神の意思が俺をTSさせて百合ハーレムを企んでいる   作:とんこつラーメン

57 / 72
我 思う 故に我在り

我 我を否定する者と 戦う






第55話 本当の始まり

 ど…どういう事なの…?

あの、どこかで見た事のあるような形状のISに乗っている束さんにそっくりな女の子は……。

 

顔付き、髪の色と髪型、そして……声。

そのどれもが束さんそのものだ。

 

けど、少しだけ幼い印象も受ける。

分かりやすく言えば、彼女は学生時代の束さんだ。

 

「佳織に似ている奴の次は……束に似ている奴だと……!?」

「……………」

 

千冬さんは驚きを隠せないでいるし、束さんに至っては口を開けた状態で絶句している。

 

「少々帰る準備に手間取ってしまい、来るのが遅れてしまいました。申し訳ございません」

「気にするな。私は充分に感謝しているよ」

「有り難き御言葉…」

 

この様子……この子は彼女に完全に心酔している。

いや…心酔を通り越して、もはや信仰に近いかもしれない。

 

私達が驚いている間に、束さんそっくりの女の子は『彼女』の傍まで移動して降り立った。

 

「君は……何……?」

 

震える唇で束さんが何とか声を絞り出す。

その顔は夜になって気温が低くなっているにも拘らず、汗が滲み出ている。

 

束さんの質問が出た途端、紫の女の子の顔が怒りに歪んだ。

 

「私は何…だと…?私はお前だよ(・・・・・・)!!篠ノ之束!!!」

 

静かな空間に怒りに満ちた声が響く。

 

「お前もそれを言うのか…!」

「事実だからな!」

 

ちょっとした一言にも怒りが混じっている。

それ程までに束さんを憎んでいるのか…!

 

「アンジェロ。今は夜だ。少し声のボリュームを控えろ」

「す…すいませんでした!周囲に対する配慮が欠けていました…」

 

いきなりシュン…となる、アンジェロと呼ばれた子。

まるで借りてきた猫状態だ。

 

「アンジェロ……?」

「そうだ。アンジェロ・ザウパー。それが私の名だ」

 

ア…アンジェロって……アレに出て来た……。

彼女が『アンジェロ』なら、私にそっくりなあの子は……。

 

「本来ならば名前を言うのはタブーたが、貴様等だけは別だ」

「なんだと…?」

「織斑千冬……仲森佳織……そして、篠ノ之束。貴様等だけは……」

「アンジェロ」

 

少し喋りすぎたのか、ギロリと睨まれて大人しくなる。

 

「ちょっと待って…。君はなんて言うの…?」

「そうだな。佳織にはまだ私の名を教えていなかったな」

 

心臓がドキドキを通り越してバクバクと脈打っている。

気が付けば手に汗を握っていた。

 

「私の名は『フル・フロンタル』。よく部下からは大佐と呼ばれているよ」

「!!!!!」

 

フル……フロンタル……!

 

夢の中で女神とシャア大佐が言っていた『闇の現身』……。

この世界における『シャア・アズナブル』が私なら、別の意味で対となる存在である『フル・フロンタル』が彼女になるの…?

 

「フル・フロンタル…。『丸裸』……だと?」

「確かに、日本語に訳すとそう言う意味になるな。別に気にはしていないが」

 

自分の名を明かしても、まだ余裕のある態度をしている。

この感じ……宇宙世紀のフル・フロンタルに凄くそっくりだ…。

 

「それよりも、先程なんといった?福音を暴走させたのは……」

「私だよ。福音を暴走させたのは、このアンジェロ・ザウパーだ」

「なんで!なんでそんな事をしたの!?」

 

束さんが焦燥に駆られたように尋ねる。

いつもの飄々とした態度は完全になりを潜めていた。

 

「大佐からの命令だったからだ」

「それだけ……?それだけで……」

「大佐の命令は絶対だ」

「お前は……」

 

このアンジェロも、私の知っている『アンジェロ』と中身がよく似ているよ…。

『フル・フロンタル』に心酔している所とか特にね…!

 

「で…でも、どうやって暴走させたの…?ISを暴走させるなんて、そう簡単に出来る事じゃ……」

「確かにそうだろうな。だが、『私』になら可能だ」

「それは……君が私だから…?」

「そうだ!篠ノ之束……お前に出来る事、それは即ち私にも出来る事なんだよ!」

 

束さんに出来る事が出来る…。

それはつまり、このアンジェロも束さんと同じ頭脳を持っているって事…?

