俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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ちょっと長くなっちった……


Life.8

黒歌から受け取った地図通りに走ってくると、学校の近くで堕天使を見つけた。

 

「ん? 誰だお前は」

 

「グレモリーの娘かと思ったが人間が引っかかったか」

 

「まあ、前菜にもならないでしょうけどさっさと片付けましょう。これからの作戦に支障が出るといけないわ」

 

周りを見渡すが目の前の三人以外は見当たらない。

 

「……三人か。これで全部か?」

 

「なんだ、いやに冷静だな。裏を知っている人間か」

 

「何でも良いわ。さっさと片付けてグレモリーの娘を倒しちゃいましょ」

 

「そうだな、遅れてレイナーレ様に叱られるのは勘弁願いたい」

 

話を聞く限りではこいつらを統率する堕天使がいるらしいな。

そしてグレモリーの娘と呼ばれているのがサーゼクスさんの妹…… 三人で襲撃でもするつもりだったのか? 学校も近い、もしかするとこちらに来てしまうかもしれない、

余り悠長にしている時間はないか。情報を入手するのならできれば生け捕りが望ましいだろう。

ならばサーゼクスさんの妹が来る前には確保した状態でいた方がいい。

そんな風に話を聞きながら頭の中でまとめていると、堕天使たちは光の槍を出現させる。

 

「じゃ、さっさと死んでよねッ!」

 

三人の中では小柄な堕天使の声に合わせ全員の光の槍が放たれる。

それを巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)を出現させ正面から弾き飛ばす。

 

「そうだな、さっさと終わらせよう」

 

俺は驚愕の表情を浮かべ、固まっている隙だらけの三人へと拳を振るうのであった。

 

 

 

俺は、アーシアを殺した目の前の夕麻ちゃん、いや、堕天使レイナーレに向かって怒りに身を任せ拳を振りかぶる。

 

「吹っ飛べ! このクソ天使がぁ!」

 

「下級悪魔にッ、この、私がぁああああああああああ!」

 

「うっ、おおおおおおおおおおおおお!」

 

思い浮かべるのは、頻繁に喰らっていたあの拳。

俺の中で、悪魔で、戦い慣れした木場や小猫ちゃんたちを見ても色あせない。最強の拳!

最短距離で真っすぐに、神器の力でブーストされた固く握った拳を叩き込む。

 

「ふ・き・飛・べぇええええええええええええええええええ!」

 

渾身の一撃、吹き飛んでいくレイナーレはステンドグラスを砕き外に向かっていく。

そして何者かにあっさりキャッチされた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「んな!? だ、誰だ!?」

 

結構な勢いで飛んでいったのに反動もなくキャッチしやがった!?

ていうか誰だ、飛んでる?

そして、その人物をよく見ようと目を凝らす。

その人影は俺のよく知る人物で、いかにも言いそうな言葉を、聞き覚えのある声で俺に投げかけてきた。

 

「いい拳だな。イッセー」

 

「ちゃ、チャド……?」

 

左手一本で、気絶している堕天使三人の襟首を持って、右手にはさっきキャッチしたレイナーレの首根っこを掴んだまま空に立っている。

そしてゆっくりと降りて目の前に立った。

 

「え、あ、え? おま、なんで……」

 

「イッセー! 下がりなさい!」

 

「え、部長!?」

 

混乱していると、後ろから焦った声で部長が駆け寄って俺の前に出てきた。

 

「イッセーくん、こっちだ!」

 

「うおっ!?」

 

呆然としていると木場が後ろから引っ張って下がらさせられる。

その間も部長はチャドから決して目を離さないように、最大の警戒心を持って睨みつけている。

 

「ちょ、ちょっと待ってください部長! チャドは人間で、敵なんかじゃあ」

 

「ええ、敵じゃないかもしれないわ。左手に持っている堕天使三人。私たちと敵対している者たちを倒したのは、彼だもの」

 

「へ、だ、堕天使を倒したぁ!?」

 

