俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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大変遅くなり、申し訳ありませんでした。

感想のお返しも滞り、情けない限りです。
まだ読んで下さる方がいらっしゃいましたら、これからもよろしくお願いします。


追記
誤字修正しました!
皆さま、いつもあ本当にありがとうございます!

令呪を間違えて礼呪なんて・・・なんて間違いを・・・。


呉越春秋

[神野編1]

 

目の前で、一人の男がゆっくりと倒れていく。

彼の顔半分を覆っていた骸骨の仮面はすでに砕け、同様に折り砕かれた異形の爪同様に地面に飛び散っていた。

 

 

倒れ行くその目に映るのは、今よりずっと小さなころの僕の姿。

目の前で起きる戦いをただ見つめる事しかできなかった、弱い僕だ。

 

青年が倒れ、赤い液体が荒んだ石の床を濡らしていく。

 

誰とも知れない、想いの形。

命があるものじゃないとあの人は言っていた。

強い欲が、この監獄塔ではただ人の姿をとっているだけだと。

 

でも、あの影は人みたいに言葉を話して、人みたいに血を流して倒れていった。

あのころの僕は、その光景を見る事なんて出来なくてすぐに目を背けたんだ。

 

 

そう、ずっと忘れていた。

これは、あの人が課した初めての〈悪夢〉の試練だ。

 

 

『目を背けるのか?確かにオレに命じたのはお前の筈だ。己をこの悪夢から抜け出すために協力して欲しいと!ああ、別に構わん。この試練を一画の令呪のみで突破したお前に何も言うつもりは無い』

 

 

ほとんど言っていると思う。

言いたいことは言えるだけ言って、それから少し突き放したようなことを言うのがあの人だ。

そして、僕がどう動くのかその姿を後ろから見ていてくれたことを今でも覚えている。

 

この頃の僕は、どうしたんだろう。

まだはっきりと思い出せなくて、小さな〈僕〉が顔を上げ・・・それでも未だ動けないその姿を見つめる。

 

 

その姿は、やはり立ち直れるようには見えなくて自分のことだけどこのまま試練なんて続けられないと言い出しそうな気さえしてしまう。

 

 

そして、ようやく〈僕〉が口を開く。

きっと、これ以上誰かを傷つけてまで進みたくはないと、そう話すために。

 

 

 

 

 

 

『・・・おじさんは、あのひとのことしってるの?』

 

 

思い出した。

あの時のあの人の顔を。

 

『・・・ああ。だが、知ってどうする?あれは敵だ。奴自身にとっても唾棄すべき過去の亡霊でしかない存在かも知れん。それを知ったところで・・・』

 

『だって、あのひと・・・ずっと泣いてたから』

 

『――――・・・』

 

『おしえてほしい、です。あのひとがなんで泣いてたのか』

 

その足りない言葉に、あの人は目を閉じて。

 

『・・・お前のソレは甘さでは無いのだろう。共感ともまた違う。奴が悪に属するものと知りながらも、その姿を見据えようとする。度し難い・・・お前がこの悪夢を切り抜ける確率は限りなく低い』

 

 

 

 

 

 

 

『知る必要はない。俺が奴の生を語った所で、それはすでに奴の物語ではない。・・・憶えておくがいい。お前はいずれ星の数ほどの生と対面しなければならない時が来るだろう。だが決して、理解しようとするな。ただ観測者としてあればいい。それがお前が生きる唯一の――――――』

 

あの時あの人は、どんな顔をして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ます。

白く染まった視界に目がくらんで、すぐにその白さが病院の天井だと緑谷は気付く。

一瞬、脳裏に残っていた湿った牢獄の記憶とのギャップに頭が混乱しかけるが、それより先により鮮明な記憶がよみがえる。

 

「ッ、かっちゃん!!」

 

澱んだ爆炎と、離れていく幼馴染の手とその表情。

言葉にはしていない。でも確かにあの時、彼女は救けを求めていた。

 

(それに、僕は応えてあげられなかったッ・・・)

 

力の問題じゃない。

あの時、あの手を一度確かに握って救けられた気がして――――油断した。絶対に油断などしてはいけない場面だったのに。

 

 

 

 

「―――――ク!・・・こっちを見てっ、イズク!」

 

 

 

 

 

焦ったような、泣きそうな女の子の声が聞こえる。

いつの間にか俯いていた顔を上げれば、こちらの顔を覗き込む様に顔を寄せる轟の姿。

普段の落ち着いた印象とは違う、その表情。いつから彼女は居たのだろうか。

 