 

「それじゃあ……君が纏っている見た事も無いISは……」

「私が一から造り上げた」

「一から…?」

「設計から開発。勿論……コアもな」

 

コ…コアも作れるの!?

 

「この『ギラ・ズール』は私が開発した世界初の第三世代の量産型ISだ」

「ば…馬鹿な!?第三世代の量産機だと!?」

「機体性能は勿論、汎用性と拡張性も打鉄やラファールを大幅に上回っている。篠ノ之束とは違って、私は己の才能に胡坐を掻いたりはしない。常に自己研鑽を怠らないのだ。故に、これを開発できた」

 

束さんと同じレベルなのに、そこから更に努力を欠かさなかったって言うの…?

もうチートの更に上を行ってるじゃん…。

 

「アンジェロ。気持ちは分かるが、少し話しすぎだ」

「はっ!」

 

ISを纏った状態で跪いた。器用だな~…。

 

「む……?」

「どうした?アンジェロ」

「仲森佳織が手に持っている物…。あれは……」

「え…?」

 

こ…このコアがどうしたの?

 

「……情報解析……結果表示。……やはりか」

「な…なに……?」

 

アンジェロは静かに立ち上がり、こっちを見据えた。

 

「篠ノ之束。仲森佳織が手に持っているコアは……『ZERO』だな?」

「そ…そこまで知って……!」

「当たり前だ。貴様の知識は私の知識でもある」

 

ゼ…ゼロ?なにそれ?

 

「あのような現象が発現した時点で、もしかしたらとは思っていたが、案の定か…」

「アンジェロ。佳織が持っているコアが、昼間に言っていた『アレ』か?」

「はい」

 

なんか…私だけ置いてきぼりになってるんですけど~。

 

「なんで奴の機体に搭載されていたかは知らんが、大方、直にデュノア社に渡したか、もしくは製造段階で量産機のコアの中に密かに紛れ込ませたか…。その辺りだろうな」

 

前者はともかく、後者は普通なら絶対に不可能だ。

でも、束さんなら出来そうなんだよな~…。

 

「お…おい束!ZEROとは何だ!?佳織のリヴァイヴのコアは通常のコアじゃないのか!?」

「そ…それは~……」

 

思いっきり目を逸らす束さん。

 

「そいつに聞いても無駄だ。他の事ならいざ知らず、ZEROに関しては例え拷問を受けても絶対に喋らんだろうよ」

「ぐ……」

 

図星なのか、胸を抑えて蹲る束さん。

まぁ……この人にまともな拷問が効くかどうかが、そもそもの疑問だけど。

 

「い…言っとくけど、このコアは絶対に渡さないからね!」

「別に取るつもりはない。不愉快極まりないが、そのZEROはお前を真の主と認めた。ここで強奪しても全くもって無意味だ」

 

み…認められてるの?このコアに?

 

「それに……今の我々には無用の長物だ。『コレ』があるからな」

 

そう言ってアンジェロが取り出したのは、私の持つコアと同じ形状の物体だった。

 

「え……?」

 

また束さんが呆けた声を出す。

今日は珍しい束さんをよく見るな。

 

「ど…どうして!?ソレはラボで厳重に保管してるはず!!」

「厳重?あぁ……あのセキュリティの事を言ってるのか?お前が施した封印を、私に解けない道理があるわけがないだろう?」

「た…例えそうだったとしても、一体いつ……」

「普段はラボから出ない癖に、色々と理由を付けて外出しているよな。そう……あの銀髪の実験体を連れ帰った時も…」

「!!!!……クーちゃんと初めて会ったあの日……あの時に……」

「無人になったラボに侵入するのは、どこぞの軍事基地に入るよりも楽だったぞ。お蔭で苦も無く手に入った」

 

あのコアは束さんのラボから盗み出した物なのか!?

でも、厳重に保管って……あれはそれほどに大事な物なの?

 

「まさかとは思うが……あのコアは……」

「うん…。あの子が手にしているのは……」

「白騎士のコアだ」

 

し…白騎士のコア!?なんで!?

あれは白式に搭載されている筈じゃ…!

 

「返して!!それは!!」

「お前に言われずとも全部知っているよ。だからこそ欲した」

 

白式のコアがかなり重要な存在なのは私も理解出来る。

でも、手に入れて一体どうする気なの?

 

「そろそろ帰るぞ。長話をしていたら私も冷えてきた」

「なんですって!?それは大変だ!一刻も早く帰還し、大佐のお体を温めなければ!!」

 

慌てるのってそこなの?

