俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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長くなりましたので二分割となりました‼

追記
再び誤字ばかりで申し訳ないです・・・。
修正しました!いつも誤字報告ありがとうございます!


運命の歯車

[ヴィラン襲撃1]

 

『相澤先生。すみません、どうしても気になることがあって』

補習へ連行される中で、洸汰の事が気になり、そう声をかけて良かったと、緑谷は、今この状況になって心の底から思う。

『良いぞ。・・・そのぶん補習は2倍だ、覚悟しておけ』

意外なほどすんなり(?)頷いてくれた先生には感謝しかない。

 

 

 

 

(あの個性、赤い・・・筋肉?ニュースで見た時は単純な肉体強化って話だったけど・・・)

相対するヴィランの顔に、緑谷は憶えがあった。

ウォーターホースが殉職したあの事件の犯人、その証拠に顔に大きな傷跡が残っている。

ならば背後に庇う少年は、両親を殺した男に命を狙われ今はどんな気持ちでいるのか。

 

小さな子供にはあまりに理不尽な運命。

だが、だからこそ今自分は彼を安心させる必要がある。

笑って、大丈夫だと口にして。

 

 

「はぁ?オールマイトのモノマネかよ、全然似てねぇな!正義面して出てくるとこはそっくりだけどよ」

 

マントから出た男の右腕から、ズルリと先ほどの赤い筋が姿を現す。

その光景に、怯えた様に震える洸汰の視線を遮るように立ち塞がりながら、左の手の平を体の前に置き腰を低くする。

 

(さっきの攻撃、受け止める事はできないけど受け流すことなら出来た。隙を見て、筋の無い場所にヤンキーパンチを打ち込めればッ)

 

勝機はある。

 

「で、緑谷って奴だろおまえ?お前だけは何があっても殺しとけってお達しだ。悪く思うなよ」

 

完全に男の右腕を筋が覆い尽くす。

まるで鎧のようなそれを振りかぶりながら、マスキュラーは口元を半月の様に吊り上げ笑う。

左腕で自らの纏ったマントを剥ぎ取りながら、その義眼が鈍く光を放ち、

 

 

「―――――じっくりいたぶってやっからッ血を見せろ‼」

 

 

 

 

跳ねるように飛び上がったその巨体が、こちらへと距離を詰める。

だが、その速度はまだいくらか速い程度。

 

着地と同時に赤色の巨腕が、風を切り裂きながら迫る。

 

(でもッ、まだ目で追える‼)

 

顔に向かい、迫る巨大な腕に添えるように左手を当てそのまま右方向へと押し流す。

 

「・・・ッ、さっきの奴か―――――‼」

 

顔のすぐ右脇を通り過ぎる拳と、楽し気なヴィランの声。

それを無視し、左足へ重心を移しながら右足を渾身の力で振り上げる。

 

「――――カ、ハッ・・・!?」

 

無防備なマスキュラーの胴体へ、杭のように膝が撃ち込まれ―――――予想外の一撃にその口から空気が一気に吐き出される。

そのまま右足を伸ばし振り抜けば、その大柄な体は地面に激突しながら先ほど立っていた位置よりも後方へと転がっていく。

 

 

「っ、出来た・・・‼」

 

(やれる!目で追える以上、行動の予測もつく)

何より、背後の少年から遠ざけられた。

視線を向ければ、その表情もヴィランの姿が離れたことで先ほどまでの絶望は見当たらない。

(このまま抱えて逃げれたらっ。でも・・・)

 

両足へ、力を込め一気に倒れたマスキュラーへと駆ける。

ほぼ同時に跳ねるように立ち上がったその姿は、腹部を押さえている様子は見られるが追って来れない程のダメージを受けた様子は無い。

 

「んだよさっきのは‼ ケンポーって奴か緑谷ぁッ面白れぇ‼」

 

(見えてるところだけじゃない。たぶん、さっきの一撃もとっさに筋を張り巡らせたんだ)