「え・・・っと、轟さん?」

「おき、・・・起きたぁ。良かった・・・良かったよぅ、イズク」

 

 

瞬きを挟んで、再び目を開ければ視界の端には彼女の白い髪が見えて、胸元に感じるのは僅かな重み。

目の前で泣きかけていた少女が抱き着いているのだと気付くが、普段なら慌てるはずの状況もなぜか心は動かない。

ただ―――――

 

 

 

「とど・・・ろきさん?かっちゃんは・・・」

 

「っ・・・」

 

 

息を呑む音が聞こえた。

驚いたように・・・怯えた様に、胸元に感じていた重みが震えたのを感じる。

 

 

ゆっくりと重みが離れていく。見えるはずの彼女の表情は、俯いている為全く分からない。

 

「カツキは・・・まだ、見つからない」

 

 

 

その言葉に、心臓が早鐘を打ち始める。今さら焦ってどうする。

あの時、彼女を助けられなかったのは誰でもない僕だ。攫われた事なんて、分かっている筈じゃないか。

 

「でもっ・・・オールマイトが言ってくれた!きっと助けるってっ、きっと先生達と・・・プロの人たちがカツキを助けてくれる!」

 

そうだ。プロヒーローが居る。

オールマイトだって動いているならきっとかっちゃんは助かる。助けられなかった僕が―――――今、かっちゃんを助けるために動いて邪魔になったらどうするんだ。

 

 

「イズクはゆっくり体を休ませてっ。先生は体に何の問題も無いって言ってたけど、心配だから・・・」

 

 

 

落ち着け。動くな。

頭の中で、理由を探す。今すぐに助けに行きたいと。そう訴える体を必死に押しとどめる。

 

 

(あの時、皆に助けを求めるべきだった。スピードの出る僕が先に出たところで、足止め出来てなきゃ何の意味もないじゃないかッ。僕の判断が、かっちゃんを助けるチャンスをつぶしたのかも知れない――――)

 

 

そんな僕が行ってどうにかなるのか。

何が、変わるのか―――――。

 

 

 

 

 

「―――――イズ・・・」

「・・・・轟さん。少しだけ一人になりたいんだ・・・。ごめん・・・本当に、ごめん」

 

 

 

 

ためらうように一歩退いて。駆けるように離れていく足音。ドアが閉まる音が聞こえ、去っていくその姿が全く記憶にない事に気付きようやく、俯いていたのは僕自身だったことに気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(情けないッ・・・)

 

弱い自分が出そうになる。

真っ白な天井をただ見つめ、白いシーツを握りしめる。落ち込む暇なんてない無いはずなのに、今すぐ動かなきゃいけないのに。

 

静かになった部屋で、ただ止まっている。動きたいのに、何かが邪魔をする。

ヒーローになりたいなんて言っていたのに、助けられなかった。

 

 

(僕は―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(『よくってよ!やっぱり何事も挑戦が大事だと思うの。さすがに3日で作るのは無謀じゃないかしら・・・なんてちょっと思ったけれど、こうして完成したのだからこれこそマハトマの導きよね!』)

 

 

 

唐突に、頭に響いたのはなんだか少し前に聞いた覚えのある声。

思わずガバッと上半身を起こせば、清潔感のある掛布団がするりと落ちて。

 

(『王様は一番やっかいなところだけすぐに改造してどこかに消えちゃうし、どうして天才肌の人ってああなのかしら?途中でジェントルマンの助けが入らなかったら終わらなかったわ、きっと』)

(あの、工事っていったい・・・?)

(『あら・・・・?起きたのね!安心して、マハトマのおかげで・・・えっと、こんせい?接続のためのサブパイプが完成したわ。そもそも一つのパイプで二つの液体を流そうとするから混ざっちゃうのよ、5本もあったらきっと大丈夫よ!』)

(サブ?5本・・・ですか?あっ、もしかしてあの時、力を調整してくれた方ですよね。あの時はありがとうございましたっ)

 

たしか、この人ともう一人の男の人が手伝ってくれなければ僕の体は大変な事になっていたはずだ。

伝わりますようにと、沈みかけていた声に力を込めて明るく感謝を伝えて。

 

(『勝手にやった事だもの、よくってよ』)

 

