笑顔を張り付けた顔でこちらを見つめてくるので言葉を飲み込んだ。

そんなやり取りをしながら設置された通信機を起動させる。

 

「アザゼル、捕まえて来たぞ」

 

『おー、早かったな。そこに倒れてる二人だけか?』

 

「主犯の様な女はその場で滅された。アーシア・アルジェントという神器保有者の神器を奪い取ったので、アーシア・アルジェントにその神器を戻すためにその場で滅する必要があった」

 

『アーシア・アルジェント、確か悪魔を癒して教会の異端認定に引っかかった『聖女』…… いや、今は『魔女』なのか? だが、そうかそうか。そういうことかよ。っかー! 回復系の神器なんてレア神器をみすみす逃したのか! 察するに『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』あたりか。悔やまれるぜ……』

 

「コレクター魂を発揮するのは後にしてくれ。それともう一人、イッセーに直接危害を与えたという男の堕天使がいたがそいつは俺が消し去った」

 

『そうかよ。その主犯と男、あとそこの寝てるやつらの名前はわかるか?』

 

「……主犯の女がれ、レナールで、男の堕天使がドーナーツ? でそのゴスロリがミッドチルダ、ボディコン痴女がカワラワーリとかそんな感じだ」

 

『あ、駄目だ。お前覚える気がない奴の名前とかぜんっぜん覚えないもんな。絶対間違ってるわ。黒歌、そこの寝てるやつら起こしてくれ』

 

「はいはい」

 

黒歌が了承するとえいっ! と軽い掛け声をあげると指先から小さな電撃が走る。

水とかじゃないのかここは……

ぎゃっ!? とか、イタッ!? とか短い悲鳴が聞こえてくる。

 

「な、こ、ここは……」

 

「うぅ、頭が痛い……」

 

効果てきめんの様でもぞもぞと動きだす二人は、両手足を拘束されていることに困惑されているようだ。

 

『目は覚めたか?』

 

「あ、アザゼル様!?」

 

「な、なんで!?」

 

意識はしっかりとしているようで声がする方向に目を向けると恐縮した様子で縮こまっている。

下っ端からはちゃんと畏まられているのか。

アザゼル以外の堕天使は幹部の人たちくらいしかあったことがないのであんまりアザゼルが偉いと感じない。あの人たち基本アザゼルのこと呼び捨てだし、接し方もなんか同列な感じだしな。

 

『まずは名前を言ってみろ。あとお前らを率いていた女堕天使と仲間の男の堕天使の名前もだ』

 

「か、カラワーナです」

 

「ミッテルト、です。上司はレイナーレ様で、男の堕天使はドーナシークです……」

 

それを聞いてアザゼルは微妙な視線をこちらに向けてきて、まったく違うじゃねーかと視線で責めてくる。

そんなこと言われてもな、仲良くする気もない奴らの名前なぞ覚える方が無駄というものだ。

 

「あの、二人は……」

 

『死んだ』

 

恐縮しつつも仲間の安否が気になったのだろう。おずおずとアザゼルに疑問を投げかけると、アザゼルは簡潔に、突き放すように、そう告げた。

驚愕の表情を浮かべる二人を気にかけることなく、アザゼルは改めて堕天使二人に視線を向ける。

 

『お前らはレイナーレ主導の下、干渉不要とされた神器使い兵藤一誠に害を与える。堕天使勢力に身を寄せた神器使いアーシア・アルジェントの神器を奪う行為を無断で敢行した。それを俺がさし向けたやつに止められたってのが今の状況だ。申し開きは?』

 

「ひ、兵藤一誠は上からの命令で」

 

『ああ、それは調べた。これはまあお前らだけを責めることはできねぇ。だが後者に関しては別だよなぁ?』

 

真剣な顔していると見せかけて微妙にニヤニヤしている。

黒歌も隣で性格悪いにゃあとつぶやいている。全面的に同意だ。

 

『そこら辺はグレモリー家の土地だと言うのは解っていたはずだ。相手は未成年とはいえ72柱の貴族の令嬢で、兄バカ拗らせまくってる魔王ルシファーの妹だ。下手に触れたら即戦争突入コースなんてことになってたかもしれない』

 

机に肘を乗せて手を組み、口元にもってきてポーズを取る。

わかりやすく言えばゲンドウポーズだ。マダオの面目躍如といったところか。

そして真剣な顔をしてこう言い放つ。ていうか手で隠してるけどめっちゃ笑ってるなあれ。何かしらやらかす前の笑顔だ。

 

『お前らのせいで堕天使全体が不利益を被る可能性があったって訳だ』

 

「「……」」

 

堕天使二人はもはや沈黙するしかない。

アザゼルの怒気(笑)に顔を青ざめさせている。

 

『そういう訳でそこら辺の罪を裁判する!』

 

「裁…… 判?」

 

『ああ、俺とあと数人の幹部で厳正なる裁判を執り行う!』

 

そういうと通信機の隣に転移陣が光りだす。

 

『縄ほどいてその転移陣に乗せろ』

 

黒歌と顔を見合わせる。

ひどく気が進まない。黒歌も同様のようで形容しがたい微妙な表情をしている。

しかしこうなるとどうせ止まらないだろうと、二人でため息をつきながら縄をほどき、一応腕を拘束しながら転移陣に乗らせる。

すると視界がぶれ、暗い空間に出た。

 

「これより裁判を始めます」

 