余計混乱してきた! どういうことだ? いくらチャドが強くったって堕天使なんて……

混乱している間に朱乃さんと小猫ちゃんも警戒の色を隠さずにチャドと相対している。

木場も勿論険しい表情を向けて気を張り巡らせている。

だけどチャドはそんなことどこ吹く風と言わんばかりにいつもの調子を崩さない。

 

「見られていたのか。隠すつもりはなかったとはいえ周りに誰もいないかくらいは確認したんだがな」

 

「使い魔越しにその気絶している三人を監視していたのよ。こちらに向かってきていたようだしね。そうしたら普通の人間であるはずの貴方が映りこんだ。急いで準備を終わらせて転移して向かってみればもうそこには誰もいなかったけどね」

 

そういえば、ここに来る前に部長と朱乃さんが焦った様子で魔法陣に飛び込んで出てったけどそういうことだったのか!

あれ? 確認して転移した間に倒したって……その間って数分くらいしか経ってなくねーか!? その間に三人も倒したのか!

 

「あなたは、何者なのかしら?」

 

「俺自身は何者でもない。ただ頼まれてここに来ただけだ」

 

「頼まれた? 誰に?」

 

ピリピリとした空気を放つ部長、味方である俺も恐ろしいってのに冷静な態度を崩さずに口を動かす。

 

「アザゼル」

 

「!」

 

「っ!? 馬鹿な!」

 

「堕天使総督自ら!?」

 

小猫ちゃん、木場、朱乃さんは驚きを隠せない様に声を荒げた。

アザゼル? 堕天使総督って、なんなんだ?

 

「『神の子を見張る者(グリゴリ)』のトップ、堕天使総督アザゼル。そんな大物がこんな小競り合いに対して介入するのかしら?」

 

「この土地が貴女の支配下であることを尊重し、動きを察知したアザゼルは敵対の意思が無いというアピールの為に事態収拾を俺に一任したんだ」

 

「……どうだか、本当はイッセーの神器が目的なんじゃないのかしら?」

 

「『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』か。興味は示していた様だな」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』? レイナーレは『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』って言ってなかったか?

 

「イッセーの友達としてこの学園に居たのも、祐斗や小猫に近づいていたのも、堕天使側としての行動って訳?」

 

その言葉を聞いて、一瞬チャドから空気の壁が発せられたかのように圧を感じる。

 

「侮辱してくれるな。俺は友人は自分の意思で選ぶ」

 

眼にわずかに怒りをにじませながらはっきりと言い放つ。

その様子に全員が息を呑んで一歩後ずさった。

 

「そもそも、俺はあくまでアザゼルの個人的な知り合いなだけで、ぐ…… ぐ、グリゴレ?」

 

そしてその直後にその空気感はぶっ壊された。

 

「……『神の子を見張る者(グリゴリ)』だよ。茶渡くん」

 

「そう、それに所属している訳ではない」

 

呆れたように補足する木場。なんか一気に毒気を抜かれた感じの空気が流れる。

 

「それで? 貴方はこれからどう動くのかしら?」

 

「今回の一件がアザゼル、引いては堕天使全体の意思ではなく、こいつらの独断専行だったことを伝えること。望むのなら身柄を引き渡すこともしていいと言われている。ただ最低一人は残してほしい。こちらとしても情報を引き出す機会を全て潰されるのは困る。それとイッセーについてはアザゼル個人で対応できる範囲内なら賠償をすると言っている。その他にも要望があるというのなら無理だと言おうとも俺が認めさせよう」

 

「……破格の対応ね」

 

「龍の機嫌は損ねたくないらしい」

 

「そう……」

 

部長が考え込むように顎に手を当て、目を瞑る。

このまま色んな事が決まってしまいそうだ。だけど、だけど重要なことが話されていない。

 

「ま、待ってくれ!」

 

「どうした、イッセー」

 

「アーシアは、アーシアはどうなるんだ!」

 

「アーシア?」

 

聞き覚えのないといった風な言い草に、カッと頭に血が上る感覚を覚える。

 

「アーシアだよ! アーシア・アルジェント! 堕天使に騙されてッ! 神器を抜き取られちまった女の子だよ! 解ってんのかよ、死んじまったんだぞ! あんなに、あんなにいい子を! 優しい子を! あの子を無視して話を進めてんじゃねーよ!」