ふふ、と笑う声が胸の内側から聞こえてくるのは少しくすぐったい。

だがそんなくすぐったさも、驚きも少し薄れてしまえば嫌な考えと焦りが顔をのぞかせる。

 

 

 

 

 

 

(『―――――・・・それで、どうしたのかしら?いつものあなたらしくない気がするわ。声に元気が無いもの』)

 

(えっ・・・・っと)

 

 

らしくない。

そんなに、声に表れていたのだろうか。不思議そうな、その声にどう返したら良いのか分からなくなって、つい黙り込んでしまう。

 

(『なんて・・・ちょっと意地悪な質問だったわ。ごめんなさい、本当は私も見ていたから状況は分かってるつもりよ』)

 

 

 

僕の見たものは全部向こうの人達に伝わってるのだろうか。

なら、今回のことを見てあの人はどう思ったのだろう。

 

あの人なら僕とは違う未来を選べたのだろうか。

 

 

(『だから、いいわ。何があって、誰に何を言われて、どうなったのかはいいの。あなたがいま何を感じて、何を言いたくて、どうしたかったのかを話してみて』)

 

少し高い、僕よりきっと小さな女の子の声なのに、その言葉は焦りに流されかけていた気持ちを落ち着かせてくれる気がして。

 

 

 

ぽつり、ぽつりと言葉がこぼれだしていく。

口を動かしているつもりは無いのに、押さえつけていたそれらが溢れてしまう。

 

 

 

救けられたと思った時の気持ちと、救けられなかった時の気持ち。

感じたことも無いほど気持ちが揺れた事。

 

今すぐにでも助けに行きたくて、なのに―――怖くて仕方ない事。

 

 

 

 

・・・怖い?

 

 

(・・・僕は)

 

何が怖いんだろう。僕の目指したヒーローは、オールマイトは・・・あの人は怖さになんて負けず立ち向かっていけるはずなのに。

 

 

 

(こんなこと・・・今まで考えたことも無かったんです。目の前で誰かが困ってたら、体が勝手に動いててそれでも皆さんの力があったから僕はただできる事をやって・・・)

 

 

何だ。何が違う。

 

 

(何かが怖いんです。ヒーローを目指しているのに・・・皆さんから力を貸してもらっているのに)

 

情けない。

 

(『・・・そうね。テレビの中の彼も、・・・もう一人の彼も怖がる姿なんて見せ無いものね』)

 

なるほど、と小さく呟いた声に思わず顔を上げる。

今の言葉だけでこの人は僕の悩みが分かったのだろうかと。

 

(『あら、私にだってわからないわよ?でも、すこし安心したの。・・・あなたもまだまだ成長途中なんだ、ってね』)

 

(え・・・っと、あの。どういう・・・?)

 

 

くすくす、と。笑う声が胸の中で響くたびに、頭の中は疑問だらけになっていく。

僕が成長途中なのは当たり前だし、それはこんなに嬉しそうに笑えるほどいいことなのかというとそれはちょっと違うような気がして。

 

 

 

すぅ、と息を吸うような音が聞こえる。

そして、聞こえるのはさっきよりも少し大人びた声音で――――。

 

 

(とにかく!まずは顔を洗って、寝グセをなおしてから部屋の外に出なさいっ。それであの子の顔を見るの。学生に大事なのは勉強とお友達と・・・こ、恋なんだから。大人と同じようになろうとするなんて60年早いわ!)

 

 

「っ――――ハイっ!!」

 

 

 

ビシッと思わず背中が伸びる。

 

転がる様にベッドから下りて、足に布団が絡まってしまう。

 

次の瞬間には顔の前に床が迫っていて、ガツンッと脳まで響く様な音と同時に視界が真っ白になる。

 

 

 

 

痛みに悶えながら床の上を転がって、鼻が折れてないか手で確認して。

 

「な、なんだか凄い音がした・・・・イズクっ!?だ、だいじょうぶ?」

 

耳に入ってくるのは轟さんの声と、ぱたぱたと軽い足音。

急いで駆けて来てくれるのが足音だけでも分かって、申し訳ないと思う反面なぜだか嬉しい気持ちもあって。

 

 

(あれ?でも、これ・・・・)

 

 

足音が増える。

どたどたと重い足音から、軽い足音。

数人どころじゃなくて――――

 

 

「轟さん、いきなり入っては緑谷さんも・・・・み、みどぇえぇぇ!?」

「どしたのヤオモモ、らしくもない声出し・・・・て?うわっ、大丈夫緑谷!?」

「おわっ、マジだ!大丈夫かー緑谷」

「おい緑谷、布団にくるまって何してたんだよ?ビビッて落ちたんだろ?なぁ?」

 