なんつーか……別の意味で束さんにそっくりな気がしてきた。

一般的な常識が通用しない辺りとか。

 

「そう易々と逃がすと思うのか?」

「白騎士のコア……今すぐに返してもらうから!」

「ふふ……お前達にそれが出来るかな?」

「なんだと?」

「それよりも……」

 

フロンタルが急に私の方に寄って来た。

ちょ……顔が近いんですけど!?

 

「佳織。私達と一緒に来ないか?」

「え…?」

「お前は何を言っている!!」

「私は本気だよ」

 

仮面越しだけど、その真剣さはひしひしと伝わってくる。

でも、私の答えは……

 

「ダメ」

「ほぅ…?」

「今の私には大切な人達がいる。彼女達を放ってどこかに行くなんて有り得ない」

「……そうか」

 

落胆した顔を見せると、フロンタルはアンジェロに掴まって宙に浮く。

 

「待て!フル・フロンタル!貴様はなんだ!?何が目的なんだ!?」

「さっきも言ったはずだ。私は佳織であり、佳織は私でもある。そして……」

 

フロンタルが微笑を浮かべる。

 

「私は『器』だよ」

「器……?」

「そう。ISと言うオーバーテクノロジーによって歪められた世界に傷つけられ、殺された人々の悲哀、憎悪、怨嗟、憤怒。それらを全て受け止めて、彼等の想いと意思を受け入れ、体現する為だけに存在する『器』。それが私だ」

 

この『フロンタル』も自分の事を『器』と言うのか……。

 

「その上で私はこの狂った世界を『回帰』させる」

「そして、それは人知を超越した大佐にしか出来ない事!少なくとも、戦うしか能のない女と他人を見下すしかしない天災には絶対に不可能だ!」

「貴様……!」

 

回帰って……彼女達はこれから何を……。

 

「覚えておきたまえ。私は私の意思で動いてはいない。私は今を生きる人々の『総意』なのだ」

 

それだけを言って、二人は上昇し始める。

 

「私は力ずくでなんとかしようとするのは余り好みではない。故に今回は大人しく引くが、いつの日か必ず君を迎えに行くと約束しよう。では……さらばだ」

「篠ノ之束!!貴様だけは、この私が必ず殺す!!覚えておけ!!!」

「待て!!!」

 

千冬さんの静止なんて聞くはずも無く、二人は夜の空へと消えていった。

 

「……ちーちゃん」

「分かっている。あいつ等を追うんだろう?」

「うん。絶対に白騎士を取り戻さないと」

 

いつにも無く真剣な束さん。

こんな状況で失礼かもしれないけど、少しだけドキってした。

 

「かおりん」

「ふぁっ!?」

 

急に抱きしめられた!?

あ……いい匂いがする。

 

「多分、あのフロンタルって子を止められるのはかおりんだけだと思う。だから……」

「分かってますよ。例え何があっても彼女達について行ったりとかしません」

「それが聞けただけでも安心だよ」

 

少しして束さんは私から離れた。

ちょっぴり名残惜しい。

 

「あの子達に対抗する為にも、倉持技研には絶対に行ってね」

「その件ならこっちに任せろ。私も多少はあそこに顔が効く」

「ちーちゃんなら大丈夫だね。じゃ、お願い」

 

束さんは崖の方に向かって歩き出して、淵に着いたところでこっちを向いた。

 

「追跡をしながら、二人の正体も探ってみるよ。……なんとなく予想はついてるけど」

「私もだ。だが、念には念を入れて損はあるまい」

「私も同感。それじゃ、またね!」

 

最後に南面の笑みを浮かべてから、束さんは夜の海に消えた。

多分、崖下に何か移動手段を持ってきてるんだろう。

 

「佳織……」

「言われずとも。さっきまでの事は誰にも言いません」

「頼んだ……」

 

なんとか無表情を装ってはいるが、悔しさを滲ませているのは明らかだった。

 

「では、旅館に帰るか」

「はい。……って、なんでいきなりお姫様抱っこ!?」

「お前は怪我人だと言っているだろう。少しでも負担を減らすためだ」

「いや、だからって!」

「ほら、行くぞ」

「ちょ…ちょっと!?」

 

あぁ~もう!どうして最後まで締まらないかな~!?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

宵闇の空を飛びながら、アンジェロがフロンタルに疑問を投げかける。

 