再び飛び掛かるその姿に、両肩の力を抜くように大きく息を吐く。

手で受け流すのはこの力を前にすれば悪手だ。

背後に守るべき相手が居ない今――――

 

 

剛腕が振るわれる。

既に両腕は筋により赤く染まり、その速度は空気を押しのけ風圧により緑谷の体が揺さぶられる。

 

「ッ、当たらねぇ‼ 当たれよッ、早く俺に血ィみせろ‼」

 

揺れるように避ける上体に対し、足は異様な速さで動き続ける。

紙一重で躱し続けるその姿に苛立った男は、左足で地面を蹴り――――筋によって強化された右足を不意打ち気味に蹴り出す。

 

ニヤリと笑みを浮かべた表情は、緑谷の手があっさりとその足を横へ押し流してしまえば舌打ちをしそうなほどにしかめられる。

 

対して、拳を握りしめたまま緑谷は腰を僅かに落とす。

振りかぶった拳に対し上体を逸らし、歯は砕けるほどに食いしばる。

ドッ‼と左足を地に打ちつけ、振るわれた拳はがら空きのその胴体へ吸い込まれるように到達し、

 

 

鈍い音。確実に通ったはずの拳は硬い何かで押しとどめられる。

 

「無駄だッ、さっきより筋肉増量しといたからよ‼残念だったな緑谷ァ‼」

 

無防備な緑谷の体へと巨大なその右腕が再度、叩き潰すように振るわれ―――――

 

 

「・・・にッ・・・貫くように‼」

 

腹部に突き刺さった拳の勢いは未だ衰えていなかった、

まるでドリルのように捻られたその拳が、マスキュラーの筋繊維をこじ開けるようにめり込んでいく。

 

「――――――――!!?」

 

「ああああぁぁぁぁ‼鉄拳ッ・・・聖裁‼」

 

貫くように振り抜かれた拳から、今度こそ確かな手ごたえが伝わってくる。

地に何度も打ち付けられながら、今度こそ受け身も取れず飛んでいくマスキュラーの体は崖の淵でようやく動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・・すごい・・・」

息を整えるように胸を押さえながら、こちらへ歩いてくるその姿に洸汰の口から思わず声が漏れる。

 

あのヴィランが現れた時、その姿は決して倒れることのない化け物のように思えた。

彼が助けに来てくれた瞬間も、僅かな安堵と共に決して助かる事はないという絶望感が胸の内には未だ大きく渦巻き続けていたのだ。

だが今、倒れているのはヴィランで立っているのは緑髪でそばかすのヒーロー。

 

絶望を晴らすには十分な光景に、ようやく口元に安堵の笑顔が浮かびかけ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面が、軋む様な音を立てた。

次いで何かが砕けるような音と、爆弾が弾けたかのような耳を塞ぎたくなるほどの爆音が届いて。

 

 

近づいて来ていた筈の緑谷の姿が掻き消えていた。

残るのは、離れているはずの洸汰の体まで吹き飛ばされそうな衝撃波と赤い巨体。

 

「イイねぇ、悪くないパンチだッ‼普通なら内臓持ってかれてたぜ。・・・ほら、早く立てヒーロー気取り!遊びは始まったばかりだッ‼」

 

上半身全てを真っ赤な筋で覆い尽くし、口元から垂れた胃液を拭いながら獣のように叫ぶ男の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しく感じる事の無かった痛みを訴え続ける、筋で隠された腹部へと手を当てながら、マスキュラーは高まり続ける高揚感を抑え切れない。

 

「肉体強化の個性にしちゃ微妙な出力だ。そいつを補うためにさっきのワザを練習したんだろ?使えねぇ個性持ちのわりに良い発想じゃねぇか」

 

だがそれも無意味だったけどな。と、全力で殴り飛ばした先に嘲るように声を投げかけながら、何かを探すようにポケットに左手を入れる。

 

