俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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皆さん、いつもありがとうございます!


圧倒的な存在感

[雄英体育祭-騎馬戦-]

ボッチである。

緑谷出久は今までにないほどの孤立状態であった。

騎馬を組んでくれそうなクラスメイトは軒並みこちらとは視線を合わせず、ようやく目を合わせてくれた峰田にはなぜか敵を見るような目で見られる始末。

この孤立無援の中でどうやって味方を見つければよいのだろうか。

(かっちゃんと轟さんの周りには沢山の人だかりが出来てるし、頼みの綱の飯田君も轟さんのところだ)

マズイ。

たらり、と滅多にかかないはずの冷や汗が頬を伝ったところで

 

 

「あっ、エドモン君!まだメンバーって空いてるかな!?」

 

救いの女神の声が聞こえた。

「あ、ああ。もちろんだ、メルセデス」

むしろ内心は泣きそうである。

照れくさそうに「仲良い人とやった方が良い‼」なんて言ってくれる麗日さんは本当に女神だろうか。

(でも、これであと二人。一人は決めてるんだ、なら後は相性も考えて動くべきだ。麗日さんの個性を活かすなら、空中でも加速できるような個性がやっぱりベスト。それなら、飯田君をなんとか――――――『うむ。良き体の女が多すぎて迷っていると見た。ならばどうだ、あの女など程よく豊満な体つきで良いのではないか?』・・・え)

 

頭に響くのは猛々しく、しかし一本の槍のように芯を感じる男の声。

その声に導かれるように体が、勝手に動く。というより

「エドモン君?」

操作がきかない。

不思議そうに声をかけてくれる麗日さんに返事すら出来ず、向かうのは

 

「やぁ。良き胸と尻の女よ。俺と共に戦を駆ける気はないか?」

 

ゴーグルをかけた桃色の髪の少女。あまり見たことのない人だが、それよりもこの操作の利かない口があまりにセクハラまがいの事を口にし過ぎている。

内心、一気に血の気が引いていくのを感じながら

 

「丁度よかったです! 私はサポート科の発目 明! あなたの事は知りませんが、その立場を利用させてください!」

 

奇跡が起きた。むしろ表情を輝かせ、身を乗り出すように食いついてくる彼女。

 

「私のベイビー達が大企業の目に止まることが出来て、なおかつあなたたちは私のベイビーたちで個性の増強が出来るんですよ!」

「ん? 俺の目には既に子を産んでいるようには見えんが、まぁ良い! お前の気持ちはよく分かった、共に行こう良き体の女よ‼」

 

ガシリ、と肩を組んだ辺りで体の自由が戻ってくる。

後は上手くやれ、と謎の声が脳内から徐々に遠のいていくのを感じながら、ひとまず組んでしまった肩を慌てて離し、謝ろうとして

 

空気の凍り付く音と、断続的な爆発音が耳に入る。

恐る恐る振り向けば、視界に入るのはまさに鬼のような形相の幼なじみと能面の様に無表情な氷を扱うクラスメイトの姿。

 

恐怖に凍り付いた体をなんとか動かし、背中を向ければ最後の一人である『彼』に向かって逃げるように駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騎馬戦開始直前、轟の心中はブリザードが吹き荒れていた。

ストイックだと思っていたクラスメイトがセクハラまがいの言葉でいきなり話し始めたのだからそれも当然かもしれない。

(でも緑谷があんなこと言う筈が無い。精神操作系の個性がはたらいているのか、それともあの声自体が何者かの個性で歪められていた可能性もある。まずは試合後に落ち着いて緑谷とハナシアイをする必要があるな)

薄い氷の膜が張った手を握り込めば、音を立てて薄氷は砕け散る。

その音に、彼女を支える馬役の一人、上鳴が肩を跳ねさせるが気付くことは無い。

今の彼女の脳内は彼への興味と――――今も観客席から見下ろしてくる父親への怨嗟が支配しているのだから。

「カウントダウン‼3・・・・」

父親の姿を見上げた轟の表情は、一瞬何かを抱え込んだかのようにクシャリと―――――泣き出す間近のただの少女のように歪んで

「2‼」

それでも、涙はこぼさず前を見つめて彼の姿を探す。

「1‼」

この冷めた胸の内を溶かしてくれるであろう彼は

 

「スタート!!!!」

しっかりとこちらの目を見つめてくれていた。

 

 

 

 

(――――――ぁぁ・・・。氷に包んで家に持って帰りたいなぁ)