 

 

 

「み、みんな!?どうして・・・?」

 

大丈夫、と口にするより先に疑問が先に来る。

その間に、頭のしたに温かなものが滑り込んで、なんだか柔らかいものの上に頭がゆっくりと乗せられる。

 

「い、イズク・・・?」

 

少し熱を持った鼻に、今度はひんやりとした指先が触れて、気持ちのいいその感覚に痛みなんてあっという間に消えてしまう。

ようやく開けられるようになった目を開ければ。

 

 

目を大きく開きながら、こちらを心配するようにのぞき込む轟さんの顔が見えて。

同時に、泣き腫らして真っ赤になった目元と、頬を何かが伝ったような濡れた痕が目に入った。

 

さっきは見ようともしていなかった、その顔が。

 

 

 

 

 

 

「―――ごめん、轟さん」

 

急に謝られて、轟さんも驚いたんだろう。

鼻に触れていた手が止まって、少し充血した目は戸惑ってるのかまん丸くなっている。

 

 

「泣いてたことに気付けなくてごめん」

 

自分の事で頭がいっぱいになって、轟さんの事を見ていなかった。

目を逸らすのはダメだって、あの人に教わっていたのに。

 

(轟さんだって、気にしない筈が無いんだ。かっちゃんに手が届かなかったのは僕も、轟さんもいっしょなのに)

 

 

「泣かせて、ごめん」

 

一人で突き進んで、一人で負けた気になって。

また一人で進もうとして・・・助けられない事を怖がって。

 

怖くて当然じゃないか。失敗したことを、また同じやり方でやろうとしているんだから。

 

「ッ・・・・ワタシが先にやられたせいで・・・カツキが拐われたっ。イズクも・・・目をさまさなくて・・・!」

 

僕の何倍も、怖かった筈だ。

かっちゃんがどんな目にあっているかもわからない。

僕の目も、ずっと覚めないかも知れない、それが自分のせいだって思ってしまえばそんなの怖くなって当然だ。

 

強く唇を噛んで、泣かない様に耐える轟さんの膝の上からゆっくりと体を起こす。

今更だけど、膝枕をしてもらっていたことに少し恥ずかしさを感じるけどなるべく顔を赤くしない様意識して――。

 

 

 

病院の白い床の上にしっかりと正座にすわり直して、正面から轟さんの顔を見つめる。

 

 

「・・・轟さん」

 

「は・・・はいッなに・・・じゃなくて、なんでしょうか?」

 

同じように正座のままの轟さんの顔が、いつもの白い肌から赤へと変わっていく。

泣きそうだった表情も、どこか緊張しているような顔になって。

 

 

 

「――――かっちゃんを、救けに行こう」

 

もちろん、先生達やヒーローが動いてる。

できる事なんて殆どないかもしれないけど。

 

「できる事だけでもやりたいんだ。聞き込みでもいい、何でもいいんだ。ここで待ってなんかいられない!」

 

 

(居場所が分からないなら、探すことだけでも手伝いたい。直接戦えなくても、動きたい。ダメになるかもしれないから動かないなんて、嫌だ)

 

少しずつ、胸の内から何かが沸き上がってくるのを感じる。

あれだけ動けないと、こもっていたベッドから飛び出して、落ちて・・・友達の顔を見ただけでこれだ。

色々考えてた理由なんて関係なしに、言葉はすんなりと出てしまった。

 

 

と、いつまでたっても轟さんの返事がない事に気付く。

少しずつ、緊張していた表情は変わって、少し惚けたようなものに変わっているんだけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ああ。もちろ・・・・ぅぁぁあああっぁあああああ!!」

 

「ちょっ、轟さん!?なんでまた泣いて・・・・!?」

 

 

大号泣だった。

大きく口を開けて泣き始めてしまった・・・僕が泣かせてしまった女の子の姿に思わずオロオロと右往左往してしまう。

それでも、なんとか泣き止んでほしいと手を伸ばして。

 

 

 

「ストップ!!緑谷君は近付いちゃダメだよ、轟ちゃんもっと泣いちゃうから!」

 

目の前にふらりと雄英の女子制服がふわりと浮かぶ。

それだけで轟さんの姿が見えなくなって――――

 

 

「焦子ちゃん!わかる、わかるよ!嬉し泣きだよね・・・」

「私達が来る前によほどひどい顔の緑谷さんとお会いしたのでしょう。最近になって表情が変わる様になりましたから、今回の落ち込んだ顔は見ているのが辛かったのでしょう・・・」

「緑谷ちゃん、仕方ないけどダメね。男の子として」

 

 

(凄く責められているのが伝わってくるッ、けど・・・言われて当然!)

