俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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ぐだぐだ本編、許してくだちい。

追記
誤字修正しました!
いつもありがとうございます!


ニトクリスの鏡

[神野編4]

 

 

ひらりひらり、白い布が落ちていく。

その布が目の前の存在の赤く染まった眼光を覆い隠したことで、その場にいた全員がようやく呼吸をすることを許される。

 

(あれは何だッ。なんでこの場面で、あんなヤツが出てくる・・・ッ)

 

その存在がすでに緑谷出久ではない事を、死柄木は自身の感覚から理解していた。

あの存在からは正義の気配がしない。

だがしかし、アレはヴィランでもない。

 

一瞬でも視線を動かしてしまえば、あの白い塊にこの命を刈り取られてしまいそうな。

そんな予感がした。

 

だからこそ、視線の端で黒い影が動いた瞬間自らの失態に彼はようやく気付く。

 

(ッ、脳無――――!!)

 

この圧に耐えられた個体。

いや、鈍い個体なのだろう数体がエンデヴァーへ再び飛び掛かろうとしている。

 

それだけではない、他の脳無もまたゆっくりとその四肢を動かそうとしている。

あのエンデヴァーが表情を青ざめさせ、動きを止めている事しかできないこの状況で―――。

 

しかし、考える脳を奪われた彼らは止まれない。

 

 

 

 

 

 

 

ヒト型に膨らんだ白い布。

 

恐らく顔に当たる部位がスゥ、と赤い線が2本裂けた様に広がっていく。

 

そこから覗くのは金色に光る鬼の瞳。

 

 

 

 

 

「動くなぁッ!脳無ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンッ。

 

 

金属を擦り合わせたような音が一つ。いや、二つか三つ。

一重にも、幾重にも聞こえたように錯覚させる音が響いた。

 

 

「ふふ、堪忍なぁ。吾は先に忠告した、よもや戯言と受け取ったわけではあるまいな?」

 

死柄木にはその言葉が何を意味するのか、確認することは出来ない。

耳に入ったのは複数の重いモノが床に叩き付けられたような水音。

 

視界を埋めるのは、四本角の美しい鬼の童顔。

 

果実を甘く、甘く、甘く溶かし溶けあわせたような匂いの吐息が香る距離で視線が交差する。

赤い文様に彩られた細い指先が死柄木の頬に触れ―――

 

「勝手に動きはった口も斬り落とそうか悩んだが・・・」

 

 

 

 

「緑谷出久の中に居る・・・お前は・・ヒーローじゃないのか?」

 

ようやく、口にできた言葉はそんな質問。

その言葉に、ソレは目をまん丸に変える。

そして、顔を見せるためにかぶっていた布を押し上げていた手とは逆の手で、ゆっくりと口元を隠せば。

 

目元を細め、次いで鈴を転がしたように笑い声を響かせる。

 

 

「吾がッ、このうちがひーろー(人類の味方)だと・・・?」

 

赤い、真っ赤なその手が下ろされる。。

持ち上げていた布が下り、白い布によってその表情が再び隠れるがその表情が先ほどまでと同じ、ゾッとするような笑みを浮かべているのは布越しにもわかる。

 

 

「吾はな、かの大江山を――――

 

 

 

 

 

 

 

ええいッ!ほんに邪魔な布やわぁ・・・」

 

 

 

 

 

白い布が、真っ二つに裂ける。

 

 

 

 

 

それだけで、僅かに抑えられていたその殺気が、闘気がその体から再び溢れ出す。

 

どういった意図であの布が被せられていたのかは知らない。

殺気を押さえ、対話を行うための状態であった可能性もあるが

 

(破り捨てたってことは、もう対話をする気は無いらしい)

 

切り裂いた布を更に細かく千切り捨てるその姿に――――死柄木の頬を一筋の汗が伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(『メジェド様あああぁぁあぁぁぁ!?』)

(『煩いッさえずるな!そも、汝はなぜ吾のあたまの中に――――』)