轟 焦子は体を震わせながらそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当然、最初に狙いが集中したのは1000万ポイントを持つ緑谷チームであった。

「実質、それの争奪戦だ‼」

勢いよく駆け出してきたのは全身スティール男、鉄哲チームと透明人間葉隠チーム。

「―――――いきなりの襲来とはな。まずは2組・・・追われし者の宿命、選択しろ緑谷!」

 

 

「クハハハハハハハハハハハッ‼構わん‼俺たちの道に立ち塞がるのであれば、小石も石壁もただ怨嗟の炎で焼き尽くすのみ。行くぞ、同胞よ!」

「御意‼」

グッ、と騎馬たちの足元が地面へ沈み込みあっという間に足首まで飲み込まれるが、彼らの顔に焦りは無い。

「メルセデス、浮遊‼」

「メルセデス、ジェットパックを使うぞ‼」

ポン、ポンとそれぞれのメルセデスの肩を叩き合図を送れば、麗日の個性により騎馬全体が宙へ浮く。

さらに緑谷のマントの外側に取り付けられたジェットパックが音をたてれば一気にその体は動き始め―――――こちらを狙っていた2組へ突き進んでいく。

 

 

 

「たまらんなあ‼良い気迫をしておる! だが、今は蹴散らしてくれよう――――駆けろブケファラス‼AAAALaLaLaLaLaie‼」

 

ジェットパックの勢いのまま駆け、マントと手袋を外し『20%』状態となりながら突き出された緑谷の両手から放たれるのは拡散する黒炎。

視界を奪う様にまとわりつく炎だが、熱量はそれほどでもない。

だが、迫る炎に一瞬も怯まないものは少ないだろう。

 

「その鉢巻、貰い受ける‼」

「行け、黒影‼」

黒炎の壁を突き破るように伸びた黒いスーツの腕と、黒い鳥のような影が2組の鉢巻を奪い去る。

飛んだ勢いのままほかのチームを引き離せば、

「クハハッ、良い動きだ同胞。過ぎ去る怨嗟の声すら今は心地良い!」

「俺を選んだのはお前だ、緑谷。俺と黒影、上手く使いこなしてもらおう」

次の獲物を探す。

今の動きを見たほかのチームがしり込みしている今がチャンスだ。

追われるだけではこの狭いステージでは追い詰められるのは必然。それならば

 

(それなら、全員の鉢巻を取るつもりで動いてやる)

 

彼が持っていなかった闘争心が、なにかのきっかけで開花し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っらぁ‼死ねぇ‼」

BOOOM‼

「ねぇ、女の子なのにヘドロに包まれるなんて変わった経験してるよねぇ‼感想聞かせてよ、ほら‼」

「あああああああぁぁぁぁぁ!!!」

再度、振るわれた手が爆発音を鳴らす。だが、一定の距離を保たれてしまい軽い爆発では衝撃すら与えられない。

額に青筋を浮かせ、牙を剥く爆豪に対し騎馬である切島は慌てて足を止め

「お、落ち着け爆豪‼ポイント取られてんだぞ、冷静になんねえと‼」

「あああァァァァァ‼進めぇ、切島‼俺は冷静だ、冷静に・・・ブチコロス‼」

もはや女子がしていい顔ではないと思いながらも、再度距離を詰めていく。

それに対し

「分かりやすくて困るなあ本当に!」

先ほどまでと違い、一気に距離を詰めてくる相手――――物間 寧人。

その左手が切島の頭へ触れるが、その隙を見逃さず爆豪がその顔面に拳を叩き込み

 

「はははっ、良い個性だ‼」

硬質化させた右腕でその拳と爆発を防ぎきる。

「っ、こいつは・・・」

予想外の硬さに爆豪の右腕に痺れが走り―――今度はその隙を物間が詰める。

振りかぶられた拳が爆豪の頬に振るわれ・・・なんとかあたる直前に反応し顔を逸らしたその頬に容赦なく爆発が襲いかかる。

「・・・チッ、コピーしやがった」

至近距離で受けた爆発で火傷した頬を気にせず、切れた口の中に溜まった血を地面へ吐く。

「正解。まあ馬鹿でもわかるよねぇ」

ふたたび距離を詰めようとする物間に対し、けん制するように爆破を行う爆豪にそう口にすれば、その視線はその向こうへと向けられる。

「ついでに・・・あの個性もコピーしてみようかなぁ」

視線の先に居るのは、地面から襲い掛かる氷の槍から逃げる黒いスーツの男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上鳴による全方位への電撃により周囲のチームは軒並み勢いを殺され、現在は緑谷チームと轟チームの一騎打ちとなっていた。