ボロボロとそこから落ちるのは様々な、悪趣味なペイントを施された義眼。

 

「遊びのつもりだったけどヤメだ‼だってお前強いもん!」

 

ようやく目当ての物を見つけたのか、右手は今入っている義眼を取り出し―――――強く握りつぶす。

代わりにその空洞に埋め込まれたのは深紅の瞳が描かれた義眼。

 

「――――こっからは本気の義眼()だ」

 

満足げに頷きながら、視線を向けるのは岩壁に出来た何かが激突したかのような大きな窪み。

その下に倒れ込む緑谷の体は痛みに耐えるように丸められている。

 

「さっさと立てよ。そうしてくれねえと、他のオモチャに血を出してもらわなきゃいけなくなるだろ?」

 

一歩、マスキュラーが洸汰へと足を踏み出す。

怯えた様に、後退る小さな体に嗜虐心を感じながら――――グルリと首を真横へ向ける。

 

「だよなぁ‼そうくるよなぁッ、緑谷ァ‼」

 

額から血を流し、衝撃に未だ目を揺らしながら迫る緑谷の姿を残った右目が捉えた。

 

既に先ほどの2倍に膨れ上がった右腕を、容赦なく叩き潰すためにその体へ振るう。

対する緑谷は、おぼつかない足で躱さず腕でいなすことを選ぶ。

 

 

赤い巨腕に、先ほどまでの光景の焼き直しのように左手が添えられて―――――

 

 

 

 

目を見開いた緑谷が、残っていた右腕を左手の補助のように押し当てる。

(さっきまでと違うッ・・・ま、ず―――――!!?)

 

押し流せない腕が、脇腹の一部をかすめながら通り過ぎていく。

ただそれだけで彼の体は数メートル先へと吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。

 

 

転がったその隙をヴィランが逃すことは無い。

両手を組み、筋を絡め作りあげられるのは巨大な赤色の鈍器。

 

「俺の個性分かるかッ‼? 《筋肉増強》、皮下に収まんねぇ程の筋繊維で底上げされる力ッ、速さッ‼ 何が言いてぇかって!? 自慢だよ‼」

 

 

強靭なその足で高く宙へ跳び上がりながら、体を反らし巨大な鈍器を大きく振り上げる。

 

「――――――つまりお前は俺のッ完全な劣等型だ‼ちまちまケンポーなんて覚えたテメェの今までの努力はッ、ただの無駄だったんだよッ‼」

 

 

大地を穿つように、赤色の鈍器が撃ち込まれた。

砕け散る地面、辺りへ走る亀裂。

頑丈な筈の地面は砕け、噛み合わないまま隆起し―――――圧倒的なその衝撃に、大地の一部が崩落した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝突の寸前、地面を四肢で跳ね除けるように弾いて跳んだ体を容赦なく、砕け散った地面と衝撃が打ちすえる。

 

 

あと一瞬、目蓋をほんの一瞬でも遅く開いていたら体は潰されていた。

その事実に、ゾワリと背筋が凍りつくのを感じた。

 

 

眼前のヴィランはプロヒーローを殺した、紛れもない殺人者であり悪なのだと脳が理解する。

ヒーローを目指す学生とはいっても学生である。

今までにないほど近づいた死への恐怖に怯まない訳がない。

 

 

 

それでも、絶え間なく血が流れだす頭部を押さえ、俯く顔を上げる。

眼前のヴィラン。

その後方で、涙を流しながらこちらを見つめる姿を今は見つめる。

守りたいもの。

オールマイトならこんな奴は簡単に倒して、きっと彼も笑顔に出来たはず。

 

―――――ここに居たのが僕じゃなくてオールマイトなら、洸汰君が殺されることも無いのかもしれない。

 

自分の弱さで、助けるべき誰かが死ぬ。

その恐怖の方が、迫る自らの死より何倍も恐ろしい。

 

 

 

