俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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白龍皇の考察

「泰虎は居ないのか?」

 

もはや当然の様に茶渡泰虎の家に居座るヴァーリがトレーニングルームから出てリビングで寛いでいる黒歌に問うた。

その問いを聞いて少し機嫌を悪くしながら言い放つ。

 

「アザゼルが冥界に連れて行っちゃったにゃ」

 

「有無を言わさぬ鮮やかな拉致だったねぃ」

 

同じくリビングで寛いでいた美猴が同意する。

人間の住む、悪魔の支配下であるこの町に居ていいか首を傾げざるを得ないメンツが普通に民家で生活していた。

 

「そうか、少しばかり模擬戦をしたかったんだがな」

 

思えばヴァーリも変わった。少し前までは常に強さを求め、そのために何でもしようという剣呑さがあったがそれも今はとれている。

それが、私にとっていいことなのか、悪いことなのか。

どちらに転ぶにせよ、心情的にはこの変化は悪いものではないのだろうと思えた。

ただ、それがあの男の影響というのが……

 

『ヴァーリ』

 

「ん? どうしたアルビオン」

 

「うにゃ? それが噂の白龍皇なのかにゃ?」

 

「ありゃ、黒歌は初めてだったかぃ? ……そういやここに来てからあんま喋ってなかった気もするねぃ」

 

「俺は表に出さなくとも対話ができるからな。そこまで気になっていなかったが……」

 

この場にいる全員の視線がこちらに集まるのを感じ、前々から話そうと思っていたことを切り出した。

 

『いい機会だと思ったのでな。奴がいない間に話そうとは思っていたが最近はその時間もあまりなかった』

 

「奴ってのは、泰虎の事かぃ?」

 

『そうだ』

 

私にはどうしても拭えない疑念があった。

最初の模擬戦の時に感じたあの感覚……

 

『奴の神器は、危険だ』

 

「危険?」

 

『あれは私たちの様に中身に何かが封印されている類の代物だ。しかし、あの中身は私たちの様に割り切っていない(・・・・・・・・)

 

「どういうことだ」

 

『私たちは神に封印され幾星霜、幾度も所有者と共に赤龍帝と争ってきた。私たちはその戦いに意義を見出した。最初こそ人に使われることに反発したが、それも遠い昔の話。一応の納得を、落としどころを見つけた。そうせざるを得なかったからだ。だが、あれは違う。あれの中身は隙あらば茶渡泰虎を喰い殺そうとしている。それができる様に作られている。あれは、本当に神が作り出したものなのかというほどに、趣向が違う。あれには意図的に穴が開けられている』

 

全員の顔が強張り、空気が緊張していくのがわかった。

そして真面目な面持ちでヴァーリが私の言葉に対して問いを投げかけた。

 

「穴とは?」

 

『あれの中身は、そもそも神器という規格に合っていないのだ。異物を無理やり詰めこんだような雑さを感じる』

 

「それは、白龍皇や赤龍帝よりも大きな力を持っているってことなのかにゃ?」

 

酷く強張り、青くした顔で猫魈の娘が問いかけてくる。普段のあのお茶らけた様子など見る影もない。

 

『違う、力の大きさ云々の話ではなく。そもそもの質が違うと言っているのだ。ガソリンを入れるべき場所に水を入れている様なそういうレベルの話なのだ』

 

「それっていうのは、なにか? 泰虎の神器がいつか暴走するかもしれないって話かぃ?」

 

『むしろ暴走していないというのが私にとって驚きだ。普通の人間なら発狂し、喰い殺されていてもおかしくない。茶渡泰虎の精神力は、はっきり言って常人のそれを遥かに超えているのだろう』

 

先ほどまでの普通の日常の空気は完全になくなり、重く陰鬱とした空気が場を包む。

 

「それで? まさかアルビオン。お前ともあろうものが危険だからと尻尾を巻いて逃げ出す為に忠告を口にしたのか?」

 

そんな中、我が相棒たるヴァーリは普段と変わらぬ口調でそういった。

ああ、そうだ。それでこそだ。

 

『馬鹿を言うな。私はニ天龍の片割れ、白龍皇だぞ。ただお前のお気に入りのようだからな。このままではつまらん終わり方をする可能性もあるという話をしたかっただけだ。せっかくの赤いのに会うまでの都合のいい強敵だ。強くなるための踏み台としてこれ以上ない、な』

 

「泰虎がそうやすやすとどうこうなる訳がない。白龍皇の宿命とは別に、俺自身が見出した好敵手だ。仮に、その内なる何かに喰われるようなことがあるなら、その時は俺が押さえつけてやるさ。俺との決着をつけるまで、奴は死なせん」

 

「ったく、最近マシになったと思ったけど根っこの部分じゃやっぱ戦闘狂だねぃ。まあ嫌いじゃないぜそういうのは。俺っちもいざとなったら協力してやらぁ」

 

「……そうだね。二人もいるし、アザゼルもいる。悲観しててもしょうがないにゃあ」

 

龍に魅入られた人間は、いつもどこかこういう部分がある。

周囲の空気を変えるカリスマ性とも言うべき何か。

 

「そうとなったら特訓だねぃ。模擬戦したかったんだろ? 付き合うぜぃ!」

 

「私も色々とやることが増えそうだわ。とりあえずアザゼルが帰ってきたら何かしら策は考えとかなきゃ」

 

 

 

 

俄かにあわただしくなっていく。

この家の喧騒は悪くはない。やはりこうでなくてはと思ってしまうあたり、私も影響を受けているのだろうか。

そう感慨に浸っているとヴァーリが目の前の騒がしい二人に聞こえないくらいのトーンで声をかけてきた。

 

「アルビオン。まだ言っていないことがあるんじゃないか?」

 

『……どうしてそう思う?』

 

「さっきも言ったが、お前がただ危険に感じるというだけでそこまで警戒し、口すらも聞こうとしないとは思えん。そう思うだけだ」

 

『……茶渡泰虎の神器に封じられている奴が、龍より力を持つ者だとは思わん。しかし、同時に今の状態では致命的なまでに相性が悪いという確信めいた感覚を私は感じている』

 

「龍殺しの性質でも持っていると?」

 

『いや、そういう類のものではない。だが、奴の近くにいると私の存在が引き寄せられる感覚がある』 

 

「引き寄せられる?」

 

『詳しくは解らん。だが、用心に越したことはないだろう。一応頭の片隅にでも入れておけ』

 

「……ああ、わかった」

 

茶渡泰虎、そしてあの神器の中の怪物。

何が出てくるかわからん、これまでは警戒もしていた。

だが、それもここまでだ。

私は二天龍、白龍皇。障害はなぎ倒す。それが龍の在り方というものだ。

せいぜい、退屈させるなよ。




アルビオンって一人称俺だっけ?(

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