神の意思が俺をTSさせて百合ハーレムを企んでいる 作:とんこつラーメン
その分、たっぷりと休息が出来ているからいいんですけどね。
突如として乱入してきた無人機を辛くも撃破した私達は、それぞれに解散した。
ピットに戻った私達を迎えたのは、今にも泣きそうな顔の山田先生と心配そうに駆け寄ってきた箒と本音ちゃんだった。
で、なんでか楯無さんと簪もいたんだよね。
なんでも、二人は先生達と一緒に生徒達の避難誘導を行っていたらしい。
なんと言うか……凄いなこの姉妹。
普段はあんなんでも、ちゃっかりと生徒会長っぽい事をしている辺り、やっぱり凄い人なんだなって思った。
私が千冬さんにお姫様抱っこされている様子を見て、一瞬で場が凍りついたけどね。
その場にいる全員がもれなく顔を真っ赤にしていたんだけど、それぞれに反応が違っていた。
箒はなにやら狼狽えてしたし、本音ちゃんはポケーッとしていた。
山田先生は手で顔を覆ってはいたが、隙間から何気に覗いていたし。
楯無さんはニコニコと笑っていたけど、なんだか複雑な顔をしていた。
簪に至っては立ったまま完全にフリーズしていたし。
私はそのまま、千冬さんに抱えられたまま保健室に行く羽目になった。
廊下で誰にも会わない事を祈るばかりです、はい。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。単なる過労だって言われたし」
まさか、保健室のベットを利用する事になるなんてね…。
ちょっと大袈裟じゃない?
ま、千冬さんがベットまで真っ直ぐ連れて来たんだけど。
けど、あの時の千冬さん……なんか目がギラついてなかった?
なんつーか……昔見た動物番組で見た獲物を捕食する直前に見せる獣のような目をしていた。
思わず身の毛が立ったけど、その直後に本音ちゃんと箒が来たから難を逃れた。
あのまま誰も来なかったら、一体どうなっていた事やら…。
想像もしたくない…。
因みに、千冬さんは山田先生に呼ばれてどこかに行って、箒はジュースを買いに行ってくれた。
保健室を去る際、千冬さんの舌打ちが聞こえた気がしたけど、気のせいだって信じたい。
「かおりんなら大丈夫だって信じてたけど、それでも…やっぱり心配だったよ…」
「……ゴメンね。でも、心配してくれてありがとう」
それだけ想われているって証拠だしね。
「かおりん~…」
「なんで本音ちゃんが泣きそうなのよ?」
「だってぇ~…」
「ははは……」
本当に面白い子だよなぁ~。
見ていて飽きないって言うか、なんて言うか。
「兎に角、今日はゆっくりと休んでね。かおりんは休まずに二回連続で試合をしたようなものなんだし」
「りょ~かい。私だっていつまでもベットの上にはいたくないし」
こうして横になっていると、本当にリラックスできる。
あ……なんか眠たくなってきた…。
「かおりん?」
「ん……ちょっと眠気が……」
「寝てもいいよ。私がここにいるから」
「うん……そうさせて…もらう…よ……」
ここに来て溜まった疲労がピークに達したのか、私があっという間に夢の世界に入った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「……寝ちゃった?」
「…………」
どうやら、かおりんはあっという間に寝てしまったみたい。
まるでのび太君さながらの就寝スピードだ。
「しののんは……」
どこまで買いに行ったのか、まだ戻ってくる気配は無い。
他の皆も来る様子は無いし…。
目の前には無防備なかおりんの寝顔…。
実は今まで何度も部屋で見た事のある寝顔だけど、こんなシチュエーションは初めてかもしれない。
「す~…」
静かな寝息だけが保健室に木霊する。
本来、ここにいる筈の保健室の先生は別の用事で不在中。
今この部屋にいるのは、私とかおりんだけ。
(私とかおりんだけ……なんだよね……)
あ…あれ?あれれ?
なんでこんなにも緊張するの?