(『ファラオたる私を突き落としただけでは飽きたらず、メジェド様に対する狼藉・・・不敬・・・フケイです・・・』)

(『ちょっとぉー!ねぇ、もしかしてここ小鳥の中?いつのまにパーティ加入したのかしら私』)

(『みんな悪い子だわ。邪魔をしないって約束すればイズクも楽になれるのに』)

(『彼の者に不利益な事をしないよう目を光らせて大人しくしていようかとも考えていましたが・・・気が変わりました!』)

(『ほう、この茨木童子と酒呑に挑むと?面白いッ、汝のような軟弱な肉体で何が出来るか・・・』『うちはいややわぁ。頑張ってなぁ茨木・・・大事なトコはしっかり弄ったから後はよろしゅうなぁ』)

(『酒呑!?・・・ふふ、ふ・・任されたからにはやらねば鬼が廃ろうぞ!かかって来い南蛮の陰陽師ッ!!』)

(『不敬に罰を・・・悪逆に死を。神々を軽んじる者、ファラオを愚弄する者・・・天罰 覿面!!』)

 

(『ッ、な、なな・・・!?しゅ、酒呑っ、小僧の体から引きはがされ――――』『本物の体なんてないんやし、力任せの押し合いになるわけないやろ。うちも少ぉし呪いは齧っとるけど・・・本職にはさすがにかなわんわぁ』)

(『いっ、痛いわ!?なんだかビリビリするんだけどっ!ど・・・毒状態よっ、いそいで毒消し草を買って来なさいよ緑のっ』)

(『嫌っすよ』)

(『繋ぐ者。似ているあなたのそばに居たい・・・そう私はもっともっと近くに居たいの・・・だから私はわるい子になるわ。・・・いあ いあ』)

(『で、で・・・・出ていきませい!!』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メ・・・メジェド様・・・なんとおいたわしい」

デクの野郎の姿がまた変わりやがった。

それも今までとは全く違う、ヤバい人格だ。

さっきの一瞬で10ぐらいの脳無が地面に這いつくばってやがる。

 

虫みてぇに動いてるところを見ると生きちゃいるが、たぶん手足の腱が全部切られてやがる。

 

 

今は地面に散らばった白い布を這いつくばって集めようとしてはいるが、ときどき悪霊みてぇな叫び声をあげているところを見ると精神もかなり不安定だ。

 

 

 

この前の悪魔ジジィも大概だったが、コイツは・・・

 

「爆豪君・・・彼の個性は何か、君は知っているか?」

「ぁ?・・・知って、ますが」

 

デクの目が逸れた隙にいつの間にか近付いてやがったエンデヴァーが声をかけてくる。

適当に返事をしようとして・・・その隣に轟がいるのが見えて、少し言葉遣いを考える。

 

「プロヒーローにも彼の個性についての情報は出回っているが、公にされている『人格に合わせ能力を変える個性』なんてモノを鵜呑みには出来なくてね」

 

「ぅぅっ、ぐずっ・・・・メ、メジェド様、帰りましょう。このままここに居たとしても彼の者に迷惑がかかるだけです(『ねぇ!本当にそうかしら?』)・・・え?」

 

「・・・アイツが言うには、過去の偉人の力を借りる個性らしい・・・ッス。あの炎を出して飛び回るのが巌窟王とかいうので・・・雷のが坂田金時らしいッスけど」

 

アイツの中に居る奴らの事だから一応調べたが、創作かどうかもわからないような過去の偉人だ。

それに、個性も無い過去の時代の人間にあんなことが出来るのか。

だから、アイツは多重人格でその性格の切り替えに合わせて個性が変わる、そんなものって事にされてる。

 

が、

 

「・・・それは、確かに彼が創作した人格と考える方が自然か」

「だがよ、違うんだよ。言葉も姿も変わろうが、アイツはアイツのままだった筈だ。性格なんて変わっちゃいねぇんだ・・・あの悪魔の時以外はッ」

 