「残り4分、このまま緑谷チームが逃げ切るのか‼それとも轟チームが1位をかっさらうのか‼」

プレゼント・マイクの声が響く中で向かい合う二人はお互いの動きを見つめていた。

(緑谷の体が右に傾いた。だが、視線は僅かに左を向いている。あの動きの場合必ず‼緑谷は左へ動く)

動きを読むのは轟に分があるようで、動きの初動を遮るように氷の槍が足元から突き出してくる。

とはいえ、炎は氷により相殺され黒影による物理も八百万の創造によって防がれている。

(決め手に欠ける。けどそれなら、彼らも同じ――――『訳が無いだろうキミ。冷静に考えてみたまえ、先は読まれて徐々に足場も奪われているじゃないか。布石と言うヤツさ、結果は計算するまでもないネ! ・・・そして感謝するといい‼あえて間に合わないタイミングで教えてあげたんだからサー』)

脳裏に聞こえた声に緑谷がハッ、と顔を上げるのと飯田の加速が始まるのはほぼ同時であった。

気が付いた時には体のわきを風が駆け抜け、ギリギリ上がった手は何かの衝突を受けたかのようにビリビリとした痺れと痛みを伝えてくる。

額に手を伸ばせば、奪われたのは二本の鉢巻。

葉隠から取ったものと、

「っ、・・・まだだ。終わりの鐘が聞こえぬ以上、この足を止める理由などない‼」

1000万。取り返さなければ自分たちに勝機は無い。

「やるか・・・緑谷。アレを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(飯田がやってくれた。これで緑谷に点数上で俺は勝っている。だから存分に・・・緑谷を氷漬けにできる)

思わず吊り上がりかけた頬を手で押さえながら、半冷の右腕を構える。

ついでに垂れかけたよだれも隠す。

 

彼らの遠距離攻撃の手段はこちらに通じず、ほぼ詰みの状態だが相対する瞳に諦めは見られない。

ならば、不純物は混じるがまずは足元から凍り付かせようと、右手に生み出した氷の棒を地面に擦り付け冷気を伝わらせようとして

「っ、なにをするつもりだ!!?」

飯田の声に顔を上げる。

視界に入ったのは彼の手から放たれる黒炎。

暗い輝きを放つそれだけであれば、彼がここまで驚くことは無かっただろう。

問題は、その炎を纏いながら巨大化していく黒い影。

(あの鳥の影は光を嫌うはずだが・・・まさか緑谷の炎が光を遮断しているのか)

そもそも炎とは光を放つものだ。ならば、あの炎は一体何なのか

何の力によって生み出されているのだろうか。

 

 

 

(あああああああぁぁ。触れたい、溶かされたい、氷漬けにしたい‼)

ついに視界に収まりきらない程に成長を遂げた黒い炎を纏った影に、観客席が静まり返る。

おぞましい怨嗟の炎の中から唯一見える巨大な目が、こちらを見下ろし

 

「クハハッ! 良い光景だ、怨嗟によって生まれた黒鳥の一撃、受けてもらおうか‼」

「よもやここまで相性が良いとはな。さしずめ『獄炎黒鳥翼撃―エヴィルファイヤーウイング-』とでも言うべきか」

 

その奥で、似た表情を浮かべた二人がそんな事を口にしているのが見え

巨大なその翼が横薙ぎに振るわれる。

騎馬を狙わず、轟のみを狙ったその翼に対し最大出力で氷柱を放つ。

ズガガガガガガガガッ‼と氷が削り取られる音が辺りに響き、ひと際大きな氷塊に衝突した瞬間あたりに強い衝撃が巻き起こり

 

思わず、飛び散る氷の破片から顔を守るように腕を顔の前に当てた轟の頭に何かが触れて――――

 

再び目を開け、振り向けば走り去っていく彼の姿。その手には確かに、さきほど奪ったはずの1000万の鉢巻が握られており

「取り返すぞ‼みんなで取ったポイントだ、必ず―――――‼」

胸中にあるのは、ただ悔しさ。自分の油断で奪われたポイントを取り返さなければと動くその胸に、いまだけは父親の姿など無く

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・この時を、待ってたんだよね‼!」

彼の脇から衝突するように迫った騎馬、その上に乗った少年が鉢巻ではなく彼の肩に触れる。

 