 

男子として、すごく心には刺さるけど。

 

 

 

 

 

「少し良いか、緑谷」

「あ・・・うん、どうしたの障子君?」

 

まるでさっきまでの僕みたいに、重苦しい雰囲気の障子君に声をかけられる。

 

「すまなかった」

「ぇ!そんなっ、頭を上げてよ!」

 

勢いよく、そして深く頭を下げた障子君の姿に思わず正座から立ち上がってしまう。

何とか頭を上げてもらいたくて、その肩を押し上げて。

 

「俺と青山があと一歩早く駆け付けられれば、爆豪は攫われることは無かった・・・本当にすまないッ」

 

「それは―――――ッ」

 

 

まるで、じゃない。さっきまでの僕と同じだった。

それは違う、なんて言って納得なんて出来るはずもない。

 

だから、言葉を飲み込む。

励ましや、慰めや共感なんかじゃなくて。

 

「――――取り返そう!今度こそ、僕たちで!」

 

一人で先走ろうとした僕が言える事じゃないけれど。

ヒーローは、一人で戦うだけじゃないんだ。

 

「・・・ああ。そうだな、俺も・・・・ッ!?」

「良いじゃねぇか!オレも混ぜてくれよッ・・・見えないところでダチやられてよォ、正直腹が立ってたんだ」

 

グイッと、けっこう高い場所にある障子君の肩に無理やり腕を回しながら切島君が顔を見せる。

 

「聞き込みぐらいならオレもやるぜ!あとはケータイ使って掲示板とか回ってみるのもイイんじゃね!」

「ここは病院だ!携帯電話の電源は切るべきだと正面玄関で言っただろう!それと、携帯電話の扱いなら女子の方が長けている以上、そちらに任せるのが得策だ!僕達は足で稼ぐぞ!」

 

 

 

 

ブンブンと手に持ったスマートフォンを回す上鳴君に、詰め寄る飯田君。

 

皆、動きたかったんだと思う。まるで、怖かったのも悔しかったのも僕だけだったみたいに考えていたけどそうじゃ無いんだ。

 

あの女の子が伝えたかったのはきっとこのことだ。

 

成長途中の僕達には悩む事なんか星の数ほどあって、それでも孤独じゃない僕たちは弱音を言い合って悩んでも良いんだって、きっとそう伝え――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉおぉおぉ!しまったっ、エロエロ温泉事件簿の時間じゃねぇか!!?」

 

 

 

 

 

誰かによって病室のテレビがつけられる。

思わず耳を塞ぎたくなるような大きな声にくらりと一瞬頭が揺れて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この度、我々の不備からヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまったこと。ヒーロー育成

の場でありながら敵意への防衛を怠り社会に不安を与えた事謹んでお詫び申し上げます。まこ

とに申し訳ありません』

 

 

 

テレビから聞こえてきたのはイレイザーヘッドの声。

病室の小さなそのテレビの中で、イレイザーヘッド達が頭を下げている。

 

 

 

誰からともなく、部屋に居た皆が何も言わずいつの間にか視線をそちらへ向けていた。

 

 

『イレイザーヘッドさん、事件の最中生徒に戦うよう指示したそうですね。意図をお聞かせく

ださい』

 

『私共が状況を把握出来なかったため、最悪の事態を避けるべくそう判断しました』

 

『26名もの被害者と1名の拉致は最悪と言えませんか?その中でも、特に重症らしい少年は今も意識が戻らないそうじゃないですか』

 

イレイザーヘッドが責められる事なんてない。

あの場に行って、そう言えればどれだけ良いだろう。

思わず、拳を強く握りしめて・・・。

 

不意に、イレイザーヘッドを責め立てていた記者が懐へと何かを探すように手を入れる。

どうやらケータイが鳴っていたようで、記者は周りから注意を受けながらもなぜか電話に出て話しているようだ。

 

 

 

『ぁぁ・・・はい、なるほど。良かったですね、部下からの情報ですが、意識不明の彼も目を覚ましたそうですよ』

 

 

 

 

 