「(『どう見ても周りの黒いのとかはエネミーね!脳ミソ丸出しなんて敵よ敵!』し・・しかし、今は完全に動きを止めていますし、あの手が沢山ついた少年もどこかへ消えたようですし・・・(『バックアタックよ。どこからか狙ってるに違いないわっ。このまま帰ったら小鳥が殺されちゃうかもしれないじゃない!』そ、それは困ります!)」

 

「アイツの個性は『別の世界の化け物を憑依させる個性』だ。アイツが言ってた座ってのは、たぶんこの世じゃねぇ」

「イズクが前に言ってた。座の中には神様も居るって」

「神など居るわけが・・・ッ、冷気を出すな焦子!緑谷君を疑っている訳じゃない!」

 

「ファラオオジマンディアスも彼の者の映像をとても楽しみにしているのです!『なら先手必勝よ!きっと大丈夫、まわりの変なのだけ倒せばいいんでしょ!私達にかかればこんなの朝ごはん前よっ』わ、分かりまし・・・・私たち?」

 

「なんにせよ、気絶させれば終わりだ。やるしかねぇ」

 

うずくまりながら何かぶつぶつと喋ってやがったアイツが、体を起こす。

その姿が、また形を変える。

 

でこから伸びてた四本の角、それに加えて側頭部から左右2本紫の捻じれた角が生える。

白かった筈の肌は徐々に褐色に変わって――――

 

 

 

「ッ、伏せろ!!」

 

エンデヴァーの声に何とか体を前に倒す。

 

2体の脳無が、冗談のような速度で頭の上を通り過ぎていく。

それを成した黒い影が、目の前で揺れる。

 

「ファラオ勇者ッ、降臨!!この戦い、負けるわけにはいきません!」

 

黒く、長い尾だ。

アイツの後ろから生えたソレが、まるで竜みてえなそれが脳無を吹き飛ばしてボロきれみてぇにしやがった。

 

 

速すぎる、が動かなきゃどうにもならねぇ。

 

「私が隙を作る。君達はすぐに避難するんだ」

「ッ、んなこと出来るかよッ。アイツを止めるなら俺たちもッ!」

 

「君達を庇えるほど余裕はない。彼の気配が高まっている、何かが―――」

 

エンデヴァーの顔が、先ほどよりもさらに強張っていることに今更気付く。

それでも、ここに残る事を伝えようと口を開いて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

右足を、強い力でダレかに掴まれる。

後ろに居たのは障子か尾白だ、足を掴まれる理由なんてねぇ。

 

足元に目を向ければ

 

 

 

 

白く濁った眼と視線が合う。

 

赤黒く、ところどころ黄色く変色した包帯を全身に巻いた何かが、地面から生えるように俺の足を掴んでやがった。

人の皮膚にしては柔らかい感触が、足から伝わる。

 

ミイラ。

そうとしか呼べない存在が、少しずつ伝うみたいにわたしのからだをのぼってくる。

てが、こしまで・・・き、て。

 

「ひっ・・・」

 

だ、め。こわ、こわ・・・いず・・・

 

「ぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆豪が崩れ落ちるように倒れると同時に、ホラー耐性の強い者たちは足元のミイラへの対処を始めていた。

「カツキを助けなきゃいけないんだから・・・仕方ないな」

「ッ、爆豪!くっ、こいつら数が増えていくぞ!?」

 

 

轟が自身にしがみつくミイラを凍り付かせ、粉々に砕いた瞬間―――再び数体のミイラがその足を掴む。

尾の一撃によりミイラを吹き飛ばした尾白も同様に倒せば倒すほどその体の自由が奪われていく。

 

 

 

 

 

 

「かわいいマミーが・・・ざざーん、ざざーん・・・」

 

 

 

 

 

「ッ、娘の数少ない貰い手に怪我はさせたくなかったがッ」

 

足元のミイラを一瞬で灰に変えたエンデヴァーが、その炎を緑谷へ向ける。

不気味に何かを呟きながら体を起こす緑谷はしかし、その左手を眼前にかざす。

 

 

「ぬるい!ドラゴンブレスのうん十倍ぬるいわ!」

 

