俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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お久しぶりでございますとともに本編でなく番外編であることをお許しください。実は去年に投稿するつもりでしたが今回完成したので(誤字脱字矛盾点多数)復帰また新年のあいさつとともに投稿させていただきます。
はっぴーにゅーいやー!


番外編
番外編『108』


それは、いつの日だったか。まだヴァーリ達が頻繁に俺の家に出入りしていた時の年末の事である。

 

「なんで大晦日の晩に私たちは炬燵に入りながら冥界に来てるのかにゃあ?」

 

「解らん。解らんがこういう事態は総じてアザゼルの仕業だろう」

 

「間違いないねぃ」

 

「間違いないな」

 

上から黒歌、俺、美猴、ヴァーリの声が続く。

そう、俺たちは家で炬燵に入りながら夕飯を食べ、テレビを見ていたところ、急な浮遊感に襲われて炬燵ごと転移した。空気や空の色などを鑑みるに、ここは冥界であろうことが察せられる。

しかし、周りを見渡してみれば、冥界には明らかに似合っていないものがあった。

赤い鳥居、注連縄、瓦葺の屋根、賽銭箱……

 

率直に言えば、そこは神社であった。

 

「おう! お前ら、よく来たな!」

 

そんな神社の奥から姿を現す神職の装いをするアザゼル(マダオ)。堕天使の長がそれでいいのか?

 

「なーにがよく来た、だよぃ。俺っちたちは炬燵で温まりながら年越しらーめんを食べて『笑ってはいけない魔王少女IN冥界24時』見てたってのによ」

 

「魔王は何を考えてあんな番組やろうと思ったのかにゃあ」

 

「そもそもなぜうちのテレビが悪魔の番組につながるのか問いただしたいとしばらく前から思っていたところだ」

 

「……ズー、ハフッ。ズズー」

 

「いや、なんでそばじゃなくてらーめん食ってんだよ。ていうかなんだその面白そうな番組。知らねーぞ。ていうかヴァーリ! 食ってねーで話を聞け!」

 

「麺が伸びるだろう」

 

「冷静に返すな!」

 

一息に突っ込みを入れ、肩でゼーゼーと息を荒げているアザゼルを横目に、俺たちはらーめんを食べる。

 

「くそっ、マイペースの権化かお前ら…… おら、ヴァーリちょっと詰めろ」

 

そう言いながら炬燵に入ってくるアザゼル。

 

「お前のペースに乗っていたら無駄に疲れるだろう」

 

「へっ、悪戯甲斐のない奴らだぜ。この鍋がらーめんか? 苦学生みたいなことしてんなぁ」

 

炬燵の真ん中に設置してある鍋かららーめんをどこから取り出したのか、器によそい食べ始める。

なんでこんな冥界の神社のど真ん中で炬燵に入りながららーめんを食べているんだ俺たちは……

 

「で、結局何なんだぃ?」

 

「日本じゃこの時期は初詣とかなんとかで出かけるんだろ? その場を用意してやったんじゃねーか。ありがたく思えよ」

 

「またシェムハザさんに怒られるぞ。というかこの炬燵家に戻せるんだろうな」

 

「そもそも初詣は年が明けてからでしょ…… ていうか普通に言えばいいじゃない。炬燵に態々私たちが気が付かない術式組み込むとか手間かかり過ぎだにゃあ」

 

「あん? 鐘叩きに夜も行くだろ。カウントダウンみたいな」

 

「除夜の鐘の事を言っているのか? あれは神社じゃなくて寺だ」

 

「あー、そうだったか。わかりにくいんだよなぁ。日本のそこら辺の違い。あ、コショウ取ってくれ」

 

「日本の風習は俺も詳しくはないが、その除夜の鐘というのは何なんだ?」

 

「大晦日の夜から元日にかけて108回鐘を鳴らす宗教の風習だ。107回を大晦日の内に叩き、最後の1回を年明けとともに叩く」

 