(あ・・・・れ?なんだろう、この嫌な予感・・・)

 

 

 

『ッ、そう言った情報は今すべきでは無いはずだ。控えてもらいたい』

 

『ああ、失礼しました。雄英としては被害状況はなるべく隠しておきたいようでしたから、皆さんにお知らせしておこうかと』

 

 

「先生を怒らせるための策だろう。下策も良い所だ、あれではただの内通者に過ぎん・・・敵に情報を渡しただけだ」

 

常闇君の言う通りだ。

敵に・・・。

 

 

(そもそも・・・かっちゃんをさらった理由はなんだ・・・人質にするためなら、僕だったらかっちゃんを選ばない。なら、かっちゃん個人に何かがある。もし、もしも・・・かっちゃんを仲間に引き入れる為なら)

 

 

雄英の動きをかっちゃん本人に見せるだろう。

それこそ、救助にも向かわず雄英は記者会見なんて開いてるんだ、って・・・。

むちゃくちゃかもしれない。

でも、あの死柄木 弔ならそんな子供じみた考えもあるかもしれない。

というより――――

 

 

 

「・・・・かなり、まずいかも知れない」

「ん?いや、確かに情報は漏れたかもしれないがそこまで致命的なものではないだろう。先生方もそこらへんは分かった上で放送を続けている筈だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっちゃんがッ、動き・・・出すかも・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1名・・・ねぇ。まぁいいか。・・・・しかし、なぜ奴らが責められてる!?奴らは少ーし

対応がズレてただけだ!」

 

 

大げさに手を広げ、まるで演説でもしているかのように声を上げているのは、人の手のようなオブジェで顔面を覆い隠した青年、死柄木 弔。

 

「現代ヒーローってのは堅ッ苦しいなァ爆豪ちゃんよ!」

 

対して、その彼と向かい合う少女は寡黙であった。

両腕は背中へ回され、その上で手錠で拘束されている。

 

だが、普段の荒れ狂った様子の彼女は、まるで何かを待つかのようにただ静かに、目すら閉じている。

 

 

「――――静かすぎるのもつまらないなぁ。・・・もしかして、誰かを待ってるのか?」

 

にやり、と笑う死柄木は自らのポケットをあさり始める。

少しして、取り出したのは小さなガラス玉のようなナニか。

 

 

「コンプレスが持って帰って来た。スピナーの話じゃ爆発するらしいからコンプレスにとりあえず圧縮してもらってるけどさぁ・・・このダッサい剣の彼、無事じゃないだろう。体が真っ二つになりかけてたみたいだし、意識不明じゃなくて本当は死んでるんじゃないか?」

 

 

言っている本人ですら、そんなことは思ってもいないだろう。

これはただ、余裕を見せるアピールに過ぎない。

自らの手の平の上で、物事はいま動いているのだと。

 

 

 

 

 

 

『ぁぁ・・・はい、なるほど。良かったですね、部下からの情報ですが、意識不明の彼も目を覚ましたそうですよ』

 

 

 

 

カタカタ。

 

 

 

「は?・・・目ぇ覚まして無いって言ったばっかりなのに、なんだよそりゃあ・・・あー興ざめってやつ?」

 

 

 

カタカタ。

 

悪態をつく死柄木は自らが誇らしげに見せつけていた物が、変化していることに気付いていない。

小さな玉の中、白い中華剣が震えている。

当然、圧縮された空間の中からでは音など外へは響かない。

 

 

 

だからこそ――――

 

 

「・・・遅ぇんだよ、クソデク」

 

 

ゆっくりと目を開いた爆豪の目にだけ、はっきりと見えていた。

テレビになど欠片も目を向けず、ただじっとその白い刀身を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、また爆豪ちゃんにも圧縮されてもらおうか。ラグドールのサーチで見つかったらチート野郎がとんで来る。・・・・コンプレス、やってくれ」

「・・・殆ど説明も出来てない気もするけど、仕方ないか」

 

 

カタカタ。

呆れた様に口にしながら迫るコンプレス。

その手に触れただけで再び圧縮され、閉じ込められるというのに動こうとしない爆豪に死柄木だけではない。

荼毘すら、眉を寄せる。

 

 

 

 

手が、迫る。

それに対し、爆豪が思う事はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――まずは1ポイントッ!!死ねッ、〇〇無し野郎ッ!」

 

 

 

BOOOOOOOM!!