『あの平和の象徴ならばこう動くだろうという考え。誰かを救えると信じ続ける無謀な理想を動かしていることを否定は出来んだろう』

 

 

 

ただ、その何十倍も。

 

「ぁ・・・・あああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼‼」

 

この場で、もし助けられなかったらなんて・・・・無謀な理想だから動けないなんて、そんな自分になることの方が嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞む意識と、燃えるような体の中。

どこかなど分からない胸の奥で――――――軋んだ歯車が動き出すような音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでッ・・・なんで‼死んじゃうっ・・・これ以上たたかったら、おまえっ・・・‼」

 

血液をまき散らしながら戦う姿に、涙が落ちる。

少し、話しただけの子供である自分のためにどうして緑谷がそこまでするのか、彼には分からなかった。

 

化け物の腕が振るわれるだけで、受け流すことすら困難な緑谷の体は簡単に吹き飛ぶ。

それすら紙一重で、一歩間違えばその体は簡単に肉塊に変わってしまう。

 

それでも、吹き飛ばされたそばから姿勢を立て直し食らいつくように化け物へと向かっていく。

 

それでも、彼があんなに必死に何度も向かう理由は分かっていた。

自分へあの化け物が襲い掛からない様に、注意を全て引き寄せて絶え間なく戦っているのだと。

 

(オレが、居るからっ・・・)

 

 

既にマスキュラーの拳は、緑谷の受け流しなど容易く破れるほどに強化されている。

同様に強化されているその足を使えば、腕一本で手いっぱいの緑谷など簡単に打ち倒す事は出来るはずだ。

 

(遊んでるんだっ・・・)

 

何度も倒れる彼の姿が、両親の姿に見えてしまう。

 

(パパとっ・・・ママもっ‼)

ああやっていたぶる様に殺された、そう思ってしまう。

 

溢れ止まらない涙に、強く唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラッ、次はどうすんだ‼」

圧倒的な質量で振るわれた腕を何とか両腕で受け流し――――弾き飛ばされる。

それでも、足を地面になんとか押し当て姿勢を立て直して顔を上げ続ける。

 

(洸汰君に注意が向かないようにッ‼)

 

今はただ、引きつけるしかない。

足を踏み出し、狙うのは唯一筋に覆われていない頭部。

 

以前の物間との対決で脳を揺らしたように、弱い体の内側を攻めればいかに筋肉があろうと関係ない。

無謀な突撃で思考が落ちていると、そう敵は考えている。

 

今がチャンスだと今までの直線的な動きから、フェイントをかけるためにクロスするように右足を出して

 

 

―――――膝が、カクンと力なく曲がった。

 

限界を迎え始めていた体に起きた一瞬の不具合。

 

(な・・・・んで!? 動けッ、立てよッ‼)

 

 

「終わりかッ!!? なら血撒き散らして、死ねェ‼」

 

 

拳が迫る。

肥大化した巨腕が、その頭部を粉砕しようと振るわれ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスキュラーの体を叩くように、大量の水が背中に浴びせられる。

「ウォーターホース・・・パパ・・ママもそんな風にいたぶって殺したのか・・・‼」

 

動きを止めたマスキュラーが振り向き、赤い義眼が少年の顔を見つめる。

意外な物を見つけたとばかりに表情を変えながら、緑谷に振り下ろしかけていた腕を引き足の向きを少年へと向けた。

 

「ああ・・・?マジかよ、運命的じゃねぇの。ウォーターホース、この俺の左目を義眼にしたあの2人だ」

 

歩み寄ってくるその化け物の姿に、洸汰の体は恐怖に震えるが今はただ激情にまかせて口は動く。

視線の先には力が入らないのか、崩れ落ちるように倒れた緑谷の姿。

 

「おまえのせいで・・・おまえみたいな奴のせいで‼いつもいつもこうなるんだ‼」

 