その手に現れた円形の盾が炎を完全に受けきる。

 

「マミーの拘束が解けないうちに・・・・今こそ超必殺技を披露する時よ!(『拘束は終わりましたし、後は帰り・・・・必殺技?』)そうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけたような声音とは真逆。

空気が重く、しかし澄んでいく。

 

彼の眼前に巨大な鏡が何もない空間から組み立てられる。

うねった触手、ねじきれそうな体をした生き物の装飾がされた冒涜的な鏡だ。

 

 

 

そのなかから――――ソレはゆっくりと、この世界に姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ほどまで何もなかった空間に、

緑谷が立っていたその場所に巨大な二本の足が立っていた。

 

その膝から上を覆うのは、光を照らし返すような白い布。

それが

 

 

 

「っ、なんて・・・・ッ」

 

エンデヴァーは、眼前のソレが理解できなかった。

それが自身が見上げるような、突き破られた天井よりもさらに高い数十メートルの大きさだからでも、白い布に覆われた異形だからでもない。

 

人が相対してはいけないものだと、見た瞬間に理解させられた。

先ほど、彼が布を被っていたのはこれを真似ていたのかと、この状況でそんなことを考えてしまうほどにNo.2ヒーローである彼が思考を放棄していた。

 

 

 

 

 

 

黒い、二つの瞳がただジッとこちらを見下ろしている。

何も感情が受け取れない、まるで何かを超越したようなその姿が。

 

 

 

巨大な足の影から、褐色の存在が姿を現す。

まるで自分が成した事の重大さを理解していないような、無邪気なその表情。

 

「どうしてこの変なのが出て私のチェイテ城が出ないのよー!?・・・いつもならババーって出てくる筈なんだけど、おかしいわね・・・バグかしら(『な・・・なんて事をしているのです貴女は!?メジェド様をお呼びするなど・・・』)へ?めじぇ・・・これの事?ぷっ・・・こんな布かぶった生き物がどうしたっていうのよもー」

 

 

ベシッ、ベシッと彼がその足を平手で叩く。

こちらを見下ろしていた白い化け物の空虚な双眼が、ゆっくりと足元の彼へ視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『(死にますよ、ここに居る者全て)』・・・・え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に・・・・逃げてー!!みんな、ちょ・・・このゾンビどうやったら居なくなるのよ!(『ゾゾ、ゾンビではなくマミーです!それよりも、メジェド様に今までの行いを懺悔し、許しを乞うのが先で――――』)」

巨大なその存在の中で、力が高まっている事を周囲の者は肌から伝わるビリビリトした感覚で全て理解させられた。

 

あの存在が今から行う何かを許せば、塵一つ残らない。

 

今さら慌て出した彼が何かを話しているが、周囲の者は誰も身動きなど取れなかった。

マミーなど関係無い、ソレの存在が全員の足を縫い止めている。

 

 

 

エンデヴァーは、先ほど自身の娘が言った言葉の意味を理解し、その言葉が何一つ間違っていなかったことを悟る。

 

アレは

 

 

「・・・神、か」

 

 

 

 

ならば、勝てる姿が全く浮かばないのも無理はないのだろうか。

自身の背後で、倒れる音が聞こえる。

 

彼の娘や級友がこの圧に耐え切れず、意識を失ったのだろう。

ならば

 

 

「面白い。奴を越える前に、神を越える機会が来るとはな・・・ッ!」

 

 

勝てなかろうが、背後の存在を守ることが出来れば勝ちだろう。

 

「俺がヒーローである以上、俺は俺の土俵で戦わせてもらう」

 

自身をヒーローなどと口にしたのはいつぶりだろうかと、自嘲するようにエンデヴァーは笑う。

娘と話し、何か変わったのかと聞かれれば、彼は何も変わっていないと答えるだろう。

越えるべき背中を追いかけつづける焦りは未だに残り、手段を問わない気持ちも未だ変わらない。

 

 

ただ少し、次の世代に投げるには早いと思っただけだ。

未熟な娘が育つまで、死なせるわけにはいかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な瞳が、光を放ち始める。