膨れ上がる閃光に、放たれる熱量。

飛び散る鮮血すら蒸発する中で、自らの皮膚すら爆発で千切り飛ばしながら手錠を外した少女。

 

 

その拳が、コンプレスの顎を真下から撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

「・・・正気か、こいつ」

「やるじゃねぇか、見直したぜ!ふざけたマネすんじゃねぇよ!」

 

 

最初に反応したのは荼毘とトゥワイスだった。

素早く距離を詰めようとした彼らに対し、爆豪はだらりと脱力したコンプレスを左腕で掴み寄せ顔面を右手で覆う。

その破壊力は先ほどの一瞬で理解させられている。

故に、敵連合は動きを止めることを余儀なくされる。

 

 

 

「・・・この人数差でそうくるとは思わなかった。お前はもう少し頭が良いと思ってたよ」

 

「ああ!?十分お利口だっただろうがよッ!アイツが目ぇ覚ますまでテメェらぶっ殺すの待っててやったんだからよォ!」

 

彼女の行動理由は敵どころか他の誰にも、一人を除いて理解できないだろう。

 

ただ一人に勝てばいい。

勝って、横に立ちたい。

ただそれだけが彼女の望みなのだから。

 

この状況ですら、敵は敵ではない。

 

 

 

 

BOOOOOM!!

 

コンプレスの顔面が、右手から放たれた爆発により大きく揺れる。

死なないように手加減はしているが、意識を奪う点では容赦のない一撃。

 

 

 

砕け散った仮面がバラバラと地面に落ちる―――――よりも先に、まるで興味は無いとばかりにその体は横へと投げ捨てられる。

 

 

 

 

 

「さっさとかかって来いよ。あと何分かしたら来るぞ、テメェがビビってるあのクソが」

 

 

人質すらいらない。

そんな挑発ですら表情を動かさなかった死柄木が、青白い手の隙間から覗かせた瞳をスッと細める。

 

 

「来るわけ無いさ!この場所がどうやって分かるんだよ、聞き込みか?」

 

分かるわけが無い。

ここを当てるとすれば、ラグドールのサーチで爆豪が探し当てられた時だけだ。

そして・・・。

 

「ビビる?面白いこと言うじゃないか・・・根拠はあるのか?」

 

「無ェよ、ただまぁ・・・さっきアイツの事を話してた時のお前、死んでてくれた方が助かるみてぇな顔してたぜ?」

 

 

BOOM!!

一瞬の加速。爆豪の両手が光を放った瞬間には、すでに死柄木の眼前にその姿はあった。

 

未だに血を流す右腕が死柄木の顔面をかすめて、一瞬遅れた爆発がその体を揺らす。

 

 

 

小さく舌を鳴らす爆豪は、しかし僅かに頬に熱を感じた瞬間大きく背後へ飛び退く。

寸前までいた場所へ襲い掛かるのは赤黒く燃える炎の塊。

 

紙一重でそれを躱した瞬間、今度は彼女の脇腹をかすめる様に銀のナイフが突き抜けていく。

 

 

 

「ふふふ、勝紀ちゃんもイズク君の事が気になってるんですね!恋、恋だよね!」

「うっせぇ、空気読めよクソサイコがッ!!」

 

右手から大きく爆破を放ち、大きく側転しつつ距離をとる。

敵は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――ダメージは殆どない。コンプレスはやられたが、黒霧が回収の準備を進めている。・・・つまり、ラグドールが個性を使う前に俺達6人でコイツをぶっ潰せばいい)

 

爆発で揺らされた体に力を入れなおし、死柄木は頭を振る。

まだ想定内だと。

 

(いや、焦るな。ラグドールの個性を使われたところで、コイツを圧縮して逃げりゃいい。ただそれだけだろ・・・なら)

 

 

自らの予想が、僅かにも外れるとは思っていない。

現に、今でさえ目の前の少女によって状況は刻一刻と変えられている筈なのに。

 

 

 

「黒霧、撤退の準備も進めろ!トゥワイスッ、トガ・・・お前達なら接近戦でやれるだろ。他は黙ってろ」

 

荼毘の個性はこの狭い部屋では使えない。

マグネの個性でトゥワイスとくっつけた方が早いが、戦闘能力を奪っていない状態でそれは悪手だろう。

 

なら、対処できる戦力で確実に潰すべきだ。

 

 

「お前も動けよ!良い判断だぜ死柄木!」

「勝紀ちゃん!ちうちうタイムだよ!すこーし、シュッとしてスパっとするけどだいじょうぶ!」

 