私とかおりんはルームメイトなんだから、二人っきりになるなんてことは日常茶飯事の筈なのに…。
目の前に晒されるかおりんの寝顔。
かおりんの寝顔は本当に可愛い。
改めてかおりんの顔をまじまじと観察すると、この子は本当に美少女なんだと思わせられる。
綺麗な肌に長い睫毛。
プルプルに潤った唇に整った目鼻立ち。
そして、窓から入ってくる夕日に反射する綺麗な髪。
気が付けば、私はかなりの至近距離でかおりんの顔を見ていた。
「わ…私ってば何を……?」
思わず離れるけど、そこでピタッと止まった。
「今なら……誰もいないから……」
ゴクリと唾を飲む。
少しずつ顔を再び近づけていく。
「いい……よね……?」
かおりんからとてもいい匂いが漂ってきた。
私の大好きな匂いだ。
心臓の音がドクドクと鳴り響く。
心なしか、凄く大きく聞こえる。
「かおりん……私……」
私とかおりんの唇がくっつきそうになる……その瞬間。
「待たせたな。買ってきた……ぞ……?」
「あ…………」
しののんと目が合っちゃった…。
「ほ…ほほほほほ本音!?お前は一体何を!?」
「し――――――――!!」
いきなり大声を上げようとしたので、慌てて止める。
「かおりんは今寝てるの!静かにして!」
「あ……すまん…」
出来るだけ小声で言ってから、なんとか収まりがついた。
「で?今お前は何をしようとしてたんだ?」
「そ…それは~……ははは~…」
「笑って誤魔化そうとするな」
ですよね~。
「全く……気持ちは分かるが、抜け駆けは禁止だ。あの千冬さんだって我慢してるのに…」
「でも、私達がいなかったら間違いなく織斑先生は行動に移してたよ?」
「だろうなぁ~……」
どうやら、しののんも保健室を出ていく時に見せていた、あの捕食者のような目を見逃さなかったみたい。
「ある意味、最強のライバルがあの人だから、厄介極まりないんだよな…」
「だね~」
も…もしもかおりんが年上趣味だったりしたらどうしよう~…。
「にしても、ぐっすりと眠っているな」
「うん。かおりんが一番頑張っていたからね~」
「そうだな…。別に他の皆が頑張っていなかったと言う訳ではないが、最初からずっと戦い続けていたのは佳織だけだったからな」
きっと、私には想像が出来ない程に心も体もクタクタに疲れ切っているんだろう。
「このまま静かに寝かせてやろう」
「そうだね…」
今日は本当にありがとう、かおりん。
私に出来る事なんて微々たるものだけど、それでも、かおりんの専用機の整備ぐらいは出来るから。
私に出来る範囲で精一杯にサポートするから。
また保健室が静寂に包まれた……と思っていたら。
「佳織~…大丈夫~?」
今度はリンリンやおりむー達がやって来た。
「あら本音ちゃん」
「あ……」
「かいちょーにかんちゃん?」
なんでこの二人まで一緒に?
「な…なんでその二人まで…?」
「なんだか佳織ちゃんの事が気になっちゃって」
「右に同じ…」
かんちゃん……端折りすぎだよ…。
「もしかして、寝てるの?」
「そうだ。だから静かにな」
「分かっていますわ」
皆は静かにこっちに来た。
「おぉ……」
「まぁ……」
「これは……」
「あら……」
「…………」
ん~…なんとなく、次の皆の反応が予想出来ちゃった。
「「「「「か…可愛い…♡」」」」」
だと思ったよ。
「佳織の寝顔とか始めて見たわよ…」
「天使の寝顔ですわ…♡」
「これを毎日見れるのか~…本音ちゃんが羨ましいなぁ~…」
「これはまた…なんとも……」
「うわぁ~…うわぁ~…」
皆、顔を真っ赤にしてる。
実は私としののんもさっきからずっと真っ赤だけど。
「佳織ちゃんは今日の事件の最大の功労者ですもの。静かに労わってあげましょう」
「同感です」
そう言ったかいちょーの扇子には『可愛いは正義』って書いてあった。
言ってる事と真逆な気がする…。
「取り敢えず、今の私達がするべき事、それは……」
皆が一斉に頷く。
「佳織ちゃんのこの寝顔を写真に収める事よ」
全員が同時に携帯を取り出して、カメラ機能でかおりんの寝顔を撮った。
途中、シャッター音で起きちゃうかもって思ったけど、予想以上に熟睡してるみたいで、全く起きる気配が無かった。
結局その日、かおりんは保健室で一晩を明かす事になった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
IS学園の地下50m。
そこにはレベル4の権限を持つ特定の関係者しか入室を許可されない隠された空間が広がっている。
そこで、千冬と真耶の二人は、破壊されここに運び込まれた無人機の解析作業を行っていた。
「解析の結果、やっぱりこれは仲森さんの予想通り、無人機のようです」
「そうか……」
実際に戦って実感はしているが、それでも俄かには信じられなかった。
未だに世界中のどの国でも完成していない…否、理論すら確立していない技術。
佳織はこの機体にAIが搭載されていると判断したようだが、千冬はそれとは別に、この機体の製作者による遠隔操作の可能性を考えていた。