その声が聞こえるとライトが一気に点灯する。

そこにはすごく疲れた顔をしたシェムハザさんが裁判長が座る席に座っていた。

弁護人の席にはウキウキした顔のアザゼルが、検察官側の席にはバラキエルさんがこれまた呆れ顔で座っている。

 

「いやぁ、この間裁判のゲームやってな。一回言ってみたかったんだわあのセリフ。だからこうして作ってみた! どうだこの再現度! さあ堕天使裁判を始めようじゃねぇか!」

 

裁かれる側の堕天使二人はもう訳が分からないという顔だ。

黒歌はバカを見る目でアザゼルを見ている。

 

「すまん茶渡君。気が付いたらもうこうなっていてな」

 

「重要な会議があると聞いて来たのにこれだ。しかもご丁寧に変な術でここから離れられなくしている……」

 

哀愁漂う感じで自虐的な笑みを浮かべながらつぶやく堕天使幹部に涙が出てきそうだ。

 

「いいじゃねーか! この場であのセリフ言わせてもらえりゃちゃんとやるからよ!」

 

「……そういう訳だ茶渡君」

 

「ハァ……」

 

堕天使を用意されている席に座らせるとアザゼルがシェムハザさんに合図を送る。

 

「では、罪状を読み上げます。被告人、ミッテルト、カラワーナの両人は、悪魔側の重要な人物が治める土地と知っておきながら侵入、及び敵対行為をした。さらに上に報告せずに神器所持者に危害を加え、神器を横領しようとした、又はその手助けをした。間違いないですか?」

 

「「は、はい……」」

 

「そうですか。では厳重に罰します。とりあえずは冥界に帰還、後に私の下で100年間休みなし、無給で雑用を命じます。その際雑用の内容に文句などは一切受け付けません。その他厳罰はおって連絡します」

 

そのあっさりとした判決にぽかんとした顔で呆けている二人にシェムハザはさらに続ける。

 

「殺されると思いましたか? まあ、それでも良かったと言えば良かったのですが。いかんせん堕天使(われわれ)は減りすぎている。悪魔の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)や、最近噂に聞く天使の御使い(ブレイヴ・セイント)の様な技術を我々は積極的に開発し、堕天使を増やす動きはするつもりはありません。ですがただ絶滅を待つという訳にもいかない。現状動ける堕天使は少しでも確保しておきたい、という理由からこの判決を言い渡します。ああ、勘違いしないよう言っておきますが雑用はだいぶ辛いと思います。ともすれば死ぬやもしれませんが、生き残ることを祈っています。では次に行きましょう」

 

もはや状況についていけていないが、その言葉に顔を青くする。

そんな様子の二人は横合いから出てきたシェムハザさんの部下が連行していった。

 

「は? おい、シェムハザ?」

 

筋書きと全く違う展開に動揺してアザゼルが声を上げる。

そんな疑問の声をかき消すほどの怒声を上げながらシェムハザさんが話し出す。

 

「では、次の罪状を読み上げる! 被告人アザゼル! お前は堕天使本部の一部を勝手に改造! しかも部下にこの改装を手伝わせ仕事を妨害した! あと常日頃から仕事の放棄! あまりにも目に余る! 有罪! この場で断罪してくれる!」

 

「「「異議なし」」」

 

俺、黒歌、バラキエルの声がぴったりとそろう。

 

「ちょっと待て! 異議あり! 異議あーり!」

 

「却下」

 

「ぐっ、歯牙にもかけねぇ…… 俺はこんな場面でこのセリフ言いたかった訳じゃないっつーの! だ、だがバラキエルもシェムハザも術式で動けねぇ。泰虎と黒歌だけなら逃げるぐらい……」

 

「もう解いちゃったにゃん」

 

さりげなく出口に陣取って逃げ場をなくしていた黒歌のつぶやきを聞いて冷や汗を垂らすアザゼル。

 

「さて、覚悟はいいな?」

 

「雷光を食らうのは久々だろう? 芯まで焼き切ってやる」

 

「すまないな、アザゼル。そういうことだ。この間やっと完成した新技で心置きなく散ってくれ」

 

極大の光の槍、バチバチと迸る雷光、この間習得した霊子収束によって極限まで高めたエネルギー。

そんな三者に囲まれて、アザゼルは口を開いた。

 

「は、話せばわかr」

 

「「「問答無用!!!」」」

 

「いやせめて最後まで言わせ」

 

そんな言葉さえも同時に放たれた攻撃によって掻き消えた。

同時に堕天使本部が半壊したがこれはアザゼルの私費によって補填されることになった。自業自得である。

 

 

 

それにしてもさすがは堕天使総督というべきか、逃走経路は先に用意していたらしく、全治一月ほどの怪我で逃げ切っていた。

 

 

こうして駒王の堕天使騒動は本当の意味で幕を下ろしたのであった。




ミッテルトとカラワーナ一応生存。
もしかしたらチョロチョロ出てくることになるやもしれない。

シェムハザは堕天使全体の事を心配してますよ風なことを言ってるけど、アザゼルとシェムハザ両名はただ手元に自由に動かせる駒を、弱くてもいいから数を揃えたいだけ。
多分めっちゃこき使われる。それこそ死ぬ勢いで。
でも傍から見れば堕天使副総督直属になってて昇進っぽく見える。給料はないし休みもないけど。
……まあ当面死なないし良かったね←

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