 

個性が戦闘の柱として存在しない分、2人の動きは読まれにくい。

 

「チッ・・・カサカサ動くんじゃねぇよッ!クソウゼェ!!」

「その表現はいや。オンナノコはもっとカワイイのがいいです!」

 

 

 

確実に、少女の体には打撲傷と切り傷が増えていく。

対して、2人に傷は殆どない。

 

 

 

再び、トガのナイフが爆豪の足を掠めていく。

その痛みに僅かに体の動きが止まった瞬間、トゥワイスの蹴りがその腹部を蹴り飛ばす。

 

地面を跳ねながら転がっていくその姿に、決着がついたかと死柄木が口元に笑みを浮かべ。

 

 

地面に手を突き、腹部を押さえながら姿勢を立て直す姿に大きく舌打ちをする。

 

 

だが、確実にダメージは通っている。

呼吸は荒く、息を吸っているのがやっとの状態だ。

 

「やれ。時間が惜しいんだ」

 

 

 

 

トガとトゥワイスが迫る。

その先で、爆豪は両手を大きく開き迎え撃つ。

その口元には先ほど死柄木が浮かべたような笑みが浮かぶ。

 

自分が信じていた事が現実になった、そんな笑みが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!と金属がひしゃげるようなその音に一番最初に反応したのは荼毘だった。

次いで、死柄木と続き――――すでに駆け出していたトゥワイスたちは完全に反応が遅れていた。

 

 

砲弾のような速度で、先ほどまで部屋の入り口を塞いでいたドアが宙を飛ぶ。

小柄なトガの体を庇ったトゥワイスの体へ、冗談のような速さのドアがめり込めば――――次の瞬間には二人の体は壁に叩き付けられていた。

 

 

 

 

爆豪以外の視線が、一瞬二人の元に向き――――次に見つめるのは当然先ほどまで扉がはまっていたはずの入り口。

 

 

 

だが、遅い。

二人に視線を向けるべきでは無かったと、死柄木は憎々し気に視線を爆豪へと向ける。

 

 

 

 

あの一瞬で、すでにその姿は室内にあった。

 

 

「っ・・・嘘でしょ・・・何なのよあのコ」

 

「・・・あの時は、もっと遅かった筈だが」

 

 

 

 

 

 

およそヒーローらしからぬ黒い外套が揺れる。

体からまるでその気持ちを表すように紫電が生まれては消えていく。

 

 

その後ろ姿を見つめる少女から見えているのは、外套と後ろへ流れるように逆立つ緑の髪だけだろう。

だが、それだけで十分だった。

 

その後ろ姿に、言わなきゃならない事がある。

 

「・・・・テメェが来る前に全員ぶっ潰そうとしてたんだ。今更後ろに隠れてろとか言いやがったら――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――うん。一緒に、戦おうかっちゃん」

 

 

彼の手に握られた、黒い中華剣が揺れる。

 

 

「今度こそ、一緒に」

 

 

 




ざ・ほごしゃるーむ



????「何故止めようとする?あの固い頭を柔らかくするにはこんな手段もあると言ったのはお前だろうに」
????「あくまで例を挙げただけだ。・・・いや、私の頭がどうかしていた。素直に自分の失態を認めよう、だからその案は即刻廃止すべきだッ」
????「しかし、何らかの手段は取る必要がある。他に案が無いのであれば、このまま進める事が最善の案となるだろうよ」
????「くっ、お前はあの人を知らないからそんな口がきけるのだろうさ。アレは――――」









????「もしもーし!こっちはとっくにスタンバイ出来てるニャ!ここに来た若いオスをこのジャガーマジカルステッキでしばくだけの簡単なお仕事!生肉を叩いて報酬を得る・・・・うふふ、まさにボーイミートガール!」

????「あ、あの!叩くのは違うと思います!あの、皆さんがお願いしたかったのは・・・きっとあのお兄さんを励まして、できればちょっと強くなって欲しいっていう・・・・どうじょー・・・そう!道場みたいなもの!・・・だと思うの」

????「白とピンクの卑猥なコントラストの少女よ・・・・バッチリ理解したニャ!つまりこれはジャガー道場!ネコ科の血が疼いてたまらないデス!!」
????「ひ・・・ひわ・・・ひわ!!!?えぇぇ!?」











????「・・・・なんでさ」
????「・・・・なぜ吐血している」

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