 

明らかに八つ当たりだって言うのは解ってる。けど口から出てくる言葉は止まらない。涙も止まらない。まるでアーシアがいないことにされているかのような話しぶりに、俺は怒りを持たずにはいられなかった。

その叫びを聞いて顔を険しくさせたチャドは、手元にいるレイナーレをにらみつけた。

 

「なる程、神器を奪うために隠れて行動をしていたのか……」

 

「イッセー、落ち着きなさい。そのシスターの女の子を救う見込みはあるわ」

 

「え……」

 

「先ほど身柄の引き渡しについて言及していたわね。今イッセーが倒したレイナーレ。後はイッセーを直接傷つけた男の堕天使、ドーナシーク。その二人は許すわけにはいかないわ。一斉に消し去ってもいいけどとりあえずレイナーレを渡してちょうだい」

 

「わかった」

 

そういうとチャドはレイナーレをこちらに放り投げた。

 

「ぐっ!?」

 

地面に叩きつけられたレイナーレは苦悶の声を上げて目を覚ます。

 

「ご機嫌よう。起きて早々悪いけど、貴方には消えてもらうわ。覚悟はいいかしら?」

 

「な、なにを!? え、何がどうなって……」

 

「あなたは自分勝手な行動をして、負けて、組織からも切られたの。お分かりかしら」

 

「組織から、切られた?」

 

「理解しなくていいのよ。私の眷属を傷つけ、悲しませた。それだけであなたが消えるには十分すぎる理由だわ。神器を回収して、塵も残さず消し去ってあげる」

 

「じょ、冗談言わないで! この神器は、アザゼル様とシェムハザ様に捧げるための……」

 

「シェムハザさんはともかく、アザゼルに対してそこまで入れ揚げる意味がよくわからんな」

 

「な、アザゼル様を呼び捨てに!」

 

金切声を上げながらチャドの方を向いたレイナーレは、視界に映った光景に固まる。

 

「み、ミッテルト、ドーナシーク、カラワーナ……」

 

「見ての通り詰みだ。大人しく裁かれろ」

 

「くっ、ふ、フリード! フリードは居ないの!?」

 

更に声を荒げるレイナーレの言葉に気が付く。

そうだ、あの気狂い神父は!?

木場も小猫ちゃんも気が付いたようにあたりを見渡すがどこにも姿は確認できない。

 

「なんだ、もう一人いたのか。もう逃げたみたいだが」

 

「っ!?」

 

「憐れね、下僕に見捨てられ、何も知ることができずに消えていく。お似合いの最後だわ」

 

冷たく言い放つ部長はその手に赤い光を迸らせ始める。

酷く震えながら後ずさりするレイナーレは俺のことを視界に入れると媚びるように話しかけてくる。

 

「い、イッセー君! 私を助けて! 私っ、このままだと殺されちゃう! 君の事愛してるから! 好きだから! 私と一緒に戦ってこの悪魔を倒しましょう!」

 

夕麻ちゃんの声で、懇願するように、涙を浮かべながらこちらに手を伸ばしてくる。

 

「部長…… お願いします」

 

その言葉にレイナーレは絶望したような表情を浮かべ、部長が吐き捨てるように言った。

 

「私のかわいい下僕に言い寄るな」

 

部長の手から放たれた魔力は、前言の通り、レイナーレを跡形もなく消し去った。

その存在はもはや、この心の中に残る空虚な感情と、空を舞う羽だけが証明するのみだった。

 

 

 

 

「さて、じゃあこれをアーシアさんに返しましょう」

 

レイナーレが消え去った後に空に打ち上げられたように出現した緑色に発光する物体を手に収めながら言う。

アーシアの神器。

でも、本当にどうにかなるのか?