「本当によかったのですか?」

「何がだ?」

「その気になれば、あの場で仲森佳織を捕縛する事も……」

「確かに出来たかもしれん。だが、下手に実力行使をすれば篠ノ之束と織斑千冬を同時に相手しなければいけなくなる。仮に勝利できたとしても、佳織を巻き添えにする可能性がある」

「ですが、大佐のお力を持ってすれば……」

「私は何事にも万全を尽くす。分かるな?」

「……過ぎた事を言いました。すみません」

「構わんよ。お前が私の事を思って言った事は分かるからな」

「大佐……♡」

「それに……」

 

夜空を眺めながらフロンタルは笑顔を浮かべる。

 

「佳織には力ではなく言葉で来てほしいのさ」

「言葉……」

「彼女もまた、私と同じ『器』となる存在なのだから……」

「そう……ですか」

 

それだけを言って、アンジェロは仲間達との合流地点に急いだ。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日。

旅館で朝食を終えた私達は、ISや専用装備の撤収作業を開始する。

とは言っても、私は参加させてもらえなかったけど。

私が作業に加わろうとすると、本音ちゃんや専用機持ちの皆が先回りして仕事を終わらせてしまう。

結局、私は皆の作業を端から見学していた。

 

全部の作業が終わった頃には既に午前10時を過ぎていて、皆がそれぞれにクラス別のバスに乗り込む。

お昼は帰り道のサービスエリアでするみたい。

実は地味に楽しみにしてます。

 

「か~おりん♡」

「ん~?どうしたの?」

「えへへ~…呼んでみただけ~♡」

「なにそれ」

 

隣にいる本音ちゃんが私の腕にしがみ付きながら無邪気に笑っている。

昨日の出来事があって、どうしようか迷っていたけど、本音ちゃん自体はいつもと大して変わらない。

なら、私もなんとか頑張って普段と同じでいよう。うん。

 

「な…なんだ…?佳織と本音との間にピンク色の空気が見えるような……」

「やっぱ……箒にも見える?」

「あの晩、佳織さんは本音さんと二人っきりの部屋で寝たと聞きましたけど……」

「何かあったのかな…?」

「すぴ~……佳織ぃ~…えへへ~…」

 

なんか4つほど視線を感じるけど、気にしない気にしない。

あとラウラ……夜も十分に寝たでしょうに、なんでまた昼寝してるのさ…。

寝る子は育つってか?

 

「な…なんか仲森さん……包帯とか巻いてるけど、大丈夫かな…?」

「うん。ちょっと心配だよね…」

「作業も見学してたし…」

「私達も少し気遣ってあげようか……」

 

うぅ~…今日だけはひそひそ話が聞こえて嬉しい…。

これからはもっと気を付けないとな…。

もう、誰かに心配を掛けさせるのは嫌だから…。

 

「あれ?」

 

バスの外に誰かがいる。

あの姿は、どこかで……

 

「あ」

 

バスの中に入って来た。

綺麗な金髪が眩しい、青いサマースーツを着た美人さんだった。

歳は千冬さんと同じか、少し下ぐらい?

 

「ねぇ、この中に仲森佳織さんっている?」

「はい?」

 

私を呼んでる?

 

「仲森は私ですけど……」

「ふぅ~ん……貴女が……」

 

女の人はこっちまで来ると、腰を折って私の顔を見つけてきた。

 

「噂に名高い『赤い彗星』。今までは映像越しにしか見た事なかったけど、直に見ると結構な美少女じゃない」

「はぁ……」

 

私の事を異名で呼ぶって事は、この人もISを?

 

「あの~…貴女は……」

「ああ……まだ名乗って無かったわね」

 

女性は胸の谷間に持っていたサングラスをかけて起き上がった。

 

「私はナターシャ・ファイルス。『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のパイロットよ」

「あ……」

 

そういや、こんな顔だったような気が……。

あの時は色んな意味で必死だったから、よく覚えてなかったけど…。

 

「事の経緯は千冬から聞いたわ。今回は貴女に助けられたみたいね」

「私だけの力じゃありません。皆で力を合わせたから、貴女を助けられたんです」

「それも聞いてる。でも、一番の活躍をしたのは貴女なのもまた事実でしょ?」

「そう……ですかね?」

 

自分が活躍したなんで自覚は全くない。

私は私に出来る事をやっただけに過ぎないんだから。

 

「貴女には大きな借りが出来てしまったわね。本当にありがとう」

「どういたしまし……」

 

て……と最後まで言えなかった。

何故なら、ナターシャさんの唇が私の唇に重なっていたから。

 

