俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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Life.7

「最近いやーな気配がしてるにゃあ」

 

いつもの様にリビングのソファでだらだらとしている黒歌が唐突に呟いた。

 

「いやな気配?」

 

「光の気配。天使…… じゃないか。あそこまで純粋な感じじゃない。堕天使かにゃあ?」

 

「……ふむ」

 

堕天使。

悪魔の支配地とされるここに似つかわしくない存在だ。

そのトップが堂々と仕事をサボってビデオゲームをしに来たりするがまあそれは置いておくとしよう。

 

「隠す気もあんまりなさそうだし、何考えてるのかにゃあ」

 

「アザゼルは何も言っていなかったということはそいつらの独断行動ということか」

 

「そうなるかにゃ? 戦争で人数が減ってるとはいえ一つの種族だし数はそこそこいるから、アザゼルの眼から零れちゃうのも仕方ないのかにゃあ」

 

「……」

 

堕天使、堕天使か……

イッセーが悪魔になった件に関係しているのかもしれないな。

それに今日は学校を休んでいたらしい。悪魔と堕天使の間で小競り合いでも起きているのか?

さて、どうするべきか……

 

「気になるの?」

 

「ああ」

 

「ふーん、まあアザゼルとしてもここら辺で勝手に動かれるのは面白くないかもしれにゃいし? 泰虎になら一言言えば任せてくれるんじゃないかにゃあ」

 

幹部が動いているなら何かしらアザゼルは警告してくるだろう。

それがないということは下っ端であることは間違いない。

それを倒すのはまあ容易だろう。

ただ、それをするとなると問題となってくるのはそれこそ悪魔勢力との干渉だ。

トップに話を通しているとはいえ、無用な動きはしない方がいいに決まっている。

……面倒くさいな。考えていても仕方ない。直接トップに問いただそう。

 

「そういう訳でどういうことなのか聞きたい」

 

『どういう訳だよ。かくかくしかじかで伝わるのは漫画とゲームだけだぜ』

 

テレビ電話の様な機械を挟み、アザゼルと対面する。

こっちも仕事中だってのに、と呟きながらめんどくさそうにこちらを見ていた。

 

「黒歌が最近堕天使の気配が活発になっていると言っている。ここらに配属されている堕天使について聞きたい」

 

『あぁん? 駒王に派遣した覚えなんざ…… あ』

 

「虚閃1時間耐久と魔人の一撃10発どちらがいい?」

 

『ま、まだ あ って言っただけだろうが! なんでそれだけで死ぬようなレベルの拷問受けなきゃならねえんだよ!』

 

「明らかに失敗に気が付いた時の声だっただろう」

 

『失敗じゃねぇし! まだ失敗したかどうかわからねぇし! つーかマジか。おい、入学式の時のあのガキ今どうなってる?』

 

「悪魔になっている」

 

『……おう。おう? 何がどうなってそうなりやがった? まあいい、簡潔にどうもよ。お前ドライだな…… ダチが人外にされたってのに』

 

「悪魔になろうがイッセーはイッセーだからな」

 

『ハッ、お前はそういう奴だったな。しっかし、マジか…… 誰かの眷属になったってことか。その街にいる堕天使からの保護ってところか? 下手したら殺されたところを拾われたって線もあるか。クソッ、厄介な代物だから手を出さず現状維持つっただろうに…… どこで食い違った? 伝言ゲームかよ』

 

そういいながら頭を抱えるアザゼル。こいつもそこそこ苦労しているんだなぁと思う。

 

「情報伝達は組織として一番初めに整えるべきだろうに」

 

だからと言って遠慮はしないが。

 

『ぐっ…… お前にそんなことを言われる日が来るとは思わなかったぜ。……ちょっと待ってろすぐ調べる。あー、だが、そうだな…… 泰虎、お前体の調子は?』

 

「もう万全まで戻した」

 

『そうかよ。じゃあ軽くその街にいる堕天使全員捕まえといてくれ。そっちの方が断然早いし確実だし簡単だ。どうせいても中級程度だろ』

 

「ム、いいのか?」

 

『堕天使全体から見りゃ特に大した問題じゃねぇから本来ならほっといてもいいんだが…… 仮にも魔王の妹の土地だしなぁ。それにお前のダチが持ってる神器が神器だ。後々に禍根を残したくもねぇ。とりあえず動いたってことは残しておきたい』

 

「神器持ちなのかイッセーは」

 

『お前はもうちょっと知覚を鍛えろ。腕力だけじゃどうしようもないことだってたまにはあるぜ』

 