 

「イッセー、貴方が悪魔に転生した時の事、どれくらい覚えている?」

 

「へ? いや、ほとんど覚えてないですけど……」

 

「そうね、あなたはあの時点で死亡していたわ。覚えていないのも無理はない。でもそんなあなたを復活させたのは、なんだったかしら?」

 

そういいながら部長がポケットから小さな、血の様に紅いチェスの駒を取り出した。

 

「もしかして、悪魔の、駒……?」

 

「そう、これは『僧侶(ビショップ)』の駒。説明していなかったけど上級悪魔には現実のチェスと同じように駒が与えられる。『兵士(ポーン)』が八つ、『騎士(ナイト)』『戦車(ルーク)』『僧侶(ビショップ)』が二つずつ、そして『女王(クイーン)』が一つの計十五体。『僧侶(ビショップ)』の駒は一つ使ってしまっているけど、あと一つだけ残っている。回復の能力を持つ彼女にぴったりの駒ね」

 

部長はチャドに向き直り質問を投げかける。

 

「アーシアさんは教会から追放された身であり、その後堕天使勢力に身を寄せた。しかしその堕天使勢力にも手酷い裏切りを受けている。前代未聞ではあるけれど、私はこの子を私の眷属に転生させることによって蘇生するわ。先ほどあなたは要望があれば聞き届けるとも言っていたわね。アーシア・アルジェントさんの悪魔への転生に以降文句をつけない事。それを要求させてもらうわ」

 

「……本来であれば彼女の意思の確認を行いたいところだが、まあこの場合どうしようもない。わかった、了承しよう。是が非でも認めさせて見せるし、後で難癖をつける様な輩がいたら守ることを約束しよう」

 

「そう、理解のある対応に感謝するわ」

 

「元々悪いのはこちらだからな。イッセーもその少女も被害者だ。謝罪などでは足りない、誠意をもって対応するのが筋というものだ」

 

そう言って俺たちに背を向け、出ていこうとするチャド。

 

「お、おいチャド。行っちまうのか?」

 

「俺がいても仕方がないだろう。俺がいる限りこの堕天使たちはここにいることになる。無駄に警戒されるだけだ。ああ、そうだ。忘れるところだった」

 

そう言いながら、チャドは気絶している三人の堕天使の中から、ドーナシークを空中に放り投げた。

 

「その少女を復活させた後で手を下すのもなんだろう」

 

右腕が、デカイ盾の様な形に変形し、左手で顔をなでるようにすると仮面が出現した。もしかして、神器、なのか?

そんな疑問をも焼き尽くさんばかりの、部長の魔力と同じような真紅の光がチャドの拳から放たれ、空中に投げ出されたドーナシークを飲み込む。

凄まじい風圧に顔を覆う。その風が収まると、チャドの右腕は普通に戻り、仮面も消えていた。

 

「自分で手を下したかったかもしれんが、女性に任せきりにする仕事でもない」

 

「随分紳士的なのね。色々と感謝するわ」

 

部長はそれ以上は言うことはないと言わんばかりに踵を返し、アーシアの元に歩いていく。

 

「ちゃ、チャド!」

 

「イッセー」

 

さっき怒鳴ってしまった気まずさやら、いきなり明かされた友達の隠された力だとか。そういったもののせいで未だに混乱と、気まずさが残る俺の呼び止める声を遮って、いつもと変わらない声音でチャドは言う。

 

「眷属として、愛されているようで何よりだ。また明日、学校であおう」

 

「……ハハッ、おう。またな」

 

その返事を聞いて満足したのかヒュッ、と軽い音と共に消えてしまった。

本当に、お前はどんなことがあってもぶれないよな……

 

「イッセー! 始めるわよ!」

 

「ハイ!」

 

なあ、チャド。お前が何者で、どこに所属してて、どんなこと考えてるかわかんないけどさ。

俺はお前の事友達だと思ってるぜ。

だからさ、明日になったら、きっと……

 

 

 

 

新しい友達を、紹介するよ。

 

 

 

 

 




はい、ほぼ一巻終わりですね。
若干走り過ぎたなーとか思わないでもないですが次にエピローグ書いて一巻は終了。まあ多分番外編でちょこちょこ書きたいの書き足します。
そんでもって二巻に行きましょう。
ていうか同盟が終わらないとイッセーたちと絡みにくいからさっさと4巻まで行きたい(

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