「は………?」

「いつの日か必ず、貴女には個人的にお礼をするわ。それじゃあね、可愛い『赤い彗星』さん♡」

「は…はい……また……」

 

ナターシャさんが去りながら手を振ったので、私も反射的に手を振る。

彼女がバスから降りるまで手を振り続けて、顔が熱いのをずっと感じていた。

 

ふと隣を見ると、本音ちゃんが目を丸くしてこっちを見ていた。

 

「か…かおりん!!」

「ちょ……どうした……」

 

また最後まで言えなかった。

今度は本音ちゃんがキスしてきたから。

 

「「「「えぇ~~~~~!?」」」」

「う~ん…?なんかうるさいぞ~…?」

 

あ、4人の大声でラウラが起きた。

 

「上書きする!」

「はい?」

「私のキスで上書きするから!むちゅ…」

 

有無を言わさずに再びキスをする本音ちゃん。

もしかして、降りるまでずっとこうなの?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 佳織に会った後にバスから降りたナターシャは、千冬の姿を見つけてそっちに向かう。

 

「貴様……佳織に何をした?」

「私はただ、アメリカ流のお礼をしただけよ」

「ふぅ~ん……」

「お願いだから疑いの眼差しは止めて」

 

冷や汗を掻きながら目を逸らすナターシャ。

 

「思ったよりも元気があるようだな。あれだけ痛めつけられたと言うのに」

「それなら大丈夫よ。ずっと『あの子』が守ってくれてたから」

「そうか……」

 

ナターシャが言う『あの子』とは勿論、彼女の相棒であり、今回の事件の最大の被害者でもある福音の事だった。

 

「あの子は私を護る為に望まない戦いをした。その為にあらゆる手を尽くし、コア・ネットワークすらも切断して。……佳織ちゃんを殺しかけたのは心から悪いと思ってるけど……」

「それに関しては、佳織は気にしてないだろう」

「みたいね。さっきもあの子は全く自分の怪我の事について触れようとしなかった。自分よりも他人を優先する。聞こえはいいけど、それは人としてかなり歪んでるわ……」

 

佳織の歪さは千冬も理解している。

一番厄介なのは、佳織本人がその事を全く自覚していない事だった。

 

「佳織ちゃんの為にも、私は今回の犯人を絶対に許すつもりはない。私の分も、あの子の分も、佳織ちゃんの分も、纏めて借りを返してあげるわ。地の果てまでも追いつめて…ね」

 

ナターシャの決意の固さを知り、何も言えなくなった千冬。

昨夜の事を言うべきか迷ったが、少しだけ濁して言う事にした。

 

「あまり無茶な事だけはするなよ。……もしかしたら、今回の犯人は私やお前が想像しているよりも遥かに強大な存在かもしれん」

「それは忠告かしら?ブリュンヒルデ」

「忠告と言うよりは警告だ。下手に挑めば返り討ちになるぞ」

「……胸に止めておくわ」

 

少し間を開けて、千冬はナターシャを見る。

 

「それともう一つだけ言っておく」

「あら、なにかしら?」

「佳織は絶対に渡さん。お前のような奴には特にな」

「えぇ~?実は私、今回の事で割と本気で佳織ちゃんの事が好きになったんだけど」

「な…なにっ!?」

「恋は駆け引き。そして、戦争でもあるのよ。下手なプライドなんて持ってたら後悔するわよ?」

「それは忠告か?」

「いいえ。これはアドバイスよ。恋のライバルに送る…ね」

 

優美な微笑みを見せると、ナターシャは背を向けて歩きだす。

 

「いつか近いうちに佳織ちゃんをアメリカに招待しようかしら?」

「い…行かせんぞ!」

「招待を受けるかどうかは佳織ちゃん次第じゃない?」

「ぐぬぬ……!」

「それじゃ、グッバ~イ♡」

 

手をひらひらとさせながらナターシャは去っていった。

その背中を千冬はずっと睨み付けていた。

 

「唯でさえ布仏が一番リードしているのに、これ以上増えてたまるか!」

 

だが、その発言がフラグである事を、千冬はまだ知らない。

 

IS学園にはまだまだ、佳織の事を狙っている少女達がいるのだ。

 

こうして、波乱に満ちた臨海学校は幕を閉じた。

 

そして、本格的な夏が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、またハーレム候補が増えました。
佳織が知らない所で。

やっと原作第3巻が終わりました。

次からは暫くシリアスはなりを潜めるでしょう。
少なくとも学園側では。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。