「ム、努力する」

 

『兵藤一誠、お前のダチは今代の赤龍帝だ』

 

「ヴァーリの宿敵というやつか」

 

『ニ天龍ってのはどうあっても厄介ごとを引き寄せる。戦争が終わってから大分長い時間が経った。そこから波及する不満は時間を経て無くなるどころかふつふつと煮えたぎって純度を濃くしていってる。お前がこの前襲われた件も全くの無関係って訳じゃねぇ。禍の団、中々やべぇ面子をそろえてやがるみたいだ』

 

深くため息をつきながら言葉を続ける。

 

『そんな今のご時世にニ天龍が揃ってお目覚めだ。しかもどこにも属さねぇ筈の龍が悪魔になっちまった。今までにないことが起ころうとしてんだよ。お前のダチは、選ばれちまったんだ。そういう世界の命運を分けるような存在として、な』

 

アザゼルはそう言い放つ。

そうか、痛ましい。何とも、酷な話だ。

 

「この年で中二病とは……」

 

『お前はとりあえず俺と会話するのに喧嘩を売らなきゃ気が済まないのか? あ゛ぁ!?』

 

アザゼルをからかうのもほどほどにして、話を切り替える。

 

「……イッセーは、大丈夫だ。あいつが、あいつのまま歩いている限り、誰にも止められない。俺のやるべきことは、その道のりを少しでも進みやすく、間違わんようにするだけだ」

 

『そうかよ。じゃあよろしく頼むわ。ああ、通信機は持ってけ。仮にサーゼクスの妹と鉢合わせになった時はこっちに指示を仰ぐようにしろ』

 

じゃあな、と短く言い放ち、早速調査に入る為か通信は切られた。

 

「さて、行くか」

 

「行くのはいいけど泰虎って堕天使の気配とかわかるのかにゃ?」

 

「……黒歌」

 

「なぁに?」

 

「捜査の基本は足で稼ぐことだ」

 

「はぁ…… 待ってて。今から地図に大体の方向書き出すから」

 

そう言いながら地図を取り出して光の気配を感じるという場所に印をつけていく。

 

「私が外に出れれば楽なんだけどねー…… 本当に、一緒に行ければなぁ」

 

「黒歌?」

 

「なんでもないにゃ。はい、これ」

 

「ム、助かる」

 

地図を受け取り玄関に行ったところで黒歌に振り返り言う。

 

「黒歌、もう少し待っていてくれ」

 

「……? なにを?」

 

「その内解る」

 

「んー、よくわからないけどわかった。楽しみにしてるにゃん」

 

その言葉を聞き届け、俺はもう日の落ちてきた駒王の町へと飛び出した。

 

 

 

「良かったのか? 茶渡くんにやらせて」

 

アザゼルが通信機を切ったのを見計らったように、後ろからシェムハザが声をかけた。

 

「ダチの事でイラついてやがったからな。まあこうやって動かしてやれば少しは気もまぎれるだろ」

 

「……とてもそういう風には見えなかったが」

 

シェムハザは意外そうな声で聞き返す。

まあこれはあいつの近くに居なきゃわからん感覚か、とアザゼルは呟き、理由を話し始めた。

 

「普段だったら好き好んで悪魔の前に身をさらすようなことはしねぇ。あいつは種族で判断はしないって言ってるし、実際偏見無しで接してる。が、根っこのところでは悪魔と聞いて身構える程度には悪魔の事を信用してねぇ。俺が会うより前に何かあったんだろうな」

 

聞いても話さないから詳しいことは知らんがな、とアザゼルは漏らす。が、その言葉はシェムハザの耳には入らなかったようだ。

 

「それと、あの怪我から短期間で体の調子を戻すなんてのはそこそこ無茶な話だ。いざ動けないって状況を作らないために、オーバーワークに半歩突っ込むくらいの勢いで体を慣らしたんだろうよ。黒歌にあとで連絡入れて縛りつけてでも休ませなきゃダメだな」

 

「なる程…… ふっ、よく見ているんだな。それにしても、茶渡くんも若者らしい所があるじゃないか」

 

「ハッ、遠めから見てりゃ見た目も精神的にも老け込んでるように見えるかもしれねぇが、あいつは根本的なところでバカで青いんだよ。周りが引き留めなきゃいつの間にかどっかに行っちまう様なやつだ」

 

「周りは苦労するな」

 

「苦労なんてこれまでも散々かけられてるしな、今更だ。さて、さっさと調べるか」

 

そう言ってアザゼルは立ち上がり、駒王の件についての調査に乗り出していった。

 


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