それだけで周囲の瓦礫がゆっくりと浮かび上がり、空間が歪んでいく。

 

ねじ切られたように砕けていく鉄骨やコンクリート片、それらが唐突にボトリと地面に落ちた瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が奔る。

両目から白い光線が放たれた瞬間、背後を守る様にエンデヴァーは炎を生み出す。

膨大な熱量は暴風を巻き起こし、光線の余波を確かに削りきる。

 

 

(だが、あの光線自体は――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白き神は視線を足元へ向ける。途中までエンデヴァーへ向けられていた光線もまた、湾曲し足元に居た存在へ向きを変える。

 

 

 

「な、なんでえぇぇぇ!?(『貴女が最も不敬だったという事でしょう。メジェド様のおみ足を叩くなど恐らく世界で唯一あな――――』)」

 

 

 

 

 

光が彼に接触した瞬間、周囲の音が消え去り――――一拍の間を置き、弾けるように光が拡散する。

 

巻き起こるのは膨大な力の爆発。

一瞬で、エンデヴァーの張り巡らせた炎の壁へ衝撃波は到達する。

 

 

「ッ・・・」

 

わずか1秒で炎は掻き消え――――しかし、すぐさま張り巡らされる。

歯を食いしばり、立ち続ける彼の体は衝撃波によりすでに殴打され、切り裂かれ、その姿は自身の炎に似た赤に染まっている。

 

だが、それでも

 

 

 

 

 

「ぉ・・・・ォオオオォォォォ!!」

 

 

 

彼は背を向けることは無く―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い影の頭上に現れた黒い霧。

その中から飛び降りた影は、自身の右腕をその頭上へと叩きつける。

 

影、死柄木の手が触れた位置から、白い布がボロボロと崩れ落ちその中身を晒していく。

 

 

「ぁぁ、良かった。まるでモブにでもなった気分だったんだ・・・神ぐらい殺さなきゃ帰るに帰れない」

 

 

その巨体からすればまるで小石が当たる程度の威力だろうその一撃に――――初めて大きく巨体が後方へのけ反る様に揺れる。

 

動きに合わせ持ち上げられた視線は、空へ向く。

眼光から放たれ続けていた光線は宙に解き放たれ、一定の距離を走った所でカーブを描き自身の頭上に立つ不敬な敵を打ち倒すために動きを変えた。

 

 

 

 

 

「十分だ・・・崩せるなら神だって殺せる。俺は、神を・・・いや、緑谷出久の力を殺せる。・・・跳ばせ、黒霧ッ!」

 

 

 

ズッ、と死柄木の体が霧に飲み込まれた瞬間、その体があった空間を白色の光線が凪いで行く。

 

苛立たし気に目を細めたその巨体がゆっくりとその姿を薄れさせていく。

その存在を権限させていた彼が足元で倒れ伏している為に、その巨体を維持する事ができなくなっていた。

 

 

 

 

 

彼(?)は天を仰ぐように見上げ、目を閉じる。

 

唐突に呼び出され、自身以上に良く分からない存在に足を叩かれ仕方なく、慈悲の心で指示通りに光線を放てば後頭部を崩壊させられる。

果たして何だったのだろうかと無い首を捻りながら、空気に溶けるようにその姿は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったか、死柄木。お前の忠告通りぶっ飛ばされた奴らを漁ったら・・・5、6か。発信器が出てきやがった」

「・・・だろうな。それが余裕の理由か、それともまだあるのかは分からないが今は分からないな。まぁいい・・・トガは起きてるか」

「まだ起きてねぇな。・・・で、その右手に持った注射器は何だ?トガに用があるなら血・・・にしちゃ、白すぎるな」

「神の血・・・は陳腐過ぎるか。・・・ぁー、良い名前かぁ難しいな」

「神?お前らしくもないな、ヒーローの次に嫌いそうじゃねぇか」

「だからこそ、違う名前が欲しい所だ・・・例えば」

 

 

 

 

「上位者の血とか、な」

 


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