「・・・ガキはそうやってすぐ責任転嫁する。俺だって別にこの眼のこと恨んでねぇぞ?俺は殺りたいことやって、あの2人はそれを止めたがった。お互いやりてぇことやった結果さ」

 

蠢くように、両腕の筋肉が膨れ上がり始める。

既に、目の前にまで迫ったその異様な姿と自分を見下ろす赤い瞳に洸汰の体が一歩後ろへさがる。

本当に理解できないものの存在に、全身が震える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いのは出来もしねぇことやりたがってた――――――テメェのパパとママさ!!!!!!」

 

赤い瞳が、洸汰の全身を縫いとめる。

小さなその体を前に、無慈悲に巨木のように太く肥大化した腕が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくら力を入れても、手足は応えてくれない。

僅かに動く指を使い血を這うように動くが、マスキュラーの背中は遠い。

 

(助け・・・たいのに・・・ッ)

 

力が足りない。

こんなことは有ってはいけないと、強く心は燃え盛っているのに血を流し続けた体は逆に冷たくなっていく。

 

(無謀な理想?・・・諦めれば良かった?諦めたらここには他のヒーローが居て洸汰君を助けてくれた・・・?)

 

有り得ない想像。

だが、守りたいものを守れなかった時。

抱いていた理想が到底かなわないものだと知った時。

 

その絶望は、何よりも重く突き刺さる。

 

(・・・うるさい。そんな想像、何の意味もない‼いまここに居るのは僕でッ、守りたいのも僕で理想なんて今は関係ない‼)

 

 

折れかけた理想の代わりに、自分の想いを立てる。

 

(助けたいから助けるんだッ、守れないじゃない・・・守るんだ‼全力で‼全てを出し切って‼)

 

 

動かない体は切り捨てる。

全力で振り絞るのは、今は意味を成さない自らの個性。

伸ばすが、空まわる。

場所が定まらない。

 

 

マスキュラーと洸汰の会話が耳に入る。それほどの距離に2人は近付いてしまっている。

 

(どこだよッ・・・お願いっ、今だけでいいんだ‼一生、力を借りなくていい、今だけ‼)

 

無意味に手を伸ばしながら、祈るように心の中で叫び、

 

 

 

 

 

 

重く、軋むような音が聞こえた。

金属が擦れあうような、まるで大きな歯車が回り続けるような音。

その音に目を見開き・・・導かれる様に手を伸ばす。

 

 

『――――叶わないほどに無謀な理想は自らを滅ぼす。この場を切り抜けてどうする、助けられない人間などこれからいくらでも現れるだろう』

 

 

歯車の音に混じり皮肉気な、でもなぜかこちらをいたわるような声が聞こえる。

こうして、今になってわかる。

笑いながら全てを助けるなんてのは僕の理想で、きっとオールマイトにだって助けられない人は居た。

 

「でもッ・・・助けられないから助けないなんて嫌なんだッ‼」

 

誰かを救えなかった時、自分は折れてしまうのかもしれない。

それでも、

 

「ヒーローはッ・・・僕は‼ 助けたいから助ける、その気持ちだけは贋物なんかじゃない‼」

 

四肢に力を入れ、動かないはずの四肢を無理やり動かす。

強い痺れが、体がもう限界であることを伝えてくる。

 

それでも、足は地を踏み軋みを上げながら体が持ち上がっていく。

 

持ち上がった視界の先で、マスキュラーがその腕を振り上げているのが見えた。

 

 

 

その光景に、足を踏み出し――――無慈悲にもほぼ同時に赤い腕が振り下ろされ

 

 

 

『―――――だ。間違えず復唱しろ、後は私がサポートする』

 

脳裏に響いた声に疑問を抱くことは無かった。

ただ信じても良いと、その声音から感じたのだ。

 

 

故に、迷い無く〈彼〉の言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――投影(トレース)開始(オン)

 

 

 

体の中で、巨大な歯車が一つ噛み合った音が聞こえた。


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