「織斑先生は実際に戦ってみてどう感じたんですか?」
「そうだな……あれにはなんと言うか……『人の意思』のようなものが感じられなかった」
「人の意思……ですか?」
「あぁ。もしもあれが何者かによって遠隔操作されていたとしたら、何らかの挙動のようなものが感じられる筈だ。だが、これはどこまでも無機質だった」
まるで実体のある幽霊を相手にしているかのような感覚。
歴戦の操縦者である千冬でも初めての経験だった。
「これが一体どうやって動いていたかは不明です。最後の皆さんの連携攻撃で完膚なきまでに破壊されましたし。機体の中枢機能は仲森さんが放ったバズーカの直撃を受けて粉々になっています。この状態だと、修復も不可能でしょうね」
「だろうな。オルコットが開けた穴に直接叩き込んだからな。内部にバズーカを撃ち込まれれば、どんなに頑強な機体と言えども一溜りもあるまい」
目の前で残骸と化した無人機を見ながら、自慢げに語った。
「コアの方はどうだった?」
「……どこにも登録されていない物でした」
「矢張りか……」
腕組みをして唸る千冬。
その眉間には皺が寄っている。
「それにしても、今日の仲森さんは本当に凄かったですね…。まるで、本物の指揮官のようでした」
「あれもアイツの才能の一つかもな」
「才能……ですか?」
「仲森にはISの操縦だけでなく、戦闘に関する様々な才能が眠っているのかもしれん」
「なんだか皮肉ですね…。荒事に巻き込まれて初めて発揮される才能だなんて…」
「確かにな。だからこそ、私達教師が頑張らなければいけないのさ」
「そうですね!」
千冬の言葉にやる気が復活したのか、真耶の顔に活気が戻った。
「そう言えば、ここに入ってくる時に悔しそうな顔をしていましたけど、どうしたんですか?」
「あぁ~…あれか」
なんでも無いように反応する千冬。
「なに。もしも保健室にあいつ等が来なかったら、あのまま佳織とラブラブ出来たかもしれないと思うと、何とも言えない気持ちになってな……」
千冬の言う『ラブラブ』には言葉とは別の意味が含まれているのだが、真耶は知る由が無い。
「本当に仲森さんの事が大好きなんですね…」
「当然だ。私の全ては佳織の為にあると言っても過言ではないからな」
「過言じゃないんだ……」
ジト目になりながら呆れる真耶であった。
そんな二人の解析作業は深夜にまで及んだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
夜。
IS学園の学生寮の廊下に、箒は一人で佇んでいた。
なんだか寝付けない箒は、気晴らしをする為に寮内にある自販機で何か飲もうと思って部屋を出て来たのだ。
「はぁ~…」
箒の頭の中にあるのは、佳織の活躍と恋のライバルたちの事。
「佳織はどんどん先に行っていく…。そして、他の皆も……」
今回、本音が止めてくれなかったら、取り返しのつかない事になっていたかもしれない。
自分の身勝手な行動で佳織を身を危険に晒すなどは論外だった。
箒と同じように佳織の事を想っている面々は、佳織の隣で戦える程の実力を有している。
代表候補生であるセシリアや鈴は言うに及ばず、スタートラインは同じ筈の一夏すらも、いつの間にか彼女達と遜色無いレベルに達しようとしている。
そして、本音はその類稀な優れた整備スキルで佳織の事を見事に支えている。
彼女達に比べて自分はどうだ?
実力は中途半端でISの整備が出来るわけでもない。
今の箒にあるのは、佳織の幼馴染と言うステータスだけ。
「このままでは駄目だ…!このままでは完全に出遅れる…!」
更に、今の箒には他の懸念材料もあった。
「生徒会長の更識先輩と、その妹である簪…。あの二人も恐らく……」
唯でさえライバルが多いと言うのに、そこから更に二人増加。
圧倒的不利な状況にある箒にとっては見逃せない事態だった。
「こうなったら、恥ずかしがっている場合じゃない!」
自販機の前で気合を入れる箒。
傍から見たら変な光景だった。
適当にホットココアを選んでボタンを押す。
少しして紙コップに入ったココアが出てきて、それを取り出す。
「クラス対抗戦の後にある全員参加型の学年別トーナメント……あれで優勝したら、佳織に告白しよう!うん!」
なんだかんだ言って、結局は告白する切欠が欲しい箒だった。
だが、その事を自覚せずにグッ!っと拳を握りしめる箒。
そんな事をすれば当然……
「熱っ!?」
こうなる。
紙コップは潰れて、中のココアが零れる。
だが、箒はある事を失念していた。
ここは学生寮。
当然、箒の他にも生徒は沢山いるわけで……
「フフフ……♡いい事聞いちゃった♡」
その中でも、最も聞かれてはいけない人物に聞かれていた。
彼女が持っている扇子には『恋は戦争!』と書かれている。
後に箒はこう語っている。
「私の人生の中でも最大級の不覚だ…。穴があったら入りたいとはこの事か…」
この時の出来事が箒にとって間違いなく黒歴史となったのは言うまでもない。
これでやっと原作一巻が終了です。
もうすぐ原作ヒロインが全員集合しますね。