「108回ってのは人の煩悩の数とか言われてるにゃあ。それをやることで煩悩を祓うの。で、なに? アザゼルが鐘になって108回私たちに自由に叩かせてくれるんだっけ?」

 

「誰がそんなドMなことするかよ。まあ鐘は取って置きのを用意してあるからよぉ」

 

そういうアザゼルは、それはたいそう嬉しそうに笑顔を浮かべている。

その時、全員が察知した。これはろくなことにならないと。

 

 

 

 

らーめんを食べ終わり、炬燵を横に避けた後、アザゼルはウキウキとしている様子を隠すでもなく手のひらサイズの鐘を持ってきて俺たちの目の前に置いた。

 

「……これは?」

 

「鐘だよ。見りゃわかるだろ」

 

「見てわからないことを仕込むのがあんたの十八番じゃねーかよぃ」

 

「まあまあ見てろって。ほいぽちっとな」

 

そんな使い古されまくった表現でその手のひらサイズの鐘の上部を押し慌てる様に離れる。俺たちはそれを首を傾げながら見ていた。

すると、鐘の中から細い手足の様なものが伸びてくる。そしてその一つが俺の方に向き光を放つ。

慌てて首を傾けると頬を掠める様にレーザーが放たれた。

 

「そいつはきっちり108回有効打を与えないと壊せない俺様謹製の鐘形戦闘兵器だ! 除夜の鐘デスマッチと行こうぜ! 言っとくがそいつは強いぜぇ!」

 

そう言いながら神社の中へと逃げていった。

 

「フッ、アザゼルも粋なことをするじゃないか」

 

「腹ごなしと今年の戦い納めにはもってこいだねぃ!」

 

「何やる気出してるの…… 私やりたくないんだけど……」

 

「泰虎はもうガッツリ狙われてるぜぃ?」

 

「泰虎!?」

 

何か話題に上がっている気がするがあまり余裕はない。

足まで生えて、まるで火星人か何かの様なシルエットになっている目の前の手のひらサイズの鐘。

足は全部で10本あり、3本あれば体を支えられる様で、他の7本全てからビームを出してくるのだが、動作が早く、小さいので挙動が見難い。

幸いビームの威力は巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)で捌けない程の威力ではないが……

 

「オォォオオオオ!」

 

右腕での全力の拳撃を放つ。

すると、今まで俺に当てることを重視し、バラバラに撃っていたビームを収束、打ち消した。

これだ、こいつは明らかに戦闘を理解した上で動いている節がある。

 

「伸びろ如意棒ォ!」

 

俺の拳撃の対処にすべての腕を使っている横から美猴の如意棒が、凄まじい速さで鐘を弾き飛ばした。ゴーンと、小さなボディに似合わぬ音が響く。

そしてビームを出す腕が倍に増え、一気に射出した。

 

「なんじゃそりゃ!?」

 

虚閃の盾群(セロ・エスクードス)!」

 

虚化し、虚閃を拳に纏わせて地面に叩きつけた。

すると俺たち四人の足元から形を持った虚閃がその身を守る様に吹き出す。イメージはクラウスの血楔防壁陣(ケイルバリケイド)のようなものだ。ビームを弾き、うじゃうじゃと形容しがたい動きをする鐘に全員が改めて警戒心を示す。

 

「足増えた!? 増えたにゃ!?」

 

『言い忘れてたけど一回叩くごとにパワーアップするぜ』

 

神社に取り付けられたスピーカーからそんな声が響く。

ガサガサと言う音が混じっているのはおそらく菓子でも食べながら高みの見物をしているんだろう。

 

「ふざけないでよね!? ってうにゃっ!!」

 

「気持ちは解るがあれから目を離すな!」

 

「あー、もう! 吹き飛ばしてやるから!」

 

我慢の限界だったのか、黒歌はそう叫びながら、持てる力を一気に展開する。完全に頭に血が上っている。

 

「黒歌! 迂闊に手を出すと……」

 

「全部、食らええぇぇぇええ!!!」

 

ズガガガガッと凄まじい()()