その瞬間、体中を冷気で包まれたかのようなそんな悪寒が走った。

「この個性、増強型で炎も出せるとかなかなかだよね。まあ、それすらコピーできる僕の個性の方が―――――ががガガガガガガッ!!?」

少年の体が大きく揺れる。

同時に、早鐘を打ち始める自分の心臓の音が聞こえはじめる。

なにか、自分の根幹を揺さぶるような―――――生理的嫌悪、吐き気をもよおすような存在が彼の体から這い出そうとしている。

震えていた彼の体が、ピタリと動きを止める。

虚ろだったその瞳は、飢えた獣のような光を放ちギョロリとこちらを見つめる。

(な、んだ・・・こいつは。ワタシを、見ているっ!!?)

危機感を覚えた体が反射的にのけぞり

 

 

「――――――おやおや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュフフフフフフフフフ‼黒髭ティーチ参上ですぞーーー! ・・・ジュルリ、そこにいるのは僅かに成長の兆しを見せる胸を持つ全人類の宝ですな‼よいですぞ、ぺったんこはニッチ趣味ではなくつつましさを愛でる紳士のたしなみですぞーい‼ん・・・んんんっ!? そこのツンツン頭の女子は胸をきゅうくつな下着で押さえつけておりますな? 拙者の目を以てすればその豊満なおもちは誤魔化せんでござるよ! しかし、その怒った顔はなにゆえ・・・はっ、さてはさっきの発言で拙者がぺったん派閥と勘違いしたのでは!? ・・・デュフフフッ、安心するでござるよ拙者は大きな胸からあふれる母性も感じられる男。そのDカップも拙者が――――――――――」「―――――死ね」

 

 

試合終了の合図と共に、かつてない規模の爆発音が会場中を揺らした。

あとに残ったのは黒焦げになり、意識を失った物間と騎馬の上で呆然とする緑谷。

そして、彼が最後の言葉を聞いていた事に気付き、真っ赤になった顔を押さえ泣き顔を見られない様に背を向ける爆豪の姿だった。




????「おやおやおや!?これは・・・別世界の入り口、何たるロマンチックペダンチック‼イイですねぇ、いいえイケますねぇ‼ヒャーハハハ!イヒヒヒヒ‼・・・・さて、爆弾の準備を」
黒髭「ほおーっ!デュフフフフフ、美少女の気配と拙者へのフラグの匂いがしますぞーっ!いざっ、夢のパラダイスへ行くでござる―――――――――‼」
????「――――――おやぁ、入り口がぁ・・・無い‼・・・いやいや、なんと残念無念、人体がはじけ飛ぶ姿が見たかった・・・ウヒヒヒヒヒヒッ‼」





「あ、ああ。もちろんだ、メルセデス」
(も、もちろん大歓迎だよ‼)

「やぁ。良き胸と尻の女よ。俺と共に戦を駆ける気はないか?」
(やぁ。良き胸と尻の女よ。俺と共に戦を駆ける気はないか?)

「ん?俺の目には既に子を産んでいるようには見えんが、まぁ良い!お前の気持ちはよく分かった、共に行こう良き体の女よ‼」
(ん?俺の目には既に子を産んでいるようには見えんが、まぁ良い!お前の気持ちはよく分かった、共に行こう良き体の女よ‼)

「クハハハハハハハハハハハッ‼構わん‼俺たちの道に立ち塞がるのであれば、小石も石壁もただ怨嗟の炎で焼き尽くすのみ。行くぞ、同胞よ!」
(予想通り!障害は退けられるだけの力が僕たちにはあるんだ。行くよ、常闇君!)

「メルセデス、浮遊‼」
(麗日さん、浮かせて‼)

「メルセデス、ジェットパックを使うぞ‼」
(発目さん、ジェットパックを使うね‼)

「その鉢巻、貰い受ける‼」
(もらったぁッ‼)

「クハハッ、良い動きだ同胞。過ぎ去る怨嗟の声すら今は心地良い!」
(いいコンビネーションだよ常闇君!この調子でいこう‼)

「っ、・・・まだだ。終わりの鐘が聞こえぬ以上、この足を止める理由などない‼」
(諦めてたまるか‼・・・まだ止まるわけにはいかない!)

「クハハッ!良い光景だ、怨嗟によって生まれた黒鳥の一撃、受けてもらおうか‼」
(上手く黒炎が働いている‼今できるギリギリの攻撃だ、行くよ轟さん‼)

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