それに呼応するような鐘の音、地響き。土煙の奥でゆらりと巨大な影が揺れる。

そして、土煙の中から切り裂くように先程とは比べ物にならないほどの巨大なビームと腕が飛び出してきた。

 

「巨大化した!? もう本当になんなのあれ!」

 

「下がっていろ黒歌!」『Half Dimension!』

 

ヴァーリの周囲に力場が構築される。俺たちはその範囲から弾かれる様に飛びのいた。

もはや鐘の体を成していないクリーチャーがぎちぎちと音を立てて縮む…… しかし、それ以上の勢いで腕が増え、体積が膨張していく。そして腕から何本ものレーザーが放たれる。

しかし流石というべきか、ヴァーリは身を捻り紙一重でかわしていく。

 

「クッ!? ハハハハハハ! 何だこれは! 俺の半減よりも早く成長しているのか!」

 

「ヴァーリの半減も一撃扱い!? どういう仕組みよ!」

 

触手一本当たりのビームの威力はもはやシャレにならないレベルに上がっている。俺はヴァーリの襟首をつかみ後ろに放り投げると、その勢いを利用し前に出て巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)に霊力を込めガードする。防げないことはないが踏ん張っているのにジリジリと後退させられている。

 

「いい、いいぞ! 最高だ!」

 

放り投げたヴァーリは危なげなく着地し、その様子を見て嬉々としてこちらの様子を見ている。白龍皇の翼を広げ今にもとびかからんとしている。

 

「それ、隙ありぃ!」

 

それに呼応するようにいつの間に背後に回ったのか、美猴が如意棒で思い切り鐘を殴る。バランスを崩し、集中していたビームがバラけた。

 

「もっかいありったけ持ってきなさい!」

 

続くように黒歌が仙術と妖術をありったけ発動させ完全に転がす。

 

巨人の一撃(エル・ディレクト)ォッ!」

 

その隙にねじ込むようにガードに込めていた霊力をすべて出し切るように渾身の一撃で鐘を吹き飛ばす。

 

「これはどうだ!」

 

勢いよく飛んでいく鐘を迎え撃つように巨大な魔力の塊を叩きつけるように放つ。

流れるように連携が決まったところで黒歌が肩で息をしながら言う。

 

「どう! やった!?」

 

「……黒歌。それはフラグというものでは」

 

俺の言葉を遮るように、ズズズズと、地響きが鳴り響く。

 

「ハハハハハ! まだ楽しめそうだな!」

 

「……いや手応えがあるのはいいんだけどよ。でかくねぇか?」

 

「いつからこの世界はゴ〇ラを生み出せるようになったんだ?」

 

「アザゼルぅぅうううう! 何とかしなさいよこれぇっ!!!!」

 

気が付けば見上げるほどの鐘がUFOのようにぐるぐると回転しながら上空を飛び、いろいろな兵器を搭載しながらこちらを狙っていた。

 

「……ここまでで何発攻撃を入れたか数えていたやつはいるか?」

 

「わからないわよ。イラつきのまま攻撃してたんだから!」

 

「いちいち数えてられるほど余裕はなかったからねぃ」

 

「倒すまで攻撃すれば倒せるさ。さあ続きを始めよう!」

 

「……はぁ」

 

年末年始くらいはゆっくりと過ごせると思っていたのだが、ここはこのセリフを言わねばならないところということか……

 

「俺たちの戦いは、まだまだこれからか」

 

 

 

その後、除夜の鐘との戦闘は、年末に冥界の堕天使の拠点に集まっていた堕天使たちを巻き込みつつ、遠目から見ていた悪魔たちには侵略兵器なのではないかといらぬ緊張感を齎した。後に『除夜の鐘撞き聖戦』と呼ばれることとなったこの戦いは、日付が変わるとともに打ち込まれた108回目の鐘撞きとともに、アザゼルと鐘が冥界の空に散ることで事なきを得たのであった。

 

それは何ということはない、語るべきでもない日常の小話(ギャグ補正満載の番外編)なのである。

 


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